人喰い マンイーター

@cynicism

第1話 終わった始まり

何が終わってるかと聞かれれば俺は俺が終わっているとしか答えられない、別に周りがおかしかった訳でもない、ただ俺がおかしかった、人のせいでなく完全に自分のせい、責めるものもなく責める気もない

もう一人終わってしまったものがいる、それもまた、自業自得だった、ただ、もう一人と俺の相違点それは彼女は諦めなかったことだった


2020年、首都圏の治安は最悪だった

何が最悪かと聞かれれば、人喰いが出るとしか言えない、

関係ないところで続いて欲しいと願う…

がそう言うわけにもいかないらしい

「誰かにつけられてるな…」

あんまねぇシュチュエーションだよ…大学に忘れ物とりに帰ったら襲われるって…いや…ありふれてるな…

うわぁ、やだやだ…

歩幅を早める

気配も早まる

「三百メートルくらいか…」

とりあえず逃げるか…

家なら大丈夫だろ

あそこ…ボロいし

妹が言ってたけど、ボロい方が空き巣やストーカーやらの被害が少ないらしい…すぐに人にバレるからと言う理由だ

セキュリティは最悪だけどね…

殺人が目的なら終わった…

とりあえず走った

気配も走る

その気配のスピード、めちゃくちゃ速い…

家まで走って帰るまでに追いつかれなかったので良しとするか…

はぁ…

家っていうより、アパートだけど…

階段を上って自分の部屋に戻ったら玄関前に妹がいた

ワンピを着て髪はロング、運動神経抜群でそして美人、それにプラスで情報工学に精通している

「おかえり、兄さん、どうしたの?息切らして、大学から走ってきたの?」

「尾行されてた…」

「あぁ〜…それはお疲れ…」

「お前が外に出てくるなんて珍しいな」

「あぁ…新しくマザーボードを作ろうと思って、部品買ってきた」

そりゃ機械工学だ、さっきの説明覆るからやめろ!

「まぁ…お前が休みに家から出ることなんてそれくらいしかねぇか」

ちなみに今は夏休み

「夕飯には戻るよ」

部屋は二つ取っている

一つは生活スペース、もう一つはコンピュータースペース

妹がずっと使ってる

「夕飯作っとくぞ」

「うん」

「何がいい?」

「ラーメン」

「へいへい」

「ありがと!」

はにかんで笑ってみせた

「じゃあ、よろしく」

「あぁ、そうだ」

「ん?」

「尾行者の特定頼んでいい?」

「あぁ〜いいよ」

「お願い」

「うん!」

一個向こうの部屋に入って行った

俺も部屋に入って

まず冷蔵庫を漁った、

えっと

ニンニクと昆布とチャーシューとモヤシとインスタント醤油ラーメン

これでオッケー

よく全部あったな…

まず、ニンニクと昆布を鍋で煮立てて出汁をとる

まぁ、その後は普通にラーメンを作る

その間少し考え事をしていた


俺たちには両親はいない、死んでしまった

その時は小学生だったので特に何も感じなかった

今も何も感じてない

小学生が終わった時に施設生活がめんどくさすぎて飛び出して来た

バイトで稼いでいる、しかし…妹の収入が一番デカイ…

「紐…」

本当に恥ずかしいよ…

それにしても…今日の尾行者何が目的だったんだ?


これは昔後輩と交わした会話だ

「先輩、人を殺すってどういうことだと思います?」

「それはお前が答えるべきだろ?」

「私にとって、殺人は何でもありません」

「殺人鬼なのにか?」

「殺人鬼だからこそです、だから教えてください、どんな時なら人を殺していいんですか?」

この質問に俺は答えられなかった

そもそも、この世に殺しちゃいけない人間が存在するのか、それが疑問だった、どんな奴でも生きてさえすれば恨みは買う、つまり殺していい人間しかいないと思う

「まぁ…いいか…」

あと3分で完成

「うにャァァァァァ!」

隣の部屋から悲鳴が聞こえた

俺は部屋を飛び出し奥の部屋を開けた

とんでもない熱気が俺を襲った

「くを!?なんだ!?」

すると中から妹が床を這って出てきた

「助かった…クールダウン装置をつけ忘れてて…部屋がサウナよりも温度上がっちゃった…今この部屋日本のどこよりも熱い自信がある!」

「てことはPC落ちたのか?」

「うん…」

「じゃあ部屋が冷めるまで夕飯でも食ってろ」

「はー…兄さんの尾行者特定しかできなかった…」

早すぎだろ!?

「いや…、防犯カメラ漁るだけだし結構早くできるよ、それより、とりあえずご飯食べよ?お腹空いちゃった」

「おっけ」

隣の部屋に移動

の前に…

「窓開けたか…」

「…あっ…」

「馬鹿…」

「でもクールダウン装置は急いでつけたからついてるよ」

「…ならいいか…」

隣の部屋に移動

「座ってろ」

「うん」

俺は二つ皿を取り出し、それにラーメンをよそった

「兄さんが作るラーメンって美味いよね」

「水じゃなくて出汁だからな、そこの違いだろ」

「出汁って感じエロくない?」

「バカ」

それに言うなら出汁って漢字が…

何言ってるんだ?

「兄さん兄さん、これ読める?」

俺がラーメンを前に置いている間

妹は紙に記号を書き出し始めた

々♪¥ 211111^

「これが追跡の犯人」

「んー…あぁ…あぁ!?あいつ戻ってきたのか!?」

「らしいね」

この記号の意味の種明かし

アイファンのタッチパネルの数字入力画面、つまり

々は『ゆ』

♪は『う』

¥は『き』

2は『か』

11111は『お』

^は『り』

結城馨

中学の時俺の一個下の学年で妹の同級生

俺が中三の時とある事件に巻き込まれと言うより巻き起こし、その際殺人鬼として目覚めてしまい、それ以来、放浪の旅に出ている

考えてみれば俺らとんでも人生送ってるな…

「馨がねぇ…」

「あいつならそこまで心配する必要もないか…

そういや全然関係ないけど、受験どうするんだ?」

あまり脅威ではないと考え話を変える

「いや…どうしよ?」

「内申は?」

「推薦でどこでも行けるくらいの成績は取れてる」

「…」

ラーメンをすすりながらそんな話をする

「兄さん、ゲーム買って」

「急に!?」

「新作ゲームがねぇどうしても欲しくて!」

ゲームの新作か…そういや俺も気になってたやつだな…

「わかったよ…」

「じゃあ買いに行こ!」

「おっけ…」

「じゃあとっとと食べ終わろう!」

3分で完食…

脇腹いてぇ…

「頭痛い」

かき氷じゃねぇんだよ…

「かき氷のあのキーンってやつ確かかき氷がはいってる皿をでこに当てると治るとか何とか…知ってた?」

「へぇ…知らんかった」

ふと、妹が考える顔つきになる

「…それにしても馨か…あいつ…いや…まさかなぁ…」

「ん?どうした?」

「いや…なんでも…ほら!兄さん早く準備して!」

机を足でガンガン叩いてる

と言うことで、俺は着替えて外に出た

汗かいてたしね

外に出たところでお隣さん、と言うかコンピュータルームの隣に住んでいる神無月 弥生にあった

名前がややこしい

そして何と言っても

「私の誕生月は水無月だよ」

らしい、ややこしいにもほどがある

「ややこしいとは何よ…好き好んでこの名前名乗ってるわけじゃないのよ、ただ両親が間違っただけで」

「いや、弥生と水無月は間違えない気が…」

「いや、神無月の方」

「苗字!?」

「弥生の方は気に入ってるから」

「なるほど…」

「まぁ、どうしようもないんだけどね、結婚したい…」

「兄さーん!は〜や〜く〜!」

「おっと、ごめん、行かなくちゃ」

「そうかい、そうかい、まぁ、せいぜい背後に気をつけな」

「襲うんすか?」

全力でやめて欲しい

男に飢えすぎだろ

「あぁ…そういや下の睦月ちゃん、テスト勉強してるらしいから、あんまし騒がないでだって」

「騒いでないですよ?」

「さっき奇声あげてたでしょ?」

「あっ…すいません」

俺じゃないけど

「ダイブ!」

頭に飛び蹴りを食らった

「痛っ!」

「兄さん遅い!」

「やかまし!」

ヘッドロックをかました

「ギブギブ!」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!」

したから怒声が聞こえた

「ごめん!」

神無月さんに謝り

俺は妹の手を取って走った

「どこ行く?」

しばらく走って落ち着いた時に聞いた

「んー…近くのところでいいよ」

「おっけ」

しばらくして、大通りを歩いていると

「で?今回のゲームってどんなスケールなの?気にはしていたんだけど…」

「スペック底のカスゲーよ」

「いや…それは毎回聞いてる…」

「私が作ればフルダイブまでできるのに」

「そんな予算ねぇよ」

ゲームショップのところには行列ができていた

その行列の中に明らかに浮いている男が並んでいた

なんたって格好がチャラいの域を超えてる、何だ?あのネックレスとブレスレットの量

「やぁ、来ると思ってたから並んどいたよ?」

「柏木さん、相変わらずですね」

俺は妹に金を渡して並さして柏木さんと列を出た

この人は俺の部屋の一つ上の階の住人だ

「何ですか?今回は…」

「そう固まらないで…今日は僕からの忠告だよ」

「何ですか?」

「君の妹について、あんまし悪いところに手を出さないように言っといてくれないか?そろそろ…いや、いいか、お願いするよ?」

「あいつ何やってるのかよく知らないんですけど…」

「殺人の隠蔽とかもやってるんだよ?」

「…そうですか…」

「そうですかって…はー…君たち兄弟はいつもそうだ、危機感が足らない、言ったからね、お願いだよ?」

「直接言えば…」

「君にしかできないんだよ」

「…?」

「兄さん!ゲット!」

と俺の腕に手を回してくる

そして柏木さんを見据えて

「柏木さん、何かと心配で兄に忠告してくれたんだろうけど、私は楽しんでるんだよ?余計なことしたら」

こいつは自分のやりたい事を拒まれるとすげぇ不機嫌になる

「殺すから…」

殺気、とんでもない量の…

柏木さんは一歩引く

「…僕からは以上だよ…」

と一言残して消えた

「あんまし危ないことするなよ?」

「兄さん、大丈夫だから」

「…」

「ん?おぉ?オォー!」

急に叫ぶ

「兄さん!ゲーセン寄ってきていい!」

「別にいいよ」

「ありがとう!」

「先に帰るからな」

「うん!」

ということで帰宅

しようと思ったのだが…

「またか…」

付けられてる…

どうも昨日と違う気配だった

背後に気を向ける

背後に気を向けすぎてしまった

体強い衝撃を感じた

蹴られた…

前から!?

「ぐっ!」

必死で受け身を取る

「ん?…周りに人が…」

いない

「こういうの、結界っていうらしいぜ」

目の前にごつい男が立っていた

すると、その後ろから

「やっと捕まった、おい、とっとと喰っちまおうぜ」

「焦んなよ…こういうのは、順序が大切なんだよ」

男はポケットからハサミを取り出した

俺も懐からナイフを取り出し構えた

その構えも無意味だった

ハサミはいきなり形を変えた、

そのハサミは巨大化し双方の刃がナイフのように鋭く光っていた

何やら不自然な光が宿っている

「けへへ、行くぜ!」

男はとんでもないスピードで突っ込んでくる

そのハサミが俺の腹部を貫こうとする

刃物、その斬撃は避けてはいけない、刃物は一撃目よりも二撃目三撃目が重要なんだ

なので俺は体をひねり上手く相手の懐に入った

刃のない手首から肩にかけての防御はほとんどない、無駄のない動きで最低限の攻撃を加えるだけで崩れる

俺は相手の伸びきった腕をナイフで切り落とした

そしてそのまま後ろにはねる

ふと、相手を見ると、相手は自分の切れた腕を拾ってその切り口をつないでいた、

スゥ…

と音を立てその傷がふさがった

「…イテェじゃねぇか…」

足を掴まれた

いつの間に…

そして持ち上げられ宙吊りになった

「けへへ、人間の中では強いんだろうがよ…俺たちの中じゃ全然だぜ!」

けへへ、と男は笑う

「富永さん、俺にも喰わせてくださいよ?」

「わあってるよ!」

その会話の間に俺はもう一度相手の腕に差し込んだ

「ぬっ?」

相手の手が緩む

そのまま半回転して着地し、一気に間合いを詰め

相手の心臓を刺した

「おい、小僧、調子にのるなよ…」

効いてなかった、まるで手応えがなかった

相手は足を振り上げた

その足は俺の鳩尾に直撃する

俺は吹き飛んだ

「ガハッ…が…」

「テメェ、たかが人間風情が俺たちに勝てると思うなよ…」

男は俺の腕を掴んだ

「ふんっ!」

ブチッ!

そんな音が俺の耳に聞こえてきた

痛みが一瞬遅れてやってくる

「ガァァァァァァ!」

それは想像もしたことのない痛みだった

「ほれよ、お前が俺にしたことでもあるんだぜ?、まぁ、俺の型のやつらはどうも痛みに対する耐性が強いようだな…」

俺の腕をもう一人に投げる

しかし、腕は地面に落ちた

正確に見てはいないのだが地面に落ちた音が聞こえた

二人でそちら見る

「いやぁ…先輩なんでそんな無様に転げてるんですか?」

そこに男は倒れていた、首と胴体が切り離れていた

そして、その死体の心臓をそのフード付きパーカーの顔に火傷のついた殺人鬼は喰っていた

「久しぶり、先輩」

「馨ちゃん…」

「んだ?テメェ、仲間か?なんならなんで喰う邪魔をする」

それを無視して、

「ところで先輩、どうしてほしい?」

俺は激痛に耐えながら

「助けてくれ…」

そう言った

「さて!」

と馨ちゃんは腰のホルスターからナイフを取り出した

そしてそれを構える

「誰だ?てめぇ…」

「私は結城馨 それ以上でもなくそれ以下はない、ただのしがない殺人鬼だよ」

と言った瞬間ナイフが変形する

その形はもはやナイフを保たない

その形は処刑鎌

デスサイズになっていた

つまり大鎌だ

「お前…ナイフはどうしたんだよ…」

もはや変形については何も言わない

こいつはナイフ専門とでずっと戦ってきてたはず

「まぁ見ててくださいって」

「何をだ?テメェが死ぬのをか?」

男が毒づく

しかし、なぜかそれが虚勢にしか聞こえない

「あはっ」

クソが!

と男は飛びかかる

馨ちゃんはデスサイズを動かしもしない

「なめんなぁ!」

男のハサミが馨ちゃんの首を捉える

その瞬間

男が吹き飛んだ

「ガハッ!」

男の胸にナイフが刺さっていた

「投げナイフ…」

だからデスサイズを…

あの処刑鎌を使ってればそれにばっかり目が向いて他に注意がいかない、それに、あいつの投げナイフスキルは確かに壁をも破壊するとかなんとか…

「全く…こんなガキにヘマをするとは…」

男は立ち上がる

「次はこんなヘマしねぇ…」

「そう」

と言った瞬間馨ちゃんが消えた

ドン!

気付いたら男の懐に入り込み心臓付近に掌底を食らわせてた

「…………」

男は無言で倒れた

「心臓止まっちゃったかな?

…先輩大丈夫…って!何で自分で止血してないんですか!?腕が取れたら自分の手で出血を抑えるのが普通ですよ!」

「痛みでんなこと考えられてなかったんだよ…」

「はぁ…じゃあ、住所言っていってください」

血が流れすぎてそろそろ気絶しそう…

「住所言ってってください!」

俺は薄れゆく意識の中でとりあえず住所を教えた


…さっきの戦いツッコミどころ多すぎじゃね?

布団の上で目を覚ました

変な夢みちまったよ…

腕だってちゃんと…

あれ?

なんだ?この袖の血…

おいおい…冗談だろ?

「お兄ちゃん!大丈夫!」

「呼び方が昔に戻ってるぞ…」

「ん…」

顔を赤らめる…

「兄さん、色々ということがあるんだけど…ちょっと外に出てくれない?」

「ん?」

俺は言われるままに外に出る

下には広いスペースがある

そこに大家さんと馨ちゃんが向き合って立っていた

「何やってるの?」

「入居テスト」

「はっ?」

大家さん、津堅 勝己

大家さんというワードから連想するほど年はいってない

二十代後半

ん?なんか二階より下の住人、全員集まってないか?睦月ちゃん以外

「入居テストってここに住むの?」

「らしいよ」

「…んでテストって?」

大家さんと懐からハンマーを取り出す

馨ちゃんはホルスターからナイフを取り出す、刃が日本刀の

「ふむ…そんな小型な日本刀なんて存在するんだな…」

大家さんのナイフがハンマーに変形する

えっ?マジで?

大きくなって金色に光り出した

「ミョルニルか…」

馨ちゃんが呟く

そして続けて

「舐められたものだね?」

「なんだ…知ってるのか?

相手の実力を試すんだから本気でやる必要はないだろう」

北欧神話のトールが持つ武器ミョルニル

馨ちゃんのナイフが変形する

大きな鎌になった

「アダマス…っ」

「あはっ」

先に動いたのは馨ちゃん

懐からナイフを一瞬で取り出しを投げた

「!?」

そのナイフをミョルニルで弾く

ガワン!

