3.ブレイヴ
「一人で行くつもりか? 俺たちだって、だいぶ鍛えてるんだぜ。お前の盾役くらいはできるさ。」
「そうよ。補助術法なら、任せなさい。」
「それに、お前ちょっとぼんやりしてるとこあるしな。一人にさせると不安だ。」
「こいつは俺が止める! ラファは前を! タニア補助だ!!」
「わかったわ! ガルジオル!! ガルジヘス!!」
「俺たち3人なら楽勝だな!」
「また、傷だらけになって・・・・、手当するこっちの手間も考えなさいよね!」
「この先が一つ目の試練か。」
「あまり無理しないでよ、最近怪我ばっかりしてるんだから・・・。」
「わかってるよ。」
「いかせねぇ!!!!」
「アーッシュ!!」
「アッシュはあなたのことを想ってる。何度死にかけても、彼はあなたについていく・・・・。私は、もう見ていられない・・・・・・。」
「そうか・・・・・・・・・、お前が決めたことなら・・・・・・・・、仕方ないな・・・・。」
「ごめんな・・・・・、役に立てなくて・・・・・・、ごめんな・・・・・・。」
寄り添う二人の後ろ姿が遠ざかる。二人の後ろ姿から目が離せない。胸が苦しい。息ができない。
目を開く。見慣れない天井が見えた。夢だった。動悸が激しいため、息苦しい。
胸を押さえ、息を落ち着かせる。もう二人と別れて3か月以上経つ。こんな夢を見たのは久しぶりだ・・・・・。
周りを見回す。誰かの住居なのか、炊事場などがある。簡素な小屋だ。
思い出した。四天王ファルガイストと戦闘になり、追い払ったところで力尽き、気を失ってしまったんだった。
ベッドから体を起こす。サイドチェストの上に私が着けていた皮鎧が置いてある。焼け焦げ、傷だらけだ。
ベッドサイドに置いてあったブーツを履く。木製の扉を開き、小屋の外へ出る。朝日というには、大分高くなった日差しがまぶしい。ここはコルト村だろうか。
少し離れたところで、ユウさんと老年の男性が親しげに話をしている。
小屋の裏手から、中年の女性現れ、私を見つけると小走りで寄ってくる。
「ああ、お目覚めになられましたか、ブレイヴ様。」
私は右袖を見る。服が破れ、ブレイヴであることを示す紋章が見えてしまっている。しまった。あまり大っぴらにしたくなかったのに・・・・。
「いえ、ご迷惑を、おかけしました。寝台もお借りしてしまって。お代は、後で払います。」
「いえいえいえ、ブレイヴ様からお代をいただくなんて滅相もない。」
どこに行っても、こうやって傅かれる。私はこれが嫌だ。だから紋章を隠していたのに。
四天王との戦いで衣服が破れ、紋章が見えてしまったために、ブレイヴだとばれてしまった。
「それに、従者の方には、あたしらの手伝いをしていただいて、大助かりです。」
「え!? 従者?」
もしかしてユウさんのことだろうか?
