7.奪取作戦

 惑星カルミーニ跡地。

 天墜の梢により惑星が破壊され、散らばった残骸により小惑星帯となってしまった場所だ。


 俺は強制収容所から救出された後、ティアに連れられ小惑星帯の中にある基地にやってきた。

 ここで懐かしい人物と再会した。


「ローマルク大佐、お久しぶりです。」

 突貫で準備したであろう執務室。そこで机に向かっていた男は席を立ち、声をかけてきた。


「"元"大佐だよ、ヒロム。」

 ヒロム・アイダ。

 第一次ヴァリアント侵攻、その決戦の地である惑星ジグランデ出身だ。以前の抵抗軍にも参加していたこともあり、旧知の仲だ。

 多くの戦闘経験があり、抵抗軍でも実行部隊として多くの戦果を残していた。


「救出が遅くなってしまい申し訳ありません。」

「こうして生きて外に出られたんだ。これ以上望むべくもない。」

 そういいつつ、俺はこの基地の様子を思い出す。


 この執務室もそうだが、全体に急造で準備された基地のようだ。装備も十分とは言いがたい。

 しかし、中で動いている人たちには活気があった。


「さすがだな、ヒロム。一度は壊滅した抵抗軍をここまで盛り返すとは。」

 俺の言葉に、ヒロムは意外そうな表情をする。


「違いますよローマルク大佐。皆大佐の元部下や、彼らが新しく集めた仲間たちです。皆、大佐が再決起することを信じて準備していたんです。俺はつなぎをつけただけに過ぎません。」


 部下たちとの繋がりは強かったとは自覚している。だが、ここまで信じていてくれるとは思っていなかった。

 俺は柄にも無く、目頭が熱くなるのを感じた。が、ここはぐっとやせ我慢。

 安っぽいプライドだが、きっと皆が信じてくれた"大佐"は、ここで感涙にむせび泣いたりはしないだろう。


「俺は、一度抵抗軍を壊滅に追い込んでしまった指揮官だ。今更皆を率いては戦えんよ・・・・・。」

 俺の言葉に、ヒロムはやれやれと言いたげな表情で切り返してくる。


「皆、大佐に似て頑固ですからね。大佐がやらないと言っても、無理やり着いていきます。」

 ヒロムはかすかに笑いを浮かべつつ述べてくる。


 なんとなくそんな気はしていた。皆も覚悟しているから、俺にも覚悟しろということなのだろう。


「・・・・・・、わかった。俺も覚悟を決めるとしよう。皆の命を再び預かる。」

 俺は敬礼しヒロムに答える。ヒロムも返礼する。

 俺とヒロムは、お互いにニヤリと笑いあう。



 再会を済ませたところで、俺は1つ気になっている点を確認する。


 俺の背後、執務室の壁にもたれかかっているティアをちらりと見る。

「ところで彼女は何者だ? あれほどの逸材、どこで見つけてきた。」


 ヒロムは少々困った表情だ。

「俺の親戚の子、みたいなものです。"あの娘を守る"というのが彼女の母親との約束だったもので、これまで戦いには触れさせてこなかったんですけどね・・・・・。」

 少々訳ありということか。


「ずいぶんと、眷属にご執心のようだったが。」

「あぁ、アレが出てしまいましたか・・・・・。」

 ヒロムは少々言い辛そうに言葉を続けた。


「母親の仇なんですよ・・・・・・、っと、そのくらいにしときましょう。」

 そのとき、背後から凄まじい圧迫感が伝わってきた。ヒロムは目に見えて焦った表情だ。

 うむ、この話題はこれ以上続けられないな。



「そ、それで、今後の作戦予定など聞きたいのだが・・・・。」

 露骨な話題変更にヒロムは飛びついてきた。


「え、ええ。同志の救出は大詰めです。次に必要なのは武器です。」

 確かに基地内には十分な武器があるようには見えなかったな。


「アテがあると?」

 ヒロムはゆっくりと頷く。



「独行の技師を奪います。」



====================



 私は基地の外れにある休憩室に来ていた。窓からは漂う多くの小惑星と、遠くに輝く星が見える。



 この基地は小惑星に擬態して構築されている。そのため出入り口は隠され、窓もほとんど存在しない。

 だが、今居る休憩室だけは窓がある。

 私はこの休憩室で宇宙を眺めるのが好きだ。

 