と変な音がした

「…ヤベェな…」

とそのハンマーを上に掲げる

「!」

馨ちゃんは横に飛んだ

その場所に雷が落ちた

「たかがと思ってたけど流石完全兵器ミョルニル…危なかった…」

「流石にお前も光より速く動くことはできないよね?」

「んー…けど、あなたの反射神経より速く動ける自信はある」

といって馨ちゃんは走った

一気に間合いを詰める

大家さんはいたるところに雷を落とすがそれは当たらない

「ちっ!」

一気に懐に飛び込んだ

そして拳を振り下ろした

いわゆる鉄拳である

「ガハッ!ガァァァァァァ!」

ものすごい勢いで吹き飛ぶ大家さん

大家さんは体制を崩すものの意識は飛ばなかった

そして体制を立て直す

間合いもあそこまで吹っ飛べばバッチリとれていると誰もが思う、俺だって思う

しかし、間合いは変わらなかった

よくよく考えれば単純なことで

後ろに飛ぶのと前に飛ぶのでは前に飛ぶ方が飛距離は高い、だったら間合いを詰めるのも前の方が早い

その後の勝負も一瞬だった

馨ちゃんが拳を振る

それが大家さんの頭に直撃する

ふらつく大家さん

「なんだよ…この程度か…」

と馨ちゃんが本気の(かどうかわからないが、それ相応の)一撃を腹にぶち込んだ

大家さんは吹き飛んだ、そして、壁を突き破り見えなくなった

馨ちゃんは傷一つ付いていない

しばらく沈黙した後

大家さんが瓦礫の中から出てきた

「合格…」

「よっし!」

ガッツポーズをする

「ということで新しく303号室の住人の結城 馨さんだ…」

「どういう事だぁ!説明しろぉ!」

俺は叫んだ

「あー…えっと馨ちゃん?だっけ?説明してあげて、妹さんじゃ説明しずらいだろうし…」

「いえ、私がします」

妹が言う

「ん?できるのか?」

「しなきゃいけないでしょ?私が…」

「一応私も」

と馨ちゃんがいう

とコンピュータルームに入った

「今回はちゃんとクールダウン装置をつけてっと

さて…どこから説明しようか…」

「先輩はどこまで覚えてる?」

「何を?」

「昨日のこと」

「昨日?おい、今日って何曜日?」

妹に聞く

「土曜日だよ?」

「一日立ってるのか…てことはあれは夢じゃない?」

「その通りだよ、私も先輩見てちょっとテンション上がっちゃって遊んじゃったけどというよりそのせいで先輩出血多量で死にかけてたんだよ…あれはどうしようもなかったね…」

「はっ?」

じゃあ…こいつらはどうしたと言うんだ…俺を…

「兄さん、ブラム・ストーカーの吸血鬼ドラキュラは知ってるよね?」

「逆に知らない奴がいるのか?」

「それを金字塔に発展していった吸血鬼物語はいろいろあるけど、特筆して同じ部分って何かわかる?大きく分けて二つ」

「人の血を吸う」

「後一つ」

「…吸われたものは吸血鬼化する…」

「その通り」

…?

「ちょっとまて…話の意図が全然読めない」

「一年前だったかな?私が新型インフルエンザにかかったことがあったでしょ?」

「あぁ…」

あの時は大変だった…

「あの時、私の症状はもはや死んでもおかしくない領域まで達しっていたんだよ…」

「死んでもおかしくないって…」

「えっと…葵、説明じゃラチがあかないよ、画像とか…何か…」

馨ちゃんが助言する

「確かに…うーん…」

葵が足でキーボードを叩く

三面画面のうち一つに映し出されたのは防犯カメラの映像だった

そこに写っていたのは人が人を惨殺する画だった

「えっと…わかんない…」

「まだみて」

「んー…」

凝視する、しかし、そこまで見る必要もなかった

喰ってる…喰っていた

「ダイジェスト版です」

「リアルタイム!?これ!?」

「ハックするのにキーボードを叩いたんだよ」

「場所特定からハックまでを10秒足らずで!?まじか!」

「しかも足で…」

「そこだよねぇ、人の惨殺プラス共食いを見て驚くところそこ?馨ならまだわかるよ、血の中で生きて来た馨なら、でも兄さん?」

「うるせぇ…んで?これを見せてなんだよ」

「だから、人を食う存在がいますよ、そして、それの元となった存在は吸血鬼ですよってこと」

「吸血鬼って確か、噛み付いたら吸血鬼する」

「そうだよ、けど喰ったらどうなるかって話は聞かないでしょ?喰ったらその人間は死ぬ」

「だからそれが…いや…まて…インフルで死にかけてたって言ったよな…まてよ…そん時看病してたのって…睦月…」

「睦月だけじゃない、ここのアパート全員がそうなんだよ。あん時は睦月が私を助けてくれたんだけどね

マンイーターになったものの治癒能力は半端ではなく上がる」

「…それでお前が助かったと…ん?マンイーター?」

「うん、吸血鬼っていうのはちがうんだよ、マンイーター、人間を超越した存在、人間を食うもの、モチーフは吸血鬼」

「それなんだ、さっきから気になってたけど、モチーフ?」

「…マンイーターっていうのはどうも概念なんだよ…」

「どういうことだ?」

よくわからん

すると、馨ちゃんが口を挟んで来た

「私から説明するよ!」

「ん?…おねがいする…」

妹が投げた

「マンイーターの元を辿ればとある男にたどり着く、その男は概念を操る存在だった。そして、その存在はゲーム好きだった

だから、マンイーターという概念を人に植えつけた

おもちゃとして

ベースは吸血鬼だ、人を食わなきゃ生きていけない、物質を変化させられる、不死性も、致命傷を与えなければ回復とか、血を吸ったらそいつもなるとか…まぁ、繁殖性は一人一回ていう制限付きだけど、劣化版吸血鬼、それがマンイーターだね、けどさ、そんな存在がいたらどう思う?人として」

「倒さなければならない…」

「そう、その存在は人間とマンイーターが戦争するところが見たかったんだ、しかしマンイーターこれがなかなか賢かった、少しずつ少しずつ繁殖を繰り返し、例えばマンイーター同士でSEXしたらどうなると思います?」

「…」

馨ちゃんの口からSEXという単語が出てきて少し驚いている…

「マンイーターが生まれるんですよ、マンイーターと人だと…マンイーターです、人の方が劣勢とみなされるようで…それにマンイーターになったものは著しく能力が跳ね上がる、ほら」

おらっとパソコン本体を殴る

「何すんの!うわ!ディスプレイが暗転した!どんな力で殴ったんだよ!ひっでー!うわ!本体から煙出てるじゃん!私が殴っても壊れないように作ったのに!」

「それで現在マンイーターはどうなったんだ?」

それを無視して聞く

「数が多すぎて現在表向きに活動している奴らが増えてますね、先輩を襲ったのもその関係でしょ?警察も黙ってないよ…そろそろね

つまり単刀直入に言えば、あなたは赤桐葵によりマンイーターとなりました」

それはわかってた…

「俺は何をすればいいんだ?」

とりあえず今の状況を受け入れよう…

「大家さんに聞いてきて」

投げられた

妹が喚いてる間に外に出た…

何も変わらない…なんの自覚もない…本当に俺は変わったのか?

俺は一階に降りて101号室の大家さんを訪ねた

「大体の状況は把握した?」

扉をあけて開口一番それだった

「はい…」

「そう、じゃあとりあえず中入って」

俺は中に案内される

「座って」

「はい…」

「いった…あのガキ…殺人鬼だか何だかしらねぇけど少しは手加減しろよ…実力差は目に見えてただろうが…」

「あの…」

「あぁ、悪い…じゃあとりあえず、これ食え」

心臓だった、何の心臓かは一目瞭然

「人間の心臓だ」

俺はそれを手に取った

そしてそのままそれにかぶりついた

「相変わらずぶっ壊れてるなぁお前らは兄妹は妹もそんな感じで躊躇なしだったぜ…んで?どうだ?うまいか?」

「美味しいです…」

この美味さに俺は戦慄した、そして実感した、俺は変わったのだと

「人間の飯も食っとけよ、あくまで俺たちは存在という概念を保つためにこの捕食を繰り返してるんだからな、つまり人間なんだよ他のところはだからちゃんと食えよ?」

「…そうなんですか…わかりました」

「あっ?」

「大家さんとか馨ちゃんとかやっていたあの武器変形って俺でもできるんですか?」

「テメェの妹に聞けよ」

とりあえず状況は把握できた


101号室

津堅 勝己 大家さん

102号室

冬空 睦月 高校二年生

103号室

柏木 御影 遊び人

201号室、202号室

赤桐 悠馬 大学生

赤桐 葵 技術者、高校三年生

203号室

神無月 弥生 色々不明

301号室

川澄 昴 バー経営者

302号室

伊月 儚 小説家

303号室

結城 馨 殺人鬼、ニート

「ニートって何ですか!」

だって仕事してないじゃん

まぁ、そんな感じに


「そうじゃない!兄さん」

「ねぇ、葵〜手合わせしてよぉ〜」

「兄さんの練習が先!」

武器変形の方法を教えてもらっていた

「…とりあえず実践して貰えばわかるかも…」

「もう、兄さんまで…」

葵は懐からナイフを取り出す

その形が変形する

そして槍の形に変化する

「ロンギヌス…まさか…」

「すごいのか?」

「ロンギヌスは期待武器、上から二番目だね」

「そこんとこ、説明してくれない?」

「えーっと、この武器は上から完全兵器、期待武器、上級武器、下級武器にわかれる、完全兵器はさっきのミョルニルとか、私のアダマスとか…んで持って、特例を除いて武器は一人一本、もちろん他の人が使おうとすれば元に戻る」

「んで?馨、やるの?」

葵が折角だから見たいな感じで聞く

「良いよ、嫌良いや…」

俺が止めた

「良いんだ…」

「何となくコツが掴めた」

と俺はナイフを握り殺すことを考える

すると

ナイフが変形して少し長い剣の形になる

「カラドボルグ…」

「さすが私の兄 期待武器を出せるならいいんじゃない?その上のは大家さんと馨ちゃん以外は見たことないし」

「うんうん」

葵がロンギヌスを元に戻す

「やっぱ試合しない?」

「…今しまったばかりなんだけど…」

「良いじゃん」

「良いと思うよ」

「兄さん!」

ということで対戦決定

外で馨ちゃんと葵が向かい合っていた

「さて、始めよう」

馨ちゃんはナイフを構えるそのナイフが変形し大きな鎌になった

葵はため息をしながらナイフを構えるそのナイフが変形し槍になった

「さて、始めるよ」

「ここじゃ狭いんだけど…」

「何?場所が悪いとできないの?」

「いや、周りを破壊しちゃうから…まぁいいか手加減するよ」

「…じゃあこっちも手加減するよ…あーあ、真剣勝負したかったのに…」

「仕方がないよ」

「じゃあ行くよ」

馨ちゃんが走り出した

葵は空に浮いた

そしてロンギヌスが分裂する

それが葵の周りを回り出す

「いけ!」

ロンギヌスが馨ちゃんめがけて飛び出す

それを避ける馨ちゃん

しかし、

「ん?」

ロンギヌスが光り出す

そして、決して小規模でない爆発が起こる

「ぬわっ!一本で!一本でこの威力!」

「私はいくらでも出せるけどね」

二本、

「はぁ…」

馨ちゃんは懐からナイフ取り出し槍に当て軌道を逸らす

爆発するが当たらない

馨ちゃんが消えた

一瞬で葵の目の前に行く

「ちっ」

「あはっ」

アダマスが葵の頭に当たろうとする

葵はロンギヌスを手に取りアダマスを防ぐ

そして必然か偶然か

そのロンギヌスが爆発した

馨ちゃんが吹き飛ぶ、葵はそのまま空中に浮遊し続けていた

「私の起こす爆発で私は傷を負わない…なんか皮肉だね」

いや…何が?

「ロンギヌスは神殺しだからね」

「へー、じゃあ、これはどう?」

馨ちゃんは、アダマスを遠距離で振る

するととんでもない風切り音が響いた

衝撃波

それをもろで食らう

ロンギヌスで衝撃波の切れ味は消せたようだが衝撃は消せなかった

「うわっ!」

葵は吹き飛んで地面に着地した

「近距離の武器で遠距離の攻撃するのって何なの趣味なのかな?私…」

投げナイフもそうだな、確かに

「痛た…」

「まぁこれくらいでいいか」

「うん」

「先輩も早くカラドボルグを使いこなしてください、最低限自分の身を守れるようにしてください」

「あぁ…」

「特訓には私が付き合うよ…」

後ろから声がした

俺たちは振り返った

アパートには前には大きなスペースがある、その場所の奥に道路に出る塀がある

そのところに人が立っていた

「ヤァ…睦月ちゃん…」

「テストどうだった?」

「いい感じだよ」

「…えっと…どうして君が?」

俺の稽古を?

「そりゃ…あんたが嫌いだからだよ」

「…葵…助けて…」

「生憎…遠距離型の私じゃ稽古にならないし…」

「馨ちゃん!」

「私も…加減の仕方があんましわからないんで、ある程度の実力がないと…」

「ということだ」

俺は笑いながら睦月ちゃんを見る

睦月ちゃんも笑っていた

しかし、その笑みは冷笑だった…

「…おら、ついてこい、ここじゃやりにくい」

今からっすか?

「まさか…睦月、あそこ?」

「ん?どこ?」

葵と馨ちゃんが対局のリアクションをする

「地下だよ、前に葵がロンギヌスぶっ放して崩壊させたあの地下空間」

「びっくりした…精神と時の部屋かと思った…」

永遠にいじめられるのかと…

「無駄に年取りたくない」

そりゃそうか

「追いついてこい」

俺はSOSの信号を二人に送る

二人は親指を立てていた

言わなくても何が言いたいかわかる…

グッドラック

「おーい、勝己さん!地下室の鍵貸して!」

「勝手に取ってけ!」

「はーい」

睦月ちゃんは近くの植木鉢を拾い上げた

そこに鍵があった

「ほら、ついてこい」

「いや…今日は用事が…」

「何?」

「…買い物…」

苦し紛れだった

「…あんたにはパシリがいるでしょ?」

「パシリって馨ちゃんのこと?」

再び馨ちゃんの方を見る

親指を立てていた

「ほら、ちゃんとしてくれるって」

「いや…そんなテレパシーみたいな能力持ってないよ…」

「私の知り合いの弟がサイコキネスの使い手とか聞いたことがあったような、なかったような…」

「だいぶ種類が違うよ…サイコキネシスとテレパシーじゃ…」

「サイコキネスじゃなくてサイコキネシス?」

「サイコキネスは確かポケモンだった気が…」

うろ覚えだし間違ってるかもしれないけど…

「どっちでもいいんだよ…」

ゴミ回収のところの目の前にいた

「ここ?」

睦月ちゃんは扉をあけ中に入る

その奥の床に蓋みたいな、よく見なきゃ気付かないような扉があった

「こりゃ、気付かないわ…」

「このした、食料倉庫とか後は広いスペースが何個かあるんだ」

「誰が作ったの?」

「さあ?」

しらねぇのかよ…

鍵を開け蓋をあける

階段があった

「ほらついてきて」

「このした…」

オレンジ色の光が灯る階段を下る

「どこまで知ってるの?」

「あっ?」

「いや…テールムについて」

「テールム?」

「武器変化した後の武器のことをテールムっていうの」

「へー…」

冷蔵庫みたいなものが置いてあった

「これは?」

「この前、葵が作った、死体保管冷蔵庫」

「へっ?」

俺は中を覗き込む

死体と目があった

気まず…

「別に死体のまま保管しなくてよくない?」

「死体には死体の使い道があるんだよ…ほら、よそ見しないで…」

さらに階段を下っていく

薄暗い階段が終わった時に

すると広いスペースに出た

「ここは?」

「…あんまし質問するなよ…ここは、特に何でもないよ…ただ、いたるところに繋がってる道の中間点って感じ、この前葵に吹っ飛ばされた時は、マジで直すの大変だったんだぞ…三石さんに手伝ってもらって…」

「三石さん?」

「今度会えるよ…あの変態には…とりあえず…」

と持っていたバックを漁る

俺は身構えたがすぐに解いた

出したのは紙だった

「問題、教えてくれ、あんたは嫌いだけど、他に聞く奴がいない」

「わかったよ…」

嫌いだけどって…

わからない問題を聞いてみると重点的に数学だった

確率とか三角関数とか

俺は得意だからいいけど

「ハイスペック兄妹が…」

そんなこんなで一時間くらいみっちり教え込んでから

「よし!」

と睦月ちゃんが立ち上がった

ちゃんと問題をしまってね

そこはしっかりしてる

そして準備運動を始める

そして、睦月ちゃんがポケットから鍵を取り出す

まさか…

鍵がの形が変化する

鍵はとても立派な日本刀になった

「妖刀村正、上級で期待武器のロンギヌスや完全兵器のミョルニル、アダマスには劣るけど、私が使うからにはそれ以上のつもり…あの馨って奴は素性がわからないし、信用はしてないんだけどね、さぁ、構えなよ」

「…」

俺はナイフを取り出す、そして、相手を睦月ちゃんを殺すことを考えた

するとナイフが変形する

「…カラドボルグかよ、何で私の周りは…こんな…まぁいいか…」

睦月ちゃんが跳ねた

鍔迫り合い

「村正…千子」

村正からとんでもない量の斬撃が飛んできた

俺は後ろにはね回避する

斬撃が…その場にとどまっている?

