春夏秋冬~JCが小説家を目指したのですが?!

里憂&抹茶パフェ

「カクヨム甲子園」【ロングストーリー部門】応募部分

春夏秋冬~JCが小説家を目指したのですが?!(「カクヨム甲子園」【ロングストーリー部門】応募用部分)

第一章 こうして私の中学校生活は始まったっ! ~問題だらけのようですが?!


 今日から私は中学生になりました。

 これから3年間通うことになるのは、市立梅うめの宮みや中学校。どこにでもあるような普通の中学校です。

 しかしながら、憧れの制服を身にまとい、散った桜で染まった花道をゆっくりと歩む。

 その姿は、町ゆく人すべてを虜にした。

 そう、それは宇宙人のものでさえも……。

「がははは、おとなしくしていろ! そうでもしないとここで公開処刑だ!」

 銀色で細長い体と、短すぎてもはや見えないレベルの短足をもった地球外生命体が一人の少女の目前に現れた。

「おまわりさーん、この人です! この人が私を脅迫してきまーす。あ、人ではないか……。おまわりさーん、この地球外生命体です。この(以下略」

 この人かどうかよくわからないやつ、凄く気持ち悪いんだけど……。

 まじやばくね?

 えっと言いたげな顔をして、周囲を見渡しながら宇宙人は汗を垂らした。

 すると警察官が来た。

「署までご同行願います」

「俺はなにもしてない!」

 宇宙人は犯行を否定したが、そんなことで「あ、そうですか」などと易々と引き下がる警察官ではない。

「いいからはよこいよ」

 警官は怒ったような表情をして、言った。

「あっ、はい」

 宇宙人はその表情に負けたのかあっさり負けを認めた。

 そして警察車両に乗せられ宇宙人は、もの悲しげにさっていった。

 こうして、地球の平和は再び守られたのであった。

 めでたし。めでたし。


「えーそれで終わりなのぉ~?」

 絵本の中身を覗く幼い女の子は言った。

「そうよ。悲しいお話ねぇ」

 彼女の母親らしき人はその質問に応答した。

 私の小さいころの思い出……ではないのだが、変なものを見せられている。

 デパートで絵本を読んでいる彼女らに警備員は駆け寄って注意をしていた。

 それを横目に私はその本のなかの状況に置かれていることを私は知らなかった。

「おい、手を上げろ。できないのならここでお前を撃つ! お前なんか簡単に殺せるんだからな。なぜかって? 俺は宇宙人だからさ。がははは」

 そういって地球外生命体は私に54式の銃口を向けた。

 やだ、やだよ! まだ死にたくない! あと3年間の義務教育が残っているのよ?!

 私は死にましぇん! あなたが……好きではないね。

 うん。好きじゃない。まったく。

 長ったらしい宇宙人の自己満を聞いたところで、この物語の主人公は、水谷みずたに春はるは、大人しく両手を挙げ、宇宙人に拉致されましたとさ。

 めでたし。めでたし。

 二回“めでたしめでたし”ってなんだか同じネタ使ってるようでいやだわ。


 どうやら、私は寝たまま歩いていたらしく、全て夢だったようだ。

 よく考えてみて。

 めっちゃ器用じゃない?

 歩いたまま寝るって神業だわぁ〜。まじみんな尊敬して?

 すいませんでしたぁ! 調子にのりましたぁ!

「夢オチかよ!」

 更に付け加えて、歩いたまま寝るってどういう状況だよ! とツッコミを決めてしまった。

 水谷春みずたにはるに周囲の人が冷ややかな視線が注がれているのに気が付き、私はすんませんと呟きながら軽く会釈した。


 学校では入学式があった。

 入学式は校長先生のながったらしい話を聞いて終わりだった。

 正直、超長かった。暇過ぎで寝ていた人もいた。

 だって5時間ずっと座って話を聞いてるだけなんて無理でしょ。できる人がいるならば今すぐ挙手しなさい!

 先生は寝ている人がいないか監視し、見つけると、注意していた。が、その後先生たちも寝ていた。

 生徒に注意しておきながらも自分も行動に至っては、先生としての威厳も保たれたものではなかろう。

 先生たちはさらに上位の先生に怒られていた。

「ざまあwww」

 先生達……今の中学生はこんなもんですよ?


 入学式が終わってクラスに戻ると、自己紹介が始まった。

 序盤の何人かは終わり、私の番はあと4つで回ってくる。

 すこし緊張して体が強張った。

「えっと……ぼ、僕は……。あ、それより眠いので帰っていいですか?」

 え、なに言ってるのこの人?! と私は驚いたが、先生の放った一言にさらに驚くことになった。

「そうですね。私もそろそろ眠たくなってきましたし、ほかのクラスより少し早めに終わりにしましょうか。ふぁあ……」

「いや、ダメだろ!」

 不意にツッコミをしてしまった。

 一体何人の人が悲しむと思っているんだ?! 後ろの人がまだ言ってないでしょうが!

 そういう問題でもないか……。


 結局、私は順番まわってきた。

「えっと……私は、水谷春です……。趣味は読書です。よろしくお願いします」

 うまくしゃべれないのはしょうがない。だって、あんな事があったんだもの。それにしても眠たい。

 目がうつろうつろしてきた。

 あ、まずい……ぐぅ。

 隣の席の子の腹の虫が鳴った音だった。

 自分の寝息かと思った。

 でも、よくよく考えると寝てる自分の寝息が聞こえるのっておかしい話だよね。


 クラス全員の自己紹介が終わって先生からの情報伝達を済ませると、先生の自己紹介がはじまった。

 どうせ適当な先生だから言うことも適当なんだろう。そうだろうと思っていた。

「はーい。ちゅうもーく」

 皆、注目してるよ。注目の的だよ。それどころか、的に矢刺さりまくってるよ!

