猫と鼠〜来世も君と一緒になりたい〜

ミリオン

猫と鼠

 ああ、ようやくまた会えたね。


 僕は、今世に生まれてから、ずっと待っていたよ。


 前世も、前々世の面影すら残る君。


 その美しい灰色に毛色。

 しろくろを共に持つ人間らしい–––––君らしい色。


 今もこちらから目を離さない。

 君も分かっているんだね。


 僕が僕だと言うことが。

 前世から変わりすぎているけど、君にはわかるんだね。


 前々世で将来を約束し、前世で子を成した。

 愛しき君。


 ああ、思い出すよ。

 前々世は共に人間の学生だったね。


 今の僕の姿–––––猫からは、想像もつかないと自分でも思うよ。


 そう、幾度となく交わった君。

 僕は君に言えない劣情を抱いていたよ。

 君に言えばどれほど軽蔑されるかもわからない、決して言えなかった。


 そうしているうちに、僕らは死んでしまったね。


 だけど、前世で、君は僕が抱いていた思いを体現したんだ。実行したんだ。

 本当は僕がしたかった。

 でも君にされるのも悪くはなかったよ。


 君と僕は、子を成した。


 僕は、子の顔なんて見れなかったけど。

 君は見れたかな?


 きっとたくさん子が生まれたんだろう。



 だって––––––











 前世は、蟷螂かまきりだったからね。




 君は覚えていてくれているだろう。


 蟷螂のメスは、交尾中にオスを喰う。

 そう、君はしたんだ。

 僕が抱いていた情欲を、君は成し遂げた。


 僕は嬉しいよ。

 だって、


 君も思ってたんだね。

 僕と同じことを。

 僕らは両思いだと知ってはいたけど、ここまで思いが一緒だとは思わなかったよ。

 本当に僕らは思い合っている。愛し合っている。相性がぴったりだ。


 ああ、これならば、前々世にも僕から食べておくんだった。


 でも、しょうがない。

 後悔先に立たずだ。


 前世で君が、僕を喰らったように。

 今世は僕が喰らおう。


 ああ、そんなに噛まないでおくれ。

 君も僕を食べたいのかい? でも、ダメだ。


 君は前々世でもう食べただろう?

 今世は僕の番だ。


 僕は君を持ち上げる。

 僕を食べるのは自分だと言わんばかりに手足をばたつかせる君。



 とても愛おしい。

 だからこそ、君が食べるのはダメだ。

 今度は、僕の番なのだから。



 僕は君を口に運ぶ。


 ムシャムシャ。バリバリ。

 クチャクチャ。ボリボリ。


 愛おしい君と僕の、今世初の共同作業。

 二人で奏でるメロディーは、とても心地よい。



 僕は、君の全てを飲み込んだ。



 今や君は、僕の一部だ。血肉だ。

 ゆっくりと、時間をかけて、もっと深く、もっと滑らかに、もっともっと、一緒になろう。



 もし次があるのならば、感想を聞きたいよ。

 僕を食べた感想。僕に食べられた感想。

 そして、次も僕が君を食べたいな。






 そして願わくば、来世も君となれますように。

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