千子ってそういうことか…

斬撃の壁…

近づけねぇ

「ほら…攻撃してきなよ……はぁ…こちらから行くよ!」

相手が間合いを詰める、俺は逃げるしかない

周りの柱などが斬撃で削れて行く

…どうする?…カラドボルグって…

あぁそうか…

俺は遠距離で相手を突く構えを取る

そしてそのまま睦月ちゃんがいる方向に突き出した

すると刃が伸びた

完全なる不意打ち

防げるはずもなく睦月ちゃんを貫いた

「ガァ!?」

カラドボルグ 聖剣エクスカリバーの原型とされる。その剣の特徴は刃の伸縮が自由

剣が元の長さに戻る

貫かれた睦月ちゃんは地面に倒れる

長々と戦闘するというものが結構多いが結局、勝負っていうのは呆気なく一瞬で、どちらが相手の急所を突くかで終わる

「…今回はついてないけどな」

斬撃が飛んできた

「千子、応用編…」

距離を伸ばしたようだ

俺はバク転をして避ける

いや…する必要はなかったな

俺は再びカラドボルグを伸ばす

それを睦月ちゃんは回転して避ける

どうもこの千子中は身体能力も著しく上がるらしい

ただの剣を伸ばす、突くだけが使用用途じゃない

俺は剣を横に払った、

柱を何本も倒し睦月ちゃんを襲う

「ストップ!ちょっと!直したばかりなんだから!」

「ん?やめていいのか?」

「やめちゃダメ…いやいいよ!もういい!怒られるのは私なんだから…稽古とかする意味ないじゃん!元々強いし!」

「それにしても…村正か…ただ、千子を技の名前にするのは史実的に間違ってるよ?」

「いいんだよ…その程度、なんか関連性のある単語を技の名前にしたんだよ、それに千って結構、技的にあってるし…」

俺は話を変える一番聞きたかったことだ

「睦月ちゃん…君はいつからマンイーターになったんだ?」

「生まれつきだよ…生まれた時からマンイーターで物心がついた頃には人の食べ方を知っていた

そして、殺し方も知っていた

どこを突けば人が死ぬかどこを刺せば人は苦しまないか…どこを斬れば自分が苦しまないかよく知っていた」

「…」

「じゃあ…あんたに質問だよ…あんたはマンイーターになってどう思った?まだ日が経ってないとはいえ、一度人を食っただろ?」

「俺は…」

ここは隠し立てせずに素直に言おう

「ただ…食べ物が変わっただけだと思ったよ…」

「そうだろうな?あんたの妹もおんなじこと言ってたよ…お前らはずっとそうなんだ、親が死んだ時も、友達が全員死んだ時も、何にも感じないんだ…」

「…」

「私は…あんたが嫌いだ…」

いや、妹も嫌えよ…

「葵はあんたみたいに虚な人生を送ってない…あんたは天邪鬼なんだよ」

「…」

「ははっ…」

「じゃあ、俺も聞いていいか?なんで、人間に混ざろうと思ったんだ?」

「ダメ?」

「えっ…」

「人殺しが人間社会に混ざっちゃダメか?」

「俺はダメだとは思わない、ただその場合、途方も無い努力が必要だと思うけど」

俺はその努力が足りず、社会に馴染めずにいたしな

「憧れたなら…どんな犠牲を払っても…なるしか無いだろ…」

「そうだな…悪かった…」

ふと何か思い当たったように

「あっ!まずい!今回ここぶっ壊したら、めちゃくちゃ叱られる!まだ大丈夫か?まだバレてないか?なら…このまま私が三石さんに直談判すればバレずに…」

「残念…」

俺は後ろを指差す

そこに、何かを両肩に担いでいる男が立っていた

「あっ…川澄さん…」

「また壊したのか…相手の武器を見たら場所をわきまえろと何度言ったら…」

「いやいや、前のは私のせいだから…」

「葵?」

「私もいるよ〜」

「馨ちゃん」

「帰りにあったんだよ…」

「なんでこの通路を通ってきたんですか?」

「いや…この娘が三人殺してたから死体運びのためにな」

「あっ?」

「兄さん、私に説明させて」

「いや別にいいけど」

やんのか?

「時は少し前…」

始まっちゃったよ!


私と馨ちゃんは兄さんが連れていかれてから夕食を買うためにスーパーに来ていた

「…何買おうか…」

「考えてないの!?」

「いや…私…料理はてんでできなくて…」

「私はできるけど…」

「昔兄さんに教わってたもんね」

「うん」

「じゃあ、簡単なので」

「プレートで焼肉とか?」

「いいね!」

「じゃあ、食材をっと…」

しばらく散策し2人で会計をした

袋満タンの食材10袋ずつ…合計20袋

「買いすぎた…」

「いや…もう少し考えたほうがよかったな…」

うん、絶対考えた方がよかった

「ん?」

「ねぇ?そこの2人?荷物持とうか?」

絡まれた

チャラい五人組に

「いや…遠慮しときます」

「んー…葵ちょっと待ってて、皆さん私が相手するよぉ〜」

「ん?おぉそうか、じゃあこっちに」

と言って路地裏に入っていく、地味にこの辺路地裏多いんだよなぁ、と言うか、人目につかないところが多い

「ドーン」

という声が路地裏から聞こえて来た

そして、私がのぞいた頃には

五人の死体が転がっていた、傷一つなく

いや、数え間違えた

傷のない死体が三つ

先入観で五つと数えてしまった

その代わり、周りにとんでもない量の血がこびりついている

「パンチしたら消えちゃった…」

「さすがにデタラメすぎる…」

マンイーターでもいくらマンイーターでもそこまでデタラメじゃない

「今日の夕飯確保」

「人を…殺しちゃダメでしょ?」

「別に変わんないよ」

「まぁ…殺したものは仕方がないけど…」

「それにしてもよく、私みたいな顔面火傷に声かけて来たよなぁ…」

「気づいてないのかもしれないんだけど、その火傷が結構いい感じに可愛さの味を引き出してる気がする…というか!これどうやって運ぶの!」

「それは…どうしよ?」

「ん?」

私がとある人を見つけた

ほんとに偶然

私は走った

「か、わ、す、み、さーん!」

一二三四とステップを踏みさーんで私は飛び蹴りをかました

ほんと勢いで

その足を片手で受け止める

周りに注目されたそりゃそうだ、あれ?ここから馨は…見えない?

「なんだ…」

「あっ…ごめん」

「はーっ…で?何の用だ?」

「えっと話せば長いから簡潔に」

「早くしろ…俺は帰りたい」

「今回、新しい住人がアパートに引っ越して来ましてその人と買い物に来てたんですけど…荷物が多くなってしまって運んでもらえませんか?」

私達の会話の中に荷物というと二重の意味を込める

「…わかった…この辺だと…そこの路地のところに隠し通路が…あれ?」

「路地がない?」

「結界か…」

「結界?」

「結界の範囲内は認識されなくなるんだよ」

「まぁ…突っ込めば大丈夫…」

私達は路地裏があると思う場所に突っ込んだ

思いっきり壁でめちゃくちゃ痛かった

「ハリーポッターの気持ちがわかった気がする…」

「わかりたくねぇな」

「遅いよーどこ行ってたの?」

「呼びに行ってた、上の階に住んでる川澄 昴さん…」

「えっと…私は」

「名乗らなくていい…一度でも裏社会に首を突っ込んだものならお前の名前を知らないものはいない…結城 馨だろ?」

「あはっ…そうだね…」

ちょっともどかしそうな顔をする

「…人間か…残り二人はどうした?」

「なんで、あと二人いることに気付いたの?」

「いや…これくらいはわかるだろ?勘?」

「わかんないよ…」

「で?どうしたんだ?」

「殴ったら消えちゃった」

「…マンイーターの能力は元人間の場合、元々の能力に加算される、元がバケモノすぎたんだな」

「まぁ…何人かマンイーターを殺したことはあったよ」

「人間がマンイーターを殺せることなんか無いんだがな…まぁいいか…その二人が逃げたわけじゃねぇなら、逃げた場合の処理は葵の仕事だしな」

「まぁ…そうだろうねぇ…」

と昴さんは地面に埋まっていた鉄板を退かした

そこに通路が見えた

「とりあえずこの三体を運ぶぞ」

と両肩に死体を担ぐ

「葵、お前一つもて」

「はーい…」

私は肩に担いだ

「私は!?袋に20袋!?」

「買いすぎだ…そうだな…今日は全員いるらしいし俺はバーは今日は休みだし、バーベキューでもするか…」

「いいね!」

「私たちが買ったんだけど!?」

やはり意見が合わない…

「いや…そこはちゃんと払うよ…」

「ならいいんだけど…」

いや別に払わなくてもいいんだけど…金ならあるし

「…ついてこい」

「どうも愛想がないなぁ…この人」

「強いけどね」

「私よりは弱いよ」

私達は川澄さんについて階段を下った

そして


「現在に至るってことか?別にこのくだり丸々いらねぇだろ」

「まぁ…確かに、けど兄さんには今日の夕飯が何かは伝わったよね?」

「あぁ…」

けどいらねぇ…

一つ特筆するとすれば…

馨ちゃんがとんでもないクラスの化け物だといことだ

「…ほら…行くぞ、ここの修理は後で俺が依頼しておく」

歩き出す川澄さん

それについて行く俺たち

俺は馨ちゃんの荷物を半分持ってあげた

葵が川澄さんにいった

「私の知り合いにも何人か建築系のスキルを携えている人は何人かいるし、こっちも当たってみるよ」

といった

「そいつら、人間か?」

「うん…まぁ…」

「じゃあやめとけ、あいつは人間みると我慢ができなくなるらしい」

それは…とんでもない奴がいたもんだ

「あいつって?」

「三石だ」

「さっき睦月ちゃんが言ってた人か…」

「どんな人?」

「正確な情報は聞いてない」

「正確に言っても変態だよ」

再び冷蔵庫の横を通る

「そういや、これお前が作ったらしいな…」

葵に聞く

「ん?あぁ…そうだよ」

「もうちょっとマシな保管庫は作れなかったのか?」

「これを使うのは私達だけじゃ無いからね」

「そうなの?」

「うん、その辺の説明はおいおい」


地上に出た

空が眩しかったってこともなかった

すっかり夕暮れだった

「とりあえず、この量なら全員分いけるだろ、そこの三体もあるし」

「なんでこんなに買ったの?」

「いや…気づいたら…」

「お前らこれから金輪際二人で買い物に行くな…行くとしても所持金1万円までだ」

「はーい…」

「俺は三階と二階の連中を呼びに行くから、お前らは一階のやつらを呼んでこい」

「はーい」

「馨ちゃん」

「ん?」

「裏の倉庫の鍵」

と俺は馨ちゃんに鍵を投げる

「えっあっ…」

と受け取る馨ちゃん

「何?」

「準備しといて」

「あぁ…わかりました…」

と馨ちゃんが奥に消えていった


101号室

「大家さん、外でバーベキューやるよぉ〜」

「いや…インターホン押せよ…」

ピンポーン

「んだよ…」

しばらくしないうちに出てきた、

「バーベキューやるよぉ〜」

「金がねぇから無理」

大家なのにか?

「収入はお前らの家賃くらいなんだよ…後は経費からはありねぇからなぁ…」

「経費?」

「あぁ…それも説明しなきゃいけねぇのか?」

「金なら払わなくていいからさ、バーベキューにはきてよ、そこで色々説明して?私もよく知らないしその辺」

「…あーっ…わかったよ」

大家さんは渋々了承した


103号室

「柏木さん」

「だからインターホン押せって」

「押さなくてもいいよ、僕はそこにはいないし」

小柄な男が立っていた

「やぁ、僕に何か用かな?今の僕はそこにはいないしな後に千の風になってを歌いたかった僕になにかようか?」

「ウゼェ…」

「柏木さん」

まるで昨日、いや、一昨日のことがなかったように葵は話しかけた

「なんだい?」

一昨日のことを完全に引きずっているような声で柏木さんは答えた

「バーベキューするよぉ〜」

「君とは好きな部位が被っちゃってるから喧嘩になっちゃうよ?」

「好きな部位!?」

「いや…バーベキューなんだから用意はあるんだろ?肉の」

「なんの?」

「いや…そりゃ…人の」

「あるけど…それにしたって好きな部位って…」

「私たちが好きな部位は…デケデケデケ…デン!」

いやいらねぇよ…その効果音

「目ん玉です!」

とりあえずむせた、予想だにしない部位だった

「目って…」

「一つの個体に二つしかないんだよぉ〜貴重なんだよぉ〜」

「だけど…食うところじゃねぇだろ…」

「兄さんにも目の美味しさを教えてあげる!」

「かー…んで?どうするんだ?柏木さん…」

「んー…まぁ、折角だし行こうかな?」

「わかったよぉ〜」

柏木さんは快諾した


誘いが終わり馨ちゃんと合流して準備をしている時に馨ちゃんに聞いた

「そういや、馨ちゃんさっき、あのバカと人間の部位について話してたんだけど、馨ちゃんが好きな部位ってあるの?」

「断固心臓です」

「…」

確かに初登場の時も食ってたしなぁ…

「あれにかぶりつくのが病みつきで…」

病んでるのはお前らだ…

「そんなことないよ?兄さん、大家さんの趣味が一番やばいからね?」

葵が口を挟んでくる

「なに…」

聞いてはならない気がしたがどうも口が勝手に動いてしまった…

「腸を取り出して、それに肉を詰めて両端を縛るすると、なんと人間ソーセージの出来上がり…」

「きもっ!」

それはガチでキモい

「ほら…話してないで…」

睦月ちゃんが不機嫌そうに言った

「あはっ…あぁ、木炭はそこに置いといて」

「わかった」

馨ちゃんが仕切っていた

そして、十分で完成したのだが仕切っていたのは馨ちゃんだった


三十分後

全員が集まった

「ごめんなさい…わたし遅れちゃって…」

一番早くきた伊月さんが俺たちに謝った

「私のために時間を遅らせてくれたんだよね…ダメだよね、いくら原稿が今日までだからといってみんなの誘いを断っちゃ…」

「終わらせてください…というかあなたそんなキャラじゃないでしょ」

俺は伊月さんにいった

「ごめん…三日オールで…」

「何か栄養価の高いもの作りましょうか?」

「いや…いい、一応私もマンイーターだし…」

あぁ…そうか、そうだった

「さて!紳士淑女の諸君!」

馨ちゃんが何か始めた

丁度俺が乾杯の音頭を誰に頼もうか聞こうと思った時にそう言った

というか…この協調性のかけらのない脳筋集団をよく紳士淑女とか呼べたな

「お腹もすいてきたので乾杯しましょう!」

いや、なんか喋れよ…

「さて、いや…ここの三体の死体もあることですし…この方々の死を悔やみここは…」

「普通に乾杯でいい!」

睦月ちゃんがつっこむ

つーか、馨ちゃん、もう飲んでるだろ…

こんな状況で献杯とかしようとするな!

「コホン、では改めまして、乾杯!」

「「乾杯」」

大家さん、川澄さん、神無月さんが一気に飲み干した

「さてさて、私が肉を焼くよぉ…」

葵が肉を仕切っていた

「まずは、牛!豚!鳥!野菜!んでさっきさばいた…もも肉!」

人の…

ちなみに俺は酒を飲んでいる

葵はオレンジジュースだ

馨ちゃんは酒だ

おい…

大家さんが近づいてきた

「おい、お前ら、俺たちに酒が回る前に色々説明しといてやる」

おぉ!はっちゃける前提だ!

「とりあえず、アカツキにようこそ、悠馬、馨ちゃん」

「ゼロから説明しろよ…」

「わかってるよ…まず、この世界にはびこるマンイーターだが、大雑把に分けて三つの勢力に分けられる

まず、人を食う、マンイーターの中のマンイーター、

つまり右翼だ」

「マンイーターの保守派か…」

「そう、じゃあもう片方は、左翼、人を食いたくない、マンイーターは間違っている、駆逐すべきという思想の持ち主」

「マンイーターの革新派…」

「そんな感じ、そして、それのどっちにも属さない、マンイーターであり人であろうとする思想の持ち主、

それが俺たち中立派だ、名前をアカツキという」

「三大勢力見たい並べたけど、ここの人数で一勢力を名乗っていいのか?」

「いや…あの地下道が繋がっているところがあったろ?あそこから繋がってるところすべてだ」

「あぁ…そういや葵があの冷蔵庫を使うのは私たちだけじゃないとか言ってたな…」

「そうそう、その通り」

葵が言う

「ん?地下道って大丈夫なのか?色々問題が生じそうだけど」

「葵に倒産に追い込ませた会社の放棄地下道だ」

「とんでもねぇ!」

「そうそう、葵、最近のお前の行動はどうも勝手が目立つんだが、いや、勝手はいいんだが、あんまし、危険なことはするな」

「あーっ…うるさ…」

葵は自分のやりたいことを邪魔されると不機嫌になる…ガキかよ

「まぁ、組織みたいに言ったが実を言うとギルドみたいなものだ、いや…同盟に近いか」

「同盟ね…」

「……」

馨ちゃんはこの話が始まってから黙りっぱなしである

「それに、最近とんでもないことが起こってな」

「何?」

「左翼が国家組織に取り込まれた」

「…そんなことって…」

「元々過激すぎてそんなことは絶対なかったんだが…とある傭兵団の団長がお互いのリーダーに掛け合ってそれを達成したとか…色々まとめ上げて確実に組織として成り立つように育て上げた、その際に右翼だったり中立派だったりから結構な人数を引き抜いてな」

「とんでもないマンイーターがいたもんだ…」

「いや?、奴は人間だよ」

「人間?人間がそんな大それたことを…」

「三鷹 飛鳥…」

馨ちゃんが声を上げた

「馨ちゃん、知り合いなの?」

「えっ?あっ…はい、友達です、最も最近は連絡手段さえありませんが…」

「それってどんな人?」

「人間である彼女がそれをできた理由は一つしか考えられません…

あいつは…他人の力を自分のものにできる力を持っています…

ある程度ですが…

彼女は率先して右翼と戦いました。

そして、マンイーターの力を自分の中に取り入れました、

彼女は人間としては規格外です

そんな規格外がまとめにかかったらどうでしょう?

