第108話 切り返し

 第5陣、救護部隊が控えている地点が突如として爆炎に包まれた。


 総指揮隊長であるジェラードにも何が起きているのか分からなかった。


「何事だ!」

「分かりません! 何の前触れもなく攻撃がありました!」


 続いて2発目、3発目と連続して爆発が続いた。

 部隊は完全に混乱状態である。


「これは………………! 魔法に長けているものを呼べ! 可能性として、敵が我々と同じように透過魔法を使っている恐れがある!」

「よく分かったじゃないか。正解だ」

「隊長!!!」


 背後から声がしたと同時に、紫色の雷がジェラードを襲う。

 それを側近の兵士が庇い、痛切な悲鳴をあげて倒れた。


「ぎゃああああ!!」

「お前が人類側を指揮している大将だな?」

「魔者め……!」


 ジェラードの目にはうっすらと魔族の姿が映っていた。


 ジェラードは魔法があまり得意とは言い難い。

 魔術級を使うセンスはあるが、魔力量の問題から実戦で使うことができない。

 むしろ近接戦闘にステータスを振っている男だ。


「紫電」

「むんっ!」


 紫色の雷が襲うが、神剣流の一の剣技を用いてかわす。


 一気に懐に入り込むが、風魔法による突風により剣速が遅れ、かわされる。


「人間も透過魔法に近いものを使っているみたいだが、透過魔法は元々魔族が考案したものだぞ? 我が物顔で使ってるなよ」


 透過魔法の原理は治癒魔法の派生である。

 細胞を変化させ、治癒力を加速させる治癒魔法と同じように、細胞そのものを透過させて他人の目を誤魔化すのが透過魔法である。


「一体何人の魔者が透過魔法を使って侵入しやがった……!」

「ご自分の目で探してみな。というよりも、お前達は魔族が馬鹿正直に真正面から突っ込んで来るとでも思っていたのか?」

「今までの戦いではそうだった!」

「それが魔王様の策だということに気付いていなかったようだな」


 その一言にジェラードは全てを悟った。


 50年前から全てが始まっていたのだ。

 50年間によるこの日のための布石。


 ジェラードが戦争を指揮した10年間も、それ以前の魔王シルバースターによる侵攻も全て数と力で圧倒されてきた戦争だった。

 大陸を越えて連合国が誕生した後は、人類側も押し返すとまではいかなくとも、抵抗することができる力を身に付けた。


 そして勇者という存在。

 魔族にとってのキーパーソン。


 人類が戦争に勝利し続け、その勢いのまま魔族の領土を奪還しようとすることを魔王シルバースターは読んでいた。

 故に、単調な戦い方をし、どんな戦争でも策を弄さないと人類に思わせた。


 結果、ジェラードの思考は敵との戦力差をいかにして覆すかのみに絞られ、敵が策を弄してくるという考えを放棄してしまった。


 人類の戦力を、勇者を、一度にまとめて殺すために。


 敵を一度引き入れ、奇襲をかけるという戦法はジェラードがやっていたのではない。

 戦争が始まる前から魔王シルバースターが行なっていたのだ。


「…………これが……搦め手を得意とする魔王シルバースターの戦い方か……」

「戦意を失いやがったか。殺すのが楽でいいな」


 うなだれ、こうべを垂れるようにして力を失うジェラードに対し、魔者が魔法を放とうとする。


 だが放てない。


「諦めるな! 俺達はまだ負けていない!」


 ヒュカッ。


 風が吹いたかと思えば、魔者の首が切り落ちていた。


「ジェラード! 俺達はまだ生きている、戦っている! 総指揮隊長であるお前が折れるな! 国を、人類を想っているのなら、命を賭して戦え!」


 勇者グリムである。

 他の4人はおらず、勇者のみがジェラードの危機を感じて先行してきたのだ。

 その直感は見事命中し、間一髪間に合った。


「勇者…………」

「指示を出してくれ。大人数による戦いはあなたの方が慣れているはずだ。俺という駒を上手く使ってみせてくれよ」

「………………ああ! 私に任せろ! ここから盛り返してみせよう!」


 勇者の勇者たる所以ゆえんはここにある。

 実力がある人間なら勇者以外にも存在する。


 だが、気落ちした人間を即座に立て直す力を持っているのは、人類の希望たる勇者だけだ。


「勇者よ……頼りにするぞ!」

「いくらでも頼ればいい。頼られることには慣れてる」

「透過魔法を使っている魔者は勇者達に対抗してもらうとして…………問題は前線で魔人と戦っている兵がいつまで持つか……。せめてあと一人、勇者と同等の実力を持つ奴がいれば…………!」



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「気合い入れて行くぜマイフェイバリットメンバー!」

「……何言ってるの?」

「アホだな」


 八代やしろみなとが動く。

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