14.独行の技師

「ロスタコンカスにおける内戦は、以前として不透明な状況が続いています・・・・・」

 酒場のテレビからは、ロスタコンカス内戦のニュースが流れている。

「・・・・近隣星系への影響が懸念されています。」

 俺は手の上でソレを転がす。

 "回帰のらせん"は俺の手から落ち、テーブルの上に転がる。



 "回帰のらせん"を入手後、その機能を何度か試してみた。

 ドーゼの状況は特殊だったんだろう、あれは癒着してたしな。


 普通に使うと、"手に入れた瞬間"に戻る。

 もし俺が今これを使うと、ロスタコンカスのアステロイドベルトでこれを拾った瞬間に戻る。

 戻るポイントは変わらない。どのタイミングでも"手に入れた瞬間"に戻る。


 戻っていることに気が付くのは、"回帰のらせん"使用者か、もしくは"想起の水鏡"保持者だけだ。

 今はどちらも俺が所持しているから、戻っていることに気が付く人間は俺だけだ。

 正直、使い勝手がいいとは言い難いレガシだ。


 俺は水鏡は手放すつもりはない。となると、こいつを誰かに使用されるとウザったくて仕方ない。

 と言うことで、俺が持っておくのが無難だよなぁ。


「・・・・すでに銀河連邦軍が介入しているとの情報もあり・・・・・・」

 水鏡を開く。



 ユウが映っている。



 ユウがエグゾスーツと空飛ぶシールドに襲われている。

 全身金色の人間がユウを打ち負かす。ユウはぐったりと倒れ動かない。

 それを見た真っ黒なドラゴンが、歓喜とも呼べるような咆哮を上げている。



 俺は水鏡を閉じる。

「・・・・・・・、いや、どんな状況だよ・・・・・・・。」



====================



 あの場はラファに任せ、僕は通路を進む。先が見えた。大きな部屋になっているようだ。


 不思議な形状の部屋だ。一見するとただのドーム状の空間のようだが、上を見上げると竪穴が遥か彼方まで続き、その先にはハッチが見える。

 どうやらここはメンテナンスルームを兼ねた、ロケット打ち上げ場のようだ。

 部屋の中心には、どんぐりをそのまま大きくしたような形状のロケットらしきものが屹立している。


 ロケットに近づくにつれ"異常さ"に気付く。高さは20m程度だろうか、大型エグゾスーツ1体が丸ごと中に入るくらいの大きさだ。


 ロケットは未完成だ。まだ外装の無い場所もあり、そこから内部の機構が見えている。

 その周りを這いまわり、ロケットを組み上げているナニカが居る。


 そのナニカは乳白色のボディから、触手のような腕を何本も、増やしたり減らしたり、延ばしたり縮めたりしてロケット表面を移動、組み立てを行ってる。

 ボディの大きさは30cm程度だが、伸びた触手は20mほどにも及んでいる。

 うーん、なんとも気色悪い物体だ。


「チッ、追いつかれてしまったか。あの女・・・・・、腕は確かだが、やはり使いづらい。」

 ロケットの影に人が居た。いや、人なのか? 全身が機械化されているようだ。


「君は噂のレガシハンターですかな? たしか、ユウスケ・アマクサ、でしたか?」

 機械人間が話しかけてくる。

「お前はドニスガルか?」


「そう、初めまして。」

 ドニスガルは慇懃な仕草で頭を下げる。


「私はただの商人でございます。偶然仕事で訪れたところを戦闘に巻き込まれまして。すぐに退去いたしますので、少々お待ちいただけますかな。」

 ドニスガルは白々しく言いつつ、ロケットの中に消えようとする。


「待て、それはレガシだろう? 銀河連邦としてはレガシをそのままにはしておけない。」

 僕は乳白色の奇妙な物体を指しつつ、ドニスガルを呼び止める。


「はて、これはうちの商売道具でして。連邦の直轄機関員といえど、一企業の所有物を勝手に接収するのはいかがなものかと・・・・。」

 ドニスガルは慇懃な態度は崩さない。

「なら、預けてくれるだけでもいい。一旦持ち帰り、危険のないレガシであることを確認したのち返却する。」


「危険、ですか? 道具の危険性など、使用者次第かと存じますが?」

「渡す気は無いと?」

「横暴でございましょう。」

 視線がぶつかる。


「なら、強制執行させてもらおう。」

 乳白色の物体に手を伸ばす。


 ドニスガルが右手を上げる。ドーム周囲の壁から無数の砲台が出現し僕を照準する。一斉に砲撃をしてくる。


「シールド!!」

 フライングシールドで防ぎつつ、後ろに飛びのく。


 十字砲火どころか、全方向砲火だ。

 全身の砲門とソードサテライトを展開、視界にはロックオンサイトが無数に発生。こちらも一斉射だ!