従うしかないと思いますが…

まぁ…飛鳥はそんな事をしなくても持ち前の人望で周りを懐柔できると思いますが…」

「…規格外…そいつ、馨ちゃんより強いのか?」

「いや…流石にそれはないです、私がマンイーターになってから戦ったけど、全く持って相手になってなかったですし」

「それ…いつの話?」

「ちょうど半年前、わたしより強い奴はこの世には存在しませんよ…小説かあの世くらいですかね?」

小説?…そんなキャラ一人くらいしか思いつかないけど

なぜか…なぜか、彼女は楽しそうだった…

「僕も、彼女と知り合いだけど、彼女の強さはあからさまだよ、馨ちゃんが見えない強さなら飛鳥さんは見えすぎる強さだ」

柏木さんがそう言った

「おそらくここにいる人でも、伊月さんと大家ちゃんくらいしか勝てないと思うよ」

「伊月さん?」

「あれ?知らなかったのかい?彼女はとっても強いんだよ、あだ名は脳喰い 脳を好んで食べる変わり者だからそう呼ばれてるんだけど…」

「わたしの話はいいです…それだったら大家さんなんてソーセージって影で言われてますからね」」

「殺すぞ…まぁ…俺たちは左翼よりも右翼との繋がりの方が深い、と言っても敵対をしているところとはしてるがなそれに、左翼側は大体懐柔されちまった…」

とんでもない化け物がいたもんだ

「全体的にマンイーター達はギルド形態を好むんですね?」

「まぁな、俺たちは自分たちを力を信じ切ってるんだよ…いいことでもあり悪いことでもあるな」

「世の中いいことだらけのことなんてないよ…確実に何かそこに損がある」

葵が言った

「さすが、キーボードを叩くだけで世界を滅ぼしかねない奴が言うのには説得力が違うな」

川澄が皮肉交じりに言った

酒入ってるなぁ…

「けど…あながち間違ってないよ、先輩」

馨ちゃんが言う

「赤桐 葵、通称 神殺し 昔、全てのコンピューターを一斉に破壊しようとした張本人、止めるのに全国家勢力が動いたと言うのに、彼女は遊び半分でやったらしい、機械関連で彼女に壊さないものはないし、作れないものもない、それに、操れない組織もないとまで言われる天才中の天才だよ…」

「知ってる…」

それに神殺しの名声については元は葵のものではない

「まぁ、説明は大体以上、別にこれ以上知る必要はないよ…」

「…馨ちゃんね…あぁ!思い出した!」

柏木さんが叫んだ

「うるせぇ」

「死神ちゃんじゃん!冷酷非道の殺人鬼、裏のファンも多いよ!」

「だからウルセェって…」

川澄さんが本当に嫌そうに言った

馨、葵はすげぇ引きつった笑顔をしてる、どうも自分の武勇伝(?)が語られるのがいやらしい

「えーっと…そうだ!肉やけたよぉ!」

「俺のソーセージは!?」

「誰が作るかい!あんなグロいもん!」

俺は色々やらされた

目ん玉食わされたり

心臓食わされたり

最初にダウンしたのは神無月さん急性アル中になってぶっ倒れた、まぁ、マンイーターなのでほっといても大丈夫らしい

次に葵が帰った、まだやることがあるそうで

次に伊月さん、携帯電話に催促の電話がかかってきて、現在部屋で執筆中…ごめんなさい…

ふと、あれ?睦月ちゃんは?と思って辺りを見渡したのだが、初めからいなかったらしい、準備だけして帰ってしまった、どんなボランティア精神だよ…

最後まで飲んでたのは

大家さん、柏木さん、川澄さん、馨ちゃん、俺は途中で酒をやめた

川澄さんなんか性格変わってたからね、最後の方オネェだったから…酒は怖いなぁ…

酔っ払いどもを家に帰して、おれは後片付けをしていた、

ふと、本当にふとだった、なんの気配もなくなんの感覚もなく屋根の上を見た

そこに体育座りをして空を見上げている馨ちゃんがいた

俺は話しかけようとした、しかし、それが躊躇われた

それほどに彼女は悲しそうな顔をしていた

しばらく放っておくことにした

そして、片付けが終了した時に屋根に飛び乗った

彼女は体育座りのまま、こちらを見ずに言った

「先輩…」

「何?」

俺はあくまで冷静に答えた

しかし心情は穏やかではなかった

彼女が、ここまで、弱々しい声を発したのを聞いたのは初めてだったからだ

「どうしたの?」

「さぁ…けど、こうして空を見上げてると、自分って何やってるんだろ〜って」

「…」

「空を見上げてると、色々な悩みと戦える…」

また…珍しい…

人間は忘れたい時に空を見上げるものだが…

「ねぇ、悠馬、私…戻ってきてよかったのかな?…」

「…言ったろ?いつでも戻ってこいって…馨」

「あはっ…久しぶりだなぁ…悠馬の彼女として話すのは…」

「そうだな…」

四年という年月を経ても、俺たちはまだ分かり合えるということに安心した

「ねぇ?」

「何?」

「私のこと好き?」

「お前、昔はそんなこと言わなかったけど…」

「四年も間をあけてれば気になりわするよ…で?どうなの?」

「あぁ…好きだよ」

「あはは、確認おっけー、やっぱし言葉は安っぽいね」

「そうだな」

ふっ

と口を合わせた

相手にとっては完全に不意打ちだったらしく

思い切り俺に頭をぶつけてきた

「いった…なんだよ…」

「ニャー…そういうムードに持った行ってしまった…いや…いまのは私のミスだな…」

と今度はこっちが受け身になった

完全にされるがままだった

「昔に言えなかったけど…私を救ってくれてありがとう…

さて、先輩」

俺は彼女の口を制した

「…今夜はこのままでいいよ」

俺たちは一晩中色々なこと、昔のこと、今のこと、そして、空いてしまった四年間のことを語り笑いあった


次の日

「別にやって無い!」

「嘘!二人で朝帰りとか!絶対にやった!」

朝帰りしたせいで妹と馨ちゃんがヤッタやってないでもめてた、何とは言わんよ

「しかし、蚊がいたな…」

「ん?あぁ、確かに少しいましたね」

「蚊取り線香焚いたんだけどな」

「あのムードで!?、まぁ…先輩らしいと言えばらしいか…」

「どのムードだぁ!テメェら!野外プレイかぁ!」

ひとまずこのバカの誤解を解く必要がある

「おい、バカ」

「呼んでますよ馨さん」

「オメェだ」

と頭を叩く

「私!?私ですか!?」

「俺たちは別にやましいことは…」

キスシーンが蘇る

「…した」

「したんかい!」

「けど、卑猥なことはしてねぇよ、純だよ純」

「んな証拠はないだろうが!」

「おーい、お前らしく無い、だったら俺たちがしたっていう証拠もないだろうが」

「あぅ…けどさ…私が危惧しているのは分かったらよね?」

「…わかってるよ…」

「兄さんの…悪いところだよ」

「知ってる」

「私は別にいいと思うんだけど…」

「一番危険なのはあんたなの、馨」

「あぅ…」

説教する側が変わってきたな…

ドン!とという音ともに扉が開け放たれた

「どいつもこいつもノックしろ!」

睦月ちゃんだった

なぜか息を切らし言った

「三石さんが…きた…」

「マジで!?」

葵が叫ぶ

そんなにまずいのか?

「まずいも何もあの人がここに来るってことは厄介ごとを持ち込んで方に決まってる!」

外に飛び出す二人

つられて飛び出す俺ら

外に出て

気付く

今までの中で一番俺の中で警告音が出ていたことに

あいつはやばい…

その女は空き地の真ん中に立っていた

「フーム…ここは変わらないなぁ…相変わらず…」

と上を見上げ、すなわちこちらを見据えて

「シャイな子たちがたくさん…」

「うわうわうわうわうわ!」

俺は後ろに下がる

危険信号がビュンビュン飛んでくる

「警告…危険なロボット…」

「なんでウォーリーみたいになってるんだよ…」

よくわかったな

ウォーリーとは平たく言えばゴミをまとめるロボットの映画だ

なんの趣旨も伝わらないな

「あら?なんか二人くらい増えてるわね…」

「三石さん!」

大家さんの声が聞こえる

「あんましウチの連中にちょっかい出さないでくれ」

「あら、わかったわよ、まぁでも、今回は否応でも付き合ってもらわなくちゃ…」

とこちらに向けたようなことを発して大家さんの部屋に入っていった

つっても入ったところは確認できないんだけど(位置的に)

「ター…なんだありゃ…新人類か?」

「どういう発想…けど、言った通りでしょ?見た目は普通なのに見ただけで伝わってくる変態感」

「あれで男だったらゾッとする…」

「あはは…」

「それにしても…」

葵が言葉を発する

「今回は何を手伝わす気なんだろ?前はビルのセキリュティ解除だったけど…」

「それはお前一人で片付くよな」

まあねと笑う

「あの人ナニモンなの?」

「色もん」

と睦月ちゃん

「いや…そう言うことじゃなく…」

「フェロモン」

「黙ってろ」

「あの人は有名な仲介人だよ、私も聞いたことはある」

馨ちゃんが言った

「まさかマンイーターだとは思わなかったけど…」

「…まぁ…なんにせよ、その仲介内容によるわけだ…」

と言うことでそのまま待つことにした

「ねぇ…なんか床がギシギシ言ってるんだけど…」

「あっ?葵、どけよ」

「なんで私!?」

「…なんとなく…」

「私は太ってない!ベスト体系だっつうの!」

「んなこと言ったらここにいるやつら全員がベスト体系だぞ」

「セクハラ…」

睦月ちゃんが呟いた

「あっ?」

「あのねぇ…」

馨ちゃんが言う

「考えてよ…全員がベストでも合計すれば二百近いんだからそりゃ軋む…」

メキメキメキ

「落ちるぞ!」

「私は重くない!」

「私もここでどいたら負けな気がする…」

「馬鹿かお前ら!?」

と言いながら俺と馨ちゃんが横に跳ねる

次の瞬間

バキッ!

と言う音とともに

葵と睦月ちゃんが姿を消した

急いで下を覗き込む俺ら

「あのね?君達…若いのはいいことだし僕は否定しないんだけど、巻き込むのはやめてくれないかな?」

二人の落下地点にいた柏木さんがそう言った

「ごめん…」

俺らはその穴から飛び降りて三人の横に着地した

「とりあえず…どいて…そろそろギブ…」

「…」

「…」

二人は黙ったまま柏木さんを思い切り殴って立ち上がった

「何すんの!?」

「「ウルセェ…」」

「…ごめん…」

「柏木さん…お疲れ…」

ガチャンと二つ隣の扉が開いた

「あれぇ?御影ぇ…あんた…あはは!」

「とりあえず、日本語話して…和葉さん…」

「いやぁ、相変わらずな人生送ってんだなぁって…

えっと?新顔が二つほどあるね?

自己紹介しとくよ 私は三石 和葉よ」

「赤桐 悠馬です…あぁ、この赤桐 葵の兄です」

「へぇ!まさか、神殺しに兄がいたとはねぇ!骸喰いでも知らない情報がここにもあったか!」

ふむふむ、と一人で納得している

「私は結城 馨です」

「うん!君のことはよく知ってるよ!昔はよく君の暗殺の仲介をよくしてたよ、最近は手を出しただけで関係者皆殺しっていう噂が広まって絶対不可侵の存在になっちゃったからね」

「最強かよ…」

俺は突っ込む

「うーん…最近どうも干されてる感があると思えばそういう噂が広まってたのか…」

「干されてるって…」

「あはは!死神と神殺しって言えば、遊び半分で人類を滅ぼしかねない存在として、禁忌として知れ渡ってるからね」

「私の殺人は遊びじゃないです…」

「でもやられてる側からすれば遊ばれてる感じなんだよ」

「私は遊び半分だけどねぇ」

「あぁ…こんな雑談している暇なかった…ここで時間使っちゃったし」

「は?」

「御影以外の四人ここの後ろで昴が待ってるから行ってきて」

「急だな!」

「今回の依頼は完全に救援を求めてるからね急を要するんだよ」

「はぁ…だから、三石さんがここに来るとろくなことがない…」

「ほらほら、愚痴を言ってる暇あったらいけ」


「カズ姉が来るとろくなことがねぇ…」

「みんな同じ感想かよ…」

川澄さんが運転する車…というよりほとんど装甲車に近い物の助手席に乗っていた

「ねぇ…川澄さん…」

「なんだ…」

「今回のこの仕事?ってどんなの?」

「羽鳥というおじさんを救い出すんだよ」

「羽鳥…」

「あの人はならず者を束ねるおっさんなんだが今回はどうも少人数の時に強襲されたらしい」

「どうしてそう抑制力になる人を狙おうとするのかな?」

葵が首を突っ込む

「簡単だ、ならず者を戦力として組織に組み込みたいからだろ」

「…」

どうも組織的な犯行って感じか…

「飛鳥か…」

馨ちゃんが後部座席から発した

「はん!その通りだ」

車を走らせること十分

外の様子が変わる

なぜか住宅街なのに生活感が全くない

「結界ですよ、先輩…ですがここまでの規模となると…」

「…そんなもんか…」

ふと窓の外を見る

「なんだ…あれ…」

俺が見たのは両手銃を片手に担ぎ群がる敵を頭を掴み投げしているおっさんだった

そして投げた相手に銃弾を浴びせる

「うわ…すげぇ…」

「突っ込むぞ…」

「はっ?」

というと川澄さんがアクセルを全力で踏んだ

「うそうそうそ!」

睦月ちゃんが叫ぶ

俺はとっさに前を確認する

ただ人が群がり過ぎていて車を停めるスペースがない

すると

おっさんが銃を振り回した

するとその銃が大きく変形した

形も判断できない流動的な何かに変化する

それが周りにいる敵を全て吹き飛ばす

おっさんの前にスペースができる

そこに川澄さんが車を突っ込んだ

「乗れ!」

「おぉ!ありがとな!」

睦月ちゃんがおっさんに手を伸ばす

そしてその手を取り車の中に引き込んだ

「出すぞ!」

とアクセルを踏む

後ろに誰かがつかまって来る

「ちぃ!」

と川澄さんがハンドルを切る

そして車体をドカンドカンと住宅街の塀にぶつける

何人かはそれで振り落とせた

しかし二人残ってしまった

「まずいな…振り払えない」

ドン!

とその男が後ろの窓ガラスを叩く

「君達」

上から声が聞こえる

「あれ?葵は?…」

俺は後部座席の上の蓋から外の様子を覗く

そこに葵が浮いていた

「しつこいのは嫌われるよ」

周りに槍が浮く

「くそ!」

男が声を上げる

しかし、すでに遅い

槍が一本男の胸を抉った

もう一本が男の腕を貫いた

そして、そのまま落下していった

ボン!と爆発する音が聞こえる

「あの爆発って制御できないんだな…」

「うん…」

「うまくいったか!おい!」

車が大通りに出る

「いや…まだだ…」

川澄さんが外を確認していった

外から声が聞こえる

「おい!てめぇら!聞こえてるか!そのおっさんをこっちに差し出せ!さもねぇとてめぇらごと吹き飛ばす!」

「どうやって…」

「川澄さん!ハンドルきれ!」

馨ちゃんが叫ぶ

「はっ?」

川澄さんが悩んだ

その悩みが勝負を決した

車が浮いた

というより吹き飛んだ

ものすごい勢いで

上にいた俺はカラドボルグをトングがわりに吹き飛ぶのを逃れている

葵も同じようにしている

「葵!重力の方向変えろ!」

「わかってる!」

えっ?まじで?

ぐわんと吹き飛ぶスピードは緩まないが車体が上は上下は下にと安定した

「すげぇ…」

「お!すげぇな!」

後ろを確認する俺

そこには同じような装甲車の上に迷彩柄の服を着た女と鎧をまた纏ったなぞの人物が立っていた

「じゃあ!もう一発!」

「させるかぁ!」

葵が槍を飛ばす

その数12本

すると前に鎧が立ちはだかる

槍が全て鎧にに当たる

誤解がないようにいっておく、今までの葵の槍が貫けなかったものはほとんどなかったらしい

あったとしても全て爆発でなんとかなっていた

しかし今回は

「全く…効いてない…」

相手は無傷だった

そして鎧の間からこちらを見据える

「完全兵器イージスか…」

「イージス…」

男の目が光った

というよりそう見えた

俺は直感した

ありゃ…

「超能力だ…」

負けた…いくら体制を立て直してもあれを撃ち続けられればいつかは車が壊れる…

再び衝撃に備える俺たち

しかし、忘れていた

こちらには一人、イレギュラーが存在することに

衝撃に備える俺たちを横目に何かが後ろの車めがけて飛んだ

「んん!?」

後ろから明らかに動揺の声が聞こえる

ツーカ声デケェな


私、馨は殺人鬼だ

そんな私のただ一人の友人

そんな彼女と私は相対していた

「オオォ!」

空中で鎌を持ち体をひねりながら遠心力たっぷりの攻撃を装甲車にぶつけた

ガグン!

という音とともに運転席に大きな穴が空いた

そこに人はいなかった

無人者か…

「馨!?お前!」

飛鳥は拳をふる

それをかわす

飛鳥はその拳の遠心力を使って空中で周りにかかと落としを繰り出す

それを片手で抑え放り投げる

結構な勢いで吹き飛ぶ飛鳥、そして後退りながら着地する

私は方向を変えた

そのまま、鎧を着ている超能力者に拳をぶつけた

ガワン!

「かぁ!?」

鎧の男が崩れた

私も吹き飛ぶ

そして着地する

「鎧通し、未來ちゃん、あんた、鎧着てんならそれくらいの知識を入れとけよ…」

さて、と飛鳥を見る

「久しぶり、飛鳥」

「おぉ…随分な挨拶だがな…」

飛鳥は笑っている

「今日は二人?」

「あとは運転してる奴がいるよ」

「嘘つけ」

「かはは、けどお前に本当のことを言う必要は今はないよな?」

「そりゃそうか…ん?あのおっちゃん襲ってたのは?」

「あれは…別働隊だよ」

「じゃあ質問、これが一番気になってるんだけど…」

と私は倒れている鎧、即ち未來ちゃんを指差す

「これ?どうゆうこと?」

「あぁ?日本語で」

「あー…だから!なんで人間のこいつがイージスを身にまとってるんだよ」

テールムは持ち主以外のものが持つと元の形に戻るはず…

「あぁ…それね、新技術」

「新技術?こんな人間離れした技術…」

はっと気付く

「心当たりあるだろ?人間離れした技術を持つ存在によ」

「あのバカ…」

「質問はそれだけか?」

「あぁ…というより遠距離攻撃の未來ちゃんを潰せたしもう戻ろうと思うんだけど…」

飛鳥を見ながら

「そう簡単に帰してくれそうにないね」

「ないね」

飛鳥は車の上、即ち自分の足元を殴る

「?」

「よっしゃ!」

なんだ…ただ気合を入れてただけか…

てか…どうする?ここからどうやって戻るか…

飛んでいけないこともないけど…さすがに距離が…

あれ?離れてる?さっきより?

