第100話 奮起の声明

「皆も既に知っておると思うが、昨日さくじつこの国に魔王の1人、グロスクロウが強襲し甚大な被害を被った。兵士、民間人、討伐者など死亡者負傷者も多数出てしまった」


 城の上から演説をしているのはこの国の王様だ。

 何かの魔法で声量が上がっており、国のどこにいても声が聞こえるようになっている。


 周りにいる人たちは皆、王様の声に耳を傾けていた。


「しかし、私達は魔王の侵攻を跳ね返し、魔王グロスクロウを討伐した! これは2代目勇者が魔王リネンを討伐してから実に20年ぶりの快挙である! 人類史における重要な転換期であるとも言えよう! そして全世界が改めて認識できるであろう、人類は魔王を討伐することができるのであると! そしてその中心には人類の希望である彼らがいるということを!」


 その声明と共に王様の後ろから現れたのは5人の討伐者。

 否、1人の勇者だった。


「初めまして。私が3代目勇者のグリムです。そして他の4人を合わせて『グリモワール』という討伐隊を結成しています」


 グリムが先頭に立ち話し始めた。

 その姿を見て、周りでは息を呑む人達が大勢いた。


 恐らくは勇者を初めて見たのであろう。


 誰も声をあげなかったのは、彼の堂々とした態度に空気を呑まれたからだ。


「先の戦いにおいて、私達の到着が遅れたことにより犠牲者が多く出てしまったことを、まずは謝罪したい。力及ばずで申し訳ありませんでした。しかしながら、私達が到着するまでに国内に侵入を許したのは僅か2名のみ。命を賭して戦う者達がいなければ、被害はもっと増えていたことでしょう。そんな彼らの命を軽視することなどあり得ない。彼らの対応があったからこそ、我々は魔王討伐に着手することができました。魔王討伐することができたのは私達だけの力じゃない、この戦いに参加した皆の力があったからこそ成し得たことなのです」


 これだけの人を前にしてこの演説。

 もはやどの国に行っても同じような扱いを受けているから慣れているんだろうな。


 性格までも勇者になるために生まれてきたような人だ。


「故に我々は現在、この勢いのまま続いての魔王討伐に向けて着々と準備を進めています。シャッタード都市も含めた近隣諸国による連合軍が『魔王シルバースター』討伐に向けて人材を集めている。もし今回の魔王討伐に何か思うところがあったのであれば、是非その戦いにも参加して頂きたい。もちろん戦闘がメインでない方の協力も大歓迎です。今回の戦いはいわゆる戦争です。前線に出るのではなく、後方にて支援をして下さる方々も必要となります」


 グリムも、『ベルの音色』のベイルも言っていた戦いのことだ。

 近隣諸国が連携して『魔王シルバースター』討伐のクエストが近々発令されるだろうと。


 話によると、過去にも領土を取り返さんと魔族側に大規模侵攻した事例はあったそうな。

 実際に領土も取り返すことができたそうだが、魔族にそれ以上の領土を侵攻され、結果的には失敗に終わっている。


 だが、今回のケースは領土奪還が目的ではなく、勇者を中心とした魔王討伐。

 大将を獲れば終わりの戦いだ。


「前線で戦う人達も安心して欲しい。私達5人が最前線で戦う。勇者であるこの私が、魔王を討ち取るために命を賭して戦う」


 勇者の言葉には不思議な安心感と説得力がある。

 それは勇者だからこその力なのか、グリムが持つカリスマ性から来るものなのか。


 彼の言葉に男女問わず心酔させられていた。


「人類は既に蹂躙されるだけの立場ではない! 今こそ平和な世の中を取り戻すために、『魔王シルバースター』の討伐を私と果たそう!!!」

「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」


 人々の声量と熱気が国を震え上がらせる。

 彼の演説により、この国は【魔王に攻め込まれた国】から【魔王討伐を掲げる国】へと色を変えた。


 これほどまでに人を惹きつけ、動かせる人物が勇者。


 俺には絶対できないことだ。


「……私達はどうするの?」

「やっぱりシャッタード都市を目指そう。その道中に戦争に巻き込まれれば、状況に合わせて動こう」

「いいのか? ここで戦争が終わるのを待つのもアリだと思うぜ?」

「万が一、人類側がその戦争に負けるようなことがあれば、それこそシャッタード都市へ向かうのは難しくなるんじゃねーかなと。グリム達がいれば大丈夫だと思いたいけど…………魔王が相手だとどうなるか」


 グロスクロウの強さは今思い出してもゾッとする。

 身体能力、魔力に個人的には引けは取らないにしても、固有スキルが強すぎる。


 今回はたまたまラッキーが続いたおかげで生き残れたけど、魔王個人に対する対策が取れなきゃ今後はどうなるか分からない。


 それはグリム達であっても同じことが言える。


「もし渦中の戦いに呑まれれば、その時は参戦するわけだな?」

「そうなるね。どちらにせよ人類側が勝ってもらわないと困るわけだし。それなら勝てる見込みがあるうちに参戦した方がいいからさ。それでオケ?」

「ん…………分かった」

「俺も構わない」


 そうなるとまずは準備だ。

 ここからどのぐらいかかるか分からないし、食料の確保だったり次の国までの距離を調べなきゃならない。


 一番良いのは『ベルの音色』にくっついていければ楽なんだけどね。

 そこらへんも上手く交渉してみよう。

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