公爵令嬢やりたいです!

ゆうひずむ♪

第1話 公爵令嬢やりたいです!

 私はいま、死に物狂いで勉強しています。

 それはもう自慢の金髪をゴムで後ろに結び、白のはちまきを額に巻くほど気合を入れて、です。

 王都随一の名門白桜はくおう学院の定期テストは、範囲・科目数・授業内容において、他の学校の追随を許さないほどの難易度を誇ります。

 一夜漬けでどうにかなる生易しさではなく、普段の予習・復習それと授業への取り組み姿勢があって、やっと及第点というほど。

 だというのに……愚かにも私は他の事にうつつを抜かし、予習や復習をサボってしまいました。なんとか授業には付いていけてますが、理解しきれなかった部分もちょこちょこあって、発展問題はチンプンカンプン。このままでは……


「上位一割から落っこっちゃうぅぅぅーー!!」


 それだけは、なんとしても阻止しなければなりません。

 定期テストまであと二週間。この期間でどれほど詰め込めるかが勝負!


 ――コンコン


 誰かが私の部屋の扉をノックしたようです。

 ……まったく、もうすぐ夜中の12時だというのに何の用でしょうか? せっかく集中してたのに。

 私は音の主に若干の苛立ちを感じながらも、丁寧な口調を意識して返事をします。


「どうぞ」

「失礼します、お嬢様」


 入ってきたのは、我が公爵家のメイドでした。


「何の用? 見ての通り私は勉強で忙しいのだけれど」

「お嬢様、そろそろ就寝いたしませんと明日に支障が出ます。ご自愛ください」

「そんな余裕はないの。それに若い内は一日くらい寝なくても平気と聞いたけれど?」

「ですが……」

「とにかく、私はまだ勉強しなくてはならないので、他に用がないのであれば出てってくださる?」

「……かしこまりました」


 メイドは一礼してから部屋を出る……かと思いきや、扉の取っ手を掴んだところで立ち止まりました。


「どうしたの?」

「……お嬢様はどうして、そんな必死になって勉強なさるのですか?」

「それを聞いてどうするの?」

「いえ、ちょっと気になっただけです。差し出がましいことを言いました」

「別に構わないわ。……そうね、メイア家の看板に泥を塗る訳にはいかないから。これでいいかしら?」

「ありがとうございます。とてもご立派です、お嬢様」


 そう言って、今度こそメイドは出ていったが、しばらくして静かに部屋へ戻ってきた。テーブルワゴンに、ハーブティーが入ったティーポットを乗せて。

 私は小さく「ありがとう」と微笑みを浮かべてメイドを労った。


--


 でも、現実というのはそう甘くないようです。

 いつものように登校した私は、廊下に張り出された総合成績順位を確認し、思わず頭を抱えてしまいました。


 ――16位


 全部で120名になる同学年の中でこの順位は、王都随一の白桜はくおう学院なことも考えれば、かなりの快挙と言ってよいでしょう。

 それでも、私はため息を抑えることができません。


「メイア様? いかがいたしました!?」

「もしや、この結果にご不満なのですか?」


 アイリスとヒューナが顔色を伺うようにこちらを見ます。

 私はこの二人をお友達だと思っていますが、彼女らは伯爵家の娘。公爵家の令嬢である私に取り入ろうとしているだけで、彼女たちの方はお友達とは思ってないかもしれません。

 なにせですら、私には友達と呼べる存在がいないのですから、打算ありきの付き合いをするで、彼女たちの心の中を探るなんて私にできる訳がありません。

 もっとも、そんなお友達とも今日でしばらくお別れになってしまいましたが……。


「まあね。私はもっと上を目指してたから」


 具体的には12位以上を。


「さすがメイア様! 20位までしか入れないAクラスでは飽き足らず、更にその頂点を目指すだなんて!」

「19位でギリギリBクラスへの降格を踏み留まったからと、胸を撫で下ろしてしまった自分が恥ずかしいです! 私もメイア様を見習って頂点を目指します!」

「いや、そこまでは狙ってないからね?」


 私は苦笑しながら、彼女たちの言葉を訂正するのでした。


--


 というわけで、今日の放課後。

 私は無敵でした。


 10粒で、平民が二週間せっせと働いて得る給与相当のチョコレートを駄菓子感覚でパクついたり、気になったからとお店にあったアロマキャンドルを全種類購入してみたり、夕食は王都で一番高いお店にしてもらったり。


 そうやって一日を満喫。

 夜はいつもの天蓋付きベッド。ふわふわのシーツが気持ちいぃ……。

 願わくば


「零時が来ないでほしいな……」


 と思いながら、壁にかけられた時計を睨む。

 長針と短針が12のところで重なったら、シンデレラの魔法は解けてしまう。

 睨むことで、少しでも針が進むのを遅らせたかった。だけど……


 ――カチッ


 現実というのは無情です。

 時計の針が12を指した瞬間、私はベッドの上だというのに浮遊感を味わいました。

 しかしそれも数秒だけで、すぐに浮遊感はなくなります。

 そうして、私は地球に帰還事を思い知るのです。


「ただいま、クソゲー」


 三ヶ月ぶりに戻ってきた我が家のなかで、私はポツリと呟いた。

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