人型の何かに転生したようです
かるご
第1話
乱雑に並ぶ木々。
様々な種類があるのだが、ヒノキやシラカバなどの私たちの見慣れた木とは似ても似つかない。
そんな森を1人の少女が駆けていた。
「まだ死にたくない……。逃げなきゃ」
彼女の名はミーナ。
この森からそう遠くない村に住んでいる少女……いや、住んでいた少女だ。
彼女は優しい両親に仲の良い友達、親切な村人に囲まれて育った。
優しく、ときに厳しかった彼女の良き父親は……つい先月、急死した。
原因は不明。第一、医者もいない村に詳しく診察できる人はいなかった。
それだけであれば、この村の少女としては一般的であっただろう。
そう、彼女の不幸は始まったばかりであった……。
父親を追うようにして彼女の母親が死亡した。
今度の死因はすぐに発覚した。
毒殺である。
村の薬師の老婆はその類の毒薬をよく知っていたため発覚するのにそう時間は掛からなかった。
村人は揉めた。一体誰が殺したのかと。
その矛先はあろうことか少女に向いたのであった……。
もちろん、ミーナは反論した。
するわけがない。逆に殺した奴を殺してしまいたい。と。
しかし……彼女に味方はいなかった。
そんなとき、村人の1人が大きな声で言った。
「奴隷にして売ってしまおう」
村人は誰1人反論することなくその案を受け入れた。
少々幼いが、物好きな貴族様が買ってくれるだろう。
もしかしたら、うちだけ免税にしてくれるかも知れんぞ。
そう。彼女は嵌められたのだった。
農業で鍛えられた大人によって彼女は囲まれた。
そこにタイミング良くやって来た1人の奴隷商人。
村人が呼んでいたのだ。
彼女は絶対絶命。
そのとき、彼女の頭に一つのワードが浮かんだ。
今は亡き両親が教えてくれた古代の言葉。
『魔法』である。
火炎を出すだとか、場を凍結させるだとか、そんな大層なものでは無い。
彼女がした魔法は発光。
本来ならば、長時間持続させるようにして洞窟の光源として使うような魔法だ。
殺傷力などあるわけが無い。
それでも、村人に囲まれた密集地帯。
凄まじい効果を発揮した。
周囲の村人の眼球を薄く焼き、隙ができる。商人は幼いながら魔法を行使した少女に驚き硬直していた。
そして、彼女は逃げ出した。
如何に逃げようと所詮少々の足。すぐに追いつかれてしまうだろう。
ならばと、村では入ることすら禁忌とされていた森に逃げ込んだ。
ここならば、村人も来れないだろうと。
そして、今に至る。
「はぁはぁ」
息が辛い……。
あれから、どのくらい走ったかなぁ。
花売りのフラワちゃんも薬屋のグドラ婆さんもみんな、お金の為に私を捨てようとしたんだなぁ。
…………悲しい。
あれだけの時間を一緒に生きたのに……。
あれ?私は……何で逃げたんだろう。
逃げなければ、みんなは楽しく暮らせたはずなのに。
…………そっか。私は生きたいのか。
そうだよね。みんな幸せになって私だけ幸せじゃないなんて許せない。
いつか絶対、幸せを掴もう。
とにかく、今は逃げなきゃ……。
様々な感情が入り乱れ、まとまりきらないながらにも、生きるという目的を持った彼女。
しかし、絶望は彼女の目の前に突如として現れた。
ズズッ
彼女の目の前。
何も無かった場所。
何の前触れなく現れた黒い塊。
彼女は……魔力を感じ取ることは出来ないはずだった。
それなのに、感じ取れた。
本来見えないものが見える。それほど莫大なエネルギーの塊。
彼女は目に涙を再び浮かべた。
「死に、たくない……」
そして、彼女の意識は遠のいていった。
後に残ったのは黒い塊。
それはやがて収縮し、1人の人間の形をとった。
褐色の肌。煌めく銀色の髪。見るものを震わす漆黒の眼。
そして、彼は呟いた。
「あれ?俺……どうなった?」
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