第109話 討伐大隊

 俺達3人は討伐大隊にくっ付き、『開戦区域バルフィード』と呼ばれる地域から少し離れた所にいた。


 何年も前に滅ぼされた町、ここを抜ければシルバースターの支配する地域となっており、実質的にこの町も敵の手中にあるようだ。

 一応『バックドラフト』が指揮を執っていることになっているが、結局はそれぞれの討伐隊に分かれて、この町を抜けることになっている。


「それでは各自分散!」


 126の討伐隊が各々分かれ始めた。


「じゃあさっき話した通り、俺達は隙を見て戦線離脱して、シャッタード都市までの道を向かうってことで」

「戦わなくていいの?」

「いいんだよ。目的は戦争に巻き込まれることじゃなくて、シーラの両親の所に行くことなんだから。余計な危険は犯してられっか」

「おーいヤシロー!」


 聞き覚えのあるこの声は…………ベイル!


「どした?」

「出来ればヤシロ達と一緒に行動したいなと思って! グロスクロウとも一緒に戦ったし、連携に関しても問題ないと思ったんだ! どうかな?」


 う、う〜ん…………。

『ベルの音色』の3人か……。

 彼らも見た目とは裏腹に魔王の攻撃を凌げる実力を持つし、一緒にいてくれればこっちも安心できるけど……隙をついて抜け出すことが難しくなるんだよなぁ……。


「ゼロさん! ミ、ミリと一緒に戦いませんか?」

「別に構わねーよ」


 おい!

 勝手にオーケーを出すんじゃない!


「シーラさんもどうっすか? 俺達と行動するというのは」

「…………どっちでもいいよ」


 曖昧な返事はダメだって!

 俺がどうしようか考えてるんだから!


「どうだろうヤシロ」

「そうだなぁ……………………………………………じゃあ是非お願いしよう」


 とりあえずは安全を求めるためにもベイル達と行動した方がいいか。

 グロスクロウみたいに、シルバースターが自ら突撃してくるタイプじゃないとも限らない。


 考え過ぎでも足りないくらいだこの世界は。


「他の討伐隊も徐々に動き出してるな」

「家とかは結構残ってるから、敵が隠れてたりする可能性もあるってことだよなー」

「町ごと全部更地にした方がいいんじゃねーの?」

「考え方がシーラと一緒だ……」


 シーラも前に森ごと燃やせばいいと言っていた。

 魔者は容赦ない発言が多すぎるぜ。



 ガキィィィィン!!


 少し離れた位置で金属音がぶつかるような音がした。


「戦闘が始まったみたいだよ!」

「やっぱり敵がいたみたいっすね……」

「ミナト……屋根から見たほうが分かりやすいんじゃない?」

「そうすると敵からも丸見えじゃん。こっちが見やすいってことは相手からも見えやすい位置にいるってことだし」

「むぅ……確かに」


 ドォォォォン!

 ドドォォン!!


 続々と各地で戦闘が始まる音がする。


 こういう時に、勇者の索敵スキルがあったら便利なんだろうな。

 敵がどこにいるか分かるアドバンテージは強すぎるぜ。


「ぁぁぁぁあああああ!!」


 人が宙を舞いながら吹き飛んできた。

 まるで人形のようだ。


「ゼロ!」

「はいよ」


 地面に衝突する直前に、ゼロが風魔法で落下速度を落とし、無事に着地させた。


「大丈夫か?」

「た、助かったよ……」

「魔者と戦ってたの?」

「魔者と下級魔人だ……。どちらかというと魔者の方が多い」


 簡単な命令式しか組めない魔人は、入り組んだ所だとあんまり数はいないのかね。

 だとすれば魔法戦が主な戦い方になるかもしれない。


「ゼロ、遠隔魔法の処理は任せたぜ」

「任せとけ」

「私は?」

「シーラは…………広範囲攻撃じゃなくて、単体を狙うように魔法を調節してくれ。ゼロに魔法の扱い方を教えてもらったんだから、できるよな?」

「当たり前。もっとスゴイことだってできるもん」


 もっとスゴイこととは何だろうか。

 町全体を燃やしたりとかだろうか。


 とりあえず、抜け出すタイミングはもうちょっと戦況を見てからだなぁ。


 右手に『獅子脅し』、左手に『雷鳥』を構えて、ガルム流剣術と銃を組み合わせた俺独自の戦い方だ。

 魅せる戦いってやつさね。


「ベイル達も各自で判断してくれよな」

「もちろん! 魔法で劣る俺達は敵よりも先に先手を取ることが大事だからね!」

「ミリも頑張るよ!」


 この町を抜けるまで、直線距離で500mぐらい。


 行くぜ。


「敵襲!」


 ベイルの声と同時に、翼の生えた魔者が屋根を超えてやってきた。


 つーか早ぇーよ!

 こっちが今から仕掛けようとしてたのにそっちから来るんじゃねぇ!


ファイヤーーーー」


 ドンッ!


 魔者が無詠唱による魔法を撃つよりも早く、銃で魔者の翼を撃ち抜いた。


「ぎゃあ!」

「さすがヤシロ!」


 倒れ込んだ魔者の心臓へ、ベイルが剣を突き立てる。

 血を吹き出しながらもバタバタともがいていたが、魔者はガクリと力を失い生き絶えた。


 今のも頭を撃ち抜くことができたが、無意識のうちにけていた。

 この世界で生きていくのに、決して褒められたことではないのは分かってる。

 でも無意識なんだから仕方がない。


「早速一人倒した! この調子で頑張ろう!」

「絶対生き残るっすよみんな」


 ボルザノクの言葉が、妙に真実味を帯びている気がした。

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