日常の謎っぽいSS

ラゾレニエ

ビル風と乾燥

 九段下で東西線から半蔵門線に乗り換えようとすると、いくつもの階段を超えなければならない。それを半分ほど突破し自動改札を通ろうとすると、ちょうど急行中央林間行きの電車が到着しようとしていた。トンネルにこだまするウオーという轟音が大きくなるのを聞きながら、私は最後の階段を駆け下りる。プラットホームは、降車する人の波でごったがえしていた。それをかき分けて、私はやっとの思いで電車にころがりこんだ。ほとんど同時に背後でドアが閉まった。身体は疲れきっていたが、あいにく辺りに空席は見当たらない。乗車率はおおよそ120%と言ったところか。

 ふと座席に目をやると、あるサラリーマンが目に止まった。ロングシートの端で彼は、乾燥ワカメのようにくたびれていた。

 少し考えてから、私は彼の前に陣取ることにした。彼は私に一瞥もくれることのないまま俯いていた。

 しばらくして電車は永田町に到着した。細い声のアナウンスが車内に響き渡る。彼はそれを聞くとビクリと立ち上がり、フラフラと電車を降りていった。私は彼のしなびた姿を、視線で少し労った後、心の中で「ビンゴ」と呟いた。

 

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日常の謎っぽいSS ラゾレニエ @tomokifj

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