小さな赤い家から太陽を纏ってくる女騎士

風祭繍

第1話

 馬から降り、私は歩く。『赤い家』に向かって。


 この『赤い領域』では敵対している者同士でも争わないことが暗黙の了解となっている。様々な理由が絡み合っているのだが、お互いに手を出さない理由は『何が起こるかわからない』ということだ。それに恐怖しているのだ。戦闘は外に出てからということになる。


 だからと言って警戒を解くわけにはいかない。一人でいるところを襲われる可能性はある。この領域から持ち帰って研究を重ねれば、この地で争っても平気になる手段を得ることができるかもしれないのだ。それを企む者達が私を狙っているかもしれない。


 私は目的の建物へ向かう。それは『赤い家』と呼ばれている。呼んでいるのはごく少数。この『赤い家』の存在を知っている者が少ないのだ。『赤い領域』は狭いようで広い。浅いようで深い。探れば探るほど未知の領域が広がっていく。そんな不思議な土地なのだ。この場所は。


 私は『赤い家』の入口までたどり着いた。やや警戒を緩め、中に入る。『赤い家』などという名前がついているが、白い材質で作られた神殿のような場所なのだ。今は私以外誰も居ない。その小さめの建物の中央に祭壇の様なものがある。傍らに佇み私は話した。


「私だ。タンブリンマン、どうかお出まし願おう」


 すると、その祭壇に青い光と共に人影が現れた。明確な姿は判別できない。おそらく人だと思う。正体は私にもわからない。彼も私に同じ思いを抱いている事だろう。こちらの姿がはっきり見えるのかも怪しい。こんな関係だが、少しずつ上手くやっていけるようになった。どうにか私も前に進むことができたのだ。


「リシア・エクトーブ。お久しぶり。何かあったか?」

「少し、敵の動きに妙な点があった。警戒を強めていたのさ」

「それは、お前の企みに勘付いた者がいるということか?」

「気付かれないのは無理だろう。だが、今のところ『闇の眷属』やその勢力の妨害は目立たない。このまま進めるのが最良だろう」

「では、いつものように?」

「ご教授願いたい。カンパニーについて」


 私はある国の騎士として働いている。女だからどうとは言っていられない状況だ。それ以外にも騎士をやっている理由はあるが。我が国は『闇の眷属』と言われる者達と戦っている。とても長い間戦ってきた。どうにも突破口が見出せないので、私は別の道を探ってみたくなったのだ。戦う方法を模索している時、敵の奇襲を受け逃げ回っているうちにこの『赤い領域』にたどり着いた。そのまま、この『赤い家』に逃げ込んでしまったのだ。なにが起こったかを理解するのは相当時間がかかった。どうにか状況を理解し始めた時、この祭壇に光が灯り『タンブリンマン』が現れた。それが私達のこの関係の始まりだ。


 『タンブリンマン』は私の話をじっくり聞いてくれた。身の上話や現状について。しだいに彼の話も聞きたくなった。あなたは神か天使か精霊の類か、と聞いてみた。その点は彼にもわからないそうだ。なんでも、彼は私から見れば異世界の住人であるらしい。なんらかの手段により、偶然この場所への通路が開いてしまい、どうすればいいかわからないまま、こうしているということだ。ネットワークの一部が異世界への扉を開いてしまったのだろう。タンブリンマンというのは、彼の『ハンドルネーム』であるらしい。よくわからない。


 そして、彼の話から現状を打開するヒントを得た気がしたのだ。時々出て来た話だが、彼の世界ではカンパニーなるものが一つの力になっているそうだ。

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