4.ウイルコース

 ラファから無事、同行を許可された。ラファはまだ疲労が残っているようだったので、コルト村にもう一泊した。

 僕はその間にも、レアものの薬草やらキノコやらを大量に採取してきて、それらと保存食を交換してもらっておいた。

 この星での旅は基本徒歩だ。そのため、次の目的地まで数日を要するらしい。その間の食料が必要なのだ。


 翌朝、僕たちは村人に大いに惜しまれつつ、コルト村を旅立つ。

 村人からは結構な量の保存食を分けてもらえた。僕は生命維持機能のおかげで、水分だけでも1か月は余裕だ。しかし、ラファはそうもいかないだろうしね。


「次の目的地は、西のウイルコース、です。」

「はい、ラファさん、よろしくお願いします。」

 ラファはブレイヴとしての試練を既に2つ乗り越えており、残りは4つだそうだ。ウイルコースで3つ目の試練を受けることになる。


 コルト村からウイルコースへは、簡素な街道が整備されている。獣道を少し広くした程度だが。

 コルト村へ至る道のりは、通常はウイルコースから来るものであり、大森林側からコルト村へ入るのは異常らしい。

 そのルートを通るのは、ブレイヴの旅くらいだそうだ。ラファが通りかからなかったら、僕は誰とも遭遇しなかったかもしれない。


「あ、ユウさん。」

 ラファがやや緊張気味に言う。

「その、これからは、同行する仲間なので、ラファと、呼んでほしいです、あと敬語もなしで・・・・。」

 お、ちょっと打ち解けた感じだ。昨日は怒らせたかと思ったが、多少は気を許してくれたようだ。

「あ、えーっと、わかり・・・、わかった。では、ラファよろしく。僕もユウと呼んでくれ。」


「はい、よろしく、ユウ。」

 軽く握手をする。ラファが軽く微笑む。改めて見るとかわいい。なんだか照れてくる。

『攻略は順調ですね。』

 なんの攻略しょうか、アイさん。


「そういえば、ユウは、どこからきたの?」

 さて、なんと説明したものか。事実を述べてもいいが、そもそもこの惑星の常識として、星と宇宙が理解できるのだろうか・・・・・。説明してみるか。

 僕は上を指差し、宇宙について説明しようとした、

『宇宙時代未満の文明人に対し、銀河連邦他、星系外について述べることは、銀河連邦法で禁止されています。』

 アイが唐突に語りかけてくる。え! そうなの!? 知らなかった!!

『これまで、条件に該当する星系に立ち寄ることが無かったため、ご説明しておりませんでした。申し訳ありません。』

 いや、そんな謝ってもらわないでも、怒らないからいいけど。

『宇宙時代未満の文明圏は文化保護対象となり、過度な干渉は禁止されています。』

 え、それじゃ、僕が今こうやって一緒に旅しようとしてるのもマズい?

『現在は遭難時の緊急処置に該当するため、問題ありません。ただし、星系外について触れることは禁則事項に該当します。』


 どうしよう、なんて説明しようか。僕は空を指差したまま静止してしまった。

「上に、なにかあるの?」

 ラファが不思議そうに上を見る。

 僕も上を見た。この星、月が二つある。

「あ、あそこからきたんだ・・・・・。」

 思わず苦し紛れに、変なことを言ってしまった。アイストップはかからない、これはOKってことか・・・。

「え、小の月? あそこ、人が住んでいるの? そういえば、小の月は昔は地上にあったって、昔話で聞いたことある・・・・。」

 ラファには驚きと憧れの表情が出ている。好都合にも、そんな昔話があるとは・・・・。

 あ、僕の地元にもあったな、月から人がやってくるやつとか。これはもう、このまま行くしかない!


