5

 特に話すこともなく宿の部屋に戻ってきた二人。揺らめく火の灯りの下でエクセルはフードとマントを脱ぎ、半袖の着古したシャツから伸びる動かなくなった左腕をベルナに見せた。


 鍛え上げられ剣を軽く振り回していた力の利き腕は悲惨なほどに細くなり、一目で現状を強く表していた。ただ胴体に付いているだけのものになっていた。ベルナもたまらず手で口を抑え、筋肉を多くまとう右腕と見比べてしまう。


「腕がこうなってからなんだ。あまり食べられなくなってしまったのは」


 ベルナの手が彼の左腕に伸びる。彼がこくりと頷けば、彼女はその動かなくなった腕を持つ。冷たく、彼の力がまったく加わらないせいで妙に重い。なにより彼女の小さな手でも手首をすべて握ることができることが、より衝撃的だった。


「左腕……左腕がって、そういうこと?」


 ベルナの中でもう繋がっていた。それは彼の選ばれし者としての秘密を知っていたからだ。


「ああ。選ばれし者の『しるしの左腕』が衰えて、力も衰えてきているんだろう」

「でも、まだ力使えてるじゃないっ」

「今はな。でもいずれそうなる。まず変化として食欲が現れているだけで」


 エクセルは視点の定まらない目をそのままに、弱々しく告白した。


「ごめんな。でもあのとき言ったら、ベルナはもっとわけがわからなくなっただろうし、怖かった。選ばれし者ではなくなるかもしれない俺をベルナがどう思うのかと考えれば、怖かったんだ」


 感覚があるのかどうかわからない左手を、ベルナは両手で包むように優しく握る。あの頃よりも大きくなった手。そしてうつむいた彼の顔を、小さな背ゆえにあまり屈まずに覗き込んだ。

 自分の目は何を見ていれば良いのかわからない。そんな風に成長して青年の顔に近づいても抱えきれなかった不安が表れていた。

 顔を近づけていく。お互いの息が当たるくらいにまで。彼の気が少しでも落ち着くのならば、彼が求めるのならば、自分の唇、さらには体もベルナは差し出せる。


「なーにバカなこと心配してんのー」


 それでもそうはしない。自分なりに相手を安心させるための笑顔を作り、それをエクセルへとしっかりと放つ。

 これがベルナだ。


「どう思うって? そりゃ決まってるっしょ。エクセルが困ってるんだから、なんとかしてあげたいって思うに決まってるでしょ」


 片手で左手を握ったまま、もう片方の手を伸ばしてエクセルの頭を撫でる。本当にそうして良いものか、恥ずかしさもあって一瞬ためらったが、気合をつければもうあとは何も考えることはなかった。ゆっくりと丁寧に、暖かさを分けるように。


「ね?」


 エクセルの震えが手を通してよくわかる。

 ゆっくりとエクセルの膝が折れていき、ベルナに支えられながら静かに地面へとつく。


「エクセルはどうしたい?」


 ベルナよりも小さくなったエクセルが尋ねられ顔を上げる。部屋の灯りがようやく入り込み、鈍い瞳が一時的に元へと戻ったようになる。一緒に旅をしていた頃の、蛮者でなく、しかし勇者でもない、エクセル・ロンロに。


「え?」


 間抜けで情けない声。だからベルナは笑わない。微笑むだけ。


「エクセルはどうなりたい?」

「俺は……っ、俺は……ぁっ」


 動く右手が、優しく暖めてくれる少女の乗馬用コートをぎゅっと握った。それが彼の心を浮かび上がらせる一つの糸になる。


「ずっと選ばれし者でいたい……っ」

「そうだよ、そりゃそうだよ。わかった、エクセルの気持ち。ならあたし、エクセルと一緒に行くよ。二人ならもっと何かわかるかもしれない」


 問う声も出ないために、口がぽかんと開く形になっていた。


「ごめん。あたし、エクセルがひどい目にあっているときに、一人プロテレイで竜刺姫なんて乗せられて浮かれて……」


 撫でていた手を止め、自分の胸元に当てる。それは彼女の本心からの懺悔だった。


「あたし、どこかほっとしてたんだ。エクセルが一人でいなくなったとき、自分じゃなくて良かったって、世界のみんなから嫌われなくて良かったって……あたしは本当に、仲間なんて胸張って名乗れなくって……こんなくそみたいな自分が……!」


 いつの間にか彼の右手がベルナの頭に触れていた。そしてゆっくりと動く。撫でているのだ。まだ震えはあるが、彼は確かにお返しのぬくもりを与えていた。口が少し横に大きくなる。


「そうさ、それはそうさよ」


 彼の故郷の訛りが出てきていた。ふとしたときに現れるそれを前はからかったりもしていたが、今はこうも安心させてくれる。


「でも、そんなベルナは俺に会いに来てくれたし、そうやって黙っていても良かったのに言ってくれたんだ。できることじゃない。くそなんかじゃない。いつまでも俺の大切な仲間だ。だから俺はベルナが元気に暮らしてくれていて、それが嬉しいんだ」