まさか…

「飛鳥!あんたまさか!」

「はん!そうだよ!今ので車を減速させた」

飛鳥は笑いながら言う

「あのジジイを殺さなくてもよ、てめぇを向こうから引き剥がすことができればそれだけでも収穫だぜ」

「あんたに…私が殺せるとでも?」

「無理だね、だから…」

と飛鳥は走る

そして未來ちゃんに駆け寄り抱え上げた

そしてそのまま車から飛び降りた

その時何かのスイッチを押した

「ん?」

「…じゃあな…」

あっという間に飛鳥は見えなくなる

なんだ?何を…

「馨〜!そこから動かないで!」

「はぁ?」

と声をする方を向く

葵だった

「その車、無人特攻車だ!スイッチを押した時から体重が減ると作動する!狙いをつけた相手に爆弾もろとも突っ込むんだよ!」

「っ〜…」

そんなもん…どうする?


「おい!葵どうするんだよ!」

「考えてる!黙って!…」

俺も考える…

今、俺たちの持ってる武器

俺はカラドボルグ 伸縮自由の武器

葵はロンギヌス 複製プラス爆発の遠距離系の武器

睦月ちゃんは村正 斬撃変化の武器

羽鳥さんは謎 だけど流動体になる銃

川澄さんは…あれ?なんだ?

「おい、お前ら…」

川澄さんが上にあがってくる

「川澄さん…」

葵が驚いたように言う

「状況が状況だからって運転放棄はダメだよ!兄さん!運転して!」

「ウルセェバカ、運転はおっさんに代わってもらった…」

「ふーん…」

「いい作戦を思いついた」

と俺らに作戦を説明する

その作戦はめちゃくちゃだった


「馨ちゃん!体重何キロ!?」

「はぁ!?なんでそんなこと聞くんですか!?」

「いいから!」

「…50…」

「だって!川澄さんいける?」

「十キロくらい俺の方が多い」

「…いや!大丈夫だ!馨ちゃん、ナイフの十キロ分は持ってるから…」

「自分の体重の約20パーのもの常に持ち歩いてるって…まぁ…いいか…」

本当にどうでも良さそうに睦月ちゃんが言う

「カラドボルグを伸ばせ」

「おっけ!」


私の横に刃が通る

「ん!?何!?」

「俺が合図したら飛び乗れ!結城!」

川澄さんの声が聞こえる

飛び乗るって…これに!?

見るとその刃の上を川澄さんが走ってくる

その手に大きな剣を持ち

「グラム!?」

あぁ…そういうことか、理解した…

「今だぁ!」

私は刃に飛び乗る

その瞬間に川澄さんが飛び乗る

そして

その大剣を振り下ろす

それがその車を真っ二つにした

魔剣グラム、最高の切れ味を誇る…

最高といいながら日本刀には敵わないけどね

しかしそんな切れ味の武器装甲車を断ち切るには余るくらいだ

しかし、

ドン!

爆風が追ってきた

爆風に巻き込まれる私

「っ〜…!」

私は助かる、こんなもん受けたって痛くもない、けど…川澄さんは…

「てめぇら腰抜けかぁ!こんな爆弾ごときにビビりやがって!」

はっと後ろを見る

そこに羽鳥のおっちゃんが立っていた

「ジジイの底力見せてやラァ!」

銃が変形する再び流動体に近いものに変化する

そしてそれを振った

とんでもない風量が爆風を消しとばした

すかさず私は手を伸ばし爆風で宙に浮いていた川澄さんをキャッチした

「いっちょアガリィ!」

「…ありがと…」

「…?礼を言うのは俺の方だろぉ?」

「そうか…」

「戻すぞ!」

悠馬の声がきこえる

「はーい!」


「いやー…大変だったぁ…」

俺はそう言う

「一番大変だったのは私ですよ、先輩」

「あぁ…確かに…」

「それにしても、適材適所っていう言葉はあるんだね、車の運転は初だったけど上手く行ってよかったよかった」

葵がそう言う

そう、あの時羽鳥さんが駆けつけられたのも葵が運転を代わったのが大きい、私にできることはなんもないなら、まだ可能性のある人が前線に出るべきだって言って、羽鳥さんに運転を代わってもらっていた

「適材適所と言うかこの状況を生み出したのはあんただろ、葵」

「うへっ…聞いた?」

「うん」

「おい、どう言うことだよ、説明しろ!」

川澄さんが言う

川澄さんは現在、怪我で寝たきりだ

運転は葵

「いやー…ほら、人ってテールム持てないじゃん?だから、それを持てるようにするために作った機械があったんだけど…」

「なんでんなもん作った!フザケンナ!」

「二年前かな?それくらい前に作ったんだよ、人間だった頃に」

「あっ…」

「頼まれたんだよね…誰かわからなかったけど、まぁ、匿名希望なんてこの業界少なくないし、もらうモンもらえればなんでも作った」

「そんな商売してたんだよなじゃあなんで…一年前にお前は一度世界を滅ぼそうとしたんだ?…あれは?」

「売名行為だよ」

「マジで?」

俺は言う、

一年前、世界を滅ぼすと言っても、実質的に生命を奪うのではなく、伝染破壊型ウイルスをばら撒き世界を機能させなくなる寸前まで、破壊した、世界で特別チームが結成されそれのチームがウイルスの対抗プログラムをつくり世界に浸透させるまでの半年間ほとんど自動的に破壊の限りを尽くした

それがただの売名行為であることにも驚いた

「お前…あっー…」

話しても無駄だとそう判断したらしい

「つーよりよぉ!オメェら、この嬢ちゃんは何しにきたんだ?」

羽鳥さんが睦月ちゃんを指差して言う

睦月ちゃんは寝ていた

「テストの日から結構ぶっ通しだったから疲れてるんでしょ?」

「いやぁ…でもなぁ…」

「あんたらとは違うんだよ…」

俺が言う

「あんたらみたいに人間と離れて暮らしてる奴らとはこの子は違うんだよ…」

「あっ?」

「この子はちゃんと人間社会に入ろうとしてる…諦めたあんたらとは違う…」

「そうさなぁ…確かにそうだ…確かに…けどまぁ、それとこれとは関係ねぇ」

はぁ…

と馨がため息をつく

「助けてもらった身分でそりゃないでしょ、あんた、そんなジジくさい態度取るなら私が殺すよ?」

「かはは!そりゃかなわねぇや、ジジクセェのはジジイだからな

そういや、昴、テメェがその状況で、事後報告どうするつもりだぁ?」

「…そうだな…悠馬…お前に頼んでいいか?大体の事務処理はそこのおっちゃんがやってくれる…いてて…」

「事後報告?」

「あっ?なんダァ?あの坊主はなんの説明もしてないのかぁ?」

坊主とはおそらく大家さんのことだろう

「ん?」

「ギルドに入ってる以上起こった事の説明はしなきゃならん、今回は三石のねぇちゃんの仲介だったしな、細かく報告しなきゃなんねぇ」

「んー…」

「と言うことでだ、ギルド本部に来てもらうって話さ

どうもお前らと話したい奴もいるみたいだしな…」

川澄さんがそう言う

「…まぁ…挨拶がてらでいいか…」

「私も行くよ」

声を発したのは葵

「調べたいこともあるし」

「私はパス、眠い」

馨ちゃんが言う

「んなこと言ったら俺も眠い」

「先輩は行ってください、めんどくさい…」

「本音出たな…」

「眠い、だるい、めんどくさいの三拍子揃えば何もしなくていいんですよ」

「暴論だね…」

「と言うことで先輩よろしく」

「はー…へいへい」

「甘い!兄さん!甘いよ!」

「ウルセェ、元凶」

「うっ…」

「つーことで明日なぁ…お前らのボロアパートに迎えに行くからよ」

外を見るとアパートについていた

すると扉が自動で開く

「お疲れ様、君たちよくやったよ…あれ?昴くん、君はなんで寝てるのかな?」

「うっせ…」

「うーん…じゃあ、羽鳥さんこっちに車止めて、君たちはもう休みな、僕はこのおじさんからお話を聞いとくから」

羽鳥さんは俺たちを降ろした後奥に消えてった

「私もするわ…話」

と睦月ちゃんが眠そうな目をこすりながら言う

「なんやかんや一番見てた私がわかってるから」

「もちろんだよ、君には監視役を任せてたんだからね」

「うん…」

「監視…」

「うん、そうだよ、結城馨の監視だ」

本人のいる前でそう言った

「慣れっこだけどね、そうゆうのは、けどそんな子に私が殺せるとでも?」

馨ちゃんが自信たっぷりに言う

「…無理だろうね、いくら不意をついても君は殺せない、誰にも殺せない、けど大事を取ってと言うのは重要だろ?」

「まぁ…いいんだって、私を前にして警戒しないのは飛鳥くらいだって」

警戒されない方が珍しいと彼女は呟くように言う

「ごめんね?なんか…」

睦月ちゃんが謝る

「なんだぁ?てめぇら辛気クセェ」

駐車を終えた羽鳥さんがそう言う

「空気読めよ…」

「あっ?そんな気を落としてる方が空気読めてねぇっつうの、とりあえずは勝ったんだぜ?まぁ…俺の仲間は全滅しちまったが…まぁ、あいつらは俺たちの死を気にするなって言ってたからな、気にしねぇしあいつらも気にしねぇ、だからよ…とりあえず、辛気クセェのやめろ…俺の気が滅入る…」

明るく振舞っていて一番この中で傷ついてるのはこの人なのだ、今日、すべての仲間を失った、それほど辛いことをない…

「…悪かった…」

「………」

余計暗くなる空気

「さっ…今日は解散しよう、また明日」

「うん…」


その夜

「兄さんに言ってなかったね、私が前に、コンピュータウイルスをばらまいた時なんだけど、というより兄さん、それに関して違和感を感じない?」

「覚えるも何も…よく一年でここまで復旧したよな」

「うん、そうなんだよねぇ」

「そこまでのチームだったんだな」

「そんなチーム存在しないんだよね」

「はっ?」

「私の技術に追いついてる組織なんて存在しないってこと、世界のどんな技術者揃えても私には敵わない、そういう自負はある」

「じゃあ誰がその抗体を生み出したんだ?」

「私」

「…」

「いったでしょ?売名行為だって、滅んじゃったら元も子もない、だから復旧した、今までよりも少しアップグレードしてね、まぁ、いろいろ情報操作されてるみたいだけど…」

「んでもってチームか…」

「そうそう」

「んで?なんでそんな話を今?」

「さぁ…気まぐれかな?なんとなくだよ」

「相変わらず論理性のかけらもないやつだな…」

「あははー…」

この時に俺は葵が言いたかったことを理解できなかった、まぁ、たとえ理解できていたところで俺はこの先に起きることを止められないわけだが…


次の日

ドラクエみたいにビュンビュン進むな

「ドラクエ派かい?僕はFF派だよ」

「そこに派閥はねぇ、俺は両方やってる」

朝っぱらから柏木さんにツッコミを入れる俺

「それにしても遅いね、兄さん、あのおっちゃん」

「そうだな、あのおっちゃん」

「確かに、あの人はおっちゃんっていう呼称が親しみやすいね」

「そういや昨日、あの人どこに泊まったの?」

「ん?どこだろ…」

「近くのホテルだぜ」

玄関から声がした

だからノックしろ

扉にノックしてくださいって貼っとくか?

「ん?この近くにホテルなんてあったっけ?」

「あぁ?あったぜ、なんかピンクのところだったがな」

「ラブホだな」

「気付かずに入るとは…」

「なんだかよくワカンねぇが、人間社会も進化してるんだなぁ、あんな安値であの設備いいじゃねぇか…」

「なんも言わない….なんも言わない…」

葵が自分に暗示をかけるようにいう

「んま、遅れてなんだが、行くか」

「なんで遅れたのよ…」

それが一番重要

「ここの立地がわかりづらいんだよ」

「あぁ…」

そういや馨ちゃんも俺をここに運ぶ時にわかんなくなったって言ってたな…

部屋の外に出るおっちゃん、俺らも後を追う、その際に柏木さんとは別れた、そして再び地下道に入って行く

「ちょっといい?」

結構進んだところで葵が言った

「ん?」

「とりあえず、黙って、30秒くらい黙ってて」

「何するつもり…」

俺は羽鳥さんを抑える、ここで不機嫌になられても困る

「ワッ!」

とんでもない声量で叫ぶ葵

思わず耳を塞いでしまった

その声が至る所に反射する、耳をすましている葵

「…大体、ここの全体像が掴めた…私が五年前ここをくすねた時に比べて大分構造が変わってるね…」

聴覚空間認知…のさらに上、聴覚空間認知は視覚障害を持つ人が耳での場所の形を把握するスキルのこと、葵のはそれのさらに上のスキル、自分で音を作りそれを反響させ、空間を把握する、大体、脳の処理が追いつかないものだが、こいつの場合、脳の処理がコンピュータを超えるとまで言われてるほどなので心配ない

それより…

「五年前?」

「うん、ここは私がだいぶ前に取ったところだよ」

「…十二歳の少女に一つの会社が潰されたってことかよ…」

「うん」

「全く…最近の若いのは可愛気がなくていけねぇ」

「こいつ特殊」

「それはわかってるさ…タダな?こんなおっさんがよ、渋谷原宿を一人で歩いてたら浮くだろ?」

「いや…用事ねぇだろ…」

「娘の為さ」

「娘いるんだね」

「あぁ…昨日久しぶりにあったぜ…」

「昨日?」

「元気そうで何よりだったぜ…カミさんに愛想つかされて出ていかれてからか…本当に久しぶりだったぜ…」

「ん?えっと…私たちの両親は死んでるし…馨は自分で殺しちゃったし…川澄さんは酔っ払ってないときは男だし…て事は…睦月!?」

「…お前らの昔話が聞きたくなったが…まぁ、そうだ…」

「何年振りだったの?」

「三年振り…昨日の俺の感情は複雑だったぜ…娘に会えた嬉しさと仲間の死んだ悲しさが心の中ぐるぐる回って…昨日の夜は眠れなかったぜ…睦月が来てくれなかったら眠れなかったぜ…」

「勇気あるなぁ睦月ちゃん…ラブホに一人で突っ込むとは…あぁ、そうか…だから、会計が出来たのか…」

「ん?よくワカらねぇな」

「うん、知らんほうがいい」

「うーむ…おっ?ついたぜ」

「ここ?…うーん…うん、そうだね、ここがこの地下道のちょうど真ん中だ」

「そりゃな…」

そこには大きな扉があった

おっちゃんが横のタッチパネルに近づくそして、そこに目を近づける、その後タッチパネルを操作すると扉が開いた

「ん?これって…」

「君も技術者かい?ならば興味もあるだろう」

扉の奥のには廊下がありそこに椅子がたくさん並んでいる

その椅子というよりベンチの一番扉に近いところに、男の子が座っていた

「僕はここのセキュリティ管理副管理長の浅部 啓斗と言うんだ」

「ふーん、こんな子供が副管理長とはね…」

「君はこんな素晴らしいセキュリティを見たことがあるかい?この最新鋭のセキュリティを、網膜センサーなど少し古い所もあるが…それ以外は超の付くセキュリティだ、実は網膜センサー以外にも動きつまり歩き方の癖や歩幅、体格なども測り成りすましを防ぐことも可能…」

「クフフ…アハハ!面白いね!」

「だろ?」

胸を張って言う

しかし葵は腹を抱えながら

「こんな…こんな…こんな古いシステムが現在の最新か…ヒー…腹痛い…」

「古い…だと?」

「いやぁ、このセキュリティシステム…私が8歳のころ作ったやつだよ…殆ど遊びで」

「…冗談もいい所だよ…これが最新で…」

「最新?笑わせるよ、どうせこのセキュリティの製作者は誰かとかわかったないんでしょ?」

「わかっておりますとも…」

浅部君の後ろから見知った顔が出て来た

「管理長…」

「浅部君、君は戻ってなさい、それと、この方達には決して無礼のないように」

「すみません…」

と走り去っていく浅部君

「おっ?爺さんじゃねぇか!よう!」

「おお、羽鳥さん、相変わらずのようで…」

葵がハッとしたように

「あれ?…爺?爺だ!わぁ!久しぶり!」

「お久しゅうございます…葵様…いやはや現在は2代目神殺しとしてご活躍中とは…お母様…初代神殺し様もお喜びでしょう…」

と爺は俺の方を向き

「お久しゅうございます、相変わらずお父様にそっくりで…爺は嬉しさと感激で胸が一杯でございます…」

「久しぶり爺…」

この人は爺、本名は知らない

いつも神殺しと呼ばれた技術者である母のサポートを務め父の会社の副社長を兼任していた

「現在はお母様も凌ぐほどの技術者に成ったとか…爺が使い方を教えていたあの頃が懐かしい」

「爺…マンイーターだったんだね」

「いえ…あなた方と同じく後天的なものでございます」

「同じく?よくわかったね…」

「演算能力」

俺がつぶやくように言う

「あれ?そうだっけ?」

「そうです…未来想定算です」

「なんかダサい…」

「いいんですよ…」

するとおっちゃんが

「おい、オメェら俺は報告行ってるから、この施設見学させてもらっとけ」

そう言い残し奥に消えてった

「そうだ、爺、ここのセキュリティマニュアルってある?一応俺も情報工学科だし、知っときたい」

「どうぞ」

爺が本を渡してきた

パラパラめくった

パッと見で頭が痛くなった

「兄さん?」

「うん…」

理解不能

こんなの書き上げたのか?こいつ…

「だっさいの、兄さんマニュアルさえ読めないなんて」

「えーっと…」

話をそらそうと話題を探す

「おっちゃんがいなくなったし俺らここにいる理由なくない?」

葵は笑ってる

爺は普通に

「わたしがおよびしたのです」

と言った

川澄さんの話を思い出す

「あぁ…呼んでた人って爺か」

「そうでございます」

葵もこっちの話に興味を持ったらしく(殆ど好奇心で動いてるなこいつ…)

