生命加工会社
芋粥
生命加工会社
「生命加工会社」
個性とはなんだろうか
神から命を与えられて
この世に出ると
皆が義務教育を受け
皆が大学に入って
皆が就活をして
皆が就職をして
皆が会社に入る。
この世のシステムが既に
個性が生まれないように出来ているとしか思えない。
まるでハンを押したように人間は同じように成長していく。
どの幼児も流行っているキャラクター
アニメを欠かさず視聴し翌日友達とキャラクターゴッコをする。
そのキャラクターを好きじゃないと言えば非国民となるグループには入れてもらえない。
学年を重ねればなおのこと
誰が決めたわけではないが
クラスの人気者に
逆らうとグループから外される。
義務教育の中で一番人生に役に立つのは数学でも英語でもない。
個性をいかに潰せるか
である。
社会の中で生きて行くには没個性こそが最大のポイントなのである。
皆と同じアニメを見て
皆と同じ物を好きになり
皆と同じ物を事をする事で
グループに溶け込み
波風立てず人生を歩んでいける
将来的に5教科の中に
没個性
という科目が入ってもおかしくない。
ここは天国
誰もが想像するような
薄ピンク色の雲と甘い匂いが漂いハーブの音色が心地よく流れている
という場所ではない。
古く汚い事務所の中に多くの天使が
働いている。
甘い匂いの代わりにタバコの匂いが漂いハーブの音色の代わりに絶え間なく電話のコール音が鳴り渡る。
ここは天国の生命加工部
神から生命を与えられた者の為に
色んな書類や手続きを行なっている
部署である。
人間はもちろん地球で新しく生命を与えられた全ての動物の生命を取り扱っている為非常に激務でありそれは天使の間でも有名で
この生命加工部に配属が決まった天使は皆「地獄に来てしまった」と嘆くほどである。
新しく生まれる生命体の通知を神からFAXで受け取った天使は
まずその生命をどんな動物にするか考えるとこから始まる。
真面目な天使は
「こないだはクジラにしたから今回はアリクイにでもしとくか」
と毎度種類を変え地球上のバランスを考えるが
過去に不真面目な天使達の間でイナゴが流行り受け取ったFAXを全てイナゴにしてしまい
地球上ではイナゴの大群が各地の畑を襲うという事件が起こった。
それ以来、天使が作った書類は
大天使の方に送られ大天使の判子が押されたものだけが
地球上に生まれるというシステムになった。
ともかく今日も生命加工部には
神からのFAXと関係者からの電話が鳴り止まない。
ちょうど神からのFAXが3枚ほど届く。
天使が受け取ると
天使は近くにあったルーレットを回す
人生ゲームの進むコマを決めるようなルーレットだ。
生命体の種類を考えるのが面倒な時はこのルーレットを回す天使も多い。
ルーレットには動物の種類が書いてあるので止まった目を見て新しく生まれる動物を決める。
ちょうど人間に止まったので
3人を人間として
書類の欄を記入していく。
国・性別・身長
などの基本項目の最後に基礎能力という項目がある。
基礎能力に書いてある項目は
動物によって数は異なるが人間が一番多く
IQ・運・健康・体力・目の良さ・性格・カリスマ性
数え上げればきりがない。
どの人間も生命を与えられると
神から100ポイントもらえ
天使がこの100ポイントを振り分け
大天使へと書類を送るのである。
この基礎能力も殆どの天使が
ルーレットを回しランダムにポイントを振り分け大天使へ書類を送る。
考えてる暇はない。
その間にもFAX機と電話のコール音は止まらないのだ。
「はぁ…」
大天使の大きい溜息が漏れる。
天使時代からの頑張りが認められ
大天使へと出世したはいいが
生命加工部配属とは運がない。
天使には色々な部署があり
恋のキューピッド部や敵対する悪魔と交戦を行なう部署もある。
オレは毎日大量に送られてくる書類に判子を押すだけ。
最初は一枚一枚書類を見てたが
最近は何も見ず判子を押して
判子を押すのに飽きたら
喫煙所に行きタバコを吸う毎日だ。
オレも事務職じゃなくて現場で働きたい。
そこに先程天使が作成した人間3人分の書類が送られてくる。
無難な書類である。
今まで何万回も見てきたポイント構成だ、非常にバランスは良いが個性というものがない。
しかし今の人間界にはコレが好まれるのだ。
生物間競争に勝利した人間には
変化を求める必要はない。
1%の天才と99%の凡人という構成が今の人間界にはピッタリなのである。
この3人も
それなりに幸せになって
それなりに嫌な事があって
それなりな人生を生きていくのだろう。
そしてオレ自身も明日になったら
こいつらに判子を押した事すら忘れてしまうのだろう。
仕事が嫌になった大天使は判子を机に投げて
喫煙所に向かう。
生命加工部に配属された天使は
仕事のストレスからタバコを吸い始める天使が多い。
喫煙所の会話では
「オレ天使辞めるわー仕事おもんないし」
「悪魔はホワイトらしいぞー休みは多いし給料も良いし」