「お母さん・・・・。」

 セルグリッドシステムのアーカイブから映像を呼び出し、視界の隅に表示する。


 そこには、私と同じくらいの歳の男女が3人映っている。

 お父さんとお母さんが休暇で仮想世界へ行ったときの映像らしい。

 3人目はサポートAIのアイだ。


 私が知っているお母さんよりもかなり若い。

 映像のお母さんは表情がそれほど豊かとはいえない。でも、お母さんをよく知る私が見ると、すごく幸せそうな表情だと分かる。


「また眷属を倒したよ・・・・・・。」

 映像の中のお母さんは答えてくれない。ただ、幸せそうな表情を浮かべている。

 窓の景色がぼやけてくる・・・・・。



「ここに居たか。」

 私はあわてて目元をぬぐった。


「ヒロムおじちゃん、もう出撃?」

 ヒロムおじちゃんは、お母さんが亡くなる前から私たちを何かと気にかけてくれている人だ。

 小さいころは、ヒロムおじちゃんがお父さんだと誤解していたこともあったっけ。


 それをお母さんとヒロムおじちゃんに聞いたとき、ヒロムおじちゃんは焦って否定してて、お母さんは笑いながら「違うよ。」と言っていた。



「まだ時間はある。だが、そろそろ準備をしろよ。」

「うん。分かった。」

 私は視界の映像を消し立ち上がる。

 ヒロムおじちゃんを追って、休憩室を後にした。



====================



「情報通りだ。サロマナから帝国軍艦艇が10隻発進した。」

 俺は艦長席に座り、ローマルク大佐が味方艦20隻に一斉送信している通信を聞いていた。



 独行の技師は周囲の資源を使用し、どんどんと兵器を作り出す。

 当然、資源を掘り尽された惑星には資源が残らない。そのため、定期的に惑星を移動する必要がある。


 ここ2年で帝国は惑星サロマナを掘り尽くしたらしく、それに伴う移動計画を入手した。

 今回の作戦は、その移動部隊を強襲するものだ。


「敵が"独行の技師"の在りかを、せっかく10隻に絞ってくれたんだ。この機会を逃す手はない。全軍突撃だ!」

 通信装置からローマルク大佐の号令が飛ぶ。



「ヒロムさん、あんたまた自分が出撃するつもりだろう?」

 この艦の操縦士である男が俺に問いかけてくる。


「あの娘にばかり負担はかけられないからな。」

「ティアちゃんか・・・・・。」

 彼はしみじみと呟く。


「そうは言っても、眷属が出てきたらティアに頼むしかないのが情けない限りだよ。」

 俺は自嘲するように告げる。


「父親代わりも辛いわな。まあ、ここは俺らに任せておきな。」

 操縦士の男が俺の背中を押すように言った。


「いつもすまないな。」

「慣れっこだよ。」

 俺は艦長席を立ち、ブリッジから出ていく。




 俺はヴァリアントアーマーを纏い格納庫で待機する。

 ヴァリアントアーマーはヴァリアントの体表を用いた防具だ。軽くて防御性能が高い。

 昔ジグランデで、俺とディフェンダー開発部が作成したアーマーが元になっている。


「射程に入り次第、攻撃開始だ! 俺は出撃する!」

 ブリッジに指示を残しつつ、格納庫から出撃した。


 前方には帝国軍艦艇が10隻。既にこちらに気づいているだろう。



 味方艦が攻撃を開始する。

 レーザー砲やミサイルが発射され、敵艦隊へ殺到する。


 ミサイルが迎撃される。レーザーは命中するも、堕ちるほどのダメージではないようだ。



 敵艦からもエグゾスーツ部隊や戦闘ロボット部隊が発進してくる。


「いくぞ!!」

 敵スーツ部隊、ロボット部隊に突撃する。


 レーザーライフルでけん制しつつ接近し、敵スーツをソードで切り裂く。


 「警戒」スキルが右側からの危険を知らせる。身をそらすと、体の前面をレーザーがかする。

 右側に居るロボットに向けレーザーライフルを照射、逆に撃墜する。



 味方艦の攻撃で敵艦が1隻轟沈した。

 ローマルク大佐の指揮がいいのか、こちら側の艦はまだ全て健在だ。



 その時、戦域を黄金色の光が照らした。見上げると金の人型が居た。

「眷属が・・・・、2人だと!?」

 2体の金色がまばゆくい光を発している。


「もしや、情報は罠だったのか!?」

 俺はティアを止めるためソレイユを探した。


 だが、既にティアは眷属に向け突撃を開始していた。

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