お隣の幼なじみはドリームハンター

御剣ひかる

これが僕の願望なんてありえない

 このままだと僕は死ぬ。

 僕は、わかってしまった。

 生き物は眠らずにはいられないものだけど、僕は、眠りの中に死の原因を見つけてしまった。




 ここは、夢の中だ。


「おい克己かつみ、掃除当番かわれよ」

「なんだよその顔。嫌ならなんか言ってみろ」

「己に克つなんて名前だけのヘタレー。克己じゃなくてカスmeミーだよな」


 黒い空気が渦巻いている、マーブル模様の教室の中で、胸糞悪い声が響く。

 いつも学校で僕をかるーくからかうヤツらが、ここでも気さくに絡んでくる。

 でも現実よりも言葉も声もキツくて、すごく嫌な雰囲気で、悪意丸出しで気持ち悪い笑い方で。


 なんか、生きている力をごそっと吸い取られてる感じがする。

 僕は、こいつらの悪意に、殺されるんだ。


「あぁ、うざったぃ! あたしのシマにちょろちょろと!」


 唐突に響く、声。


 と同時に、景色が割れた。

 たとえじゃなくて、ほんとにパカッと。

 その向こうから、見知った女の子が現れる。


 救世主、っていうより絶望を持ってきた悪魔みたいに、彼女はにやぁっと笑った。


「ふん、カトウなムマが、あたしの幼なじみに手ぇ出すんじゃないよっ」


 ……うん、目の前の女の子の顔は、確かに僕のお隣さんで幼なじみだ。


 でもありえない。ちびTシャツに革のジャケットとショートパンツで、へそや脚を惜しみなくさらしてるなんて。

 それよりもっと信じられないのは、彼女が両手にそれぞれ銃とナイフを持って構えてるってこと。


 あまりにも現実から離れ過ぎてる。さすが夢だ。


 それに、カトウなムマって? 加藤な? いや違うだろ。馬鹿にしてるみたいだからここは下等な、ってとこだろうけど、じゃ、ムマってなんだ?


 なんて考えてたら、クラスメイト達が変身していく。みんながあわさって、一つの塊になったかと思ったら、バケモノになった。二本足で立つ鬼みたいなのだ。


「正体現したな。この久我くが綾乃あやの様が成敗してくれるっ」


 銃とナイフを掲げて、綾乃ちゃん――あぁ、昔はこう呼んでたっけな――が、ふふんと笑った。


 これって、ぼくの願望が形になったんだろうか? 今はまともに話すこともしない幼なじみとまた仲良くなりたいって……。


 いや、ないわ。だってこいつ、すごい乱暴だし、ギャル系って言うより、まんま不良。どうせ仲良くなりなおすなら綾乃の姉の静乃しずのちゃんの方がいい。


 それにしてもすごい臨場感ある夢だ。綾乃が嬉々として鬼みたいなバケモノと戦ってる。

 右手の銃からカシャカシャって空撃ちみたいな音がしたと思ったら白く光ってる弾が勢いよく飛び出して、バケモノ――これがムマってのなんだろうな――にバンバン当たってる。


 バケモノは痛そうな叫び声をあげて、怒ったんだろうな、長い爪で綾乃をひっかこうとしてる。

 綾乃は余裕の表情のまま、飛んだ! 跳んだじゃなくて本当に空中に飛んだ。


 バケモノの頭上数メートルのところで一旦止まって、左手のナイフを突き付けた。今度はナイフが白く光ってる。


「精神世界に巣食う化け物め。消えな!」


 綾乃が高らかに言うと、急降下!

 鬼もどきの頭にナイフを突き立てた。


 うわ、これってヤバくね? 頭割れて脳みそぶちまけるとかそんなホラーを人の夢の中でやめてくれよ。

 と思ってたら、バケモノは白い光に包まれて、あっという間に消えちゃった。


 茫然と見るしかなかった僕に、銃とナイフを手に持ったまま、颯爽さっそうと綾乃が近づいてくる。


「よかったな克己かつみ。明日から学校来いよな。――っていっても、おまえにとっては夢だし、覚えてるわけないだろうけどな」


 僕に言うんじゃなくて、独り言みたいにつぶやいて、綾乃は歩いていった。


 いつの間にか、景色は明るくなっていた。

 そう、これは、夢なんだ。




 そう思った瞬間。僕は、ふっと目が覚めた。

 いつもと同じ朝なんだけど……。

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