「私は、皆の担任の綾川夢子あやかわゆめこでーす!」

 テンション高いな! こんなで教員免許とれたの?!

「夢ちゃん先生って呼んでくださいねー。それではこれから一年間よろしくお願いしまー

 す」

 こんな先生で大丈夫かな? 私の最初の一年終わらない?


 先生の大雑把な自己紹介が終わると――私も言えたようなものではないのだが――下校の時間がやってきた。

 クラスのみんなは、着々と帰り支度を済ませて帰って行った。

 私も帰ろうとした瞬間、後ろから声をかけられた。

「久しぶりだね! 一緒に帰ろ?」

 彼女は宮瀬夏佳みやせなつか。幼稚園からの幼馴染だ。

 小学校二年生の時に彼女の父親の都合で彼女と離れ離れになっていた。

 しかし、理由はわからないがこちらに返ってきたらしく、また同じ学校で授業を受けられることを嬉しく思った。

 でもなんで、こちらに戻ってきたのだろうか? それが些か疑問であった。

 無言で廊下を歩き、下駄箱で靴を履いた。周囲はがやがやしていた。

 校門を抜けると言葉が交差し始めた。

 別れちゃったときはどうしてたとか、中学校に進学する前の話とか、いろいろな話をした。


 更に世間話をしながら歩いていたが、夏佳は突然話を変えてきた。

「そういえばさ、昔みたいにあだ名つけてあげようか? 久しぶりに会ったし、昔のあだ名なんて覚えてないからさ。あはは」

 夏佳はへらへらと笑ってこちらの回答を待った。

「い、いいよ。正直ろくなあだ名がなかったし……」

 そう。

 春の過去についたあだ名は「スプリングッ!」やら「spring」やら「άνοιξη(ギリシャ語で春)」やら、変なあだ名ばかりだった。

 ちなみにこれらを考えたのはすべて夏佳である。

 それと、スプリングッ!はジャパニーズイングリッシュでspringは、ネイティブだよ!

 だから、スプリングッ!とspringは違うんだからね? いいね? 違うんだよ?

 え? これは洗脳かって? さぁ、どうでしょうね。フフフ……。

「やだねー。嫌がってもつけるもん!」

 昔となんらかわらない我侭わがままさだ。

 そうだなと続けて夏佳は

「栗きんとんとかどう?」

 意味が分からなかった。何故に栗きんとんになったのか尋ねると予想外の返答が返ってきた。

「え、なんでって、私が栗きんとん好きだからけど? ああでも、蒲鉾かまぼことか数の子とかもいいかも!」

 そのあともごにょごにょと謎の呪文を唱えていたが、すべて筑前煮ちくぜんにや、きんぴらだった。

「お節せち好きかよ!」

 こうして私は夏佳との再会を果たすのであった。


「そういえばさ、私達の学校ってさ、部活動絶対はいらないといけないらしいんだー」

 またまた夏佳は唐突に話を切り出してきた。

 それにしても夏佳は物知りだ。昔から私の知らないことをたくさん話してくれる。

 というか、何それ、面倒くさい。

 学校やめようかな。

 まさか初日にして、不登校宣言!

「そうなの? 大変そうだね。夏佳は何の部活動に入るか決めてるの?」

 まずどんな部活動があるのかも知らない私は、夏佳に聞いてみることにした。

 校則の一部知ってるんだったら、何部があるかも把握してるでしょ。

 私はそう踏んで聞いてみることにした。

「そうねぇ……何部があるか知らないから、決めてない!」

 笑いながら夏佳はそう言った。

「えぇ……」

 私は呆れた顔をして夏佳を見つめた。

 こういう肝心なところが抜けていることも昔となんら変わりない。


 それからというものの、平穏な学校生活を送りながら放課後は部活動を探す生活がはじまった。

 いい部活動が見当たらなかったが、夏佳とこれから三年間過ごす部活動を探すのは楽しかった。

 誰も一緒にやろうなんて言ってないけどね。以心伝心ってやつさ。たぶんね。

 部活動間の距離を歩くのは疲れるけどね。

 たった10余メートルでこれである!

【速報】水谷春は運動できない系女子だった?!

 運動できない系女子に失礼ですね。ごめんなさい。つまらない小説書いてごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。