「うーん…未来想定算とかなんとか言ってたけど殆ど未来予知だよ…」

なんて言ってる

「導かれたって感じだな…」

俺は話をこっちに合わせた

「導かれしもの達!」

葵が言う

「ドラクエ!」

俺が多少声を上げて言う

兄妹のノリ

「ついていけません…」

「そりゃねぇ…」

「おっと…こちらがセキュリティ管理室ですよ」

大きな扉があった

「…?ここだけ、少しセキュリティシステムが変わってる?」

「扉を見ただけでわかるのかよ…」

「そりゃ私が作った奴だし…これは…私が10歳の時に作った奴だね」

「大して変わらない…」

「葵様が作ったセキュリティはこれが最後です、即ち、現存する最高のセキュリティということになります」

「さっきからセキュリティのことばかり言ってるけどさ、内部基盤はどうしてるの?」

「兄さん、わたしがただのセキュリティを作るとでも?このセキュリティシステム一つで全てを補えるようにできてるんだよ」

「しかし、葵様のシステムは高度、常人の理解が追いつかないためここまでの実用化に少々時間を要しました」

「うん…そうだね、これでも完全ではないし…」

「バージョンまでわかるのかよ…」

「ほら、扉に通ってる光の色だよ今は白色だけどこのセキュリティだったら青が最新…いいよ、アップデートしてあげる」

「それはありがたい、では…」

「いいよ解除しなくて」

葵は扉に近づき扉を撫でた後指を鳴らした

すると、扉が自動で開いた

「!?」

「…」

俺は驚いた

しかし爺はこれにも驚いた様子はない

「あぁ…これも言ってなかったね、一年前のウイルスは猛威を止めたけど、ウイルス自体はコンピューターに残ってるんだよ、だから、作動させれば…」

「再び破壊を始めると…」

「違う違う、あのウイルスは万能だよ、デストロイもハックもサーチもなんでもできる」

「…」

言葉が出ない…

中の人も驚いてるよ…そりゃ、I.D.認証も無しにいきなり扉が開いたら事件だよ、それにプラスでアラームが鳴らなかったということで驚きも倍増だろ…

「管理長!?どうゆうことです!?」

浅部君がいた

「システムの全てを彼女に見せて差し上げなさい、今からデータ更新に入る」

「はぁ?」

「彼女は…神殺しと呼ばれる技術者で、このシステムの作成者だ」

「…神殺し?」

ざわつく一同を尻目に葵が言った

「いや…いいよ爺」

「はい?」

「終わった、帰ろ兄さん」

「はっ?」

「別に時間かかるなんて一言も言ってないよ?わたしの可愛いウイルスちゃん達がすぐに済ませてくれる」

「君たちすぐに機能の確認を!」

「はい!」

「んっと…性能しか上げてないから操作は変わらないはず…」

「…!向上してる…回線から処理、認証も…すべて掛け値なく桁違いに跳ね上がってる…」

「どうやって…」

爺があからさまに動揺している

俺はサッパリ理解も追いつかないため驚きもしない

「浅部君」

「…何…」

「これが新技術だよ」

「ちぃ…」

「わたしの脳信号を感知してるんだよ、それを自宅のコンピュータを通してここに伝えてる、つまりさ、脳内キーボードと幻覚ディスプレイってわけ」

「自分にしか見えない画面…」

「人間の技術じゃないよ…」

浅部君が震えながらいう

「そだよ、だからこその神殺しなんだよ、神を凌駕するほどの技術者」

「葵、殆どSFだぞ…」

「と言ってもこれも2年前の技術だけどね」

「あなたは…どこまで…」

「あはは」

笑って誤魔化すな

「帰ろ?」

「いや…羽鳥のおっちゃん待たないと…」

「あっ…そっかー…何やってるんだよ、あのおっちゃん」

合流性が欠けすぎだろ、なんで不機嫌になるんだよ…

「わかった、飲みもん買ってやるから、爺、この辺に自販機ない?」

「…案内しましょう、皆さん機能はいつも通りに」

「はい…」

明らかに乾いた返事を尻目に扉は閉まった


「プハー…うまいね、コーラ」

「あんま飲むなよ…」

「兄さんはいつも通りに水だね」

「体になんもないからな」

「爺はコーヒー?似合ってるね」

「ありがとうございます」

「それにしても…悠馬様」

「ん?」

「あなたほどの才能があれば、父上の会社もお次になられたというのに…どうしてお誘いをお蹴りになったのですか?」

「爺…前も言ったよ?、俺にはまだ無理だって、才能云々ではなく、会社の士気的にもって」

「しかし…いえ、そうですね、では、爺から色々説明しましょう」


「アカツキ、あなた方が所属しているボロアパートの名前です

「知りませんでした?

「そうですか

「しかし、このアカツキと呼ばれるグループ、実はこのギルドの中ではとても異端なのです

「ええ、名前がないのでギルドと総括して読んでおります

「話を戻しまして、アカツキ、異端の理由は、変わり者が多い

「えぇ、あなた方も含めて、とても変わり者が多いのです

「人間社会に馴染もうとするもの…えぇ、川澄昴と冬空睦月、それに伊月儚です、あぁ、あなたもですね、悠馬様

「そして、外界に通ずるもの、柏木御影と神無月弥生、それに葵様

「そしてそれを示唆せずとも止めない津堅勝己

「彼らは右翼、左翼、人間、全てにおいての影響力を持ちます

「私達はもともと中立、しかしそれはあくまでマンイーターの中立、人間を巻き込まんとする中立です

「しかし、彼らは違う、彼らの望む中立はそうではない、彼らは人間との共存も含めの中立なのです

「これは異端視される、当たり前だ

「異端視されるもう一つの理由が、人間とマンイーター、あのアパートはどちらも入居オーケーだということです

「えぇ、そうでしたよね?

「あなた様方は入った時は人間でしたよね?

「そう、彼らは人間との共存の一段階として、人間との共同生活を自分達に強要した

「人間も入っては消え入っては消えを繰り返し、やがてあなた方で落ち着いた

「そんな危険なところ、放って置かれるはずがない

「アカツキ、あなた方がいるところはいつ潰されてもおかしくない


この話を聞いて思った

爺は、いや、爺でさえ、あのイレギュラーの感知はできていないと

次の瞬間警報がなった

「どうしました!?」

爺がトランシーバーで連絡を取っている

「正面玄関が破壊された?バカな…あそこは特殊金属で…」

「爺、爺は私たちの身を案じてそう言ってくれたのだろうけれど、そう計算して言ってくれたのだろうけれど、はっきり言ってあのイレギュラーがいるだけで、計算も大きく変わる」

「?いや…とりあえず扉に急ぎましょう」

走り出す爺、それについていく

「爺、なるべく人を集めないで、犠牲者が出るだけだよ」

「左様でございますか?しかし私はそういった人を動かすということはできませんので…」

メキ!

廊下は螺旋状になっている

つまり廊下部屋廊下の順で並んでいる

俺らが目指しているのはそれの三つ進んだ先

つまり現場の間には壁結構広い部屋三つ分の厚さがあるはずなんだが…

ドゴン!

ものすごい勢いで人が飛び出してきたそしてそのまま壁を突き破って消えた

あっ?

「爺!この空いた穴から!」

「はい!」

まっすぐ進むとそこに

血の海に佇むフードを被った殺人鬼が立っていた

両手に血まみれの人間を鷲掴みにしている

「馨!」

葵が叫んだ

「あれ?葵に先輩」

人間を取落す馨ちゃん

「いや、あれ?じゃねぇよ、この状況であれって言える奴なんていねぇよ」

「いや!そんなことより!なんでここに!?」

「いや〜川澄さんの客からここが少し危ないって聞いていても立ってもいられず飛び出してきちゃった」

「客?」

「うん、川澄さんのバーで働かせてもらうことになりました」

そこに驚きだけど…

「いや…ノックくらいしろよ…」

部屋に入る時のモットーだろ

「したよ…したら消えたけど…扉が…そしたら囲まれて仕方なしに保身で全滅させました…」

「葵といい馨ちゃんといい…デタラメすぎる…」

「いや…そんなことよりマズイですぞ…彼女、七人は殺してることになる…そんな事バレたら…」

確かに

「兄さん、爺、もう遅い」

気づいたら俺たちまで囲まれていた

「逃げ場は馨ちゃんの入ってきた扉だけど…」

今逃げたら大家さんたちの迷惑になる

「爺…爺…軽く殴るから後ろに飛んで…爺まで巻き込みたくない…」

「…しかし…」

「いいから!」

ドグンと俺は殴る

爺は後ろに飛んだ

「これでよし」

「おい!今殴ったのはシステム管理長か!」

「貴様らどこのもの…」

「ぎゃあぎゃあ、やかましいんだよ…」

馨ちゃんが遮った

俺たちの方をチラ見する

すかさず俺たちは馨ちゃんの後ろに行った

「いいたいことがあんならその武器で言って…

ただ、誰かって質問は答えてあげるよ」

馨ちゃんはナイフを取り出す、それが大きな釜に変形する

「私は結城馨、それ以上でもなくそれ以下はない」

その異様な武器と雰囲気に一同後ろに退く

「ねぇ…ここで敵対心見せてもマイナスにしかなんないよ…」

「ここで引いてもマイナスになるだけだと思うけど…」

「いや…」

どう足掻いてもマイナスだ

「とりあえず、ここは俺に任せろ」

「うん」

「相手が少しでも変な動き見せたら即消すから」

相手がさらに後ろに下がる

「あー!あー!みなさん落ち着いて!」

「落ち着けるかぁ!」

よかった!聞く耳はあるみたい!

「えっと…」

庇いようがねぇ…

どーすんだこれ!

「えー…彼女は怒らせないでください、ここにいるみんな…僕ら含めて死んでしまいます」

ちがーう!余計怖がらせてどうする!?

「撃つぞ!」

「撃ってみろよ!、俺らを撃ったところで何も変わらないぜ」

なんでこう挑発めいたことを…

いや…これでいい

「俺たちは別に何をしようというわけでもない、ただここにいるだけだ。何もしない、その気になればこんなところすぐ落とせるけど…」

「…」

「落ち着いた?というより冷めだった感じだね…」

「こいつは仲間を殺した…」

「そんなカスよりも馨の方が戦力になる、仲間になるっていうなら是非もなしだと思うんだけど…」

葵が言う

「アホか、是非もなしは仕方ねぇって意味だよ、まぁ、仕方なくはないけどプラスにはなるはずだ」

「おい!てめぇら!何やってるんだ!」

人の後ろから羽鳥さんが出てきた

「およ?羽鳥のおっさんだ」

「んー…馨ちゃんがやらかした」

「何人!」

「七人」

「羽鳥」

羽鳥の隣の男が話しかけた

「一草…」

「情をうつすなよ…奴は幹部級一人を殺してる

あいつは?」

誰だ、と言う問いに羽鳥さんは悩みながら答える

「…結城馨、殺人鬼、現在アカツキに所属…」

「アカツキか!あいつら…今回こそ潰してやる…」

「待ちなさい」

爺が一草と呼ばれた男を止めた

「結城馨…どこかで聞いたことあると思えば…

数々の異名と武勇伝を持つ

その中で一番有名な二つ名であり、尚且つ彼女以外は決して示さない単語、そして、彼女のテールムからも連想される、『死神』究極にして絶対の最強

彼女と共同戦線を張った者の話では

彼女を仲間にしたなら味方の多少の損害は目を瞑れ、目を開けば相手にそれ以上の損害が出ているだろう」

「敵に回すな…か…では…」

完全に戦闘モードではなかったからだろう、俺は…不意を突かれた

「ぐっ…」

喉元にナイフが当てられる…

「この者はいらんな…」

次の瞬間だった

一草さんが視界から消えた

一草さんがいた位置に現在あるのは馨の足だった

「妙な動きしたら消すって言ったよね?」

一草さんは壁を突き破り誰の視界からも消えていた

「まぁ、消したは消したしいいかな?」

一斉に馨に注目が集まる

マズイな…

馨の目が本気だ

パンパン!

と手を叩く音が聞こえた

その男は気付いたらそこにいた

「どうか、やめてはくれないかな?」

「やめて欲しいのはこっちだよ…」

と完全に自分を抑えた声で馨が言う

「誰?」

「ここの最高責任者だよ…」

葵が答えた

「知ってるの?」

「知ってるも何も…さっき写真が飾ってあったよ?自販機のところに…」

「あぁ…全然見てなかった…」

俺と葵は馨では彼の話相手としては不足と考えた

「馨ちゃん、とりあえず落ち着け」

「わかってる!わかってるから!こっちこないで!」

頭を抱えながらその場にうずくまる馨

それを隙と見たのか、一人が飛び出してきた、拘束しようとしたのだろう

しかし、そんな事、この状況ですることではない、いや、そもそも


神の拘束など誰にもできないのだ


次の瞬間、

その男の足首がありえない方向に曲がった

それは連鎖し膝、腰、胸、腕、首全てが反対向きに曲がりボトリと崩れ落ちた

「はぁはぁ…」

立ち上がる馨ちゃん、そしてそのまま走り去ってしまった

俺は追いかけようとしない、それが、彼女の背負うべき業なのだ

十字架とも言っていい

殺人衝動に飲まれる。彼女はその一歩手前の状況にあった

今は一人にしておくのがベストだ彼女のためにも、俺のためにも

「今なら…あの二人…拘束できるんじゃ…」

葵が指を鳴らす

すると警報がなった、そして警備システムが作動する

俺たちの周りに赤いサークルができた

「これぐぐった人ドーンだから」

ど周りを指差しながら言う

「だから、やめていただけるかな?」

その男は一歩前に踏み出して言う

「話はここから聞く」

「ふむ…まぁ、それは構わないよ」

「まず、私たちに敵意はない」

「それは知ってる」

もう一歩前に踏み出す

「君達はアカツキだよね…」

「あぁ、そうだ」

「では、現在のアカツキの状況も知っていると」

「さっき聞いた」

「…では、君たちは知っていてこんな事を?」

「だから、私たちは好き好んでこんなことやってない」

「知っている」

さらに一歩前に踏み出す

「だが君達はこちらに損害をもたらした」

「それは…」

「彼女は君達の味方であって私たちの味方ではない」

「……」

前に踏み出すそこは葵が敷いた赤いサークルの本当に一歩手前だった

「だから、君たちがちゃんと従ってくれればそれでいい」

さっとそのサークルを超えて手を差し出す

もちろんその手は滅多打ちにされた、しかし

「きいてねぇ…いや、目につかねぇスピードで再生してるのか…」

「手を取ってくないのかな?アカツキを辞め、ここに所属して欲しいと言うのが僕の願いだ、あの、死神の抑制にもなり、技術者も仲間になり、それをまとめるものも…手に入る」

「取らないよ…」

葵が言った、あきらかな敵意を向けて

「私たちの所属はアカツキだ、なら最後まで所属はアカツキだ、彼等は潰させない」

「ふん、ならいい、君たちはアカツキ所属で頑張ってもらおう」

手を引っ込める

「そうそう、ここの扉、直しといてくれ

死んだものの始末は、神楽がやってるくれる、そして、今回の件だが不問とする」

そう言い残し去っていく

その後ギャラリーも減っていく

羽鳥さんは今ので雑用が増えたとかなんとかでまた奥に消えてった

「はぁ、はぁ…」

そのまま崩れる葵

「どうした!?」

「葵様…」

爺が抱え上げる

「まさかと思ったけど…本当にそうだったなんて…兄さん、このギルド…かなりやばいよ特に…あの男…」

「有名なのか?」

「有名も無名も…名前は誰も知らないけれど一つだけある事実、彼は…概念を歪ませる…」

「えっ?」

「まぁ、私が知ってるのも奇跡みたいなものなんだよ…偶然手に入れた話、何根拠もない話…まさか、中立派のトップがあれとは…」

ふと爺が言う

「…皆様には話しとくべきでしょうか…」

「皆様?」

「アカツキの皆様です」


そのまま行こう思ったんだが、馨をほっとけなかった

二人には先に行ってもらい俺は一人であった

「何しに来たの」

明らかに敵愾心をこちらにぶつける馨

「帰るぞ」

「殺すよ」

「…」

「無理なんだよ私が集団生活なんて、無理なんだよ」

二回言う

場所は地下の空間

そこ声は虚しく反響する

「毎回思うんだよ、私に力がなければって、なんでいるんだろうって、迷惑しかかけないのに、なんでいるんだろう、戦いになれば狂人になる、味方も関係なしに襲いかかる、生きてる意味がない」

「馨…別にそれは…」

「それは別じゃないんだよ、悠馬だけなんだよ、それを別個に考えるのは…私の本質を別視してくれるのは」

「それが…」

「当たり前じゃない!悠馬!あんたは異常だよ!本当に本当に本当に本当に異常だ!私と釣り合ってる時点で異常だ!そんなあんたのことを私は、…私は!」

「もういい…どんなに辛いかはわからないよ、俺は、俺の中での馨は元気のいい後輩で、優しい彼女と言うくらいだ」

「どうしたら!そんな見方ができるの!私の悪い所を無視するなんて!」

明らかな殺意をこちらに向けてくる

俺はそれを真っ向から受ける

「ふざけるのも大概にしろ!私を惑わすな!私を普通に見ないでくれ…私は…人を傷つけたくない…」

人を殺したくない殺人鬼、それが馨、それこそ本質

「馬鹿言ってんじゃねぇ、悪い所?見つかるかよ、悪い所と同じようにいいところも多いやつなんだよお前は、おれはお前のそこに惚れたんだ

おれと違ってお前は努力している、普通になれないお前は普通になろうと努力する、本物になろうと…おれは、当たり前に浸るやつより、そうやって奮闘するやつの方が価値があると思うぜ?」

俺は当たり前を捨てた、彼女はまだ捨ててない、希望はある

「そんな奴、誰も切り捨てようなんて思わないぜ?考えて見ろよ、あの自由奔放の馬鹿技術者だって快く迎えられてるんだぜ?

