第71話 魔王の残留思念

「久しぶりだな」


 久しぶりじゃん。

 え、ていうか俺が前にお前と会ったっていう記憶あんの?


「最初に会った時にも言ったかもしれねーが、俺は残留思念体としてお前の頭の中で高速に処理されている。故にお前の記憶を読み取ることもできる」


 てことは俺のあんなことやこんなことを全部見られているってことか?

 やだ!

 変態!


「ツッコまないぞ異世界人。そもそもその武器を作った時にお前の記憶を覗いて作ったと言っただろ」


 あ!

 そうだよヴィルちゃん!


「次その呼び方したら回線切断するぞ。俺は仮にも魔王なんだからな」


 お前がくれたこの武器!

 魔人を自分のものにできるのはいいんだけど、時間制限あるわ火力不足だわで使い心地微妙だぞ!

 どうなってんだ伝説の武器!

 詐欺だ詐欺だ!


「んなもん知るかよ。勝手に伝説だの何だの噂にしてたのはお前らだろ? そもそも俺はメモリ不足だから他のダンジョンで回収して強化させろって言っただろ」


 そうだっけ?


「何にも覚えてねーのかよ。さては無能だな? お前」


 おっと。

 勇者に殺された無能がなんか言うとります。


「ちっ。一々ムカつく奴だなお前は。そんなに武器をグレードアップしたくないらしいな」


 靴でもお舐めしましょうか?


「今動けねーだろ」


 そんな冷静に返されても……。

 とにかく、俺が最初にここに来たんだ。

 俺の武器を強化しておくれよ。


「お前は強さを求めてこの世界で何をするつもりだ?」


 真面目な質問?


「ああ」


 ふむ…………。

 記憶を覗いているなら、分かってんだろ?


「まぁ……な。ちょっと試しただけだ。肉体が死んだ俺にとって、この残留思念で相手の人生を見るのだけが生き甲斐になっちまったからな」


 生き甲斐ってか死んでるけどな。


「うっせーな。とりあえずお前が持っている武器にーーー」


『獅子脅し』な。

 名前付けたんだ。


「『獅子脅し』にここにある分の『武器』となる素材を合成する。それでお前の武器にメモリの拡張と火力の強化を行う」


 それはつまり銃の威力が上がるってこと?


「正確には武器の形を変える。より破壊する力を、吹き飛ばす力を、相手を消し去る力を発揮する形に形成する。さらにメモリが拡張したことでそれぞれの魔人の使役する時間も延びるはずだ」


 すげー至れり尽くせり。

 本当にお前って元々魔王だったんだよな?

 なんでそんなに協力的なんだ?


「一つは死んだ今となっちゃあ人間だろうが魔族だろうか興味がねぇこと。もう一つは俺が作成した武器がこの世界にどれだけ影響を与えられるかが知りたい。

 お前は言うならば、俺にとっての実験体なんだよ」


 さすが、とんでもない研究バカ。

 でもその研究バカに今は感謝しかねー。


「既に付与は完了した。武器は固定ではなく切り替えろ。現在の形を標準型とするなら、魔人を玉に変えることができるのはその標準型だけだ」


 標準型じゃないタイプはどういうのになんの?


「これもお前の世界の武器をモチーフにした。一点集中型散弾銃ショットガンだ」


 一点集中型散弾銃ショットガン…………。

 まとまってんのか散ってんのかどっちだそれ。


「使えば分かるさ」


 眩い光が『獅子脅し』を包んだかと思えば、即座に消光した。


「武器を切り替えたい時は頭の中でイメージしろ。それでお前の武器は形状を変える」


 マジか。

 あんがと。

 ここまでやってきた甲斐があったぜ。


「生き残れよ八代 湊。俺はお前のこの世界での生き様を楽しみにしてるんだからな」


 次のダンジョンで会おうぜ。


「他の奴らに取られてなけりゃあな」


 やっぱその可能性もあるのか!


 魔王ヴィルモールは煙のように霧散し、世界の凍結が溶け、時がまた動き始めた。

 勢いよく宝箱を開けたせいか、突然体の硬直から解き放たれたおかけで派手にすっ転んだ。


「ミナト!」

「どーだヤシロ! って……上級魔人の動きが止まったな……」


 確かに前のダンジョンと同じように、上級魔人は魂がぬけた抜け殻のように動きが止まった。


「バッチリ成功! 新しく武器もらったぜ!」


 さっさく試さなければ!

 確か頭の中で武器のイメージをすればいいんだよな。

 まずは『獅子脅し』を手にして…………。


 俺は大きく深呼吸をし、頭の中でイメージした。

 武器変換ウェポンチェンジ一点集中型散弾銃ショットガン》!!


  銀色の銃がバチバチと光を帯びたかと思うと、キン! っという金属を叩いたような音と共に銃口がパックリと大きな口を開けた武器に姿を変えた。

 猟銃とかじゃなくて、よくサバイバルゲームで見るようなタイプの散弾銃ショットガンだ。

 そして変わらず神々しいように銀色の光を放っている。


「おお……すっげ」


 重量感溢れる見た目だが、やはりそれほど重さは感じない。

 試しに魔力を込めてみる。


「うおっ!」


 グンッと凄まじい勢いで魔力が持っていかれた。

 量にして標準型30発分の魔力だ。

 ガシャコン! という音と共に装填が完了したのが分かる。


「これは確かにエグそうだ……。元の世界の銃よりも遥かに威力あるんだろうなぁ」

「どーしたんだよヤシロ! 上級魔人は動き止まったんぞ! 降りてこいよ!」

「今行くよ」


 でも試し撃ちはしないとな……。

 上級魔人は……球に変換できるからやめとくとして……。


 俺は階段の上から勢いよく飛び降りると同時に、先程までいた階段に向かって何気なく撃ってみた。


「ドンッッッッッッ!!!」


 頂上が粉々に吹き飛んだ。

 一点集中型散弾銃ショットガンの銃口から放たれた一撃は、範囲こそそれほど広くはないものの、一塊となって触れたもの全てを消し去った。

 反動はそれなりにあったものの、思っていたほどではない。

 だけどこの威力は流石に引いた。

 頂上だけじゃなくてそのまま壁まで貫通していってる。

 やべぇ。


「何だその武器……」

「俺も予想外……」


 一つ手に入れただけでこの威力。

 他の3つも手に入れたら最終的に核になるんじゃね?

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