22.里帰り

「それで、彼女を連れて行きたいと、そういうことですか?」

 管理者の圧力がすごい。ものすごく無表情だ。いや、いつもこんな表情だったかも・・・・。

 今はソレイユ艦内だ。ラファと一緒に管理者と相対している。


「アイからも教えられているはずですが・・・、宇宙時代未満の文明人に対し、銀河連邦他、星系外について述べることは、連邦法で禁止されています。」

 ハイ、前に聞きました。

「今、こうやって私と顔を合わせることすら、本来であれば禁則事項にあたります。それどころか星系外へ連れ出すなど、もっての外。当然、許可できません。」

 そして勝負はすでに敗色濃厚だ。あぁ、やっぱりだめなのか。横にいるラファからも息をのむ気配が感じられる。

 ごめんよぅ、あれだけ啖呵切っといて数分で挫けた・・・・。



 明らかに落胆状態の僕たちに対し、管理者はため息を吐く。

「・・・・ですが、一つ例外があります。」

「え?」

「婚姻です。」

 婚姻・・・? って、結婚ってことか!?

「婚姻に関しては、特例として認めています。」

 い、いきなりちょっと心の準備が、いや、いずれはそういうことも・・・・、と、とにかくいきなりすぎる!


「本来であれば、婚姻関係を結ぶことで、その特例を得られるのですが・・・・・、ラファさんはまだ15歳、勇介、あなたもまだ16歳でジアース連邦に定める婚姻可能年齢に達していません。」

『ジアース連邦法では、男性18歳、女性16歳で婚姻可能です。』

 アイさんが補足を入れてくれた。

「あ、私、もう16歳に、なった。」

「僕も、一応誕生日過ぎたので、17になりましたけど・・・・・・。」

 ラファは足りてるけど、僕が足りない・・・・・。


「ですから、正式な婚姻はできません・・・・・。本来はNGと言いたいところですが、かなり黒に近いグレーとして、婚約者という名目で、良しとしましょう・・・・。」

「あ、ありがとうございます!!」

「ありがとう・・・。」

 さすが管理者!! 話が分かる!!






「そうか、ラファはアマクサと一緒に行くのか。」

 ヒロムが落ち着いた様子で言う。まるでこうなるのを予想していたみたいだな。


 ここは王都ミルシャリスの西。荒野の地と人族領域のちょうど境目あたりだ。

 今ここには、ヒロムとルーシア、そして、ガイラとヴィージャーとダークマターが来ている。

 メンバー的に王都では集まれないため、こんな場所に来ている。

 出発すると伝えたら、わざわざ見送りに来てくれた。なんだか別れが惜しくなってしまう。



「二人にはいろいろと迷惑をかけた、すまなかった。」

 ガイラが何度目かの謝罪をしている。確かに僕もう少しで真っ二つだったけど。

「こうして生きていますから、いいですって。むしろ、まだまだこれからって時に、ラファを連れて行ってしまうので申し訳ないです。」

 人族と亜族の関係は、これからが本当に大変になるだろう。そんな中、人族側の象徴とも言うべきフォースロードの一人を連れて行ってしまうのだ。パワーバランス的に問題がありそうだ。


「そこは、ヒロムが協力してくれる。二人は心配するな。」

 ガイラはヒロムを見つつ、僕にそう答える。


「ヒロムは帰らないのか?」

 確かヒロムは考えると言っていたが、結局残ることにしたのか?

「しばらくは両方を行き来するつもりだ。あっちにも俺の生活があるし、こっちはこっちで、人族と亜族のバランスのためにも、俺は必要だろ? それに、」

 ヒロムはルーシアを振り返りつつ、続ける。

「こっちでも大事なものができたしな・・・・。」

 ルーシアはヒロムに寄り添っている。そういうことか。



「いい? 男なんて単純なの。胃袋掴んで、ナニを掴んでおけばOKよ!」

 ラファが真剣に聞き、何度も頷いている。

 おい、ヴィージャー、とんでもないことをラファに吹き込むんじゃない!

「あっ!・・・・・、そ、それじゃ、頑張ってね!!」

 僕からの無言の圧力に気が付いたのか、ヴィージャーは焦ってガイラの後ろに逃げ込んだ。



「じゃあ、行こうか。」

「うん。」


 ソレイユが離陸する。僕らは皆に見送られつつ、ミルーシャを後にした。







 ソレイユのモニタ越しに、青と緑で覆われた惑星を見下ろす。約一年ぶりの地球、旅立ち後、初めての里帰りだ。

 天墜の梢により、ソレイユが大破したときも戻ってきていない。あの時はセントラルで修理してしまったしなぁ。


 太平洋のど真ん中、海から生える中央設備棟に接近、宇宙船ドックに接舷した。

 ハッチを解放する。久しぶりに吸った地球の空気・・・・・。まあ、普通の空気だな。


「やぁ、久しぶり!!」

 タラップの下、半透明でテンション高めのRimが出迎えてくれた。

「お久しぶりです。」

 僕たちは二人そろって下船した。

「おや、そちらの御嬢さんは?」

「私は、ラファ。ユウスケの、妻です。」

「ぶっ!」

 僕は思いっきり噴き出した。



「か」

 か?

「感動だ! 一年前に旅立った勇介君が、まさか嫁を連れて帰ってくるなんて!!! 子が離れていく親の気分とはこういうのを言うんだろうね!!」

 Rimのテンションがおかしなことになっている。

「いや、婚約者ですけど、まだ妻じゃないですから!」

「ユウスケは、私が妻は、迷惑?」

 な、う、上目使い。

「いや、迷惑じゃない。むしろ望ましい・・・・・って、今はそういう話じゃないから!」

 ラファはにんまりしている。

 Rimは大騒ぎしている。

 だめだ、カオスすぎる。

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