戦争詩集 宣戦布告
柾木
夏の死
その日、夏が死んだ
アブラゼミが仰向けになって地面に落ち、
うす曇りの午後の風は力なく吹き抜けて
その日、僕等の夏は死んでいった
夏はもう息を吹き返すことはなかった
翌日、太陽は激烈さを失い、
夕日のような角度で空をさまよって沈んだ
蝉たちはその午後、一斉に鳴くのをやめ
蜉蝣のむくろが水溜まりに山を成し、
虹色の油脂が少しずつ滲み出していた
その日、僕等の夏は死んでいった
健康を強要するという病理と
正常を強制するという異常と
枠づけされたカギカッコつきの言葉に縛られ
密告の連鎖は核分裂の勢いと比例して
各国の湾には男根のミサイルが勃起して
対話と圧力の悔恨の戦争は勃発した
言葉遊びや笑いの背後に突きつけられた現実のシリアスささえ、
忘れて人々は大衆である安心感で笑い続けた
濫造された耳に心地いい言葉に
粗製の身を任せれば気持ちいい言葉に
快楽に溺れた時、その日はおとずれ、
その日、トランペットを手に入れた少年は
16歳の誕生日プレゼントの赤紙を受け取った。
その日、この国の夏が死んだ。
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