第9話 ゆうき そら。




看護師さんが、母さんが目を覚ましたと知らせてくれた。



体を起こし、カーテンを開けるとうっすら開いた目が僕をうつす。




「大丈夫?」


そう言って手を握る。



力が入らないのか、全く握り返してこなかった。




もうダメだと嫌でも悟る。




そして、少し笑って小さな声で






ゆうき そら






って、名を呼ぶ。





あぁ、思い出した。



それが僕の名前だ。






「勇気を持って、空のように広い心で、誰にでも優しく、強く、生きるのよ。」



僕の名前の由来。




「ごめんね、母さん。僕は、勇気を持っていないんだ。」


僕は母さんの望んだ、ゆうきそらではない。




「でも、空になって見せるよ。見ててね、母さん。」



母さんは、そら、そら、って僕の名前を何度も呼んだ。



それに僕は、うん、うん、って返事をする。





段々声が聞こえなくなってきた。




お願いだ。



その目を、閉じないでくれ。



その声よ、消えないでくれ。






涼しい風が吹いた。



それに、秋の訪れを感じる。





「おやすみ。」



お母さんは、永遠の眠りについた。



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