こんな俺を仲間として迎えてくれたんだぜ?

あいつらは一度仲間と決めたやつは疑いはすれど裏切らない、そんな奴らだ」

俺は、心から思うあのアパートの評価を言った

「あはは…やっぱ異常だよ悠馬…私まで懐柔するなんて…」

そっか、まだ大丈夫なのか…

と呟くように言って馨は倒れた

俺は彼女に近づき

「頼むから死ぬと言う道は選ぶなよ…俺が死んでもそれだけは誓ってくれ…」

返事のあるはずのない馨に呟いた



数ヶ月後

「それが本質か…ここのギルドの…どうもきな臭セェとは思ってたぜ、それにしても助かったぜさすが羽鳥…恩は返す男だぜ」

俺たちはとある体育館にいた

俺たちと言っても今は俺、大家さん、爺、馨、川澄さんの四人だけだが

この数ヶ月はっきり言って暇だった、完全に干されていた

仕事も減れば収入もなくなる、仕事と言うのはギルドから回ってくる依頼のことだ、それ以外の雑務ははっきり言ってほとんど収入にならない、大家さんはカツカツだった

そんな中でも大家さんは文句ひとつ言わずに雑務に当たった

しかし、昨日


爆音で目を覚ました

「なんだ…」

俺は近くのナイフを取る

葵は仕事でいない、どうも三石さんに任された仕事らしい

「悠馬!」

天井に穴が空いた

そこから馨が降ってきた

どうやら殴って開けたらしい

「なんだ?何が…」

「下の!大家さんの部屋が吹き飛んだ!」

「…〜!大家さんは!」

「無事!川澄さんと朝まで飲んでたみたい!」

窓から外を覗く

「…なんの部隊だ…」

そこには数百という人数がアパートを取り囲んでいた

「…アレってさ…前に会った一草って人じゃない?」

「いや…見えねぇよ…ん?一草?じゃあ!ギルドが潰しにかかってきたということか!?」

「うん、あくまで狙いは大家さんだったみたいだけど、その証拠にほとんどが留守の時に狙ってきやがった」

今は睦月ちゃん、柏木さん、神無月さん、伊月さんが留守だ

「あの人数なら一人でなんとかなるけど…」

さらりと怖いことを言う

「ただ…あそこのピエロ…あれが気になる…あいつ…どこかで…」

ピエロは俺も見えた、一人だけその中で確実に浮いているから

「何あれ…」

もうひとつ馨が気付く

それは俺には見えなかったが

「女の子が…自分の身長よりさらに大きい棍を持った女の子がいる…」

ゴトゴト

と言う音とともに上から銃が落ちてきた

「これで迎撃だ…ほらグレネード」

「好きなの選べ、俺のコレクションだ」

川澄さんが言う

「私はデザードイーグル二丁!前打ったら肩脱臼したけど…今なら大丈夫」

「ほら…玉」

「じゃあ、俺はウージーで」

「…いいのか?迎撃に回る武器で」

「いいのいいの」

「ほれ玉…」

「さっきから玉の字違うな弾な」

「じゃあ、俺はミニガン」

「そりゃね…」

「本気でやってやる」

「おっ?久々に見るな」

「じゃあ俺はF-2000で」

全員が全員の武装をした

馨は軽装

俺も軽装

川澄さんも軽装

大家さんだけ重装

「じゃあ、始めよう」

馨が外に手榴弾を投げた

とんでもないスピードで地面にぶつかった

その落下の衝撃と爆風で広範囲の人が吹き飛んだ

「どうゆう角度で投げたんだよ!?」

「ななめ45°」

床貫いてるよ

よく見ると穴が空いてた

「いやっほー!」

馨が思い切り外に飛び出した

「どうしようもねぇ、アホだ…」


とりあえず切り込んだはいいけどさ

相手弱くね?

現在ナイフ二本で乱闘中

とりあえず振るナイフ全てに感触を感じる

「…そう言うことか…」

私の弱点、他のパラメーターに比べてスタミナが少ない

じゃあ…

四方を囲まれているこの状況でできること

それは、我武者羅に斬る

次の瞬間四方から血が噴き出した(もちろん私がやったんだけど)

その隙を狙い渾身の力を込めて走り出した

二刀のナイフは相手の急所を抉っていく

「陣形は乱れたね」

後ろの方から音がするどうやら悠馬達も始めたらしい

ん?

…あれは…さっきの女の子

まぁ、それでも容赦はしない

私はナイフを相手の喉元目掛けて振る

…!速度は速かったはず…が…

一本目が弾かれた

だが、別に想定してなかったわけでもなかったので刹那のスピードで相手に2本目のナイフを突き刺した、心臓を狙ったはずだが、少し横にずれてしまった…いや…ずらされたのか…

「ぐぬぬ…」

胸からの出血を抑えながら彼女は言った

「なんなの…そのデタラメさは…」

「まだまだ手加減してるよ、死ぬ程手加減してるのになんで死にかけてるんだよ」

「要注意人物ってこの人か…まさか…私たち三人だけでこの人を相手にすることになるなんて…まぁ…目的は津堅の暗殺だけど…」

「なるほど…囮か…」

「まぁ…そんな感じですっよ!」

棍を私に向けて振る

それを片手で受け止める

「!?う…動かない…」

「囮?これで?」

「ぐぬぬ…」

と言い棍棒を離した

ズンッととんでもない重さが私を襲う

思わず離してしまった

持てないわけではない、けど…この重さは…

「ダグダの棍棒…」

「へっへーん」

と彼女はひょいと軽く持ち上げてみせる

「お姉さんこそそんなもの?」

じゃあ…これなら?

と思い切り地面に棍棒を突き刺した

地割れ、というより地球が真っ二つに割れたんじゃないかという割れ目が私の股下から起こった

とりあえず飛んで回避

しかし着陸するところがない

仕方がないので飛び散る破片を足場にその子に斬りかかった

「ひゃ!?」

明らかに油断していた彼女、棍棒で防ぐのがやっとだった

その棍棒に追い打ちをかけるようにナイフを投げ当てる

そして後ろに後ずさりする彼女にマグナムを撃ち込んだ

明らかに心臓を貫いた

しかし…彼女は立っていた

「ダグダ…生と死を司る棍、私は一日一回生き返る」

そう言われはっと気付く、はっきり言ってどうでもいいことだったが、これは驚かざるにはいられなかった

「…まさか…あんた…」

「やっと気付いた?私はお姉ちゃんいや、あんたより全然年上だよ」

私が驚きで喋らずにいると

「私のテールムは初めて使った時から一日一回体を一日前にリセットする、つまり私が歳をとるということは私がどれだけ死んだかを表してるってわけ、現在、私の年齢は80だよ」

「あはは…」

再び棍をさっと振る

私はそれを流し懐に入った

そして拳を振り下ろした

「グゥゥ!!」

しかし彼女は後退りもせず私に一撃を入れてきた

棍が頭に直撃する

「どうだ!」

ふと、何かが私の中で切れた

「久しぶりだなぁ…」

「え?」

「私に一撃を入れた人が本当に久しぶり」

先ほどのパンチで一切体勢を崩さなかった相手が後退りをする

「久しぶりに本気出しちゃおうかなぁ…」

私が彼女に向かって一歩踏み出した瞬間!

後ろから感じたことのないような殺気を感じた

これが殺気か?と思うほどにその殺気は楽しげだった

ヒュン!

という風切り音が聞こえる

私は旋風陣のごとく脚を張った

そしてその風切り音の正体をはじき返した

…それは爆弾だった

「あぶなあ…」

しかし…

コロコロと転がるだけで爆発はしなかった

その爆弾から煙幕が出る数秒の煙幕が終わった時、男はそこにいた

立っていた

こちらを見ながら絶えない笑顔でこちらを見据えていた

道化師がこちらを見ていた

「櫻井…共闘の命だったはずだが?」

「こんなガキ、一人で行けると思ったのよ…」

ふーっとそのピエロはこちらを見据えて

「落ちたものだな、相手の力量も測れなくなるとは…わたしも初めは食い止めろという命に疑問を覚えた、しかも私たち三人でだ、司令塔の三人を彼女に当てる理由があるのか…と思っていたよ」

まぁ、直情型の馬鹿は走って行ったがね

という

どうも相手するのはこの二人みたいだ…

「けれど、彼女を見据えて思った、何人で相手にしようが勝てるはずがないと…お前にはわからなかったのか?」

「お褒めに預かり光栄だよ…」

私が茶々を入れる

「さぁて?私は褒めているのかどうやら…お前にもわかっていたはずだぞ、櫻井」

「…後に引けなかったの!しょうがないでしょ!」

「…ふん…わかっているのならいい、櫻井勝手でなんだが少し彼女と話をさせてくれないか?」

道化師はここまで表情一つ変えずにこう言った

つまり笑顔だ

その笑顔がなんとも不気味だった


「あいつの切り開いた道がすぐに埋まった、なんちゅう人数だよ」

大家さんが呟くようにいう

「相手、完全に数で攻めてきてるよね」

俺が率直な意見を述べる

「織田信長の気持ちがよくわかるぜ」

大家さん言う

「まぁでも…」

川澄さんが大家さんを見て

「こんな重装備だったら信長なんてねぇ…って感じだよ」

そう、大家さんの手には現在、あのハンマーではなく、槍が握られていた、見ただけで神々しいとわかるような大きな槍

「さぁて、暴れようぜ!グングニル!」

思い切りグングニルを大勢目掛けて投げた

そして落下地点に大きな雷が落ちた

「すげぇ…」

「もういっちょぉ!」

えっ?投げたはずの槍が手に戻ってる…

そうか…グングニルの特性だったな…

俺も下に群がる敵襲をウージーで迎撃

カラドボルグだとこうゆう立地での戦いは向かない

敵をワンポイントで狙うことはできても、一気に払うかとはできない

「人数が少なくても戦える奴が二人もいるだけで楽だな」

「まぁ…それで済めばいいが…」

なぜか含みがある言い方をする

「はっきり言って今回は負け戦だ、人数もそうだが、あの三人、ピエロとロリババァと一草の野郎がいるからな」

「んー…あんま心配ないみたい」

俺が言う

いやだって…そのうち二人、ピエロと子供は馨が相手してるし…

「相手してるだって?あのピエロを?…まずいぞ…」

「?なんで?」

「奴はマンイーターの中でも異質中の異質、テールムを持たないマンイーターなんだよ」

「は?」


いきなりバランスが取れなくなった

いや…突然すぎてこっちも理解が追いつかない…

「効いてきましたか…」

まさか…こいつ…

「呪術師か…」

呪術師、主に精神干渉を得意とし物理的な攻撃ではなく精神的に追い詰めていく集団、何度か戦ったことはあるけど…正直相手したくない部類、しかもこんなすぐに効果が来るなんて…かなりレベルが高い…

「わらしに…なにをひた!」

…呂律まで回らなくなってきた…

クソ…ここまでの呪術師はあったことないぞ…

これが毒でないことを祈る…

するとこちらの心中を察したように

「安心しろ毒ではない、お前のような隙がない奴に毒など盛れるはずがない」

と言ってきた

…そうか…

呪術師はふた通りに分かれる…いや…分かれるとは限らないけど

一つ目は毒を使うタイプ

二つ目は使わないタイプ

どうもこいつは三つ目のどっちも使うタイプのようだけど…

けれど精神干渉だったら…見破れば崩れる

「前に私の兄弟を殺したのは君だったね」

兄弟?

呪術師とは数え切れないくらい戦ったけど…

「私の姉を殺したのは君だったね」

姉?姉って言ったか?

女?女の呪術師…

あいつか!

「ろくひんかん」

「そうだ、六深官だ」

あの戦いを忘れるはずがない、だって私がマンイーターを初めて知って、殺した戦いだから…そん時にいたんだ、一人女の、毒使いが、正確には媚薬使いが

「は…」

ついに声まででなくなった…

しかしなんだ?こいつの目的は…

「ふふ…」

ここでピエロが素で笑ったような気がした

ここで…笑う…だと?

「私の姉を殺すほどの人物だ、私を楽しませてくれると思ってね!」

「…」

言葉が出なかったいや、たとえ声が出てたとしても言葉は出なかったろう

こんな…道化があるか?

まぁ…いいや…

「後天性のマンイーターだね、ピエロさん、お姉さんは人間だったし」

「!」

私は声を発した

「見破ったよ、これは超音波だ」

「………」

「だから、少しでも空気の揺れを変えれば体は自由を取り戻す」

「どうやった?」

「簡単だよ…助けてくれてありがとうロリッ娘ちゃん」

「え?私!?」

自分に向くとは思っていなかったのだろう

「何がだ」

「あんたは言葉を発する際に出す超音波に集中しすぎて気付いてなかったんだろ?この子後ろで棍棒素振りしだしたよ?」

「櫻井ぃぃ!」

あからさまにピエロが叫んだ、笑顔を絶やさず叫んだ

「ごめんなさい!」

素振り、その行為は空気を震わす

「タネがわかればそんな物効かない」

「櫻井!協力してもらう!」

「あれ?…あれってあんま好きじゃ…」

「いいから!」

次は…なんだ?

だが、すぐにわかった、幻覚術だ

「幻覚を見ろ!記憶に踊らされれろ!」

ピエロが言う

「さぁ!ショータイムだ!」

私の前に現れたものそれは…


「大丈夫みたいだな…」

「いや…ピエロの得意技は幻覚だ、本人にとって最強と思う人物を出すとか何とか…」

「あー…それなら大丈夫」

「おい…」

「ん?」

川澄さんに声をかけられる

「あいつ…何しようとしてんだ…」

大家さんも声を上げる

そこには大砲があった

「スーパーガンだ…」

川澄さんが言う

「大砲の中で最強級…」

「飛び降りろ!」

ドゴン!

今までいた部屋が爆発した、いや消し飛んだ

「なんちゅう兵器だよ!」

着地して現状を把握しようとする

「まずいよ…囲まれた…」

絶体絶命だった


最強と言われて私が連想するもの、それは師匠だ、ただ、現在今の私の心境で真っ先に連想する人、それは

「飛鳥…」

「へぇ…私をあの傭兵団の団長に見てるってのか?」

喋り方もそっくりだった

「やっぱお前も私には勝てねぇって思うわけか」

「見るのは数ヶ月ぶりだけどね」

「そうか…じゃあ、久しぶりってことになるな」

迷彩柄のパーカーを着込んだ女は笑った

「幻覚か…本人登場かと思ったよ…」

「さぁて、この姿で私が狩ってやるよこの櫻井がな」

…はぁ…とため息をつく

「あんたは全然わかってない、勉強不足にもほどがある…そういや…あんたはさっき私に地面を抉ってみせたよね」

じゃあ!これでどう?

私は思い切り地面を殴った

飛鳥があの時にやった応用編

私のは地形が変化する

まるで宇宙空間に落ちてくかのように地面が下に落ちていく

「地盤沈下!」

飛鳥?は飛んでそれを避ける

私はその方向にナイフを投げた

それを受け止めようとナイフをキャッチしにかかる

しかし、その腕が吹き飛んだ

「勉強不足だよ」

「がぁ!?」

そのまま崩れる

しかし運良く地面があるところに落下した

ピエロが明らかに動揺していた

「なぜだ!?なぜお前は最強の存在をいとも簡単に!」

「簡単だよ、現在、最強は私だからさ」

「…あっ…」

ピエロは膠着する

「飛鳥が私の中でトップの強さを誇る理由は簡単で私をよく見ているってことだ、私の戦い方、癖、性格、全てを見てそれの裏をかいてくる…あんたらはその最強性を使ってさえいない…そして最後に!」

私はピエロに向かってマグナムを向けた

「あいつは絶対に久しぶりなんて言わない」

私は引き金を引いた

次の瞬間、地面が吹き飛んだ


「えーっと…すいません…代表のお方はいますか?パイレーツオブカリビアン風に言うならパーレです」

俺は囲んでいる敵兵に聞いた

「俺が大将だ」

その敵兵が大将だった

「あら?あん時馨にワンパンされた、おっさん」

「あぁ…あいつな…あいつには残りの全兵力を投入して現在は抑え込んでる」

抑え込めるのか?あいつを?

「おい!てめぇら!一体どういうつもりだ!」

大家さんが怒鳴る

「君は不要ってことだよ…危険しかない君はね、こんな得体の知れない青年、少女をマンイーターにしたり、殺人鬼を庇いこむ、何より人間社会に入ろうとする、それを我慢と呼ばずになんと呼ぶ」

「俺たちだけの居場所なんてねぇんだよ!折角人間に似て生まれてきたんだ!そいつらになりたいって思うのは当たり前だろ!」

怒鳴る大家さんの足元に何かがぶつかった」

「…神楽か!」

「えぇ、納得いくでしょう?彼女を抑え込んでるいるのが神楽の部隊であるなら」

「神楽?」

「暗殺特化の部隊だ…どうせどっかからスナイパーで狙ってるんだろ」

「迂闊に動けないね」

「迂闊に動こうとしないでもらいたい…現在君達の命は俺の掌というわけだぞ?」

「それにしても…ピエロにロリババァに神楽…どんだけの部隊が動いてるんだ…」

「えぇ、ですので、そろそろお別れのご挨拶を…」

「いや…まて、理由を聞いてねぇ…」

川澄さんが止める

「え?邪魔になったからだって…」

「いや?そうじゃなくてなんでてめぇらは勝利を確信してるんだ?」

次の瞬間上から槍が落ちてきた


「ヒュウ」

私はとりあえず四方八方に走り回った

「スナイパーはどうしようとない…でも、このままだと悠馬達が…銃で私のことは殺さないと言っても…スナイパーだけは違うよな…おっと!」

本当に狙いがいい

やっぱりこの方法しかないよなぁ…

私は敵のいる方を見据えたそして、ナイフを取り出す刃が日本刀のナイフをそれが鎌の形に変化する

「届くかな…いや…届かなくてもあいつがいる建物ごと!」

私が鎌をふる、その瞬間に私の足から血が吹き出した。

それと引き換えのように東京からビルが一つ消えた

「ウヘー…あぶなぁ」

悠馬は?