 やっぱり今の撤回。全部嘘―。うぇーい! ……いや、本当にごめんなさい。

「なんかいい部活あった?」

 私の机に座りながら夏佳は言った。

「それ、私が知りたいんだけど……」

「あはは。そうだよね」

 笑いながらそう返された。

「そういう夏佳は?」

「それがないんだよね……もう明日で一週間たつのに……」

「ん? 一週間たつと何か悪いことでもあるの?」

「あれ、まだいってなかったっけ?」

 それを肯定すると夏佳は続けた。

「一週間は仮入部期間だったから一週間は入部出来なくてもいいんだけど、それ以上は入部してないとだめなんだってさ」

「な、まずいじゃん! はやく言ってよ! 略して鯰なまずだよ!」

「そうだよ」

「『そうだよ』なんて言ってる場合か!」

「そうだよ」

 もうええわ! と私はその話に区切りをつけた。と思っていた。しかし夏佳が

「どうも、ありがとうございました」

 なんて言うものだから

「漫才じゃないよ!」

 とツッコミを入れてしまった。

 漫才が終わった後に見てくださった方のために感謝を込めてあいさつするのってマナーだよね。

 それが脳裏に浮かんだだけ。

 そう。どうでもいいの。

 しょうもない……。

「いや、漫才じゃないよ? 大丈夫?」

 自分の頭に人差し指を立てて、私に言った。

「知ってるよ!」

 ほんとしょうもない……。


 結局、その日も部活動は見つからなかった。

 して、仮入部期間最終日になった。その日の放課後も、私たちは部活動を探すはめになりました。

 そんな簡単そうに言ってる場合じゃないんだけどね。どうしよう。

「それよりさ、なんで私たちの学校ってこんなに運動部が多いの? 運動するのなんて、体育だけで十分なんだけど」

 夏佳は言った。

「でも、あれこれ言ってる時間なんてないんだよ……?」

「でも疲れたくないよー」

「あらそう? じゃあ太って豚さんにでもなるといいよ。うん、それがいい」

「太る……怖いよ……いやだよ……」

「そんな君らに朗報だよ! 文化部なのに太らないことで有名なおすすめの部活があるんだけど。どう? 気にならない?」

「ひゃう?! びっくりした。えっと……」

 人が急に現れた。私は驚いて変な声を立ててしまった。

 気が付かなかった。

 視線の先に必ず映らないと背後に回れない壁際に立っているのに、知らない間に横に着かれていた。

「私? 私は長谷部秋恵はせべあきえ。三年よ」

 容姿では中学生と思わないレベルで背が低い。

 うん。小学生って言われてもわからないね。

 身長のことでさぞかしいじめられてるんだろうなあ。

 そんな憐みの視線を送ると、「なによ?」とすこし苛立ちを覚えた声で言われた。

 とっさに「べ、別になにも」と答えはしたが、たぶん読まれただろう。

 人の心を読むなんて、超能力の一種だ。私も使ってみたい!

 使いたいなんて欲を出していい場面じゃないですよ!

「どうしてその秋恵先輩が?」

「さっきも言ったでしょう。あなたたちが、部活動が見当たらなくて探しているようだったから、おすすめの部活を“先輩として”教えに来てあげたのよ」

 どうせそんな都合のいい話があるわけないだろうと思い、不安だったので断ろうとすると

「ま、待ってよ。話を聞いてくれるだけでもいいから」

 泣き泣きだった。

 そこまで言われては断ることはできなかった。とりあえず話を聞くだけ聞くことにした。

 何か深い事情ありそうじゃない?

 泣いて勧誘するなんて何か深い理由がないとしか考えられないでしょ!

「たちどまって私の話を聞くことには評価してあげわ」

 その一言で完全に聞く気がなくなった。

「やっぱりやめようかな」

「ま、待ってください。お願いします。私が調子にのりました。すいません。だから捨てないでください。ダメですか? それでもダメですかああああ」

 ぺこぺこと勢いよく頭を縦に振っていた。

 それはどこか赤ベコに見えた。かこんかこんと軽快な音が鳴り響きそうだった。


 どうやら秋恵先輩は、文芸部という部活の部長を務めていて去年の三年生がいなくなって部員が秋恵先輩だけになってしまった。

 そのため、今年度中に部員が4名以上いないと廃部になってしまうらしい。

 今のところ新入部員はたったの一名。

 私たちが参加すれば4人以上になって廃部は免れられるらしいのですが、どうも部活動の詳細を話してくれないので問い詰めます。

 詳細を一向に話してくれないんじゃどうも怪しい。

 そりゃあ誰も入ろうとしないよ。

 ほら、怪しい広告のティッシュ配りしてる人いるでしょ? あの人が怪しく見えちゃうのと同じだよ。

 え? これ偏見?!

 いやはや失礼した。申し訳ないね。うん。本当に悪かったって心の底から思ってるよ1%くらいはね。

「それで、文芸部はなにをする部活なんですか?」

「部活に参加してくれたら話すよ」

 危険な香りしかしない。

 この人も我侭わがままな人だ。

 入部してほしい。でも、こちらの入部する為の条件は無視する。

 条件のんでくれないと話は進まないってのにね。

「そんなんだから廃部になるんですよ! まったく……。教えてくれないと入部しませんよ?」

「わ、わかったから。入部してよ……」

「内容によりますが、入部しましょう。夏佳はそれでもいい?」

「うん! 部活動の廃部を阻止ってなんかかっこいい! 私は入部するよ」

 目をキラキラさせて夏佳は言った。

「はい、じゃあ夏佳ちゃんにはこの部活動入部届を差し上げよう」

「かっこよさで部活動選ぶな!」

 三年間部活続けられるの? ちょっと心配……。

 それでね……と続けて秋恵先輩は言った。

「部活動の活動内容とその目的だけど、特になにもないの。ゲームを持ってきて遊ぼうが、花札を持ってきて賭けをしようがなんだっていいの。それが文芸部。でもいくつか条件があって、そのなかでも一番大きな条件を教えてあげる。それは、一学期ごとに一回ずつテストを受けてもらうの。簡単だからあまり深く考えなくていいからね。でもね、油断は大敵っていうのは忘れないでよ?」

「法的なものは無理でしょ? さすがに」

「え、なんでそんな楽なのに言ってくれなかったんですか?」

「この部活はね、楽ゆえに広められたら困る部活なの。しかも、この学校には部活動強制参加なんてルールもあるものだから、余計にね」

 わかるでしょ? と言いたげな顔をして、秋恵先輩はそう言った。

 私の意見は無視なんですね。そうなんですね


 さらに詳しく聞いていくと、学校で公式と非公式の部活動があるらしく、文芸部は非公式の部活動だから広めてはいけないことや一学期に一回テストなどを受けたりしないといけないというルールが存在するらしい。

「あれ、でも私たちが最後の希望だったんですよね? だったら、広めるもなにもなくないですか? ふつうに教えてくれてもよかったのでは?」

 私は素直な疑問を秋恵先輩にぶつけた。すると

「それもそうかもね」

 適当すぎでしょ……。

 これだから廃部間際にまで追いやられるんでしょ!

