お弁当のカルチャーショックと狙う者たち
魔列車に揺られること5時間半。
直線を最高時速で魔列車は軽快に走行している。
「見て見て! ククルちゃん、あそこに海が見えるよ」
相変わらずサラは目をキラキラとさせて、まったく疲れすら見せずに景色を堪能していた。私はボードに文字を書いて見せ、サラに笑顔を向ける。
最近、サラが横にいてくれるだけで安心してしまう私は、かなりサラに依存してしまっている。でも、それはどうしようもない。他に信用できる者がいないから……。
だから、サラを失うことが怖い。
どうしようもない気持ちを抱えながら、私はボードに文字を書いてから、サラの肩に頭を預ける。
「ん? ククルちゃん、どうしたの?」
『なんでもない』
こちらを向いたサラに、それを見せてくすりと笑って見せる。
すると、サラは恥ずかしがりながらも笑うのだ。
「もう、ククルちゃん、文字を先に用意してたでしょ?」
『気のせい、気のせい』
サラをからかいながら、のんびりと過ごす。
エリスたちは各々の作業をしているようだ。エリスは軍の資料をまとめていて、頭を抱えていた。
ティナに至っては、涙目で国家試験の問題集を頭に叩き込んでいるようだ。ああでもないし、こうでもないと呪文でも唱えているように見える。
グレゴリーはそんな2人を尻目に読書をしている。できる男というやつだろうか?
そんなことを考えていると、周りが山脈へと変わっていく。
「ククルちゃん、もう少しで長いトンネルだよ! ヘーゲル山脈を通り抜けるんだって」
パンフレット片手にサラは私に見せてきた。
30キロメートルほどトンネルが続く。
レジデンス連合国内で、もっとも長いトンネルとパンフレットに書かれていた。
「どうやって掘ったんだろうね? 昔の人たちって凄いね♪」
『そうねぇ~』
私はから笑いになる。
このトンネルを掘ったのも私だ。他にもルートは沢山あるが、ここを通したほうが速かったのと1人の魔女見習いのお願いでもあった。
それは、駆け落ちをするための抜け穴というものだ。今思えば、面白い奴らだったと思う。
当時はまだ論文を出していなかったから、私は野放しにされていた。
それと、私と同じような魔法を使える者は、すべて白い目で見られていたこともあって、結婚などありえないと。ほとんどの者は、魔女だということを隠しての生活を余儀なくされていた。だが、小さな街ではこっそりと重病の患者の治療をするために正体を明かしていた者たちもいる。治してもらった者はそれを誰にも話すことはなく、平和だった。
そう、悪い魔女なんて私の時代はいなかった。
いや、私が最初だったか……。いろんな意味で間違っていた。
思い出すだけで心が曇る。
しかし、最近思うのは回復魔法もだが、あの劣化した魔法はなんなのだろうか。
ドラゴンに使っていた魔導弾もそうだ。
私の論文はどうなったのだろう?
