13:30

 会長、かがいんちょうそうちょうの三人は、市長らと共に、市の出入り口にある来客用のフェー置き場へ消えていった。

 僕は市長が自分用のフェーを貸してくれるというので、市庁舎横の小屋に向かった。

 小屋では、横一列にフェーが四匹ならんでおり、その中で一番大きく、体の赤みが強いのが市長用のフェーとのことであった。

 貸してくれるのはいいけれど大きいフェーは操作が難しいので、僕は一番小さいフェーに近づき、柱にゆわえてあったづなほどいた。

 なにか言われたら、まちがえたと言えば良い。

 三人を待たせるわけにはいかないが、市中でフェーに乗るのは禁じられていたので、嫌がるフェーを引っ張りながら小走りで、市の出入り口に向かった。


 市の出入り口に着くと、三人はすでにフェーに乗っており、その前で、市長をはじめとしたタル市の管理者たちが一列にならんでいた。

 委員長と課長の乗っているフェーも、単独で見れば大きくて赤い立派な鳥であったが、会長のフェーの両脇にいると、ずいぶんと小さく、色も赤というよりはピンクに見えた。

 それくらい、会長の乗っているフェーは並はずれていたのだった。

 僕のつれてきた鳥と同種とは思えなかった。

 言うなれば、会長のフェーは海外の高級車、委員長と課長の鳥は国内の高級車、そして僕のが軽自動車、といった感じであった。

 会長がぼくのフェーを見て、声を立てて笑った。

「ずいぶんと小さいな。おもしろい。乗ってみたいから鳥を交換しよう」

 課長がなにか言いかけたが、会長は鳥から降りてしまい、「いいから、いいから」と僕に、愛鳥の手綱を渡した。


 会長のフェーは体高が僕の身長よりもあり、ずいぶんと精悍せいかんな、殺し屋のような顔付きをしていた。

 気のせいかもしれないが、若干、こちらを見下している感じをただよわせており、それは本社のエリート連中が僕を見る目に似ていなくもなかった。

 僕が鳥の右脚を蹴ると、しばらくの間、こちらをにらんだ後、脚を曲げた。

 鞍に坐り、左の腹を蹴った瞬間、思いもかけず鳥が勢いをつけて立ち上がった。

「うわお」

 僕は思わず声をあげながら、鞍から落ちないように、手綱を強く握った。

 市長が「大丈夫か」と声をかけてきたので、あまり大丈夫ではなかったが、僕はひとつうなずいた。

 手綱をあやつり、フェーの向きを変え、さあ出発だと右腹をバシンと蹴った。

 しかし、鳥はまったく動かなかった。

 何度、叩いてもだめであった。

 場に微妙な空気が流れ、市長が心配そうに僕を見、課長が溜息をついた。

 その後、会長が鳥にむかって「いつまでも遊んでいないの」と注意した。

 すると、鳥はようやく僕の言うことを聞き、前進をはじめた。

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