 前の先輩も同じようなものだったのかしら……。

 これには茫然とするしかなかった。


 こうして私と夏佳は文芸部に参加することになった。

 はじめての部活動はすこし緊張した。

 まだ部活動でなにかしたわけじゃないんだけどさ。

 大変そうな部分もありますが、頑張ります!

 明日は金曜日。

 初めて部活動がある。

 楽しみだね!

 なにをしても許される部活動で一体なにをしようか?

 よく考えるとなにをしても許されるって無理じゃない?

 だって人殺したら捕まるでょ? この部活動だったらいいの?

 いいや、ダメだろ。

 そんなことを考えながらベッドで横になると、すぐに夢の世界へと落ちて行った。



 第二章 兄妹喧嘩でひと騒動そうどう~これ本当に兄妹喧嘩ですか?!


 朝。小鳥のさえずりが聞こえて目が覚める。

「ふあぁ……よく寝た……」

 眠たい目をこすりながら、目の前に広がる親の顔より見た自室の天井を認めようとした……。

 できるはずだった。

 しかしそれは、とあるものによってさえぎられた。

「ちょっとお兄ちゃんやめてよぉ……」

 私には3歳離れた兄がいる。

 名前は水谷晃一みずたにこういち。

 高1だ。周囲からは兄妹仲良しといわれるが、兄が超絶シスコンなだけである。

「ん~、春おはよう」

「おはようじゃないよ! 私忙しいんだからどいてよ!」

 私は兄を邪魔といい蹴り飛ばした。

「痛っ! せっかくお兄ちゃんがモーニングコールしにきたのに、蹴り飛ばすなんてひどいぞ。ぷんぷん!」

 どうやら兄はご立腹の様子だ。さすがに蹴り飛ばすのはやりすぎただろうか?

 すこし反省した。

「ご、ごめんね……」

「い、いいんだよ。だから泣かないで」

「別に泣いてないよ。泣いちゃうのはお兄ちゃんでしょ?」

 私は少し微笑みかけながら兄にいうと

「お? いいのか? 本気で泣くぞ?」

 とあほをかましていた。

「ばかお兄ちゃん」

「かわいい妹に罵倒されて、お兄ちゃんは嬉しいぞ」

「気持ち悪いからやめて」

 すると、兄は見事に泣いた。

 クリティカルヒット!!

 効果はバツグンだ!


 身支度を済まして階下に下ると食卓には、兄が作った朝食がずらりと並べられていた。

 白米、目玉焼き、シーザーサラダ、味噌汁、イチゴといった構成で、バランスよく栄養が摂取できる。

 しかし、私には一つだけ不満があった。

「ねえ、お兄ちゃん」

「どうした妹よ」

「私が目玉焼きに醤油かけるの嫌いっていうの知っててかけたでしょ?」

「ん? なんのことだ?」

 私は目玉焼きに醤油をかけるのがとても嫌いだった。塩コショウでしか食べない派だ。

 シンプルでおいしいよ? 食べたことない人は、食べてみてね!

