第99話 勇者の証

「痛っ! 何も放り出すことないだろう!」

「アホ言え、あんな可愛い子に対してお前に下心が無いわけないじゃろて」

「ちょっと仲良くしようとしただけだっての!」


 先程の部屋に戻ろうとすると、ナイルゼンがアースに放り投げられ転がり出てきた。


「どうした?」

「おう、4人とも帰ってきたのか。なに、こやつの悪い手癖がまた出おっただけじゃて」

「まだ出してねーだろがい」

「誰に?」

「ヤシロの連れのレッカ族の子じゃ」


 は?

 俺のこの世界における生き甲斐であるシーラに手を出すと?


 オイタが出来ないように両腕叩っ斬るぞ。


「そりゃ近年稀に見る可愛いさではあるけどよ、彼女はヤシロの連れで魔者だぜ? いくら俺でも手は出さねーって」

「見境いないのがアンタの取り柄なのに?」

「おい! 分別ぐらいつくわ!」

「とりあえずシーラには何もしてないんですよね?」

「おお…………急にお前の圧が凄いぞ……」


 そりゃ事と次第によってはどうにかしてしまう案件ですから。


「大丈夫よ〜。今も私の膝の上で眠ってるから〜。小動物みたいで可愛いでしょ〜」


 確かにシーラは気持ち良さそうに寝息を立てながら、シャイナの膝枕で寝ていた。

 ここ最近で最も熟睡してるんじゃないだろうか。


「何もないならいいですが……」

「グリムは俺の事信じてくれるよな!」

「ははは」

「愛想笑いかよ!」


 結局ナイルゼンは「発散してきてやる!」と捨てゼリフを吐いて部屋から出て行った。

 一体何を発散しにいくんだろうか……。


「で、だ。『勇者の証』についてだったかな」

「あ、教えて頂けるのであれば是非」

「簡単に説明するならば、生まれ付いて刻まれた証であり、高い身体能力、魔力、魔法センスを有することができる。初代勇者が魔王とも渡り合えることができる者であるという流れを作った故に、左目に刻まれた紋章を『勇者の証』と呼び、刻まれた人間を勇者と呼ぶ」

「気になる部分は固有スキルです。シャンドラ王国の国王は勇者に固有スキルがあることを知りませんでした」


 固有スキルについて話すと、グリムの眉が少しピクリと動いた。


 触れてはいけない部分だったのだろうか。


「固有スキルについて知っているとは…………驚きだ。俺はパーティのメンバー以外には言ってないし、この中の誰かが漏らすとも考え難い」

「でもグリム、ヤシロ君の前でスキル使ってたよね。それで分かったんじゃない?」

「いえ、実は俺は前から知ってました。とある人物の話でですけど」


 ガルムを引っ張りだすとまた面倒くさいから、伏せておこう。


 ここ最近はずっと伏せるようにしている。


 話してもロクな事にならないと学習したからな。


「誰から聞いたのか知りたいところだが…………まぁいいさ。察しているとは思うが、世界3大国家の国王でも知られていないことだ、勇者に固有スキルがあるというのは」

「どうして秘密にしてるんですか?」

「ただでさえ俺は目立つ存在だ。人々に情報が流れるのと同じように、魔族側にも俺の情報が流れている。だから奥の手という意味でもあまり知られないようにしてるんだ。初代と2代目がどうたったかは分からないけどね」


 2代目は絶対そんな深いこと考えてないと思う。

 ちゃらんぽらん筆頭だもんアイツ。


「それだと俺に知られるのはどうなんだ? 一応俺も魔族なんだぜ?」

「その点は大丈夫だろう。既にゼロにその気がないのは俺が証明済だ」


 そう言ってグリムは自分の目をトントンと指差した。


「固有スキルが関係してると?」

「その通り。俺の『勇者の証』のスキルは『見えざる者以外オールアンノウン』といって半径100m以内の魔族を感知することができる」

「スキルの事、話してよいのか?」


 アースが心配するように言った。


 話してくれるのは個人的に助かるけど、アースの心配も分かる。

 こう言ってはなんだけど、デメリットこそあれどメリットはないはずだ。


「構わないさ。索敵の事自体は知られてるんだ。それが魔法かスキルかの違いだけさ。それに彼は魔王討伐のために大事なピースになるはずだ。俺達の事を話しておいて損はない」

「そこまで信用してもらえると、なんか嬉しいですね」

「でも索敵だけでどうやって俺やシーラを信用できると判断できるんだ?」


 確かにそれもそうだ。

 その部分の説明が足りていない気がする。


「『見えざる者以外オールアンノウン』の能力は索敵だけじゃない。同時に、索敵している魔族の心も読むことが出来るんだ」


 ま、マジか!

 心も読めるってめちゃくちゃ有利じゃね?

 敵がどんな攻撃をしてくるのか分かるってことじゃん!


 あ、それでシーラやゼロに敵対心が無いことが分かったのか。

 なるへそなるへそ。


「じゃあ今も俺の考えてることを……?」

「今はスキルを使ってないから分からないさ。意外と燃費が悪くてね、魔力を結構食うんだよ」


 召喚術のスキルの方がいいとおもってたけど……心を読めるスキルもいいなこれ!

 ていうか勇者のスキルも大概ズルいな!


「さて…………そろそろ国から魔王グロスクロウ討伐に関する声明が正式に発表される頃か」

「そうしたら次はいよいよ魔王シルバースターね」


 もう次の魔王討伐の事を考えてるのか……。

 信じられんな。


「君達はどうする? 近隣諸国が連合して魔王シルバースターの討伐が計画されているわけだが、参加するか?」

「いや〜どうですかね〜」

「個人的には君達が参加してくれればかなりの戦力になると思うわけだが…………2人は同族と戦うわけだし、こちらから頼むわけにもいかないな」

「同族っつっても仕えてる魔王が違えば関係ないんだけどな。人間同士でも殺し合いはするだろ?」

「確かにそう言われると反論はできないわね〜」

「まぁリーダー次第だな」


 ゼロが俺を見るのと同時に、全員の目線が俺に集中する。


 そんなに見られると照れるぜ、なんて言ってる場合じゃないか。


「正直な話、あまり参戦はしたくないな……」

「なら無理はしない方がいい。俺も強要するつもりはないからね」

「でも、残念なことに俺達が目指してるシャッタード都市に行くのには、戦地を突っ切らなきゃいけないらしいんですよね。もしその流れで戦う羽目になった時は……生きるために戦いますよ」

「…………充分だ!」


 その後、勇者達の今までの話を聞いたりして時間を過ごした。


 そして翌日。

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