それはマンガとかゲームの世界だけ
四日ぶりに学校に来た。
「おー、竹本、大丈夫か?」
「元気だけが自慢のおまえが三日も休むなんてな」
だけ、なんてひどいぞって言い返したいけど、笑ってる連中につられるように曖昧に笑って席に着く。
みんなが言うように、僕はあまり取り柄がない。成績だってそんなにいい方じゃない。運動も得意ってわけじゃない。嫌なことに対して嫌って言うのも面倒で、それならまだちょっとイジられる立場でおさまってるほうがいいって感じで。
陸上部で長距離やってるけどタイムはよくない。もっとやる気出して走れって先生に怒られるけど、別に無理して大会とかで上位を狙いたいわけじゃない。ただ、苦しいのがふっと超えた後に、ただ走ることだけ考えて体を動かしているのが好きなんだ。
一年半ぐらい、ずっと走ってるから体力はそれなりにあると思う。風邪とかあんまりひかなくなったし。
けれど、三日前から急に体調を崩したんだ。
いつもは一日あれば下がる熱も、ずっと続いたし、何よりあの悪い夢のせいで精神的にヤバかった。
……夢って言えば、綾乃、すごい格好だったよな。
チビTとショートパンツでヘソ出し生足で。
まだ中二だし、昔のちっちゃい時のイメージが強くて、全然女っぽさなんて意識してなったけど、昨夜のあれはもう……。
いやいやいやいや、あれは夢だし。
ぶるぶるっと首を振った。
そこへ。
「おーっす」
なじみのある声が教室の入り口から聞こえてきた。
綾乃だ。着崩してるけど制服姿で、ちょっとがっかり、じゃなくて、ほっとした。
目があった。昨夜の夢の姿がぶわっとオーバーラップ。
「ふげぇ……」
情けない声が出てしまった。
「ふぬけた声出しやがって。まだ調子悪いのか?」
綾乃がじろりと睨んできた。
なんでそこで睨むんだよ。って言えればいいんだけど。
「ううん。……そんなことない。元気だよ」
答えると、綾乃はふんとそっぽを向いて自分の席につかつかと歩いてった。
「
「それは竹本が幼なじみのお隣さんだからだろ」
「気のないふりして、ってヤツか? 実はもう付き合ってたり?」
「まさかなー」
クラスのヤツらがひそひそやってる。でも残念ながらそんなマンガとかゲームとかの世界は遠いところだ。
それに幼なじみとくっつくなら、二つ上の静乃ちゃんの方がいいってば。
大人しくて優しい静乃ちゃんなら、たとえ夢の中に出てきてもあんな格好で暴れまわったりはしないはずだ。
そんなことを考えてたせいかな。
今夜も、またこの夢だ。
ぼんやりと見る景色は、あの暗いマーブル模様で、昨日と同じ格好の綾乃が、やっぱり銃とナイフを持ってバケモノと戦ってる。
うわぁ。今夜のバケモノはでっかくて気持ち悪い花だ。RPGの敵キャラに出てきそうな、毒々しい色で花のとこに口があるヤツ。ウネウネクネクネしてて、綾乃、戦いにくそうだな。
まぁこれは夢だし、こうやってちょっと離れた所から見てるぶんには面白いんだけど。
綾乃が銃の引き金をカシャカシャ引くと、白い光の弾がどんどん飛び出る。
花のバケモノは、大きな葉っぱで口の部分を隠した。
「くっそ、やっぱ直接切るしかないか」
綾乃がちょっと悔しそうにしてる。
あの口のところが弱点なのかな。
なんて考えてると、綾乃がジャンプしてナイフを構えた。
……あ、花が反撃しそうだ。
「危ない!」
思わず叫んでた。
「――なっ!?」
綾乃が僕を見て、すっごい驚いた顔してる。なんだよ、僕の夢だぞ、ってか危ないって!
って言う間もなく、バケモノの葉っぱが綾乃をぶっ叩いた。
「きゃあぁっ!」
バランスを失ってこっちまで吹っ飛ばされた綾乃が、意外にも女の子な悲鳴を上げた。
「だいじょう――ぶっ!?」
言いきらないうちに、立ち上がった綾乃に腹を殴られた。
「……本物だ」
不良な幼なじみが殴った手と僕を見てぽかんとしてる。
確かめるのに腹パンかよっ。
文句を言いたいけど言えなかった。なぜなら綺麗に入ったパンチのせいで、僕は激しくむせていたからだ。
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