「とぼけたって無駄よ! 今すぐ作り直して!」

「こらこら、好き嫌いしちゃダメだって昔から言ってるだろう? ちゃんと食べないと……」

「いやだ! 私もういらない。行ってくる」

 プイと頬を膨らませて、兄に背を背けた。

「春!」

 呼び止められたか振り向くことは無かった。

 部屋に戻って冷静に考えると、とてもくだらない話だった。

 お兄ちゃん怒ってるかな? もし怒ってたらなんていったらいいんだろう。

 まったく思いつかない。

 お兄ちゃん、ごめんね。

 それを綴って、私は日記を開いたまま学校に出た。

 それがあんな結果を生むことになるなんて知りもせず……。


 学校に着いてすぐに、夏佳は私に話しかけてきた。

 夏佳は私の机に腰に下ろし、話をし始めた。

「どうしたの? なんか元気ないけど……」

「ん? なんにもないよ。全然元気だよー」

 嘘。

 本当はお兄ちゃんが怒って私と一緒にいたくないとか言って家を出ていくのが怖かった。

 夏佳はそれに気が付いていた。

「わかってるよ。昔から変わんないね。そういうところ。よく顔に出てるよ」

「夏佳には全部お見通しってわけか……」

「朝食作ってもらえなくなるのは、すこし寂しいよね」

「それもそうだけど、すこし違うかも」

 夏佳は昔からこうなんだよね。

 私は微笑した。

 夏佳のおかげで、すこしは気が楽になった気がした。

 そのあともすこし話をしていたが、先生が来て朝の会がはじまった。

 そして、いつも通りの授業ができた。夏佳には感謝せねばなるまい。

 ありがとう夏佳……。


 時間が経つのは早く、すぐに放課後になっていた。

 今日から放課後に、部活動がある。

 とても楽しみだ。

 そう考えていると、夢ちゃん先生は言った。

「えっと、入部届を出していないのは、宮瀬さんと水谷さんだけかしらね。早めに先生に提出するようにね」

 そういって先生は帰りの会を終え、教室から退出した。

 私と夏佳は職員室にいる夢ちゃん先生を探した。

「あ、いたよ!」

 夏佳は先生を指さして私に知らせた。

 すぐさま先生に近寄った。

「先生! 入部届出しにきましたー」

「ちゃんと夢ちゃん先生って呼びましょうね~? さて、なにの部活動にしたのか見せて頂戴?」

 そういわれて、私達は文芸部と書かれた入部届を差し出した。

 すると、夢ちゃん先生は険しい顔をして、私達を見た。そして言った。

「あなたたち、本当に文芸部でいいの?」

 なにかワケありなのかとでも思わせるような口ぶりだった。

「え、なにか問題なんですか?」

「いえ、あなたたちがそれでもいいというなら、なにも言わないわ」

 それだけ言い、夢ちゃん先生は鍵をくれた。

 梅の宮中学校は校舎が北と南に二つあり、両方とも東西に伸びている。

 さらに実験室が別にありそちらも東西に伸びている。

 体育館は南校舎のとなりに一軒と、校舎の離れに一軒の計二二軒ある。

 先生は、南校舎二階の一番東の教室で待ってなさいとだけいい、私達はそこに向かった。

 何の教室なのかは教えてくれなかった。

 まったく、教えてくれてもいいじゃない。何考えてるかよくわからないよ。


 距離はすこしあったが、なんとか言われた教室にたどりつくことができた。

「あ、夏佳ちゃん春ちゃん! やっほー」

 すこしの間待っていると後ろから声をかけられた。

 誰だろうと思って振り返ると、そこには秋恵先輩がたっていた。

「あれ? 秋恵先輩こそなにをしてるんですか?」

「なにって、ここ文芸部の部室だよ。部室の鍵をとりに、夢ちゃんのところに行ったら君たちに渡したって言われたものだから急いできたんだよ」

「そうなの。無事にここにたどり着いてくれて嬉しいわ。昔はここで何人の人が脱落したか……」

「夢ちゃん、適当なことを彼女たちに吹き込まないでください」

「あら、ごめんなさいね。」

 てへっと付け加えた夢ちゃん先生は、私達女の子にも可愛いと思わせる笑顔を見せた。

 更に付け加えて夢ちゃん先生は言った。

「言ってなかったけど、文芸部の顧問は私よ」

「「へぇ~。え?!」」

 私と夏佳は声をそろえて、びっくりした。

 まさか担任の先生が顧問の先生だなんて思わなかった。

「これから三年間、楽しくすごしましょうね」

 綾川先生はそういって私達に微笑んだ。

 私達は顔を見合わせた。

 大丈夫かな?


 その日の部活動はそれで終わった。

 この日も宮瀬奈々と一緒に帰宅することにした。

「ねぇ。今日初めての部活動だったけどどうだった?」

 私は夏佳に聞いてみることにした。

「私はたくさん驚くことがあったりして、新鮮で楽しかったよ」

 意外だった。

 夏佳はすこし嫌がっていた様に見えたので、楽しくないというと思ったからだ。

 それに、と続けて

「春がいたから楽しかったんだよ。私と一緒に行ってくれてありがとう」

 そんな大層なことはしてないよ。私はそう否定した。


 ただいまと言ってドアを開けて靴を脱ぐと、私は真っ先に自室にこもった。

 今朝のこともあり、兄と会いたくなかったのだ。

 今日あったことを日記に書こうと自身のものを探すが、机上には見当たらない。

 次の瞬間コンコンと扉が叩かれた。誰だろうと思ったが答えはすぐにわかった。

「今朝はごめんな。嫌いなものを無理を言って食べさせるの、よくないよな……恥はずかしい兄だよ」

 兄だった。

「私こそ、ごめんなさい。せっかくお兄ちゃんが作ってくれたのに、好き嫌いして食べないで……妹失格だよ」

 春の気持ちは理解してるよと兄は言った。

 私はえっ、とつぶやいていた。

「いやぁ~。春があんなに恥ずかしいものを書いてるなんて予想もしてなかったよ」

「え、まさか机に私の日記帳がなかったのって……」

「ん? ああ、読ませてもらったよ。まさかこんなこと書いてるとわなぁ……素直でお兄ちゃんは見直したぞ!」

 兄は私の目の前で日記帳をちらつかせていた。

「か、返せ! このダメお兄ちゃん!」

「おうおう。さっきまで『妹失格だよ……』なんて悲しそうに言ってたのに、顔赤くしちゃって、かわいいんだから❤」

「それはお兄ちゃんも同じようなものでしょ! 恥ずかしいからこっちみるなー!」

 私は兄の顔を、思いっきり蹴りあげた。

「ぐふぅっ!」

 兄は口から血を床に垂らして、うつ伏せに倒れた。

「床汚くなっちゃうよ! やめて!」

「それは……さすがに理不尽すぎないか……?」

 それだけを言い残し、兄は倒れた。

 死んでないの? って?  蹴りあげるだけで死ぬなんて情けないでしょ。

「鬼畜ですね。妹からなら気持ちいいです」

 ほらピンピンしてるでしょ?

