異世界探偵事務所
長谷部深夜
第1話 祭典のはじまり
秋が来た。
僕はコーヒーを一口飲んで手招きをした。
秋が来たからには、僕の出番という事だ。
「暇そうだね、今日も助けて欲しいことがあるんだけど…もちろん問題はないよね」
そう言うと秋は応接室の椅子に座りにっこりと微笑んだ。
「まぁ…そうだね、えぇと…飲み物飲むだろ?コーヒーで良いかな?」
「もちろん、コーヒー大好き」
駅を出て神社に向かって歩いていくと直ぐ
ビルの2階に探偵事務所の看板が見えてくる。
県内では最も人口の多いこの町とはいえ
都心から比べれば人口は微々たるものだ。
探偵を雇いたい人の数は少なく
秋の言うように僕はいつも暇を持て余している。
この探偵事務所は少し変わっている。
そらは秋が持ってくる依頼のせいだ。
「サルエモを使ったのが誰か、見つけて欲しいの。」
「依頼内容は犯人探しかな?詳しく教えて。」
「分かった、先ず場所はサロクにとってとても大事なお祭り会場。広さは…名古屋ドームくらいかな。」
秋の広さの例えであらかた広いときはほとんど名古屋ドームなのでこの手の寸法精度は悪い。
「お祭りは新しい大魔法師様のご挨拶から始まった。
大魔法師様がまさに開祭宣言をするその時
後方で爆発が起きた。
炎が舞い散って参加者はパニックになった。警備員が消火のために水の精製式を書いている所を大魔法師様が炎が上がった空間の酸素を遮断して鎮火した。
けどお祭りどころでは無くなって開会式は延期。
今までこんな事有史以来無かったそうだよ。
警魔局が調べたところ、爆発は中級魔法のサルエモの痕跡があった。」
秋は視線をあげ、美味しそうにコーヒーを飲んだ。
インスタントコーヒーだが喜んで貰えるとこちらも嬉しい。
「あっちにはコーヒーが存在しないから助かるわ」
「水を作る魔法があるなら美味しい飲み物がありそうなもんだけど…」
秋はコーヒーのグラスを置くと、手についた水滴をスカートで拭いて残念そうに首をふった。
「そうだけど…こっちの世界の水とは違ってそもそも精製で作ったH2Oは美味しくはないよ。」
「話を戻すよ、サルエモは初めて聞いたな、爆発を起こす魔法という事かな。爆発したものは何?または何も無いところを爆発させる事がサルエモの魔法かな?」
「基本的に無から有は作れないルールがあるから、サルエモは物体の内部を振動させて爆発を起こす魔法みたい。電子レンジと同じ原理かな。
燃えたものは貢物台にあったもので…
燃え残りから金属の破片が確認された。」
燃えたものは金属か…。
サロクには金属も存在するようだし
マグネシウムなどの一部金属は条件によっては爆発的に燃える。
「サルエモは調理とかで誰でも使う魔法だし、精製式も簡単。…となると犯人は多数になる、市民はほとんど参加していたし。」
「サルエモの精製式の後が残されていた。
燃えたのは金属、鎮火は空気遮断で行われた。秋、分かったよ。」
「うーん…確かにそうだわ…。
私今からあちらの世界に戻って警魔局に伝えるけど…ことがコトだから報酬はどうなるか分からないよ…。」
立ち上がって身支度をした秋が最後のコーヒーを一気飲みした。
「そこは頼むよ、生活苦しいんだからさ。」
こちらもタダ働きする訳にはいかない。
「交渉はする、じゃあね!ありがと!」
火災が起きたら水で鎮火する。
警備員はそのようにしようとしたところからもあちらの世界でも同じ考えらしい。
ところが酸素の遮断で止められた。
燃えているのが水に反応するとさらに爆発する金属だったからだ。
それを知っていないとこの止め方はまずしないだろう。
犯人は大魔法師様しかあり得ない。
残りのインスタントコーヒーを飲んで
僕はあちらの世界からの報酬は期待しないことを決めた。
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