第58話 シャナン・セルデル

「それでは情報を話して下さい」


 くっそーエライ高飛車だなこの人。

 胸がでかいと態度も比例してでかくなんのか?


「俺が持っている情報は、犯人の見た目と名前、それにA級討伐者であるということです。犯人は直接俺達2人を殺そうとしてきました。あなた達討伐ギルドは犯人が誰なのかある程度分かっているんじゃないんですか?」

「ヤシロさんの言う通り、我々は既に殺人者がA級討伐者であるということは分かっていました。それでも明確に誰が、ということは分かっていません。今回クエストとして発令したのは、『A級の誰が』という部分をはっきりと知るためです」

「情報提供のみにしたわけは?」

「ヤシロさん、あなたの討伐者としてのランクはいくつですか?」

「俺はC級です」

「A級討伐者というのは、ヤシロさんもご存知かもしれませんが、世界の討伐者の母数から数えても1割にも満たしていません」


 ゴメンなさいご存知ないです。


「大半がヤシロさんのようにC級、B級で止まってしまう方ばかりなのです。それだけA級に上がるのは難しく実力のある方のみで、B級とA級の間には超えられない壁があります」


 まるで俺がC級止まりみたいな言い方やめてくれ。

 本気出せばA級なんてちょちょいのちょーいよ。

 さっき死にかけたけど。


「犯人がA級討伐者であると分かっている以上、中途半端に捕縛クエストなんて出してしまえば、犠牲者が増えてしまう一方だと考えたので、我々は情報提供のみにしたのです」

「それなら犯人はA級討伐者なので気を付けて下さいって言えばいーんじゃねーの? そうすりゃもっと危険は減るし、むしろ実力ない奴が知らずに近づく方が危ねーだろ」


ゼロはそれが当然だろとでも言いたげに話した。


「それは──────」

「討伐ギルドの顔的存在のA級討伐者が殺人をしてるなんて知られたくないんじゃないんですか?」

「ヤシロさんは察しが良いようですね」


 褒められた。

 やったぜ。


「討伐ギルドはそもそも魔王を含めた魔族を討伐することを目的とした組織です。もちろん各国との連携をみつに行っておりますが、組織を回していく以上、資金が必要となってきます。それには国や人々の協力が必要となるのです。こちらの勝手な都合となりますが、A級討伐者が殺人を繰り返していると知られれば……心象は良くないので」


 ギルドの内部的な話か。

 まぁそんなことだろうとは思ったけど、そこら辺の話はあんまし興味ないなー。


「ちなみに、S級討伐者って何人ぐらいいるんですか? 今の話からするとかなり少なそうですけど」

「S級討伐者は世界で13人だけです」

「少なっ! なんでそんなに少ないんですか?」

「B級からA級へは超えられない壁があると話しましたよね? 簡単に説明すると、A級討伐者は下級魔人と一対一で戦っても勝てると認められたものがあがることができます。それならばS級は、中級魔人以上を一対一で倒すことが昇格の基準として挙げられています。その他にも人類に対する功績などもありますが」

「あの中級魔人を一人でねぇ……」

「有名な方を紹介するとするなら、3代目勇者グリム様などがS級討伐者として登録されています。つまりS級は勇者クラスということですね」


 S級は勇者クラス…………。

 じゃあ中級魔人が現れた時に俺が一対一で倒すことができたことを証明すれば、俺も晴れてS級討伐者ということで恩恵ガッポガッポ?

 そしたらスサノ町で下級魔人を倒した俺はA級に上がってもおかしくなかったんじゃね?

 周りに見てた人いっぱいいたし。


 ああ、でもあの時はシーラが魔人だってことをみんなが黙っててくれたから、俺が倒したってこともギルドに伝わってないのか。

 C級に上がったのはワニレオンとか魔物を討伐してたおかげか。

 そもそもS級なんて上がったら、注目浴びてシーラが魔者だとバレるからあんまり良くないな。

「こいつは奴隷です!」ってずっと言い張るのもなんか嫌だし。


「話が逸れました。それで、貴方達を殺そうとしたA級討伐者の名前は?」

「シジミです」

「シジミ……聞き覚えがないわね……」


 やべぇ間違えた。

 シジミは俺が勝手に付けたあだ名だった。

 本名は確か………………。


「すいません、本名は確かドリトルという名前です」

「ドリトル…………『魔狩まがりのドリトル』のことですか。魔族を討伐することにかけては人類に大きな功績を挙げていると聞いていますが……少々行き過ぎた行動もしていると噂になっていますね」

「そいつが俺達2人を殺そうとしたんです」

「彼は魔族を討伐することに人生を懸けていると聞いてますが、貴方達が狙われた理由はなんですか?」


 シャナンさんがこちらを見透かすように見てくる。


 この質問の仕方は、まるで俺達が魔族に関係しているんじゃないかと疑っているように聞こえるな。

 なかなか鋭いじゃん。

 でも俺だってそんな簡単にボロは出さないぜ。


「先に殺された2人と同じ理由なんじゃないですか? 国に侵入した魔者を討伐するためにおとりになってもらうとかなんとか言ってましたよ奴は」


 半分本当で半分嘘だ。

 一から嘘つくよりもボロを出しにくいからな。


「魔者を討伐するためなら犠牲もいとわないと」

「まぁ彼が何とか追い払ってくれたおかげで俺は今こうしてここにいるわけですけど」


 俺が後ろに立っているゼロを指差した。


「A級のドリトルを追い払うということは、貴方もA級?」

「いや、俺はギルドとやらには入ってねーぜ。もちろんどこかの国に仕えてるなんてこともない」

「ということはフリーでいるわけね……。このご時世に珍しい」


 そりゃゼロは魔者だからな。

 ギルドに入ろうなんて思わんでしょ。


「そんで、俺の話は信用を得るに足りましたか? 取り敢えず手持ちの情報はこんなもんなんですけど」

「そうですね……。ええ、いいでしょう。有益な情報であると認めます。先に貴方に半分の25万 D《ドラ》を支払い、こちらでドリトルを捕らえ真実が判明したのち、もう半分の報酬を払うように手配します。これでよろしいですか?」


 全額貰えないのは少々納得いかないけど……まぁこんなもんでしょ。

 25万も貰えるだけでハッピーだと思わないとな!


「構いません。よろしくお願いします」

「それでは以上となりますので退室を」


 こうして俺は運良く大金を手に入れることに成功した。

 さて、後はシーラの所在を探さないとだ。

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