基本的に仕事への愚痴ばかり。
タバコの2本目になると
いつ辞めるようかという話になり
「じゃっ今度一緒にハロワいこうな!」
といって笑いながら喫煙所を出ていく。
そして明日になればまた同じ会話が続けられる
つまり、この喫煙所はこの
天国生命加工部の唯一の天国なのだ
毎日同僚と仕事の愚痴が言い合える
ことほど労働者にとって幸せな事はない
大天使が喫煙所に入ると
喫煙所に入っていた天使達が
「お疲れ様です」
と挨拶してくる。
天使達の会話は先程までは盛り上がっていが流石に大天使の前では仕事の愚痴は言えずまだ十分に吸えるタバコを潰してソソクサと仕事に戻る
大天使は一人喫煙所でタバコをふかす。
大天使に出世してしまうと
仕事の愚痴を言い合えるものがいなくなり仕事中に吸うタバコもマズイ。
2本目のタバコに火をつけようとした時に大天使の携帯が鳴る。
電話に出ると同期の天使からで
若い時に飲んだ安い居酒屋で同期を集めて久しぶりに一緒に飲もうかという誘いだった。
二つ返事で電話を切ると2本目のタバコを吸う
1本目のタバコより随分と美味しい。
さっきまで塞ぎ込んでた気持ちが一気に晴れ渡る
人生はちょっとした事で
地獄から天国に変わる。
久しぶりにアイツラと話して近況も聞きたいし、今いるポジションの愚痴を言い合いたい。
喫煙所を出た大天使は机に座り
久しぶりに書類を丁寧にチェックをして判子を押していく。
そしてふと人間の書類に目を止めると
何か変わった事がしたいなー
と思った。
別に理由を聞かれたら特にない。
ただ、少しテンションが上がって
面白い事がしたいなー
と思ってしまっただけだ
基礎能力の100ポイントを大きく
変更する。
一人は絵の技術に
一人は音楽の技術に
一人は文章技術に
そしてそれぞれ想像力は高めにした。
大天使は3枚の書類を眺めて
満足した顔で判子を押して
仕事を切り上げ飲み会に向かう
こうして能力が酷く偏った3人の人間が生まれた。
3人は学生時代それぞれ神童として
皆からもてはやされた。
誰もがそれぞれ将来
美術家・音楽家・小説家
として活躍するだろうと思っていたし、本人達もそのつもりだった。
それは芸術学校に行っても
気持ちに揺らぎはなかった。
芸術学校に行くと周りのレベルの高さに
自分の能力はだちょっと平均より上だっただけで格別に才能が有るわけではないのだと、自信と才能を枯らしてしまう若者が多い
中途半端な才能はかえってその人間の人生を狂わせてしまう。
しかしこの3人は違った。
むしろ自分の能力の高さを再確認した。
この中でも自分が一番だと。
学校を卒業したら
それぞれ創作活動を始めた。
元々大天使がイジって偏った能力にしたのである。
すぐスカウトがかかる
「個展を開きませんか?」
「ウチの事務所に入ってメジャーデビューしませんか?」
「ウチで書籍化しませんか」
そしてすぐ彼らの創作物は
世間に披露される。
しかし、大ヒットとはならない。
大ヒットに必要なのは
才能ではなく時運なのだ
しかしこのまま良い作品を出し続ければヒットするのは間違いなかった。
しかし彼らのマネージャー達は
違った。
彼らの仕事は彼らの創作物を直ぐにでもヒットさせる事なのだ。
マネージャー達は彼らに提案する。
最近はこのような作品が流行ってます
どうです?ちょっと路線変更してみませんか?
このまま売れなければ貴方の創作物はただの排泄物にしかなりません。
これでダメでも
色んな作風を若いうちに作っておく事は将来的に絶対に役に立ちますよ。
若い彼らは良い意味でも悪い意味でも
直前の未来しかしか見ていない。
美術家はそれまで
明るい色は使わず
暗く重い色を用いて
暗い風景を描く事を得意としていたが
マネージャーに言われ
明るい色で明るい風景を描き描き始めた。
絵としては上手いのだが
上手い止まりの絵で
それだったら写真でよかった。
その為彼の新しい絵は素人受けは良かったが
それまでの玄人ファンは離れていった。
音楽家は
それまで詩的な歌詞を弾き語るように歌う曲が多かったが
マネージャーに言われ
アップテンポで流行りのキャッチーな曲ばかり作るようになりそこらへんに転がっているアーティストと大差なかった。
小説家はそれまで純文学を書いていたが、マネージャーに言われ純文学を辞めて漫画やアニメみたいな小説を書くようになった。
彼らは路線変更してから
最初の1年は売れたが2年目以降は
全く売れなくなった
流行りを追いかけている芸術家などは
いくらでもおり、代わりはいくらでも存在しているのだ。
大天使の気まぐれにより
彼らに与えられた特別な才能は
人間社会に犯され枯れてしまった。
良い人生に必要なのは才能ではなく
自分の個性を貫き通す意志の強さかもしれない。
生命加工会社 芋粥 @imogayu
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