「実は、乗ってきた船から落っこちてしまってね。船を探しているんだ。それと、月から来たことは、他の人には秘密にね。」

 僕は小声でラファに伝えた。結構苦しい説明になってしまったが、ラファは目を輝かせている。なんだかすごく心が痛い。

「うん、わかった。二人の秘密。」

『秘密の共有、素晴らしい選択です。順調に好感度が上昇しています。』

 そんな隠しパラメータが設定されているんですか、アイさん。


 ラファは信じてくれたらしい、こんな説明で信じてくれるとは、この子大丈夫だろうか、人に騙されやすそうだ。現に僕に騙されてるし・・・・・。ああ、心が痛む。

「だからユウは、あまり常識を知らなかったり、変な服なんだ・・・・・。」

 これで、いろいろと僕の状況に納得してもらえるなら、良しとしよう。うん、よしよし。


 僕は話を逸らす口実として、ラファの故郷の話にも触れてみる。

「ラファのふるさとのことも聞いていい?」

 ラファの表情がやや曇る。

「・・・・・・、私のふるさとは、ギョマ村。南の海辺の村・・・・・。魚を採って暮らしてる、普通の村。コレに選ばれるまでは、私もただの村人だった。」

 右腕をわずかにさすりながらラファは言った。あまり、楽しい話ではないみたいだ。いい思い出はないのだろうか。

「・・・・、ごめん、無理には話さなくてもいいよ。なんか、話しづらいことを聞いてごめん。」

 ラファは無言で首を振った。あまり人の事情に踏み込みすぎても良くないよね。

『二人はそれぞれの暗い過去を、共に乗り越え、絆が深まるのですね。』

 僕って、乗り越えるべき暗い過去なんてあったっけ? 最近のアイさんのノリがよくわからないよ。



 街道沿いに進み、5泊ほど野宿した、6日目の昼ごろ、ウイルコースに到着した。徒歩の旅って大変だ・・・・・・。

 途中、たびたびクリーチャーが襲ってきたが、僕がエグゾスーツを装着するまでもなく、ラファが斬り倒していた。折れた剣で器用なことだ。

 結局、僕はスーツを装着する手間を惜しみ、バックパックを直接左手にぶら下げ、バックパックを盾替わりに使っていた。だって、これでも十分硬いんだもの。


 道中、時間があったため、この星の話をいろいろと聞いた。

 敵対種族は"亜族"と言う名称で呼ばれ、ラファたち人族とは1000年以上の対立を続けているらしい。

 約100年毎に亜族の王ダークロードが復活し、亜族全体が勢力を拡大してくる。

 時を同じくして、人族の中からブレイヴが覚醒するのだそうだ。世界は人族と亜族とで概ね二分している状態だ。

 今回の目的地であるウイルコースは、龍神の社がある場所であると共に、亜族の領域に最も近い都市でもあるため、防衛砦としての意味合いもあるらしい。


 たしかに、目の前に見えるウイルコースは、20mはあろうかという外壁に覆われている。なかなか堅牢な都市のようだ。もっとも、外壁の外にも住居が立ち並んでいるが・・・。

 外壁の入場門は衛兵こそ立ってはいるが、特に止められることなく、入場できるようだ。


 この星に来て、初めての大都市だ。木造と石造りの建物が入り混じっている。

 建物は高くても二階建てであり、それほど大きな建物はない。しかし、密度は高そうだ。裏通りを覗いてみても、ほぼ隙間なく建物が並んでいる。


 商店らしき建物には、絵が描かれた看板がかかっている。たぶん売り物を模した絵なのだろう。絵で看板を掲げるあたり、識字率がそこまで高くないのだろうか。




 まずやってきたのは、剣と盾の看板を掲げた商店だ。中に入ると・・・・・、いい、こういう雰囲気いいね。たくさんの武器防具が所せましと陳列されている。

 奥には、いかにも堅物という風情のオッサンが・・・・・・・、いやいない。むしろ、妙齢の女性だ。看板娘かな。

「いらっしゃい。何をお探しで?」

 看板娘さんの気安い声に、ラファが固まる。あ、買い物のとき店員さんに話しかけられるの苦手なタイプだ。


 ラファが静止状態から復帰しないため、僕が説明をする。

「えーっと、剣と鎧を。剣はこれと同じくらいの長さのものを。」

 ラファが帯びている剣の鞘を指差しつつ、僕は看板娘さんに説明する。

「鎧は皮鎧か、もしくは、それと同じくらいの軽さのもので。なにせ、この状態なのでね。」

 さらに、鎧を見せるようにラファに目配せした。さすがに僕がラファのマントをめくるのは少々抵抗があった・・・。

「で、よかった?」

 ラファに確認したところ、ラファが何度も頷いた。


「これはまた、ずいぶんな状態だね。ちょっと見せてもらっていいかな?」

 看板娘さんはラファを伴って、裏方へ消える。

 しばらくして、皮鎧を脱いだラファが戻ってくる。ラファは行くときも戻ってくるときも緊張していた。


「予算はどのくらい?」

 ラファは手のひらを広げた。5?

「50。」

 50・・・・、単位はなんだ?確かお金の単位はジェニだと聞いた。外食での食事一食分の金額はだいたい50ジェニくらいらしいから、50ジェニで1000円くらいだろうか。

 さすがに予算50ジェニってことは無いよな。

「50銀貨。」

「ぶっ!!」

 看板娘さんが噴き出した。僕は咄嗟に飛沫を回避した!!


 1銀貨は10,000ジェニなので、500,000ジェニ・・・・・・・、日本円にして1000万円!!

 これ、予算というか、今持ってる全金額じゃないのか?

「ラファ、今持ってる金額全部使ったら、宿代とか、この先の食費なくなるよ?」

 小声でラファに伝えてみる。

「? 50枚使っても、まだ100枚くらい残るから大丈夫。旅に出るときに王様からもらった。」

 この世界の王様は、選ばれし者の旅立ちに、ちゃんとお金を持たせてくれるらしい。棒切れと小銭しかくれない、どっかのゲームとは大違いだ。

「と、とりあえず、うちにある武器は、一番高くて30,000ジェニくらいだから、鎧も併せても100,000ジェニもあれば足りるよ・・・・・。」

 看板娘さんが面くらっている。

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