「採取の難しい薬草なんかもあっという間に見つけてきていただいて・・・・・・・。」
それで、ずいぶん親しげだったのか・・・・・。
私はあっけにとられ、たぶんとても間抜けた顔をしていた。
「あ、すみません、お食事がまだでしたね、すぐにご用意します。」
中年の女性は、また小走りで小屋に入っていった。
「おはようございます。」
ユウさんがいつの間にか目の前にいた。今は普通の亜麻っぽい上下の服を着ている。最初見つけたときの黒い変な服ではない。
「おはよう、ございます。コルト村まで連れてきてくれて、ありがとう、ございます。それに、ファルガイストとの戦いでは、助けてくれて・・・・。」
ユウさんが、ファルガイストの炎弾を自らの身で受け止めていたことを思い出し、また少し胸が痛む。
「いえいえ、こちらこそ、しましまとらでしたっけ? あいつに襲われているところを助けてもらいましたしね。」
そういえば、シマシマトラに襲われていたところを助けたのだった。
シマシマトラの攻撃で殺されそうだったのに、ファルガイストの攻撃は受け止めていた。なんだか変な人だ。
「だいぶ、村の人と親しげ、でした・・・・。」
「ええ、少々事情があって攻撃できないので狩猟は無理なんですが、どうやら採取は得意だったみたいで・・・・。」
「得意だったみたい・・・?」
なんか、妙な言い回しだ。自分のことなのに。
「あー、いえ・・・・・、そういえば、ラファさんはブレイヴだそうですね、村の方から聞きました。」
私はギクリとする。この人にも傅かれるのだろうか。
「大陸を巡る旅の途中だとか・・・・・。それでご相談なんですが、僕も同行させてほしいんですよ。」
「え・・・・・。」
予想外の話に思考が停止する。
「いや、僕攻撃は全然ですが、体は丈夫なので、盾役くらいはできますから。」
《だいぶ鍛えてるんだぜ。お前の盾役くらいはできるさ。》
友人の姿がダブってみえる。唇が震えるのがわかった。危険すぎる。
私と一緒にいると、また四天王のような敵が襲ってくるだろう。次は命を失うかもしれない。
ユウさんもきっと、ブレイヴの使命に憧れを抱いているんだと思った。でも、コレはそんなにいいものじゃない。諦めてもらわないと・・・・。
「私の近くは危険すぎ、ます。同行はやめておいた方が、いいです。」
「ラファさんの近くが一番安全なので、同行させてください、お願いします!」
「えっ!?」「へっ!?」
私の近くが一番安全・・・・・!? 確かにブレイヴとして覚醒してから能力は高くなった。だけど、誰かを護りながら戦えるほど、私は器用じゃない。
ユウさんは私に護ってもらうつもりなのだろうか、だんだんと気持ちが怒りに変わるのを感じる。
この人も他の人たちと同じだ。私に傅く。私は使命の生贄。護られて当たり前の人たち。誰も前にはいない、隣にもいない。私はいつも一番前だ。怒りで視界が狭くなるのを感じる。
「僕の防御力は証明したつもりです。ラファさんより先に死ぬことはありません。」
ファルガイストとの戦いがフラッシュバックする。ユウさんは、周囲から打ち込まれる炎弾をことごとく防ぎ、ファルガイストの必殺技とも思える一撃すら凌いでみせた。
彼は私に護られなくても、生き残る、私を護って・・・・・。
昇っていた血が一気に落ちる。視界が開ける。
胸が苦しい。前とは違う感じで締め付けられる。怒りは冷めたのに、また顔が熱くなる。動悸も激しくなった。どうしよう、何かおかしい。
====================
ラファと出会って数時間後、四天王最弱(推定)に襲われ、彼女が気を失ってしまった。
戦闘直前のラファの弁によると、コルト村というのが近いとのことだったので、聴力を最大強化して生活音を探しつつ村を探索した。
ラファは寝てるので、存分にジャンプしながら探索すること数十分、時分にして昼下がりの頃に村へと到着した。
この時点で、僕の全身黒タイツが異様であることは予測できた。なので、ラファの服装を参考に表面を擬態し、亜麻っぽい質感の上下に変えておいた。
バックパックは擬態できないので、そのままだが・・・。
それでも、村に入った時点では、かなり村人に怪訝な顔をされた。
しかし、ラファの右袖からわずかに覗く入れ墨のようなものを見た途端、村人の対応は劇的に変わった。
ラファは「ブレイヴ」という存在らしい。
