第5話 生きる意味。





「もう、ダメかもしれない。」



何でそんな事を言うんだよ。




あなたが居なくなれば、僕の生きる意味がなくなる。






「母さん、大丈夫。大丈夫だよ。」



笑顔を作るのは得意な方だと思う。



泣いたら、あなたは悲しむだろう。



泣いている心を隠し、笑顔を貼り付ける。





そしたら、悲しそうに泣いた……





「ごめんね。」


「どうして謝るのさ。」


戸惑う僕に手を伸ばし、頬へ触れた。




「…ごめんね。」



あまりにも悲しい顔をするから……貼り付けた笑顔が剥がれ、泣いている心が姿を現わす。




「泣きたい時は、泣いていいのよ。私はあんたのお母さんなんだから。家族の前でくらい、無理せず自然体でいなさい。」


魔法でもかけられたかのように涙が止まらなかった。



久しぶりに人の温もりを感じた。




それは、僕には勿体無いほど温かくて…。





「ごめんね。私がこんなんだから、いつも無理させて、嘘まで吐かせて…。」


「母さんの所為じゃない。僕が弱いからっ…。」


まるで自分を責めているかの様な言い方…。




僕が悪いのに。



お願いだから、謝らないでくれ。




母さんは首を横に振った。



「助けてやれなくてごめんね。」






病室の窓の外を一羽の鳥が通り過ぎていった。



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