4.狂騒のセントラル

「俺、もういいんじゃないか?」

 セントラル目前のタイミングで、リックがそんなことを言いだした。


「俺にも都合があった、だからお前らを助けに行った。だけど、もう要らないだろ?」

 いつも通り、大げさな身振りで訴えてくる。

 インソシアでの戦闘でも僕らがヴァリアントを片づけてしまったし、自分はもうお役御免だと言いたいらしい。


「俺はそこまで危ないところに付き合うのは御免だぜ。」

 確かに、無理に付き合ってもらうのも悪い気がする。

 ふと、何かに呼ばれたような気がして、腰の小物入れを開ける。


 漆黒のロケットが何かを伝えるように、淡く光っている。



 恐る恐る開くと、一瞬映像が映った。



 倒れたリックに何かが刺さり、光の中に消えていく・・・・・。



 すぐにロケットを閉じる!


「な、なんだよ・・・・・。」

 リックが僕の様子を怪訝そうに伺う。


「えー、大変申し上げにくいのですが・・・・・。」

「な、と、突然改まって、どうした・・・・。」


「なんか、今日明日くらいで命が危なそう。」

 リックは目を見開いている。

 一瞬ののち、少し考え込むようなしぐさをしつつ口を開いた。


「それ、お前について行くからじゃないのか?」

 どうだろうか。改めてロケットを開く。しかし同じ映像が映るだけだ。

 確かにRimの言うとおりだ。原因も何もわからないな・・・・・。


「どうだろう、良くわからない。」

「・・・・・・。」

 リックは無言で静止している。


 突然懐から水鏡を取り出し、見下ろすように覗き込む。


 あっちに向いたりこっちに向いたりしている。かなり挙動不審だな・・・・・・。

 というか、水鏡は過去しか見えないんだから、どれだけ見ても未来はわからないんじゃなかろうか。


 リックはしばらく水鏡を持ってうろうろしていたが、急にラファの前で止まる。


「?」

 ラファはリックの動きを不思議そうに観察している。


 リックは水鏡とラファを見比べ、じろじろとラファの全身になめるような視線を向けている。


「リック・・・・。」

 僕は自分でも驚くほど冷たい声が出た。

 僕の視線に気づき、リックは、大きな音で水鏡を閉じた。



「わかった、俺も行く。」

 覚悟した・・・・、というより、諦めたというか、自棄っぽい言い方だったな。






 セントラルは酷い状態となっていた。


 惑星都市は見る影もなく破壊され、あちこちから煙が上がっている。


 今も戦闘が続いているらしく、爆発音とともに新たな火の手が上がる



『勇介様、通信です。』


「おお、やはり君だったか。」

 メインモニタにはジジルア中佐の姿が映し出された。

 かなり濃い疲労を感じさせる顔だが、僕と分かったからか幾分表情が柔らかくなった。


「ジジルア中佐、一体なにが起こっているんですか!?」

「ヴァリアントだ。」

 ここにもヴァリアントが出現していたのか!


 インソシアのヴァリアントコアには"白銀の侵食者"が無い"分体"の方だった。

 と言うことは、セントラルに本体があるのか・・・・・・。



 それにしても連邦軍が随分と手こずっているように見える。ヴァリアントは厄介だが、そこまで強敵ではないと認識していたが・・・・。


「敵がヴァリアントならコアさえ叩けば・・・・・・。」

 ジジルア中佐の表情は一層厳しい物になる。


「いや、敵はヴァリアントだけではないのだ・・・・・、」

 他にも何か居るのか!?