 まったく気持ち悪いんだから❤

「ぐぶぁっ!」

 ん? あぁ、気にしないで。ただ気持ち悪いドMヘンタイおにいちゃんを失神させただけだから❤

 こうして私とおにいちゃんは、仲直りは見事叶いました。

 仲直りと呼べるかわからないけど、うちらなりの仲直りの仕方だから安心して?

 これがふつうっていうのはまわりからみたらやばいんだろうね(笑)

 それでも仲直りしてまたこうし兄となにかをできているというのは非常にうれしいことだろう。

 朝食もでてくるしね!

 ありがとう、おにいちゃん。



 第三章 文芸部員との出会い~こんな有名人が私と同じ部員なんですが?!


 翌日。土曜日。

 中学校はじめての土曜日だよ! でも、私はゆっくりしてられないんだ……。

 それがねー夏佳が遊ぼうっ言ってきたの。

 さて、何をして遊ぼうか……。

 それが当日――

 私は、夏佳にとある小説投稿サイトで最近話題になっている小説を教えてもらった。

 その小説はある出版企業の催物もよおしもので、選考で上位一作品を出版するというものだった。

 それが糧となり、さらに人気を博す今話題急騰きゅうとう中の作品なんだとか……。

 私も電車の中でためしに読んでみたけど、とっても面白くてはまった!

 ウェブ小説って読んだことなかったけど、すごく好き!

 面白いからみんなも読んでみてね!

 露骨すぎる宣伝である。

 それで今日は夏佳に連れられて、ノベライズ第一巻を買いに行くんだ。

 ついでに握手会もあるみたい?

 電車を降りて徒歩で書店に向かう途中、「楽しみだね」とか「作者ってどんな人なんだろうね」とかいろいろな話をしながら歩いていた。

 すると握手会が行われる書店へと到着していた。

 あぁ……ドキドキしてきた。心臓、飛び出しそう!

 飛び出したら誰しもが発狂してあたりは混乱の渦だね!

 想像すらしたくないわ!

 あ、でも買えるかな? 列がめっちゃ長いんだけど……。

 人がずらーっと並んでいた。

 買えるかどうか、不安の色が濃い。

 前の男の人のにおい臭すぎる……においも濃い……。やだな……。二重の意味で……。


「長らくお待たせしました。ただいまから『猫のウェンディ』発売開始です! 押し合わないように……」

 開始の合図が鳴った。

 長かった列は、だんだんと距離を短くした。

 少しずつ私達は歩を進めていった。

 すると

「あれ?なにしてるの?! 私もいれてー!」

 秋恵先輩だった。

 列の途中で入るのはよくないとわかっているけど、私たちが入っていたということで立ち入ったそうだ。

 この列はなんなのか聞いてきたものだから、小説の話をすると、「そうなんだ……」と若干、興味なさそうに言った。

 時は経ち30分後、次で私達の番がくる。

 しかし、絶望は訪れた。

「売り切れましたので、これにて『猫のウェンディ』ノベライズ第一巻握手会の終了です。お疲れ様でした」

 前の人が最後だったらしい。

 なんてこった! これはひどい! 悲しいぞお!

 せっかくここまで二時間もかけてきたのに……。

「あら、どちらかと思えば秋恵さんじゃないですか。そちらは?」

「あ、真冬まふゆちゃんじゃん! なにやってるのー?」

 秋恵先輩って人脈なさそうなのに、意外とすごい人脈もってるな!

 なんだ、これ。

 誰ですか? と秋恵先輩に聞いてみる。

「そうだね。まだ話したことなかったっけ? それじゃあ紹介するよ! こちら小金井真冬こがねいまふゆちゃん。もう一人の文芸部員だよ!」

 そういえばもう一人いるって言ってたね。

 覚えてる人いるかな? そうそうあの時だよ!

 えっと……いつだっけ?

 そういうと今度は真冬に向きなおり、私達のことを紹介した。

「よろしくね。小金井さん」

「真冬でいいわよ。よろしく、水谷さん宮瀬さん」

「じゃあ、真冬ちゃんで……それと私が真冬ちゃんって呼ぶなら、春って呼んでよ」

 私も夏佳でいいよーと夏佳も続けた。

 まさか有名人が同じ部活だなんてすごい! やったね!

 やったね! なんて言うてる場合ちゃうぞ! 二時間が無駄じゃあないか!


 そこから少し日が移り三年……というのは嘘で、翌週の水曜日。

 水曜日って会議があるからって5時間授業なんだけど、実際してる感じないよね。

 すぐ部活動に先生来るもん! なんなのあれ?

 嘘つくのよくないよ! 嘘つくの悪いんだからね!

 嘘つきは泥棒のはじまりって小学校の先生も言ってたよ!

 まあ私も嘘ついたばかりだから人のこと言えない悪い子ですけどね(笑)

 放課後に部室で、真冬と二人っきりでお話しをしていたのだけれど――。

「春ちゃん。すこし、お話しませんか?」

「いいよ。どうしたの?」

「それが……ふと思ったのですが、お家に帰ってなにをしてらっしゃるんですの? 文芸部に来てもずっとぼーっとして終わるか、読書をずっとして帰るかの二択じゃないですか」

「それもそうだねえ。私ってなにしてるの?」

「私に聞かれても……」

「思いつくのは、日記書いたりくらい? あとは読書して宿題して終わりだね」

 正直なにをしてるのかまったく思い出せない。休日とかなにしてるっけ?