 ドーム内を飛び回りつつ、周囲の砲台をつぶしていく。

『接近警報! 右後方、大型エグゾスーツ!』

 フライングシールドを滑り込ませる! 大型エグゾスーツは手を白熱させながら飛びかかってくる。

 白熱した手とシールドが衝突! シールドが融解していく。


「ロケットじゃなかったのか!?」

 ロケット内部にエグゾスーツが仕込まれていたようだ。可変展開できるようにしてあったのか。どおりで太めだったわけだ。


「やれやれ、つくづく君はうちの商売を邪魔してくれる。」

「もっとマシな商品扱っていれば、邪魔しないんだけどな!!」

 腰の150mm砲を打ち込む。ドニスガルのスーツは右腕が吹き飛ぶ。粉々になった破片とともにドニスガルが落下していく。


 が、スーツ背後から乳白色の腕が伸びる。破壊された右腕の部品を空中で集めると、瞬く間に右腕を再構成させる。

「な、なにぃ・・・・・。」


 ドニスガルは再び浮上、全身の砲を展開、射撃がくる!

 シールドを全面に配置しつつ、横方向へやや強引に機体を機動させる。一瞬前に居た場所をレーザーが通過した。背後の壁が閃光と共に融解する。


 そのままシールドを目隠しに使いつつ、ドニスガルの周囲を旋回、背後から一気に接近する。

 レガシには攻撃が効かない。なら、修復不能になるまでスーツを破壊する!!


 両手のブレードからプラズマが迸る。スーツの両手両足を一気に切断。砲撃を加え、胴体を吹き飛ばす。


 ドニスガルはドームの壁面まで吹き飛び衝突する。胴体がボロボロになっている、瞬間、再び背後から乳白色の腕が20ほど伸び、サイロの壁を引きはがし取り込んでいく。

 スーツは再び復元された。いや、壁面の砲台がそのまま取り付けられている。地味にアップグレードしてないか?


 ドニスガルは、さらに数の増えたレーザー砲で射撃してくる。シールドが焼ける。

 ソードサテライトをドニスガルに打ち込む! レーザーで迎撃される。ソードが全基落とされた。その隙に接近!

「これしかない!」

 ドッキングブースにプラズマブレードを突き立てる! ドニスガルは声も無く焼き消えた・・・・・・・・かに見えた。


「ま、まさか!?」

 乳白色の腕が"ドニスガル"を再構成する。

「ふぅぅはっはっはっはっはぁぁぁぁ、うへぁぁぁぁ」

 ドニスガルは全身のレーザーを打ち込んでくる。ドレッドノートが被弾、各部からアラートが上がる。


 こちらもレーザーを撃ち込みながら、強引に接近する。こちらのレーザーでドニスガルのスーツは穴だらけだ。が、即再構成される。

 ブレードで斬りつける。奴は全く防御しない。

 両腕を斬り落とす、再びドニスガルを貫く。即再構成される。


 両腕が再構成、その両手を白熱させ掴みかかってくる。こちらも両手で受け止める。装甲が融解を始める。両腕のステータスが赤一色に変わる。

「ぐっ!」

 ゼロ距離で150mm砲とレーザーを発射、ドニスガルのスーツは胴体部が激しく損傷する。ドニスガル自身も損傷する。

 すぐにドニスガルが再構成される。胴体部は・・・・・・?


 背後から乳白色の腕が伸びてくる。ドレッドノートに取りつく。まずい、こちらのスーツを素材にされる!!

『拘束が強力です、脱出できません。離脱を推奨。』

 ドレッドノートは既に捕らわれ、逃れられない!

「離脱!!」

 ドッキングブースから飛び出す。中に重火力型スーツ着ておいてよかった。


「うへ、うひゃっひゃっひゃっひゃぁぁぁ・・・・・へ、へへ、へっへっへっへ」

「ど、ドニスガル?」

 2体の大型エグゾスーツは乳白色の腕で絡み合い、何やら異常な状態になっている。

 胴体部を再構成するはずが、異常な部品がいくつも生えてきている。徐々に形状が人型からかい離していく。


「ドニスガル自身を再構成しすぎた結果か・・・・・・。」

 僕は絡み合う2体のエグゾスーツに向く。

「アイ、グラビトンレイだ。」

『グラビトンレイ、チャージします。キャノンバレル展開』

 右肩後ろにあった砲身が前面に展開される。

『チャージ完了、発射どうぞ。』

「発射。」


 重力子の塊は、2体の大型エグゾスーツを巻き込み消滅させる・・・・・、しかし、再びドニスガルが再構成される。


 全身銀色になったドニスガル。背中には乳白色の玉のような物を背負っている。前より少し縮んだか?

 ドニスガルは虚ろな表情でぶつぶつと何かを呟くのみだ。



『右方向! 飛来物あり!』

 なに!? 振り返りつつ、受け止める。

 手に収まったのは、円盤。渦巻き状の模様がある・・・・・。え、"回帰のらせん"?


 サイロ壁面にある細い通路にリックが立っていた。


「俺は、こんな危ない場所は御免だ。あとは任せたぜ!」

 リックは通路に消えていく。なんだったんだ?

 良くわからないが、とりあえずスーツの胸を開き、回帰のらせんを懐に入れておく。




 全く関知できなかった。気が付くとドニスガルの背後に黒い影・・・・・・。

 いつの間にか真っ黒な女が立っていた。

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