無言

2017年9月13日水曜日


「黙っているってことは、認めるってことだな」

なんてセリフをよく聞く。

無言には意味があるらしい。


食事中、お喋りができる人とできない人がいる。

私は全くできない方で、食べることか喋ることか、どちらか一方に集中してしまう。二つのことを同時にすることができない、不器用な人間なのだ。

子どものころ、テレビ番組に夢中になって、母親の声が聞こえなかったことがある。

「買い物に行ってくるよ」

という声が聞こえなくて、暫くして母親がいないことに気付いた私は大声で泣き叫んだものだ。

そんな気質は、今でも顕在である。


彼も同じ気質を持った人間なようで、二人で食事をするときは、殆ど会話が無い。

出された料理を黙々と食べ、「うまい」「美味しいね」「それちょっと頂戴」といった会話をたまに交わす程度だ。

今日も近くのインドカレー屋でランチセットを食べたが、食べ終わるまで会話は無かった。「ちょっと頂戴」の一言も、ナンを持った手を差し出し、「ん」というだけで済んだ。


傍から見れば、無言で食事をしている二人はつまらなそうに見えるのが普通だろう。実際、無言で食事をしていて「楽しいのかな」と、ヒソヒソ話をされたこともある。

周りの人からすれば、私たちの無言の意味は「つまらない」かもしれない。

けれど私たちからすれば、「美味しい」とか、「ちょっと頂戴」とか、色んな意味がある。

話さなくても思いは伝わる。同じ時間を共有していながらお互いの空間を保っている関係性が心地良い。


無言には、色んな意味がある。

「美味しいなあ」と思いながら、私はマトンカレーを食べ進める。

彼も多分、「うまいなあ」と思っている。

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