3.戦闘空域
「そういえば、外の世界にも住人が居るって聞いたけど、Rimの救助には行ってないのか?」
『Rimからジアース連邦正規軍への救援要請は行っていますが、現在目立った動きはありません。』
Rimとは別管理ということなのかな? 正規軍があるのに動いてないのか・・・・。
『地球および太陽系においては既に500年以上目立った戦闘行為が行われていません。そのため、現状への対応が遅れているものと推測されます。』
有事の際に即対応できない軍とは・・・・・。それだけ平和だったということか。
『加えて、解放軍は陽動作戦として地下施設への攻撃を実施しています。そのため、住民管理システム中枢設備棟の防衛戦力は地下施設の防衛に当たっています。』
「援軍は期待できないか・・・・、Rimの現状を教えてくれ」
『住民管理システム中枢設備棟は太平洋上の人工島に配置されています。現在、地球上の38か所の端末から住民管理システムへサイバーアタックが断続的に行われている状況です。加えて、住民管理システム中枢設備棟への直接攻撃が行われています。直接攻撃は旧世紀の飛行型戦術兵器を用いての攻撃です。現在15機の戦術兵器が確認されています。』
ずいぶんと同時攻撃されてるなぁ。飛行型戦術兵器って戦闘機みたいなものだろうか。
『住民管理システムへのサイバーアタックは、主に空戦防衛兵器の無力化を目的としています。攻撃の本命は飛行型戦術兵器によるものと推測。事態への対応として、飛行型戦術兵器を無力化しサイバーアタックを形骸化するのが最短と考えます。』
「海上の飛んでる敵相手に戦う方法が無いんじゃ・・・。」
『エグゾスーツの使用を提案。現地点から戦闘空域への移動も、エグゾスーツの飛行システムにより15分20秒で到達可能です。』
「おお、なんだかすごそう! 今それって使える?」
『エグゾスーツを召喚します。』
「・・・・・」
なにも起きない・・・・・・?
いや、かすかに遠くから甲高い音が響いてきた。空からなんか近づいてくる!!
木々の隙間を突き抜け、卵状の物体が前方5mほどの位置に落下・・・・と思ったら直前で急激に減速し、ゆっくりと着地した。
僕の身長より少し高めの卵状の物体。その側面が展開した。中にはロボットスーツのようなものがぶら下がっている。
『装着します。よろしいですか?』
「・・・・・はい。」
卵の中から複数のマジックハンドが伸びる。ロボットスーツの各部位が分離され、次々と僕の体に装着されていく。
最後にフルフェイスが頭部に取り付けられ、視界が塞がれた。
僕の体内にあるセルグリッドシステムがエグゾスーツとリンク、その途端に唐突に視界が開ける。どうやら脳内に直接外界の情報が表示される仕組みらしい。
視界の隅にスーツの状態が表示される。全身の状態はGREENだ。Gravity Engine Power100%、Setup Finishedの文字が流れた。
「すごい、感動だ・・・・。外に出てよかった・・・・・・。」
『正式名称 パワードエグゾスケルトンスーツ、戦闘用の装備です。エグゾスーツもしくはスーツと呼ぶ場合もあります。』
何とも表現しがたい、満足感に震える。パワードスーツとか、どこのヒーローですか。コレ着れただけでも外に出た甲斐があった。
わくわくを隠しきれず装備を確認する。
背部フライングシールド、両腕にスタンナックルとスタングレネード・・・・・、え、それだけ?
『本エグゾスーツは防衛型です。専守防衛を目的としており、護身用および制圧用の装備のみです。』
これで戦闘機倒せるんだろうか。
「と、とりあえず、行ってみるか・・・・。」
FLIGHT ONの文字が点灯する。背中の中心あたりから高周波音が響き、まるで無重力になったように体が宙に浮かぶ。
森の上に出る。視界には進行方向が表示されている。
前へと意識を持っていくと体が空中を移動し始める。
どんどん加速していき、森が流れていく。すごい、これ気持ちいい!!
上昇、下降、旋回、意識をそっちの持っていくと体がついてくる。加速加速と思うと、どんどん速くなっていく。
頭の少し先で破裂音がした。音速を超えた・・・・、でも体の周囲には衝撃波は来ない。何かで護られているようだ。
調子に乗って、どんどん加速する。
お、あれは・・・・・・、前方に白いタケノコ状の物体が見えた。
人工島と聞いていたけど、タケノコが海から直接生えたみたいな建物だ。
よく目を凝らすと、表面には出窓やテラスのような出っ張りや、上へ伸びるパイプの状の帯が走っている。
『前方、あと30秒で会敵します。速度を落としてください。』
「おっと」
ブレーキを意識する。ぐいぐいと速度が落ち空中で静止する。
『飛行型戦術兵器を確認。』
白いタケノコの周囲、飛び回っている飛行体が拡大表示される。「UFO?」と聞きたくなるような円盤状の物体だ。
「白いタケノ・・・、中央設備棟は一方的に攻撃されているみたいだけど、攻撃とかできないの?」
『住民管理システム下にある施設類は、全て防衛用ロボットによる防衛のみが認められています。防衛用ロボットは全て地下施設の防衛に向けられており、中央設備棟は飛行防壁での防衛のみを行っています。』
「飛行防壁?」
よく見ると、六角形の板が20枚ほど、タケノコの周りを飛び回っている。あれで攻撃を防いでいるのか。
『対象の攻撃行為を確認、攻撃対象はジアース連邦住民管理システム中枢設備棟と確認、対象を敵性勢力と断定、銀河連邦管理者へ攻撃許可要請・・・・・要請承認、制圧許可。』
突然アイが小難しい独り言を言い始めた。
「えーっと、アイさん? なにをおっしゃっているので?」
『レガシハンターは銀河連邦の機関員です。戦闘行為には管理者の承認が必要です。銀河連邦は宇宙全体に重力通信ネットワーク、通称Gネットを敷設しており、どこでも通信が可能です。』
宇宙には圏外が無いらしい。銀河連邦すごい。
『敵性勢力の制圧が許可されました。制圧を行ってください。』
「あーっと、制圧ってのは何をするんで?」
『管理者の判断により、"敵性勢力が排除もやむなし"となった場合、制圧もしくは破壊が許可されます。制圧は対象を生存させての捕縛を意味します。破壊は文字通り、対象の破壊を意味します。原則、危険なレガシもしくは災害級の被害が予測される対象でなければ、破壊は許可されません。』
さすが公務員。その辺りはお堅い。
『対象の破壊は許可されていません。無力化してください。』
壊したらダメなのか・・・・、え、どうやって戦えと?
