第46話 悪魔を使役する悪魔

 俺が召喚した中級魔人の荒れようは凄まじかった。


 地面を蹴ってその場から消えたかと思えば、屋根の上にいた魔者の女の上半身と下半身が真っ二つに分かれた。


 Z区分の18禁映像だ。


 何が起きているか分かっていない魔者達を嘲るように、続いて2人目を両断した中級魔人。

 ここで中級魔人に飛びかかったのが下級魔人達であった。


 反射速度でいえばそこらの魔者よりも下級魔人のほうが上なのかもしれない。

 青い悪魔が黄色い悪魔に飛びかかるその様は、正に地獄の一角を表しているようだった。


「事情は知らんが奴を止めろ! 下級魔人を囮に中級魔人に魔法を集中させるんだ!」


 カインズと呼ばれた男の統制でその場を持ち直し始めた魔者達だが、それを俺が黙って見ているとでも思っているのだろうか。


 俺は再び銃に弾を込め直し、混乱している魔者達に向かってこの場から狙撃した。

 この武器の存在を知らない彼らは突如の衝撃と痛みにさらに混乱を増し、中級魔人と俺のどちらを攻撃すべきか戸惑いが生じ始めてしまった。


「落ち着け! 奴は数人で遠距離から攻撃を加えれば抑えられる! 数の優位を活かせ!」


 それを聞いて、『雷鳥』を構えて俺も接近戦へと切り替えた。


 無詠唱で魔法を繰り出してくる魔者へと迅速に移動し、剣の表の部分で顔面を思い切り殴り飛ばした。


 斬りはしない。


 人間ではないとはいえ、人間様にんげんようのものを斬るなんてことは、俺にはまだできない。

 自信がないとかそういうことじゃなくて、人間としてまだ一線は越えたくないということだ。


 いずれやらなきゃいけない時があるとしても、それは今じゃないだろう。


 今はまだ中級魔人に任せようぜ。


「こいつ…………!」

「魔法ならともかく、近接戦闘でなら負ける気はしないな」


 俺と中級魔人の2人で既に下級魔人は全滅し、魔者も残すはカインズ1人となった。

 中級魔人にやられた奴は残念なことに全て死んでいる。


 反面、俺と接触した奴は全員気絶だけだ。


「そんな馬鹿な……お前は一体なんなんだ……」

「通りすがりの討伐者」

「嘘をつくな……。人間が……魔人を使えるわけがないだろう!」

「思い込みは良くないぜ。事実は小説よりも奇なりだ」

「この悪魔め……!」


 悪魔呼ばわりとは失礼な。


 これだけ人を残虐に殺しておきながら、まるで自分達は違うみたいな言い方だな。


「お前らの方がよっぽど悪魔だよ」


 俺は『雷鳥』の柄でカインズの側頭部を殴り、気絶させた。


「……アンタは本当に何者なんだ? この数の魔者を倒して中級魔人を従えて……もしかして3代目勇者の仲間とかか?」

「全然関係ないけど……。3代目勇者の関係者ってこんな感じの人達なんですか?」

「いや、私も直接会ったことはないけど噂では選りすぐりの実力者と聞いてるから……」

「とりあえずその縄は外してあげるんで、逃げるなりなんなりして下さい。俺は向こうの加勢に行かなきゃいけないんで」


 俺の見えない結構離れた位置からだろうか、凄まじい音のみが響いてきた。

 シーラとナンパ男が今もなお戦闘中なのだろう。


「あの男には気を付けろ。高威力の魔法だけでなく、自身の身体能力も化け物じみて強いやつだ。俺達のほとんどは奴のワンマンプレーでやられた」

「忠告どうもです。でも俺にはこいつがいるんで。流石に中級魔人以上の奴ではないと思いますし」


 そう言って中級魔人を指差したら、突如として中級魔人は砂のようにサラサラと崩れ去ってしまった。


「消えたけど……」

「なんでだあああああ! まだ5分ぐらいしか経ってないぜ!? やっぱ時間制限あるんかコレ!」


 そういや上級魔人を使った時は1分ほどで消えてたな!


