4-02 トキのトリセツ①
トキ
〈分類〉
ペリカン目トキ科
〈学名〉
Nipponia nippon
〈全長〉
約七十五センチメートル
〈特徴〉
全身ほぼ白色で、翼や尾羽の裏面は
繁殖期に首の後ろから
顔は皮膚が露出し赤く、足も赤い。
くちばしは黒く、下方に曲がり、先が赤い。
〈食性〉
おもに水田や湿地で、ドジョウ、カエル、ミミズ、イナゴやケラなどの昆虫、サワガニなどの甲殻類、タニシなどの貝類を捕食する。
〈鳴き声〉
「タァー」や「カッカッ」と鳴く。カラスの鼻声といわれることもある。
* * *
わたしの家にやってきたトキは、クール……? というか、冷静というか、おとなしいというか……。あまり感情を顔や声に出さずに、落ち着いて物事を見極めようとしている。
けれども、内心はすごくビビっているのか、なにかあるとすぐに頭頂部の髪がピンッと逆立つ。あれはおそらく
そんな、少し臆病なところがあるけれども、トキは真面目で優しくて。わたしが悲しい時も、黙ってそばにいてくれた……。
そういえば、と、とある休日のことを思い出す――。
「トキ、おはよう。昨日はよく眠れましたか?」
「あぁ」
朝ご飯をカーくんと食べていたら、トキが台所へ入ってきた。
わたしはいつも通りの質問をして、トキもいつも通り返事をする。
「朝ご飯、ちゃんと食べました?」
「あぁ」
「身体の具合はどうですか?」
「特に問題ない」
「体重は減ってないですか?」
「変わっていない」
家に来て間もない頃、トキは熱を出して倒れたことがあった。わたしは、トキが体調を崩していたのに、気付くことができなかった。
その失敗を生かして、毎日するようになった健康チェック。
カーくんやカワセミくんは、なにかあったらすぐに言ってくれるけど、トキは黙って無理するところがある。だからこうして、ちゃんと言葉で
「過保護にされてるな……」
一緒にご飯を食べていたカーくんが、ぼそりと
トキは
そういえば、なにをしに来たんだろう。トキの手には黒い物がさげられていた。
「できたぞ。頼まれていた物だ」
そう言って、手にした物をカーくんへと差し出す。
不機嫌そうだったカーくんの顔が、それを見た瞬間パァッと明るくなった。
「マジか!? 思ったより早くできたんだな!」
カーくんが、トキから奪い取るようにしてそれを受け取った。
黒い服。カーくんがいつも来ているファー付きのジャケットだ。
「なな、見てみろよ、これ!」
カーくんは立ち上がって服を羽織り、わたしに背中を見せた。
そこには、金色の糸で縦書きの文字が
『 端 細 雅 羅 須 』
わたしは飲んでいたお
「ど、どうしたの、それ……?」
「前にテレビで見てさ、いいなって思って作らせたんだ。後で群れのやつらにも自慢してやろ。想像以上にカッコいいな」
「当たり前だ。だれが作ったと思っている」
カーくんが背中を見ながら上機嫌に言う。そんな姿を見て、トキも満足げに鼻を鳴らした。
トキの特技は手芸。特に刺繍が得意で、トキの作る物はお店に並んでいてもおかしくないくらい繊細できれいだ。カーくんのジャケットに施されたものも、手縫いとは思えないくらい形が整っている。
ただ、この刺繍……、着ているカーくんが田舎のヤンキーに見えてしまう……。
「ドジョウ五十匹」
「は?」
浮かれているカーくんに向かって、トキは唐突に言った。
カーくんがそれを聞いて、首を傾げる。
「とぼけるな。作る前に約束したはずだ。今すぐ捕ってきてもらう」
「さぁ? なんのことだ?」
「おい、カラス」
トキが頭頂部の髪を立てて、カーくんに詰め寄った。
なんとなく事情がわかってきた。ドジョウをもらう代わりに、トキはカーくんのジャケットに刺繍をするって約束をしていたみたい。
「大体てめぇ、前にぶっ倒れた時、オレが食いもん持ってきてやった恩、忘れてるだろ? その恩の返しだと思えよ?」
「俺はお前に、助けを頼んだ覚えはない」
「なんだよそれ!? 恩売ってやったのに、礼ぐらいしろよ!」
「恩着せがましいやつに返す恩はない」
「はぁっ!? なんだとてめぇ!」
「はいはい、そこまで! ケンカしないで!」
わたしは二羽の間に入って、ケンカを止める。
トキとカーくんはお互いを
わたしはため息が漏れる。トキとカーくんの口ゲンカはしょっちゅうのこと。ケンカするほど仲がいいとはいうけど、どうなんだろう……。
「あっ、そうだトキ、この後いいですか?」
「あぁ。なんだ?」
話を切り替えて、わたしは訊いた。
トキがこくりと
「田んぼマップができたんで、一緒に食べ物探し、行きましょう?」
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