『くだけた説明をさせていただくのであれば、"殴って故障させる"、"内部の運転手を引きずり出す"あたりが最適かと提案します。』
わぉ、革新的! さすが3500年代の技術すげぇ・・・・・・。
「破壊したら、ダメなのでは?」
『正確には、内部乗員の殺傷行為が許可されていません。飛行型戦術兵器の損壊は考慮されません。』
なんかわかりづらいけど、中の人を殺さなければOKってことか。
「敵の方が多いし、こっちは制限まであって勝てるの、これ。」
『敵性勢力が使用している飛行型戦術兵器は3000年代製の旧型です。圧倒的な性能差があります。自信をもって制圧してください。』
アイちゃんに励まされてる。なんだかやれそうな気がしてきた。男って単純よね。
「い、いくぞ。」
『レーダーに敵性兵器を表示。』
視界の隅には球形の3Dレーダーが表示された。赤い点がいくつも動いている。
『フライングシールド展開。』
アイの声に反応し、背中に取り付けられていた縦1m、横30cmほどの板4枚が飛び出し僕の周りに浮かぶ。
これまたロマン兵器だ! やっぱり3500年代の技術すげぇ!
敵が飛ぶ買う宙域に飛び込んでいく。空戦の基本は敵の後ろを取ることだったよね、たしか。
敵の後ろ後ろ・・・・・。あの円盤、どっちが前だ? 前後の区別がわからん!!
とりあえず、動きを見る。移動方向の逆サイドが後ろだろう、きっと。
視界には半透明の矢印が大量に表示されている。その矢印の先に敵が居るという印らしい。たくさん在りすぎて、逆にわかりづらい・・・・。
左後方にAlertが鳴る!
振り向くより早く、フライングシールドが間に割って入る。敵の光学兵器がフライングシールドに命中し、弾けるように防がれる。
左右上下、次々とAlertが鳴る。フライングシールド4枚が忙しなく動き回り防御する。止まったらだめだ!!
よし、フライングシールドでの防御はアイやってくれる。僕は防御は考えない!
攻撃に集中するんだ、とにかく数を減らす!
敵1体に狙いを定め、後を追う。
敵は僕の追跡に気が付いたのか、バレルロールや上下の機動を取り逃れようとする。だが、割とあっさり接近できてしまった。これが技術格差か。
右手を振り上げ、円盤の端をぶっ叩いた。コォーンという、金属製のプレートを叩いたような音を響かせ、円盤が錐もみしながら飛んでいく。
再度急接近し、追撃で左右の拳を何度も叩き込む。叩く叩く叩く!!
激しく揺さぶられた円盤の一部がはじけ飛び、中から人が飛び出した。お、脱出した。
コックピットの位置がわからなかったので、適当に叩いていたんだが、そうか、やっぱりコックピットは円盤の中央だったんだな。
パイロットはサーフボード状の乗り物で緩やかに落下していく。あれはパラシュートみたいなものか・・・・。
空中サーファーに見とれていると、続けてAlertが鳴る。おっと、まだ敵はいる。
コックピットの位置はわかった。円盤の外縁部を叩けばいい。
背後から接近してくる円盤をモニタで確認、後ろ向きのまま急接近し裏拳で叩き落とす。よし、二つ目。
右前方、左前方の両サイドから同時攻撃。シールドで攻撃を防ぐ! 小刻みに左右に移動しつつ左の円盤に接近、蹴り上げる。そのまま円盤の縁を掴んでぇ、投げる!! 一気に二機落としたぞ。うははは、圧倒的ではないか、わが軍は!!
15機いた敵も残り5機程度、あと少しだ。敵機がレーザーを発射、シールドで防御すると、シールドが壊れた。
『フライングシールド1枚破壊、残り2枚です。残り2枚も損壊率60%に上昇。』
いかんいかん、あんまり調子に乗っているとフライングシールド無くなりそう。
敵が減ったのと少し慣れたせいか、敵の攻撃を回避する余裕も出てきた。前方の敵からの射撃を回避しつつ接近し、円盤を叩く。
続けざまに5機を落とした。案外やれるもんだなぁ。
5機の円盤からもパイロットが脱出する。既に着地していたパイロットたちは警備ロボットに捕縛されているようだ。
よし、これで制圧完了かな。
4人の空中サーファーがゆっくりと降下していく・・・・・・・、あれ、4人?
突然Alertが鳴り、フライングシールドが1枚弾けとんだ。
『フライングシールド1枚破壊、残り1枚です。』
砕け散るフライングシールドの向こうには、右腰にある砲身から硝煙を揺らすエグゾスーツの姿があった。
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