第9話 ゆうき そら。
看護師さんが、母さんが目を覚ましたと知らせてくれた。
体を起こし、カーテンを開けるとうっすら開いた目が僕をうつす。
「大丈夫?」
そう言って手を握る。
力が入らないのか、全く握り返してこなかった。
もうダメだと嫌でも悟る。
そして、少し笑って小さな声で
ゆうき そら
って、名を呼ぶ。
あぁ、思い出した。
それが僕の名前だ。
「勇気を持って、空のように広い心で、誰にでも優しく、強く、生きるのよ。」
僕の名前の由来。
「ごめんね、母さん。僕は、勇気を持っていないんだ。」
僕は母さんの望んだ、ゆうきそらではない。
「でも、空になって見せるよ。見ててね、母さん。」
母さんは、そら、そら、って僕の名前を何度も呼んだ。
それに僕は、うん、うん、って返事をする。
段々声が聞こえなくなってきた。
お願いだ。
その目を、閉じないでくれ。
その声よ、消えないでくれ。
涼しい風が吹いた。
それに、秋の訪れを感じる。
「おやすみ。」
お母さんは、永遠の眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます