第57話 討伐ギルド支部長
ゼロを連れて宿に戻ってきたけど、シーラはちゃんと部屋にいるんだろうか。
ああ見えて実は好奇心旺盛ガールだから、フラフラと当てもないまま国の中を見て回ったりしてんじゃないのかな。
「シーラ、今帰ったでー」
シーン。
おう、予想通りもぬけの殻やんけ。
なるべく部屋にいろと言ったのに。
絶対部屋から出るなと言った方がよかったのか。
いやでもそうするとなんか監禁してるみたいだし……。
「誰もいない……? まさか嘘だったのか?」
「違う違う! その結論に達するの早すぎ! 今日はお互い別行動する予定だったからまだ帰ってきてないんだろうよ」
「なるほど」
「そしたら一度討伐ギルドに寄ってもいい? ちょっと話したいことがあんだよ」
「おーもちろんいいぜー」
この男、実に物分かりが良くて助かる。
話したいことというのも、シジミのことに関してだ。
討伐クエストで殺人事件の情報提供なんてものがあったし、今回の事の顛末を話しておこうかなと思う。
あわよくば報酬をもらおうとしているのは内緒だ。
俺達は討伐ギルドへと赴き、掲示板にまだ殺人事件のクエストがあることを確認した。
ちなみにゼロのツノは透過魔法で見えなくなっているが、シジミのようにツノが見えるやつがいるかもしれないということで、フードを被ってもらっている。
「こんちわー」
「こんにちわ。本日はどういったご用件でしょうか」
受付のお姉さんが笑顔で応対した。
「この殺人事件の情報提供に関するクエストなんですけど……」
「はい。こちらは現在多数の情報が送られてきており、ガセネタも多いため相当信用度の高い情報でなければ報酬は発生しませんけれどよろしいですか?」
「ああ、はい。大丈夫です」
「それでは先にクエストの受注作業を行いますので、IDをかざしてください」
俺の前に魔法陣が現れた。
IDをそこにかざすと魔法陣が淡く光り、そして消えた。
「これで完了です。それでは左手に見えます扉から中に入り、左側2つ目の黄色の扉の中へと進んで下さい」
まさかの奥へお通し。
この場で話すもんかと思ったけど違ったわ。
確かに受付のお姉さんに情報話したところでなんのこっちゃってことだもんな。
俺の考え足らずでしたテヘペロ。
「なぁ、俺もついて行った方がいいか?」
ゼロが聞いてきた。
「ゼロも当事者なんだからさ、一応ついてきてくれよ」
「特に話すこたーないんだけどな……」
奥へ進むと黄色の扉があったので、ノックをすると中から「どうぞ」と入室を促す声がした。
扉を開けると応接間? のような造りになっており、相対するように置いてある向かい側の椅子に初老の男性が座っていた。
「どうぞお座り下さい。おや、お二人でしたか。もう一つ席をご用意します」
「気にしなくていいぜ。そんなに長くは話さないんだろう。ヤシロが座れよ」
「そういうことなんで」
「そうですか、では情報を聞きましょう」
俺は席に腰掛け、ゼロは扉に腕を組みながらもたれるように立っていた。
「話す前に一つ質問いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「今回のような国の中で殺人が起きた場合、討伐ギルドでクエストが発令されるのは普通なんですか?」
「いいえ、滅多にありません。本来そういった事件は国が担当しており、我々にそういったクエストが回ってくることはありません。今回が特例なのです」
「なるほど了解」
国と討伐ギルドは別物であり、そこら辺の棲み分けはできているってことだな。
「じゃあ今回のクエストは討伐ギルドに何か関係しているものって事でいいんですよね?」
「……どうでしょう? 私もそこまで詳しくは分かりません」
ダウトっぽいな。
なんとなく推測は出来てるから、本当に知らなくても問題はないんだけどね。
つーか担当の人が知らないわけないでしょ。
「例えば……討伐ギルド側はある程度犯人の目星がついているとか」
初老の男性の眉がピクリと動いた。
「何故そう思うのでしょう?」
「まぁ普段こういうクエストを発令しないってことで、大体の人がギルドに関係してることなんだなって気付いてると思うんですよ。魔物とかが町の中にいるだとか、殺された人がギルド関係者だとか」
「ええ」
「でも今回は討伐でもなく捜索でもなく目撃情報のみ、にも関わらず50万Dとか高値の報酬額。ちょっと不自然だなって思いまして。つまり犯人はギルドにとってあまり広められたくなく、内密に済ませたい案件。もしくは犯人が凶悪で討伐が困難な相手。はたまたその両方、そう思ったんです」
「………………」
「例えばそう…………A級討伐者とか」
「しばらくお待ちください。上の者を呼んでまいりますので」
理論立てて話してみたけどどうだろう。
若干ハッタリっぽくかましてみたけど、俺の話はどこまで真相に近づいてたかな。
犯人に目星がついてるって前提から間違ってたら恥ずかしいこと山の如しだけど、一応上司を呼びに行ってくれたみたいだから大丈夫なんかな。
もしこれで詐欺師は御用だ御用だ、とかされたら泣くわ。
「あの男のことだけ話すんじゃねーのか? 結構回りくどいことしてっけど」
「情報を話すにしてもそれを裏付ける証拠っていうのが無いから、まずはギルドが求めてるのはこういう情報でしょ? って提示したほうが信用度が高まると思ったんだよ。せっかくガチの情報持ってるんだからキッチリしときたいじゃん」
「しっかりしてんなぁ」
「まぁ本音はシジミに仕返しされるのが嫌だからなんだけど」
「ダセーなぁ」
ガチャリと音がして向かい側の扉が開いたので初老の男性が帰ってきたかと思ったが、部屋の中に入ってきたのはキャリアウーマンを彷彿とさせる、眼鏡をかけた性格のキツそうな女性だった。
急になんだ。
SMプレイは頼んでないぜ。
「失礼します。私は討伐ギルドマリン王国支部支部長のシャナン・セルデルと申します」
「どうも
「お名前だけで結構です」
うわ性格きっつ。
ツッコミというより指摘だよこれ。
「ゼロ・レパルト。好きな食べ物はパークドラゴンの尻尾の肉」
なにっ! 実はゼロもボケ担当狙いだと!?
「お名前だけで結構です」
ああ〜残念!
ゼロも冷静に指摘された!
「早速本題に入らせて頂きます。どうやらあなた達が持っている情報が本物かもしれないということで私が直接お聞きします」
なんか急に面接に来たみたいな緊張感が……。
御社に話したい情報は……! とか言ったら怒られるかな。
まぁ伝わらないだろうなきっと。
気合い入れてちゃんと話しますか!
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