この星では、約100年に一度、敵対種族に「ダークロード」という王が誕生し、その勢力を急激に伸ばす時期がある。
そのダークロードを倒す存在として、神の啓示を受け、人々の中からブレイヴが覚醒するのだとか。
ブレイヴは各地にある6か所の「龍神の社」を巡り、加護をうけ、ダークロードを討伐する。
まるで、ゲームの主人公みたいなことが、ここでは常識として行われている。
人の良さそうなおばさん ミナリスさんがラファの寝床提供に名乗り出てくれたので、ミナリスさん宅にラファを預けた。
ブレイヴ来訪に村全体は沸き立っていたが、全員がいい顔をしているわけでもなさそうだった。
僕としては、ラファに相談したいことができたので、彼女の回復を待つ。その間、多少でも村人の心象向上を図ることにした。
攻撃許可が取れない以上、狩猟は無理だ。なので植物採取や力仕事を手伝うことにした。
採取も本来は許可が必要なのだが、食料目的での採取という抜け道がある。
セルグリッドの五感機能強化により、植物果実の探査能力は動物のそれを超える。薬草やキノコ、果実などの探索はお手の物だ。
年に1つか2つしか見つけられないというキノコをダース単位で持ち帰ったときは、それまで顔も合わせなかったジイサンですらにんまりしていた。
この間、一つ分かったことがあった。村で力仕事を手伝っていると、村人たちも不思議な文言で火を出したり、水を出したりしていた。
これは、術法というらしい。やっと翻訳できた。決まった呪文を唱えることで、火や水を出したりできるらしい。これまた、まるでゲームのようだ。
基礎レベルなら誰でもできると言われたので僕も試した。が、なにも起らなかった。差別は良くないと思う・・・・・・。
そんなこんなで丸二日ほど経過したころ、ラファが目を覚ました。
ブレイヴは龍神の社を巡る旅をする。僕としては、墜落したであろうソレイユを探さなくてはならない。各地を巡るブレイヴの旅は好都合だ。なにより、ラファ強いし。
そう考えて、ラファに旅の同行を願い出てみた。
「え・・・・・。」
驚きとも、怯えとも見えるような、微妙な表情をしている。どちらにせよ、割と否定的な表情だな、これは。
まずい、ラファの強さを当てにして、楽に旅しようという目論見が透けて見えすぎていたか・・・。
ここは、僕も役に立つことを説明しといたほうが良いか。単なるお荷物を連れ歩くのは負担になるしね。
「いや、僕攻撃は全然ですが、体は丈夫なので、盾役くらいはできますから。」
ラファの表情はさらに険しくなる。アレ、なんか回答ミスった?
ラファの唇が震えている。まずい。怒ってる!! どうしよう、何とか取り繕った方がいいか!?
ここは、やはり、変に取り繕うより、正直に言おう。少々痛々しく思われても、この際仕方ない!!
「私の近くは危険すぎ、ます。同行はやめておいた方が、いいです。」
「ラファさんの近くが一番安全なので、同行させてください、お願いします!」
「えっ!?」「へっ!?」
なんだか、全く逆の発言が聞こえた気がする。ラファの案ずるところは、また四天王みたいな敵が襲ってくるかもしれないよってことか・・・。
どうしよう、ラファの表情がますます険しくなる、いや険しいを通り越して、殺意を放っているようにも見える。まずい、何か言わないと・・・。
炎のカルガモ親子との戦いでの感触では、防御だけなら早々危険にはならないとは感じているが、どう説明したものか。
「僕の防御力は証明したつもりです。ラファさんより先に死ぬことはありません。」
ひどい言いぐさになってしまった。同じ攻撃受けたなら、きっと先に死ぬのはラファだ。
ラファは一気に放心したかと思ったら、再び顔を真っ赤にしていた。ああ、相当怒らせたのか・・・・・・。
仕方ない、地道に自分で探索するか。地理もサッパリだが、道々いろいろな人に聞いてみるしかないかな。
「すみません、やっぱり・・・・・。」
「いいです。」
「え?」
「同行して・・・、いいです。」
ラファはそのまま逃げるように小屋に引っ込んでいった。どのような心理的展開があったのかわからないが、同行して良いことになったみたいだ。
『ジゴロ才能も開花しつつありますね。』
どういう意味ですか、アイさん。
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