第16話 目覚めた時
目が覚めたら、自分の部屋のベッドで横になっていた。側にはサイラスがいてくれる。窓の外は夕日で赤く染まっていた。
「迷惑をかけて、ごめんなさい」
サイラスを朝まで付き合わせてしまった。
「セシィは頑張りすぎだ。ゆっくり休んだらいい」
「でも、私は頑張らないと、誰も私を必要としてくれないから」
もう、親も兄弟もいない。伯父には必要がないと売られてしまった。私は、居場所が欲しかった。そのためにはいくらでも頑張れる。
「大丈夫だ。俺も、アンドルーも、そして、セロンも、セシィを必要としている。心配しなくていい」
大きな手が私の頭を撫ぜる。
「だって、私は敵国の女だし、親戚にも売られたし」
また、涙が溢れてくる。
「セシィは家族だ。とても大切な存在だ。飯を作ったり、家計を管理しているからではない。セシィだから大切なんだ。もう泣き止め」
「私がなりたいのは、サイラスの家族じゃないもの」
恋人とか、奥さんになりたい。
「セシィはまだ若い。絶望的な状態の時に助けられて、感謝の気持ちを恋と思ってしまっただけだ。一年は側にいてやる。それで、気が変わらなければ、その時にちゃんと考えよう」
「本当に?」
「騎士隊から一年の休暇を貰ってきた。セシィはこれから好きに生きろ。護衛は俺に任せておけ。アンドルーの手伝いをするのも、薬草を採りに行くのも、子どもたちに勉強を教えるのも、セシィの自由だ」
私の自由? 自由にしていいの?
「セロンは、どうしているの?」
「旧領主館の別館に住むようになった。しばらく放っておこう。セシィがセロンを許せるのであれば、また一緒に住めばいい」
「セロンは使用人を雇っていないのでしょう? 一人で大丈夫かな?」
「セロンの事が心配か?」
「そんなんじゃない!」
セロンの心配なんかしない。ただの雇い主で、あんなことした人だもの。
「今日は、俺が夕飯を作る。戦場が長かったから料理は作れなくはないが、あまり期待するなよ」
そう言って、サイラスは部屋を出て行った。
サイラスから、一年間の猶予をもらった。一年後、私がまだサイラスを好きでいたら、その時はちゃんと考えてくれると言ってくれた。それまでは、ただの家族という立場であっても我慢する。そして、一年でサイラスの心を奪ってみせる。負けないから。
食事室に行くと、台所から肉を焼くいい匂いか漂ってきた。朝まで泣いて、朝から夕方まで寝てしまっていた。匂いを嗅いで初めてお腹が空いていたことに気が付いた。
「ただいま! ここまでいい匂いがする」
玄関からアンドルー先生の声がする。
私は皿を運ぼうとすると、サイラスが止める。
「今日は俺とアンドルーとで全てやるから。セシィは座っていろ」
「そうですよ、セシィは座っていてください。でも、今日だけですよ。明日からは、みんなで用意しましょうね」
アンドルー先生が、私が持っていた皿を奪うようにして、食事室の食卓に運ぶ。
私は、家族と言ってくれたサイラスと、アンドルー先生と暮らしていく。
昨日までと変わらない食事の風景。ただ、セロンだけがいなかった。
この領地の領主代理のセロン。望めば領地の女を召し上げることだってできた。私の育った村では、村一番の器量良しの娘が、領主の妾として連れて行かれて、五年後に死体となって帰って来た。随分と辛い目にあわされたと、綺麗な娘になんか産まなければよかったと、彼女の両親が泣いていたのを覚えている。
セロンは、私が許さなければ帰って来ないつもりなの? 敵国の女など、自由にできると思っているのではないの?
私は、セロンを許したいと思うの?
私はそれすらわからない。
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