あれがこの大陸に広がっているのなら、私の足の痛みも簡単に取れる魔法を使えるはずだ。それが、ここまで長引いていることに疑問を覚えてしまう。
効率が悪いし、燃費も悪い。
まるで、私の論文ではなく古典魔法の書を無理やり向上させたような感じがしてならない。いや、その他の技術で補っているといったほうが正しいのか。
疑問が沢山湧いてくる。
そんなことを思っていると、魔列車の速度が下がってきた。
このまま、休憩なしで中央まで行くと思っていたが、何やら補給でもするのかと思いつつ、私も外の景色を見る。
「あ、トンネルの前に駅があるよ」
指差すサラの方向を見ると、近代的と表現したらいいのか開けた山の麓に奇妙な建物が沢山並んでいる。
「もうアシュテールに到着か。ん~、お昼だしお弁当でも買うのがいいかもしれないね」
エリスは伸びを1度してからそう言葉を発する。
書類とにらめっこしていたためか、肩を揉みながらだ。
停車した駅でエリスは車両の窓を開けて、外にいる駅弁なるものを持っている売り子を呼ぶ。
「すいません、こっちに5つ貰えるかしら?」
「はーい、アシュテール名物『山菜盛り合わせ弁当』5つですね♪ ご購入ありがとうございます♪」
エリスは売り子にお金を渡して受け取ると、私たちのほうにそれを渡してきた。
「エリスさん、ありがとうございます」
『ありがとう!』
サラの言葉のあとに、私もボードに書いてエリスに感謝する。
ただ、弁当というのはそこまでいい思い出がない。質素で、おにぎりと乾燥したお肉とか、固いパンにハムと野菜を挟んだ簡単で味気ないものがほとんどだったからだ。だから、そこまで期待してはならないと思いつつ、私は弁当の蓋を開ける。
すると、中は綺麗に盛り付けされた山菜の数々。飯もほかほかで、いい匂いが私の鼻孔をくすぐる。
えっと、私の知っている弁当と違う……。
凝り固まった昔の弁当を思い描いていたせいか、これは普通にいいお店で食べるようなものではないのかと思ってしまう。いや、そもそもそんなお店に行ったことなどないが……。
サラもその豪華な弁当を見て、目を輝かせていた。私と同じ感想なのだろうかと思っていたが、少し違った。
「アシュテールの山菜って、すっごく美味しいってお父さんが言ってたんだ。えへへ、こうして食べられるなんて夢のようだよ」
『そうなんだ』
激しく動揺してしまいながらも、私は平常心を装う。
ここで、『こんな豪華なもの』とボードに書けば、服のときの二の舞いになることは明らかだ。
これがたったの800リラ……。
口に含むと上品な味わいについつい頬が緩む。そんな私を4人が微笑ましそうに見ているのは置いておこう。
これはやばい……美味しすぎる。たぶん、私の頭の上には陽気な花が咲き乱れているはずだ。
あぁ、これはたまりません。
もくもくと食べてから、サラからお茶をもらって一息つく。
「ククルちゃん、美味しかったね」
『最高!!』
満面の笑みで私はボードに書いた。
病院食も美味しかったが、これは桁違いの美味しさ。サクサクな揚げ物? かはよくわからないが、すべてが最高のできなのは言うまでもない。
禁術を使ってよかったと、あのときの酔った自分を褒めてあげたい気分だ。
そんなことを思っていると、車内アナウンスが流れてくる。
補給が終わって、出発するそうだ。
これからあと1時間半の旅を最高の気分で行けると思うのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
ゆっくりと動き出す魔列車。
目の前にあるトンネルへと先頭車両が入っていく。
「さて、そろそろ動こうか。アヴィス、起きて」
「ん~、ジーク、起きてる起きてる~」
「起きてないよね。ほら」
頬をつねって起こすと、恨めしそうな表情でこちらを見てくる。
小声で、「もう少し優しく起こしてもいいでしょ」という言葉を口にするが、ジークには届いていない。
2人はゆっくりと立ち上がって、前の車両へと進み、ハイヒューマン2人の抹殺のために行動を移す。
トンネル内のため、車内は間接照明でのライティングにされてある。
明るすぎず暗すぎずの車内で、ハイヒューマンのいる車両の入り口まで来た2人は、座席に目を向け注意深く観察する。
すると、かなり前の方にいることがわかる。
「ここで起動は流石にバレるな……」
「1回通り過ぎてからにすれば?」
「そうだね……。でも、怪しすぎないか?」
ジークの言葉に、アヴィスは「あ~、かなり怪しいかもね」と口にする。
先ほどの停車駅から車両の移動する者はいない。指定席で、自分の席にいるのが当たり前だからだ。それに、1両目は完全個室のVIPルームとなり、護衛などもいる。
なので、まずそこに行く者がいる時点でアウトなのだ。
「もう、やってしまうか」
「失敗確定の計画って、やるだけ無駄とも言えるわね。私たちは、あのハイヒューマンたちが重要な人物ですって言ってるようなものだし……。余計にガードが固くなるのが目に見えてるわ」
肩を落とすアヴィスは、額に手をやり盛大な溜め息を吐いた。
アヴィスの言葉に同意しつつ、ジークはポケットから起動装置を取り出す。
そして、指でカウントダウンをしてからそれを押した。
その瞬間、ドン! っと爆発音がしたあと、車両が大きく揺れた。
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