と悠馬達の方向を向こうとした時

「いくぞ!馨!」

悠馬達が走ってきていた

その奥には化け物以外形容のし難い巨大生物が葵とともに暴れていた


「葵…」

葵は倒壊したアパートの上に浮いていた

「…お前ら…」

ボソッとした声で彼女はいう…

「私の…私の!大事な!PCを!全部潰しやがったな!」

そこかい!

「バックアップは取ってあったから良かったものの…全員惨殺だぁ!」

めちゃくちゃな量の槍が空から雨のごとく降り注ぐ、その一本一本が全て爆発する

「怯むな!津堅を殺せ!」

言われるがままに剣を振ってくる敵を俺はナイフで刺し殺す

「死ね!」

一草さんが短剣を俺に向けてくる

前は油断してたのもあったが今は完全に戦闘に状態ナイフをカラドボルグに変化してそのリーチの差で防ぐ

「この!」

とナイフを投げてくる一草さんそれをキャッチしようとする、しかしその飛んでくる短剣が下に叩きつけられた

誰に?伊月さんにである

「ごめんね…私の会議がなければ…こんな…ごめんね、嫌だよね私みたいな奴嫌いだよね」

「伊月さんその下りは好きなんでやりたいのは山々なんですが、今は大家さんの守りを固めてください」

大家さんはミニガンで敵を一掃していた

ちなみに川澄さんはグラムを使ってとんでもないスピードで相手をなぎ倒していた

「そうだよね…余計だったよね…しょうがないから…」

いつもの伊月さんの口調に戻ったところで

伊月さんの周りを肉が囲んでいく

そして…そこに現れたのは、体調は八メートルはある化け物だった


「そこからは簡単でよ、伊月さんの手の一振りで五、六十人持ってくわけよ…その隙に重いもん捨てて逃げ出してきたってわけ」

「ふーん…で?合流地点は?」

「俺のバーだ、あそこがなんだかんだ言って安全だ」

「ん?まて!」

大家さんが俺らを制止する

「…神楽…」

「久しぶりねぇ、津堅ちゃん」

そこにあったのは大量の車だった

「逃さないわよ、おとなしく捕まることね」

「走れ!」

いっせいに踵を返して走る

車もそれを見て追いかけ始めた

「馬鹿ね…神楽の弾丸は妖精のいたずら、一日は激痛が走るっていうのに…」

その言葉は俺たちには届かなかったが

「がぁ!?」

馨が倒れた

「足が…」

「神楽の弾丸に撃たれたのか?…くそ…こんな時に!」

大家さんが頭を抱える

「肩貸すよ!」

俺が馨に肩を貸し走るのを再開する

しかし

「クソっ…」

「悠馬置いてって!」

「置いてくかぁ!」

あからさまにスピードが遅い俺ら

「ほーら…引いちゃうわよ」

ダメだと思った時

目の前に迫っていた車が跳ねた

馨がアッパーで吹き飛ばしたらしい

すると後ろから見覚えのある車…というより装甲車が出てきた

「おいおい!大丈夫かぁ?てめぇら!」

俺たちを見て

「おいおい!泣かせるじゃねぇか!男が女を救ってるんなんざ」

救われたのは俺だけどな

「おっちゃん!なんでここに!?」

「この人に頼まれてなぁ、なぁ、じいさん!」

じいさん?

すると後ろのドアが開きそこからは白髪のおじいさんが出てきた

「爺!なんで!?」

「私はあなた方の為にあそこにおったのですぞ?危険とあらば駆けつけるのも爺の役目でございます…さぁ、みなさんお乗りください!」

全員が乗り込み装甲車は走り出す

「ところでよ馨、お前ならあの車消し飛ばせたんじゃない?」

「いや…できるけど囲まれて終わりだよ、私は人を守りながら戦うスキルはない」

後ろから車がつけてくる

「ちっ…したけぇ奴らだな、上に機関銃がある迎撃しろ」

「俺?」

おっちゃんが指名してきたのは俺だった

「あぁ…頼んだ」

「わかったよ」

俺は上に上がる…こんなのなかったけどな

俺の頰を何かがかする…

「銃弾かよ…」

俺は急いで機関銃を持つ

これ…ガードのせいで前見えない…

「悠馬!私が指示する!」

まじか…視界不良…

ん?グレネードもついてる…

とりあえず斉射する

「曲がるぞ!」

うわ!バランスを取る

その急カーブについていけず、何台か車が爆発する

急に周りが暗くなる…

トンネルか…

「悠馬!上!」

「あ?」

車が上に張り付いていた

「うわ!」

撃ち落とす

「前!」

「前!?回り込まれてるのか!?」

しかもこの機関銃360度対応なのかよ…

思い切り回して適当に斉射する

「あぶねぇな!運転席に当たってるぞ!」

「横行った!」

「横!?右か左かで言え!」

「右!」

右に斉射すると何かが爆発する音が聞こえる

「当たった!、よし!悠馬!後ろにグレネードぶちかませ!」

言われるがままグレネードを打ち込んだ

ものすごい音と爆風が聞こえた

「一般車も巻き込んだみたい…」

「最悪だな!」

「よし、悠馬、降りてこい」

川澄さんに呼ばれ降りる

そのタイミングで爺が説明し出した

「ここからの作戦です…あなた方にはこの辺で降りてもらいます…私たちが陽動となっているうちに合流地点まで急いでください」

「まて、じいさん…あんたなんで合流地点の話を知ってる?」

俺がすかさずフォローする

「あー、えっと爺は計算で未来を予想することができるんだよ」

「未来予知ってことか…わかった、信じよう…ここで疑ってたら始まんねぇ」

「では…」

爺が走行中の車の扉を開ける

「飛び降りてください」

「は?」

「車は止めるわけにはいきません…勘付かれてしまいます」

「いや…」

「これが最善です…」

「わかったよ!着地くらいはできるだろ、多分!」

大家さんが飛び降りた、それに続き川澄さんも飛び降りる

「馨!おぶってやる」

「…そうだね…足は動かないし…」

「そんな痛いのか?」

「形容のしようがない痛みだよ」

「…そうか…ほら!捕まれ」

俺は馨をおぶりそのまま飛び降りる

着地の際足に結構な負担がかかったがそれはなんとかなった

「うー…痛い…」

「…妖精のいたずらか…」

ん?

俺たちの目の前にあったのは学校だった


んで今に至る

馨は足を伸ばして自分でさすっている

「肉体的苦痛にはだいぶ耐性があったつもりだけど、これは訂正しなきゃね」

「それにしても…」

ふとした感じで川澄さんが

「夜の学校って不気味だな…」

「そうだなぁ…」

「あの…大家さんはなんで人間が好きなんですか?」

俺は質問した、一番気になっていたことだ

「話せば長い…」

「夜も長いですよ…しかも、外は囲まれてるわけですし…」

そう、勘付かれたのだ、勘、というのは爺の計算外、まだここはバレてないけど時間の問題だろう

「神楽は勘がいいからな」

「話してください」

「…別に大した話じゃねぇ、俺が特殊で親も特殊だったって話さ」


「俺の育てられ方は普通のマンイーターと一緒だった

「あぁ、人間を格下に見る生き方な

「後々考えればこの教育は正しい正しくないとかじゃなくて、そう考えなかったら生きていけないっていうのが正しいわけだが

「ただ…子供の頃そういう教育を受けているのに使っているのは人間のものだということに疑問を感じた

「ほんと些細なことさ…まぁ、そん時はあんま考えなかったんだがよ

「けど、成長していくにつれてその疑問は膨れ上がる

「そして、結論にたどり着く

「人間の方が上なんだと

「人間社会に馴染めなかったら人間をかたどった生物として死ぬってな

「親に言ったんだ、俺たちは人間に依存しているうちは人間の方が上なんだってな

「そしたら、勘当よ

「別に構わなかったんだけどな、そんな居場所作るためにあのギルドに入ったわけだ

「ギルドに入った後初めての仕事が、右翼マンイーターの殲滅だった

「そん時の敵の大将が親父だった

「もちろん、そんなスターウォーズみてぇな事起きるはずなく、親父は俺の知らん間に死んだよ

「それからしばらくして、睦月にあった、睦月は親父が帰ってこないという理由で母親と家出してきたやつでな?

「まぁ…その父親っていうのが羽鳥なんだが…

「そん時、睦月は一人だった、母親はどうしたと聞くと睦月は泣き出した

「俺は慰めることもできずにいた

「まぁ、そんなこんながあって睦月の面倒をみることになったんだが、これが難しい

「そん時に川澄に勧められたのがアパート経営だ、川澄も密かにバーを経営してたわけだしな

「俺は頼み込んでそのアパート経営をさせてもらうように頼んだ

「承諾条件は地下道の確保

「無理だと思ったよ正直

「そん時に仲介人を名乗る女に出会った

「その女は人間だった

「私は人間だからこそ、あなた達と繋がれるとかなんとか言ってな?

「んでもって彼女に仲介を頼んだ、骸喰いってよばれる情報屋に直接会うことに成功した、そして彼の指示のもと、とある奴に依頼を送った

「そう、神殺しだ

「まさか葵だとは思わなかったが…

「まぁ、それが始まりだ

「そんな場所には変わり者がよく集まる、だんだん入っては抜けて入っては抜けてを繰り返して今に至ったわけだ


「波乱万丈だね…」

「退屈しねぇ人生だぜ」

「あちゃー、三石さん…人間だったのか…」

それぞれが感想を持つこの話

川澄さんは黙っている

ガラ!

扉の開く音がした

「ったく、神楽さんも人使い荒いってんだよ、こんなところにいるわけ無いっつうのに」

入ってきたのは男だった

「誰かいるか!…いねぇじゃねぇか、それにしても夜の体育館は怖えな…」

言い終わった直後

「ん?」

と自分の胸元を見る

そこにはナイフが刺さっていた

元々そこにあったかのように、自然に

「あ…あ…」

リアクションする暇もなく彼の喉にナイフが刺さった

「みんな出てきていいよ…」

壇上の馨が合図する

馨は自分では動かないためそこに残っていた

「ふひー…みんな出てきていいよ…」

俺は扉を開け放った

俺たちが隠れていたのはステージ下の体育倉庫

「おえっ!埃すげぇな」

「本当…掃除しろよ…」

俺たちがいろいろ言っていると外から

「おい!誰かいるのか!」

という声がした

一瞬にして凍りつく場

「いや!誰もいなかった!くまなく探したけど誰も見つからない!」

とさっきの男の声が聞こえた

「!?」

さすがに一同驚きが隠せない

「そうか…ここにいないってことは…引き上げるぞ」

足音が遠ざかる音を耳にした

「えっ?今の誰?」

「私私、声帯模写って奴、悠馬の声も真似できるよぉ」

「やめろ…」

「一生守ってやるから…」

「言った覚えねぇよ!」

「まぁ、時間は稼げたし、とりあえずここから離れよう」



着いた…ここか…川澄さんのバー…

「上の部屋は空いてるから全員で相談して使え、しばらくはここが拠点だ」

「あー…足痛い…まぁでも頑張って結界張ってくるから…」

「結界張ったら人来なくなるぞ」

「んーん…えっと…大家さんを見ても大家さんだと思わなくなる結界」

「お前頭回ってないだろ」

俺が指摘する

「うん…正直言って生きてるのが辛いくらい痛い」

「そんなか…」

店の中から葵が出てきた

「遅い!」

「いや…神楽っていう奴の追跡が厳しくてな」

「んー…神楽か…聞いたことある名前だね、死体を使った研究をしてるとかなんとか…あぁ…早々、腹いせに奴らの拠点の防犯システムをすべての人は敵対にしといたよ」

「本当腹いせだな…」

「PCは作り終えたし、馨、その結界私が張るよ」

「頼んでいい?ちょっと先に休ませてもらう…」

「あっそうそう、伊月さんもいるから安心して」

「おう、ほら、お前も入れ」

川澄さんに言われた

「あっ…うん」

中に入ると知っている顔と知らない顔があった

「やぁ!坊や!久しぶりだね!オネェさんは食べちゃいたいよ!」

…三石さんにあって一つ疑問に思ったことがある、三石さんが人間なら、なんであの時人間を読んじゃダメなんて言ったんだろ?

「簡単簡単!ほら私って酔うと性欲魔人だからさ!人間のだったら襲った際に対抗できないからねぇ」

要注意人物だった

「えっと…そちらが?」

隣の男を聞く

「あぁ…骸さんだよ骸喰いさん」

「情報屋の」

「やぁ、こんばんわ、いろいろ大変だったみたいだね、馨ちゃんがあんな疲れてるってことは相当大変と見たよ」

「知り合いなのか…馨と」

「前に色々関わってね、彼女がマンイーターかなる原因を作ったのも俺だ」

「あいつは…神楽って奴の妖精のいたずらにやられてるんだよ」

「…まじで?…いや…彼女ならありえるか…」

「えっ?」

「妖精のいたずら…通称『致死の痛み』、普通のやつなら痛みでショック死しててもおかしくないほどだよ」

「あいつ…あの状況で車一台吹っ飛ばしてるんだけど…」

「相変わらずだなぁ…」

「聞いていいですか?」

「?何をだい?」

「結城馨、彼女の殺人鬼としての放浪生活について」

「もちろん、情報屋としての仕事なら引き受けた、その代わり代償はきっちりいただくよ」

「代金でなく代償…」

「あぁ…それは後で説明するよ、さてそこに座りな、話してあげる、冷酷非道の殺人鬼、死神についてね」


「彼女の有名な話として六深官の話がある

「これは知ってる?…知らない、オッケー

「六深官というのはねとある暗殺者集団のことを言うんだよ

「糸使い、拷問好き、暗器使い、毒薬使い、空間使い、そしてマンイーター

「その六人で構成される六深官というグループだ

「それを三鷹飛鳥との二人で全滅させたって話だ

「詳しい話をすると長くなるが最後のマンイーターに至っては人間がはじめてマンイーターなかった瞬間でもあった

「次に詐欺師との共闘だ、彼が騙そうとする会社に不利になるようなことを仕向ける

「その時の彼女の目的は定かではなかったが、最終的には彼女はその詐欺師を殺している

「その二つが僕の印象に残ってるやつかな?

「あとは細かいの高層ビルの住人を皆殺しにしたとか

「夢の国を地獄に変えたとか

「後は…スカイツリーから飛び降りても無傷だったとか

「最後は人間離れしすぎてて本当かどうか定かではないけど

「衝撃波だけでビルを倒壊させたとか

「まぁ、数多くの武勇伝を持つ殺人鬼だよ、ファンも多いしね

「後は詳しい話、これは長くなるし覚悟してよ


長かった

けれど、別に飽きはしなかった

その話はまるであらすじを知っていたかのようにすらすらと聴けた

「もう朝かな」

「ん?本当だ」

バン!と扉が開け放たれた

「アパート消えてるんだけど!」

神無月さんだった

「どういうこと!?」

「どうもこうも…襲われたんですよ」

「どこ!?左翼!?」

「違います、ギルドですよ」

「あー…それは、災難だったね…それよりさ…ちょっと睦月ちゃん慰めてあげて」

後ろから睦月ちゃんが出てきた

「私の居場所がなかなった…私の居場所が…」

「慰めより!休養を!とりあえず、休ませてください!」

精神崩壊起こしてるだろ!

「あはは…」

彼女の顔色を見て

「そうだね」

遠くの部屋に消えてった

「僕はここの部屋は?」

柏木さんが聞いてきた

いたんかい…

「前と一緒だよ」

「うんうんわかった」

「君たち…場所に思い入れはないのかい?俺はあるよ」

「あるよ…けどそれよりみんな無事なのが嬉しいのさ」

「一人以外ね」

「あの子は色々あったみたいだから…」

「俺に調べられないことはないんだよ」

「じゃあ調べてください、別に隠す必要もないし、いう必要もない」

「はっ、確かにねぇ」

「悠馬!」

飛び蹴りを食らった

しかもとんでもない勢いの

「なんだ!?」

「治ったよ!」

「…よかったな」

「何、その塩対応…」

「いや、飛び蹴りくらって対応良くなるやつなんていねぇよ」

「そう?」

「そう」

「んー…それにしても…結界が結構強度にできてるね…すごいや」

「ふーん…ん!?」

あいつ戻ってきてねぇぞ!

急いで外に飛び出す

「なんだぁ?」

寝ていた…外の椅子にもたれかかって

「よかったね、何事もなくて…」

「お前ら、骸さんからの仕事の依頼だ、んーっと?工場見学?だそうだ、任せたぞ」

現在大家さんはおおっぴらに動けない、なので俺たちを頼る」

「りょうかーい」

「任せた」

と言い、店の中に入ってく

「んー…うわっ」

伸ばしている最中に散歩で通ったゴールデンレトリバーに押し倒される馨

「あぁ…すいません!」

「いえ、大丈夫です、あはは、やめろって」

顔を思い切り舐められてる

「変ねぇ…いつもはこんなにと懐っこくないのに…」

それは結城馨の特性の一つでもある、動物に好かれる。

俺はそれを見て、久しぶりに心から笑った


終わってしまった男の子と女の子の物語、終わり始まったこの物語はまだまだ続く

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