第10話

 芋虫は蝉に背負われて病院へ行きました。

 蟻は穴を掘りに森の中へと入って行きました。

 アイスリンは蠍に布を被せました。

 そして蠍のウエストバッグから招待状を発見しました。恐る恐る白い封筒を開けると中身は空っぽでした。アイスリンはどうしようかと封筒を見ていると、宛名に『アイスリン=ウォルシュ様』と書いてありました。

 アイスリンは周りを窺うと、招待状をズボンのポケットへ突っ込みました。

 それから蟻とアイスリンは蠍の亡骸を埋めました。

 二人は始終無言でした。

 その後アイスリンは蟻と一緒にカウンターに座ってボーとしていました。


 カランコロン。

 蝉が戻って来ました。

「芋虫はどうだった?」

 蟻は物憂げな表情を蝉に向けました。

「大丈夫だ」

 蝉はドカッとカウンターに座りました。

「そう。良かった」

 蟻の顔は一瞬パッと明るくなったかと思うと、またすぐにいつもの無表情へと変わりました。

「治療が終わった途端、サナギになった」

 蝉はテーブルに肘を付いて顎を手に乗せました。

「……そう……」

 蟻は曖昧な返事をしました。

 蝉は溜息を吐きました。

「これは本人の問題だ。お前が気に病むことじゃない」

「分かってるわよ」

 蟻は平静を装って言いました。

「嬢ちゃんはこれからどうするんだ?」

 蝉はタバコに火を付けながら訊きました。

「えと、とりあえず目的地へ行ってみます」

 そう言ってアイスリンは二階へ向かいました。

「ところで、オーナーが死んだのなら誰が代理をやるのかしら?」

 蟻は独り言のような口調で蝉に言いました。

「さぁな。お前が妥当なんじゃないか?」

 蝉は煙を吐きました。

「嫌よ、あんな子供の喧嘩みたいな交流会」

 蟻は少々怪訝な顔で蝉を見ました。

「だよなぁ」

「しかもどっかの誰かさんが蠍を撃ったせいで招待状の行方も分からず終いよ」

 蟻はわざとらしく溜息を吐きました。

「悪かったな」

 二人は黙り込みました。その静けさは心地よいものでした。

 それから暫く経って、その静寂を破ったのはトテトテと階段を降りるアイスリンの足音でした。

 カウンター奥のドアを開けると、アイスリンは頭を下げました。

「一宿一飯の恩、ありがとうございました」

「礼ならアリだけに言え。こいつが奢ったんだ」

 蝉はタバコを灰皿の上で揉み消すと、背もたれに寄りかかり、帽子を顔に被せました。

 蟻はアイスリンを一瞥すると、

「別に、恩を着せる為にしたことでは無いわ」

 ぶっきらぼうに言いました。

「本当にありがとうございました!」

 店を出る際にもお辞儀をしました。


 カランコロン。

 アイスリンが懐中時計を見ると、──10時46分。

 空を見上げて東を割り出し、アイスリンはお花畑へと歩き始めました。

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