*Light
美澄 そら
*1
雨のしずくが、ぽたりと目の前に落ちてきて意識が覚醒した。ぼんやりしていた背景に、くっきりと陰影が出て、まるで浮かび上がったように見えた。
真っ暗な夜空から、落ちてくる雨に触れようと手を伸ばしてみる。立っている電灯の明かりの下から、闇へと手を伸ばすと、その向こうの人影に気付いた。
ひょっとしたら、ずっとそこに居たのだろうか。闇の中にいる人物へ目を凝らすと、コンビニの袋を片手に提げた青年がこちらを見ていた。
「なんで……」
声がすこし震えている。まるでホラー映画のワンシーンのようで、思わず声をあげて笑ってしまった。いきなり大声で笑ったら失礼だと、笑いをかみ殺そうとするけれど、表情までは誤魔化せずに口許を手で覆う。
「……そんなにおかしい?」
「うん、おかしい」
「……そっか」
そう話す間にも、雨脚が強くなってくる。
「……帰らないの?」
――かえらないの?
その言葉を反芻する。傘も持ち合わせていないし、ここは静かな住宅街で雨宿りできそうなところもない。コンビニも少し離れている。
そんなことよりも、不思議なことに帰る場所とやらが思い浮かばない。
うんうん悩んでいたら、彼が明かりの下へ入ってきた。いくつくらいだろう。高校生か、大学生くらいの男の子だ。
背はそこそこ高くて、わたしは少し見上げる形になる。雨で湿ってきたうっとうしそうな前髪から、ちょっとだけ釣りあがった目が覗く。
「どうしたの?」
「思い出せなくて、帰り道」
「……そっか」
彼は一呼吸すると、うちにくるかと恐る恐る尋ねてきた。
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