「それでしたら小説を書いてみませんか?お手伝いしてほしいのですけど……」

 手伝い? 一体なにをさせられるのだろうか?

 そもそも、なんの役にも立たないと思われる。

 だからすごく人気の小説家の手伝いなんてしたら、作品のクオリティが落ちるどころでは許されないだろう。

 だからこその恐怖もあった。

 でも

「私にできることがあるなら協力したい!」

 私はそう答えていた。

 あぁ……放課後の部活動と家ではなにするか決まったけど、作品が悪くならないか心配だわ……。

 明日学校行って悪いけど、無理そうって伝えてこよう。

 あぁ……失敗した……。


 日記帳埋まってきたな……。

 あ、これ中学校入ってから使ってるものじゃないからね? 

 でも、いつから使ってたのかな? 

 気になったので、調べてみることにした。

 一ページ目はっと……なになに? え! 小学校一年生から使ってるの?! 全然覚えてないよ。


 しがつ みっか げつようび

 きょうはおとおさんとにゅーがくしきにいきました。

 ずっとすわっていたのでとってもつまらなかったです。

 それにおしりがとてもいたかったです。

 でもおとうさんは「そんなこと言っちゃだめだぞ」と言っていました。

 よくわからなかったです。

 こどもにつたわらないこといっちゃだめだよ!


 うわぁ……今と変わらないね。

 それで次のページはっと……


 四月三日火曜日


 ここの時点で私はとある異変を察知した。

 “次のページなのに、一年経ってね?!”


 今日は、入学式がありました。

 私のではなかったから、つまらなかったです。

 でも、新入生もかわいそうだなと思いました。

 なぜなら、これからずっと小学校という牢屋閉じ込められるからです。


 なにがあった?! 一年後の私なにがあった!

 私は、怖くなってそれより先のページをめくるのをやめた……。



 第四章 小説家としての道~小説家は楽ではないそうですが?!


 翌日木曜日。

 私は昨日約束したばかりの約束を断ろうと決断していた。

「おはよう真冬ちゃん」

「おはようございます。春ちゃん」

 そうそうと続けて

「昨日のお手伝いしてくださるという件なのですが、あの……」

「どうかしたの?」

「よく考えたら、そこまでお手伝いを求めているわけではなかったのですの。ごめんなさいね」

「そうだよねえ……」

「それでですね。提案なのですが、お手伝いではなくご自身で書かれてみてはどうでしょうか? 毎日読書されていますし、読む側ではなく書く側もとっても楽しいですよ!」

 私には文章力がない。語彙力もない。そんな私が、かけるのだろうか?

 確かに昔はつまらないものを量産していた。

 自己満足で完結していた。

 しかし、それだけではだめなのだ。自己満足で終わらせず、誰かを楽しませる。

 それこそが、私の年代くらいになってくると考えさせられる。

 だから書けない。昔とは違うって知っているから。

「ごめんなさい。お誘いは嬉しいんだけど、私書くのは苦手なんだ」

「あら、そうなんですの。まあそれでもいいでしょうけど、考えてみておいてください」

「うん。そうするよ。わざわざありがとう」

「いえいえ。こちらこそ押しつけがましくてごめんなさい」

 話すのはとても楽しかったし、真冬ちゃんも楽しそうに話してくれた。

 すこしは考えてみようか。

 こんな楽しい毎日をずっと過ごせるなら――。

 こうして私の小説家としての道が開いた。

 どんな困難が待ち受けているのか知りもせず。



 第五章 山間旅行の準備中~まだ準備段階のようですが?!


 私たちは、今あるところに向かっていた。

 それは山だった。

 なんで山かって? こんなことがあったんだよ。

 本当にひどいからさ聞いてくれよ……。

 あ、忠告しておくけど、これでストレス溜まってものにあたって壊れて叱られてもしらないからね?

 まぁまぁ、そこまでイライラする代物でもないから、ストレスに極端に弱い人だけ注意してね! 

 大丈夫だよね? 本当に大丈夫だよね?

 え? 私が一番イライラするって? そんな冗談を……あは、あはは……。

 確かに腹立つわ。


 時は放課後。

 若干日没が近くなってきて、空がオレンジ色で色味始めた。

 そんな時にも、文芸部は遊んでいた。

「やったー! 勝った!」

 今まさに文芸部ガン○ム最強決定戦の優勝者が決まったところだった。優勝者は夏佳だった。

「くっそ……。また負けちゃったよ。やっぱり夏佳は強いね」

 対戦相手は秋恵先輩だった。悔しそうにしている。

「あら、夏佳ちゃんまた優勝ね。さすがだわ。今度は別のゲームにしようかしら……」

 これを持ってきたのは秋恵先輩だったけど、夢ちゃん先生はどんなゲームを持ってくるのか? 割と皆楽しみにしていたりする。

 あ、そうそう。忘れてるかもしれないからいうけど、ここは文芸部。

 この学校の文芸部はなにをしても許されるの! さすがにやりすぎたらダメだけど、こうやってゲームを持ち寄って対戦することだって許される非公式の部活動なんだ~。

 夢ちゃん先生は、少し考えるようなしぐさをすると、こう口にした。

「そうねぇ……。やっぱりパック○ンとかがいいかな?」

「チョイスが古すぎます。しかもあれって対決できるんですか?」

「そうか! 対決できないとダメか。あ、でもスコア対決とか、タイムアタックとかでできるよ!」

 絶対やらない! だって面白いの?

 それに、○ックマンってすごく難しかったよね?! いや難しい! 断言するぞ! 超難しい!