「死体がね、襲ってくるのだよ。そして新たな死者が出ると敵が増えるのだ。まるでB級映画でも見ているかのようだ・・・・・・。」

「し、死体!?・・・・・・、いや、それって・・・・。」

 僕はラファと顔を見合わせる。


「傀儡師の小手。」

 ラファが独り言のようにつぶやく。


「知っているのか?」

 ジジルア中佐は食いつくように問いかけてくる。

「ええ、ロスタコンカスの紛争で遭遇したレガシです。"人型"の物なら何でも操ることができるレガシで、複数体をかなり遠距離でも操作可能です。」


「な、なんということだ。とすると死体の操作者が存在するというのか!! なんということだ・・・・・、死者に対する冒涜だ!」

 ジジルア中佐は憤慨している。確かに操作者はまともな精神ではなさそうだ。


「しかし、動く死者は数千から万に達しようかという数だぞ!? それほど操作できる物なのか!?」

「そ、そんなに・・・・・。」

 いや、となると逆に操作者は限られる。精神性といい操作能力といい恐らくは・・・・・・。


「操作者に心当たりがあります。僕らはどの道、そこへ行くつもりでしたから。」

「そうか! 君が事態に当たってくれるなら心強い。管理者とも連絡が取れず、半ば諦めかけていたところだったのだ。」

 ジジルア中佐は今日一番の明るい表情になった。僕を信頼してくれているようだ。


「まさにその管理者が敵に乗っ取られています。」

「な・・・・・、」

 ジジルア中佐は絶句している。一転、今日一番の絶望的表情だ。


「管理者を奪還しに行きます!」

「そうか・・・・・、ならば我々は今しばらく外の敵を抑え込もう。管理者のこと、よろしく頼む。」

 さすがにジジルア中佐は直ぐに意識を切り替え、事態への対応を取ってくれるようだ。


「ええ、よろしくお願いします。」


 通信を切る。

 僕らは銀河連邦の統合管理センターへ向かった。





 荒れ果てたセントラルの中にあって、白銀のタワーは健在だった。

 高さは3000m以上、まさに天を貫くほどの巨大さだ。


「リック、プロトの居場所はわかるか?」

 リックは水鏡を覗き見ている。


「タワー最上階だな。傀儡師の小手とやらの操作線がそこから伸びているのも見えるぜ。」

 水鏡は傀儡師の小手の本体位置を割り出すことにも使えるようだ。地味に便利なレガシだな・・・・・。


「よし、なら"直接"行く。アイ、操艦を任せる。僕らは出撃準備だ。リックは箱庭を頼む。」

 僕の言葉に、リックは呆気にとられたような表情だ。

「直接って・・・・・・」


 僕らはブリッジを出て、格納庫へ。

 リックは格納庫には用はないのだが、箱庭を小脇に抱えて律儀についてきた。


 僕とラファはエグゾスーツを装着し、スタンバイする。

「アイ、タワー最上階に突撃だ。」

『かしこまりました。』

「おぉぉぉぉぉぉぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」

 格納庫にリックの声が響く。

 アイがソレイユを一気に加速させ、タワー最上階に向け直進する。


 フルフェイスのサブモニタにソレイユの前方が映る。

 タワー最上階までは残り1kmほどか。


「タワー最上階に向け、一斉攻撃!!」

『全砲門展開、全サテライト展開、一斉射!!』

 ソレイユの全攻撃能力がタワー最上階に殺到、大爆発を起こす。


 爆発の振動がソレイユの船体にも伝わってくる。

「おぉぉおぉぉぉ・・・・。」

 リックは変な声を上げている。


 これで倒せていれば楽なんだが、そうはいかないよな・・・・・。



 タワー最上階の爆煙が晴れる。そこには銀色の玉が浮かんでいた。


「あれは・・・・・・、アイ! 防壁!!」


 銀色の玉から閃光が発し、直後、光がソレイユを直撃する。

 ソレイユへの攻撃は、ギリギリで防壁に当たり周囲へ飛び散っていく。


 銀色の玉が開き、中からプロトが姿を現す。銀色の玉を構成していた銀膜は、縮んでプロトの左手に収まっていく。



 その右手には、二度と見たくなかった槍が握られている。左手にも覚えのある杯を携えている。


「天墜の梢と聖杯・・・・・。」

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