ちょっとずつ短文

うすむらさき道

洗濯

洗濯機のスイッチを入れる。ゴンゴンゴンゴン。

また次の日も洗濯機をまわして、ゴンゴンゴンゴン。

取り出さないから中身は一緒。

いっつもいっつも洗濯機にまわされて、きっと中身に入っている物はクタクタボロボロ。

かわいそうだ。

洗濯機の中から取り出す方法はわからない。

洗濯機の中から取り出した後に何をどうすべきなのかもわからない。

悲しくなる。

洗濯機の悲しみというやつかなこれが。

洗濯機はきっと悲しんでいる。

私まで泣きそうになるくらいだから、洗濯機はよほど悲しいに違いない。

いつでも泣きそうだ。

洗濯機って悲しい存在。

いつでも泣いているんだねきっと。

そんな悲しい洗濯機と一緒にいるから、私もいつでも悲しい。

洗濯機が悲しさを抑えてくれれば、私もきっと悲しくなくなる。

もういっそ、離れ離れになるべきなのかもしれない。

こういう時期は必ず来る。

悲しい別れの時というやつ。

今がその時なのだろう。

さあ別れよう、さようなら。

今日までありがとうね。

結局いつでも洗濯機が悲しいばかりだったけど、6年も一緒にいたから愛着もわいた。

愛らしい洗濯機よ、さようなら。

最後まで同じ物を回し続けてくれたね、ゴンゴンゴンゴンと。

洗濯機を失っても、どうしてよいかわからなかった不安から解放されなかったら、どうしたら良いのだろう。

洗濯機のほかに、一体あと何を失えば、不安を消せるのか。

愛着は不安と悲しみを生む。

きっと洗濯機が教えてくれたのはこういうことだろう。

不安も悲しみも辛いだけたから、いらないのにな。

そうだ。

不安と悲しみを捨てるために、まずは愛着を手放すべきだったのだ。

洗濯機よりもまず始めに愛着に見切りをつけるべきだった。

そうすれば、私も洗濯機も、悲しい思いをせずに済んだだろう。

後悔先に立たずというけれど、選択をすれば必ず後悔がついてまわる。

悔やんでも、消えた洗濯機が戻ってくることはない。

もう洗濯機はまわらない。

ゴンゴンゴンゴンは私の頭の中でしか聞こえない音になったんだ。

ゴンゴンゴンゴン。誰にも聞こえていない。

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