 パックマ○やろうぜって言ってる人は、そろそろ考えない?

 だって発売されたの何年前? いや何十年前の話だわ。

 体は新しい新鮮なものを求めてるはずだよ!

 そんなもの(年老いたゲームたち)を持ち出そうとする人は危ないですよ! 気を付けないとね!

「そ、そう? いいアイディアだと思ったんだけどねぇ……。そういえば用事思い出したからいくねえ」

 そういって手を振って先生は部室の外にガラガラと音を立てて出て行った。


 それでもって山に行くことになりました。

 え、山に行く理由がわからないって?

 悪かったよぉ……。謝るから許して? テヘペロッ。

 あ、それと、続きがあるから聞いて?

 ごめん、ごめんって! だからその拳で殴るのはよして(泣)

 反省してますから!

 とりあえず、聞いて? ね?

 え? 無理? また長くなるだろって?

 まあ、そう言わずに聞いて? お願いだからあ(泣)

 聞いてくれるの? ありがとう!

 ……幻聴って恐ろしいね。


 着信が鳴った。私のではないみたい……。

 スマホ持ってきちゃダメだろって? いいんだよ! だって、文芸部ですもの!

 誰だ、くそ理論とか言ったやつ!

 すると、秋恵先輩のだったらしく、スマホで誰かと通話していた。

 しばらく誰かと話していたが、スマホを置きガっと振り返り

「夏休み旅行行くよ!」

「え、どこに行くんですか?」

「だから旅行だって!」

「だから旅行先はどこだって言ってるんだよ!」

 ボケをかます秋恵先輩の脳天にチョップが決まった。

 あ、私がやったわけじゃあないよ?

 あれ? じゃあ誰がやったの? 怖っ!

「俺だよ」

 誰だよ! というか、てめえも能力者か?! 直接脳に語りかけてくるなよ!

 手が天井から伸びていた。

「その回答は後でな! ばいばーい」

 手を振りながら、手は天井から消えて行った。

 なんだあれ。


「いてて……そこまでしなくてもいいじゃないのよ……。それで、行き先なんだけどね、わかんない。テヘペロ」

 あざとく舌をチロッっとだして、秋恵先輩が言った。

「あまりふざけないでね?」

 それを言ったのは険しい顔を、秋恵先輩の肩から顔をの上からぞかせる夢ちゃん先生だった。

 秋恵先輩が振り返ると、ゴスッという鈍い音がした。

「痛ああああああああああ」

 本日二回目になりまーす♪ 二回目という痛みに耐えかねた文香先輩の叫び声が――夢ちゃん先生はめちゃくちゃ強いので、今日二回目だからという可能性は薄いのだが――響いた。

「愚かな子。学習しないものか……」

 また誰か来たのか……。

「ん? 誰だ? どこにいるんだ?」

 また、心読まれましたね。超能力者が現れたようです。はぁ……。

「そんな、ため息つかれることでもしたか?」

 ハぁ? だってこれで何人目ですか? はっきりいって飽きましたよ?! 

「三人目だぞ。飽きちゃったのか……。まあいいじゃない」

 真面目に答えなくていいんだよ! いらないから帰れ!

「あ、そんなこと言うんだね! まぁ帰るよ。じゃあね」

 お願いだからもうこないでくれ……。

 私はそう切に願うしかなかった。


「わかったよ……ちゃんと言うよ……。旅行先はね、皆で決めるんだって」

「そうね。これ毎年恒例の行事なの。ちなみに今年は山の日に行くのよ」

 そうなんだ! 楽しみだなぁ……。

「それで、どこか行きたいところある?」

「私は……。後でいいや。春は?」

「えっ! 私?! 私……山とか?」

 急に言われてもわかんないよ! とりあえず夏休みでしょ?

 山か海が定番だろうから山って答えてみたけど、ありきたりすぎたかな。

「そっか……。春も言ったし私も思いついたから言うよ……?  いい?」

「いいけど、なにかいい考えが浮かんだの?」

「えっとね……山登りしたい! ちょうど山の日だし……? どうかな……? 」

 結局山なのね。

「話は聞かせてもらったわ!」

 勢いよく扉が開くと同時に部室に足を踏み入れたのは、真冬ちゃんだった。

「エベレストとか涼しくて楽しそうですわ」

「わぁ! えれべすと? よくわかんないけど楽しそう! 行ってみたいなぁ」

「行けるとでも……思ってるの……?」

「無理だからね! 海外とかうちの部活じゃ資金的な面で行けるわけないじゃない!」

 それもそうだけど、登れるかって話なんだよね……。

「山ってことで、近くの山探しておきますからそれでいい?」

 それに……に丁度いいしと、先生は付け加えた。

 なにに丁度いいんだろう……?

「「はーい!」」

 さっきの先生の呟きが少し腑に落ちないので、快く返事をすることが出来なかった。

 それに高いところってあんまり得意じゃないんだよね……。自分で山って言ったけどさ。

 ツッコミに忙しくて言えないとか、この部活ボケであふれすぎだよ! ブラックだよ! 法律で罰せられろ!

 春は極端に呆れた。

 それに先生にどの山に行くか任せて大丈夫かな? 超不安なんだけど……。

 おい! そこのどうせ死なないから大丈夫だろって笑ってるやつ! 殺す気?!

 ちょっと先を読み直してみてよ。ほら、ね?

 私の代わりに君たちが逝ってくれるのかい? やったね!

 やっぱり幻聴(以下略)

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