今家に帰ります
トモジ
第1話はじまりはじまり
「も、もしもし?」
男は最初驚きはしたがすぐに気を取り直して警戒したような様子で手に持っている圏外表示のスマートフォンに耳を当てゆっくりと話した。
今いる三人の中で唯一携帯が繋がったのだ。いつまで繋がるか分からない。
せめて今自分たちが置かれている状況だけでも伝えたかった。
『は?もしもし?!ちょっと今どこにいんの?!』
分かっていたが自分の妹の声が電話の向こうから大きく聞こえてきた。どうやら約束をすっぽかされて怒っているようだが今は受話器の向こうから話してくるこの声に男は安堵し、息を吐いた。
「今なんか周りで変わったことあるか?」
『ん?別に、兄貴が来なかったことくらい。』
「あーそうか。いや、すまん、悪い。もしかしたら俺たち、しばらく帰れそうにない。」
男は悪気があって言っている訳ではないのだが自分でもとても可笑しな事を言っていると自覚しているので空いている手で頭を掻きながら申し訳なさそうに電話口に話す。そう話すと電話の相手も心配している様子が一層加わった口調で聞いてきた。
『え、なんで?ちょっともしもし?兄貴いまどこにいるの?!』
「わからない。」
『え?』
「ここが、どこかわからん。」
男が言い終わったと同時に通話がプツンと切れてしまった。その後また通話を試みたが圏外の通知の音声がむなしく流れてくるだけだった。結局今自分たちが置かれている状況をほとんど説明できなかった。しかし男は少なくとも自分たち以外は無事そうだと確認出来ただけでも良かったと思ったら、少し気が楽になった。そう前向きに考えることにした。
まるでビルのような建物。空高く突き刺さっているかのような高さ。壁に使われているグレー色のパネル等はよくビルをによく使われているものだとなんとなく判断できたがその建物には入口がなければ窓もない、全面壁になっている建物がただ建っている。それが自分たちが立っている石畳でできた道に沿うように並んで建っている。道自体もとても入り組んでおり迷路のようになっている。薄暗がりな空ももう何時間も歩いているはずなのに一向に変わる気配がない。先ほどから聞いたこともない生き物の遠吠えのようなものが建物の向こうのあちこちから聞こえてくる。
「もう、家に帰りたい・・・。」
男はそれだけつぶやいた後、他の男二人と同様に地面に座り込んでしまった。
現在この異様な状況に大の男が三人巻き込まれている。
普段何不自由なく生活していただけの三人。この話は知らない世界に迷い込んだ後、元の世界に無事帰還出来た所までの、ちょっとした話。
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