英雄の異世界戦記〜敵を使役する異端な存在〜

第45話 専売特許

　先に攻撃を仕掛けてきたのは側近の2人だった。

　カインズと呼ばれた男の方は槍を持ち俺に向かってきており、リリエルと呼ばれた女の方は手をバチバチと発光させて雷魔法を使う準備をしていた。

　魔法主体の攻撃をしてくるものかと思っていたのだが、カインズは近接戦闘を仕掛けてくるようだ。

「覚悟しろ！」

　覚悟するのはお前の方だ。

　殺し合いであれば手加減はしない。そもそもする余裕なんかないけど。

　最速で片を付けてあのナンパ野郎をぶちのめす！

　俺は向かってくる男に照準を合わせ、銃の引き金を引いた。

　ドンという反動と共に弾は飛び出し、相手の眉間をぶち抜き……ということにはならず、弾は男の手前で変化してあらぬ方向へと飛んでいった。

　何かしらの魔法を既に発動しているのだろうか。

　再度撃つが、またしても弾はカインズから逸れていった。

　俺は『雷鳥』を引き抜き攻撃に備えると、男が槍を突く形で攻撃してきた。

　“躱（かわ）せない速度じゃない”

　身体を捩（よじ）って躱そうとしたが、突如として俺の身体は背後に吹っ飛ばされた。

「うっ！」

　さらに女が準備していた雷魔法が上空から俺に直撃した。

「うおあああああああ！」

　初めて味わう雷魔法に体の細胞が焼け焦げる感覚を覚えたが、思ったよりもダメージは少ない。

　ガルムの力の恩恵で身体の防御力が上がっているおかげか、すぐさま態勢を立て直し最速で男の方へ斬りかかっていった。

　その切り替えにギョッとしている男の槍の柄（え）の部分を切り落とし、その勢いで男の身体を斬りかかろうとしたが、先程と同じく俺は背後に押し戻された。

「お前……雷魔法が効かないのか？」

「効いてるよ。普通に痛かったわ」

「それなら何度でも攻撃するだけよ」

「させるかバカ野郎。雷魔法なら俺の専売特許だっつーの！　紡げ、雷撃（ショックボルト）！」

　女に向かって魔力を込めれるだけ込めた初級魔法を放った。

　女は先程と同じく雷魔法で応戦してきたが、俺の高威力の魔法に押し切られる形で直撃した。

「きゃああああああ！」

「リリエル！　人間の分際で貴様ッ……！　魔法の専売特許は我々のものだ！」

　身体が吹き飛ばされそうなほどの突風が俺を襲い、まともに立っていられなくなりそうになるが、『雷鳥』を両手で把持（はじ）し、空気を切断するかのように振り抜き生まれた剣圧で、突風は相殺されて無くなった。

「なっ……！！」

「今はまだ相殺させるのが精一杯だが、その内、この距離からでもお前の命を刈り取れるようになるぜ」

　ヤバ。

　今めっちゃカッコいいこと言った。

　今日一輝いてねコレ。

「お前は風魔法を扱うことで攻撃と防御を同時にこなしているとみた。人を吹っ飛ばす程の威力の魔法であれば銃撃を逸らすことも可能みたいだしな」

「くっ……」

　実際は風の流れを操作して、横に流れるようにしていたんだろう。

　でないといくらなんでも銃弾が逸れるなんてことはあり得なくね？

「ネタが割れれば強みは無くなるな」

「…………我々の目的はあくまで時間稼ぎ。お前を足止めできれば充分だ」

「はぁ？」

　シーラを見ると、既に炎魔法と水魔法の激しいやり取りが行われていた。

　轟々と唸りを上げて噴火の如く襲いかかる炎を、完璧な操作で相殺していき、辺りにとんでもない水蒸気が発生している。

　シーラの炎がキッチリと抑えられてしまっているあたり、やはり一日の長は相手にあるようだ。

「デウロス様に魔法勝負で勝てる人間なんていない」

「揚げ足とるようで悪いけどシーラは魔者だから」

「……………………」

「それに俺が加勢に入れば直ぐに片付く」

「言っただろう。我々の役目はお前の足止めだと」

「？　1人は気絶。お前ももう相手じゃな───」

「少年！　周りに気を付けろ！！」

　捕まっている討伐者の声と同時に様々な方向から様々な魔法攻撃が飛んできた。

　火、水、雷、岩、氷。

　即座に反応して斬りつけれるものは斬りつけ、それ以外のものはなんとか紙一重で躱した。

「危な……！　今度は何だよ」

「今のも躱すのか……。並の討伐者じゃないようだな」

　見ると周りの至る所に耳が裂けている奴らが俺を取り囲んでいた。

　それに魔者だけでない。

　下級魔人もザッと見ただけでも10体近くいる。

　恐らく消火に回っていた奴らや、村の周りに散っていた奴らがほとんど戻ってきてしまったのだろう。

「カインズさん。あいつらは？　1人はデウロス様とやり合っているみたいですが」

「向こうの女はデウロス様が気に入ったようで、捕虜にするらしい。こっちの男は邪魔だから消してもいいんだが、見ての通りここに来た討伐者共とは一味違う。リリエルも一撃でやられた相手だ。気を付けろ」

「それでもこの人数に勝てるとは思えませんがね」

　ごもっとも。

　見る限り30人近くいる。

　これに加えて下級魔人が10体以上だ。

　数の暴力っていうのはいつの時代でも何処でも脅威的だよな。

「ならさっさと片付けちゃいましょ」

「人間は殺してナンボ」

　ナンボじゃねーよこの野郎。

　ヘラヘラしやがってこいつら…………自分達がやられるなんてことは微塵も考えてないみたいだな。

「…………全員、あの男を殺せ」

　恐れ慄（おのの）け貴様ら。

　魔人を使役するのもお前らの専売特許じゃないぞ。

　ポーチの中から黄色のビー玉を１つ取り出し、指で粉々に押し潰した。

　ビー玉から光の塊が漏れ出し、それは即座に中世の騎士のような鎧という名の筋肉を身に纏っている物体へと形成し始めた。

　俺を殺しかけた魔人、中級魔人の召喚だ。

「馬鹿な…………！！　何故人間が魔人を……！」

「教えてやろうか？　それは俺が選ばれた人間だからだよ」

　強気な発言は相手によってはハッタリとして充分に通用する。

　もう少しだけ耐えててくれよシーラ。