蘇った始まりの魔女は幸せを掴みとる!

柊むぅ

序章

「はぁ……、もうダメよね」

 


 目の前にある安物のお酒を何度も注ぎながら、勢いよくあおる。

 安い銘柄の量と度数だけが無駄に高い酒。十数年ぶりかなと思いながら、安い酒を味わう。

 私は、この世界のすべてが嫌いだ。いや、私に対する仕打ちが、もはや何もする気が起きなくなるといったほうが正しいか。世界の危機や大災害、戦争で負けそうなときには、こぞって頭を下げてくる大陸の王たち。困ったらこいつに頼めばどうにかなる。そう思われているのだろう……。

 普段は私のことを化物扱いするくせに、これだ……。私はお前らの便利屋ではない!

 危機を救えるほどの魔法は、どれだけ私の生きている時間を魔法に費やし、努力して手に入れたのかを誰も知らない。

 天才? バカか……。

 魔法古典に載っている粗末な魔法術式がこの世の魔法のすべてではない。あんなお粗末なものを今まで使っていたことに、なぜ疑問を一切持たないのか。

 私は魔法という根源をすべて紐解き、すべてを構築してきた。

 全6属性をだ。その後は、すべてオリジナルの魔法を作成した。私は、その一部を考える頭をつけるためにちょっとした改変を施し、魔法の定義を論文として国に提出した。今まで使えなかった魔法は、努力すれば皆使えるようになる。ちゃんと頭を使えばだが……。

 私は魔法を生活のより良いものに役立てればと……そう思ってした。

 だが、結果は違った。

 これだけの功績を上げたのだから、英雄にでもなれるレベルだ。しかし、今の私はこうして外の世界と隔離された場所に押し込められている。世界を崩壊させる魔女だと言われ、化物だと言われ……。

 笑えない……。

 たしかに、魔法は一歩間違えば大量殺戮兵器にもなる。それをちゃんと理解し、そうならないように皆が自覚して扱わなければならない。 私はそれをちゃんと理解していた。

 たが、他の者は違う。大いなる力は、人の心を変える。それを私は見誤った。

 私もバカだった……。

 そのせいで、普通の生活ですらさせてはくれない。私が怖い? 笑わせるな! 私はお前たちのコロコロと変わる心が怖いよ。この隔離された場所。

 もはや人としての認識はないのだろう。食事などの生活品は、空からこの近く落とされる。

 なんだこの猛獣や魔物にでも餌を与えるようなやり方は……。

 言葉はどんどん悪くなる。

 酒をすべて飲み干して、私は机に突っ伏す。とろりとした気持ちのよい感覚が、そんなこの状況と思考を誤魔化す。もう、この人生に何も有益なことなどないだろう。どれほどの強い力を持っていても、私もただの人にすぎない。他の者たちと同じで、心臓や頭を撃ち抜かれればこの世からさようならだ。

 この場所から出ようとすれば、一斉射撃でズドン……。

 察知の魔法を使うと、ある一定の距離に数百の固定魔導砲があるのがわかる。大量の魔鉱石を使った魔法キャンセラー兵器まで使って、こちらからの魔法をすべて封じ込めている。

 本当に笑えない……。自分の作った魔法で死ぬなどアホらしい。私は、このままここで一生を過ごす? 考えたくもない……。貴族や王族の道具として? 絶対にお断りだ! むしろ、滅べばいい。

 いや……滅んでしまえ!

 私がいなくなれば、大災害や戦争で確実に大打撃を受ける国が出てくる。そうなってしまえ……。1度でも痛い思いをしてみろ……。すべてをこっちに丸投げする奴らなんていらない……。理解者のいないこの世界になど、もう興味もない……。

 私の周りにいる今の奴らは、最後には私を裏切る。ばけもの、バケモノ、化物と……。もう……聞き飽きた。

 誰でもいい、たった1人でも私と寄り添ってくれる人がいるなら、私の世界はかわったかもしれない。だけど、そんな者はいなかった。いや、いたけどその者を守れなかったのが正しいか……。

 昔のことを思い出し、心がぐしゃぐしゃになる。

 嘘でもよかった……。墓まで持っていってくれるなら……、それでよかった。

 酔いの回った思考は、どんどん自分の弱い部分を露呈させる。強がることもできない。ただ、寂しさと虚しさが私の心を塗りつぶす。

 ふと、私はある禁術を脳裏に浮かべる。永遠に生き続けるために作り出した魔法。いや、失敗作でまだまだ改良の余地があるのだが、それの研究はやめた。何しろ、代償が自身の何かを1つ失うためだ。

 それに、適応者がいなければならない。そして、その者の死がこの魔法の定着するために必要な条件。

 いろいろなリスクが伴うことは、魔法術式上で使う前に結果がわかっていた。どう改良しても、その結果は覆すことができない。だから、実際に試せなかった。

 何を失うかはランダム。なんとも恐ろしいことこの上ない。だが、今はそれを使ってでもこの状況から解放されたい。普段なら、そのようなリスキーな禁術には絶対に手を出さない。

 だが、酔った勢いというのは怖いものだ……。

 そのようなことを思いながら、部屋の床に私は人差し指を噛み、とくとくと流れる血で魔法陣を書いていく。

 複雑怪奇な魔法術式。

 出来上がった魔法陣に乗り、


『       』


 私は禁術を執行した……。

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