 こんな大事なことなんで言わないんだよあのアホ魔王!


「ま、まぁこんな奴ただのオマケだし……」

「強がりにしか聞こえないが……」


 まだ下級魔人は何体も持っているが、時間制限があると分かった以上うかつには使えないな。

 貴重なしもべだし。


「とにかく俺は向こうに行くんで」

「私はここの村人がまだどこかに幽閉されているかもしれないから、辺りを探ってみるよ」

「敵もいるかもしれないからお気をつけて」

「魔者の1人や2人なら私でもどうにかなるよ」


 俺は討伐者の人と別れてシーラの元へと向かった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー



「はあっ、はあっ、はあっ」

「ほらどうした。まだ魔力は切れてないだろう? 魔法を使わないと死ぬぞ」

「まだ……問題ない!」


 私は凝縮させた炎の球をいくつも作り出し、男に向かって放った。

 触れれば勢いよく弾けて爆発する炎の球だ。


「喰らえっ!」

「その調子だ。だが……」


 私の放った火球は全て、男が作り出した水の膜に包まれていき、鎮火していった。


「火なんてのは所詮燃えることができてナンボだ。水の膜で覆ってやりゃあ少ない魔力でも抑えることができんだよ」

「う〜…………」

「だが何度も高威力の炎魔法を使えるのは大したもんだ。さすが俺の女だ」

「あんたのものじゃないもん!」

「ククッ。いずれそうなるんだよ。こうべをたれて俺の前に跪かせてやる」

「やだ! 気持ち悪い!」


 私は再び炎を作り出し、近づきながら大量の炎の渦を男にぶつけた。


 男はまたしても大量の水魔法を使って相殺してきた。

 辺り一面に水蒸気が蔓延し、視界が白くなる。

 それを利用して男の背後へと回り込み、背後から攻撃を食らわせてやる。


「背後に回れたと思ったか?」


 回り込んだと思った私の後ろから気持ちの悪い声がした。

 私の動きを予測して、さらに私の後ろに後退していたってこと?


「いい体してんじゃねーの。俺が相手してきたどの女よりも上物だな。強い奴との殺し合いも堪んねーが、綺麗な女を調教するのも堪んねー」

「やだっ! 離して!」


 男が私の髪の毛を掴みながらグイッと自分の方へ引き寄せる。


 ミナトと出会う前、私に酷いことした男達と同じような目でこの男は私を見てくる。

 舐め回すように、ねっとりとして、まるで物を見てくるかのような目付き。


 私を救ってくれたヒーローは絶対にそんなことはしなかった。

 この男を倒して、良くやったってまた頭を撫でてもらいたい。


「はな……してっ!」

「おっ……と」


 身体に再度炎を纏ったことで男は私から離れた。


「魔者ならこっちに来るべきだ。落ち目の人間なんかじゃなくてな」

「…………種族とかなんて関係ない。私は一緒にいたい人と一緒にいる」

「本気で一度心を折る必要があるな……。水責め、電気責め……好きな方を選べ」

「じゃあ電気責めでお願いしまーす」

「あぁ?」


 突然男に向かって電気で作られた槍が何本も襲いかかった。

 男はそれを同じく雷魔法で相殺していた。


「何だよ、電気責めをご所望じゃないのか」

「お前……。あいつらはどうした」

「向こうでおネンネしてるよ」

「使えねぇ奴らめ……」

「待たせたなシーラ。酷いこととかされてない?」


 ミナトが来てくれた。


 別れる前は怯えてるようにも見えたミナトの背中が、いつものようにとても頼りがいのある背中に見える。


 安堵したら思わず涙が溢れてきた。


「えっ!? ちょっ……シーラ!?」

「ミナト〜…………ぐすっ」

「…………やってくれやがったな貴様! シーラを泣かせた罪は万死に値すると思え!」

「そこまで必死になるようなことじゃねーだろうに……」


 やっぱりミナトの側が1番安心する。

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