 彼が優しいから、苦しくなる。


「そんなの、あたしだってエクセルが元気に暮らしていてほしいよ」


 苦笑いを浮かべると彼は、

「戦いが終わったらとにかく休みたいって言ってたけど、休めた?」

「そんな暇なかったって、わかってて言ってるでしょ?」

「ああ。でも、俺と一緒ならもっと休めなくなる」

「だからやめておいた方がいいって?」


 すっとエクセルが立ち上がり、またベルナより大きくなってこくりと頷く。ベルナの手が離れる。


「そんなのわかってる」

「ベルナ自身大変なことがあったとは思う。ちょっとぐうたらなところもあるしな。しかしプロテレイの竜刺姫というのはきっともう捨てることができてなくて、これからのレメリスに必要な名前だ」


 彼女の腰に下げられている剣を指差す。これもまた彼女が竜刺姫だと示す物の一つ。


「ベルナにはプロテレイの剣(フィンバル)でいてほしい。刺すためじゃなく、人に抜かせないための剣に。ベルナにはそれができる。ライドもだ。セブリにクーエにみんなできるんだ」


 彼は本当に先ほどまで震えていたエクセルなのだろうか。まだ握り続けている彼の左手からもう震えは感じられない。

 やはり彼は強い。恐ろしいくらいにしなやかで強い。

 異人の王を倒し、故郷の学校に帰って友人たちと学び、遊びたいという願いをすべて砕かれ、人々から「異人の王になろうとした男」というそれぞれの国から発せられた事実無根の話によって石を投げつけられようとも甘えすぎない。


「それでも争いが起きるならば、俺はレメリスの剣(サーリアス)として戦う」


 ベルナが思い出したのは、最後にクーエと出会ったとき。その別れ際の彼女の笑顔。

 今わかる。エクセルとクーエ、二人の人に向けるための笑顔がどこか似ていることが。


「選ばれし者でいたい理由って……」

「もしものとき、俺の剣が必要になる」


 椅子に立てかけられていた、サーリアスに似た剣に目をやり、

「だからなくすわけにはいかない。使わないのが一番だけど」


 自分の存在理由ということもあるのだろう。しかし彼の瞳がそれだけではないことを示している。彼はこの先にあるかもしれない戦いのことを本気で考えている。


「そんなに、そんなにひどい目に会っているのになんでエクセルはまだレメリスを大切に考えられるの? エクセルを蛮者にしたのは国王たちと貴族たちと政治家たちと、そしてみんななんだよ? あたし、少しだけど気づいたの。エクセルがどうしてそんな風に言われなくちゃならなくなったのか」


 多くあるであろう理由の一つ。ここでようやく彼女は彼へと伝えることができる。勢いのままに。蛮者は現在の己の状況に大きく関わる事柄に、眉を上げ興味を示した。


「『エクセルが異人の王を倒したから』だよ。レメリスは長く戦ってきた。長く戦ってきたからこそ、『異人と戦うことが世界の一つ』になって、それがなくなるのを認められない、認めたくない人たちがいるんだよ。平和が世界を止めると考えている人たち、お金儲けができなくなる人たち。そんな人たちにとって、異人の王を倒して平和を取り戻したエクセルは邪魔だったんだよ」


 これが竜刺姫として彼女が色々な場に出、様々な人と付き合いたくもない付き合いをしてきてたどり着いた、一つの答え。誰かが明言したわけではない。それでも感じる空気というものを鋭敏に感じ取って導き出した。


 幼い彼女には信じられなかった。大きな衝撃だった。この世界には、平和を必要としない人がいるのだ。

 そして自分たちのしてきた戦いの意味がまったくわからなくなった。あの送り出してくれたときの期待に満ちた態度は一体何だったのだろうかと。心の奥底では倒せるわけがないと、決めつけられそれを願われていたのだ。


 それでもベルナはその場で膝を抱えて丸くなるしかなかった。作り笑いで民衆に手を振るしかなかった。自分の情けなさ、弱さを嫌になるほど把握していても選ばれし者、竜刺姫以外の生き方を知らないのでやるしかなかった。


 ずっと会いたかった。支えになりたかった。その気持ちに嘘偽りはない。


 しかし逃げ道だったのかもしれない。現状からの。エクセルと会うことによって、彼女はまた別の道を探る手段の一つとしていたのかもしれない。蛮者と呼ばれ三年間一人で世界を周ってきた彼の話を聞けば何かがわかるのかもしれないと。


 竜刺姫の気づきの話を聞いた彼はまぶたをゆっくりと閉じ、鼻から大きく事が混ざる息を吐いた。


「そうか、そういうことなんだな」


 しばらく間があった。ゆったりとした呼吸が何度も続き、その度に動く肩がベルナの緊張を高めていく。


「そうなんだろうなって、気持ちだ」

「え?」


 ゆらゆらと歩いてベルナから離れたエクセルは、自分の重さに引っ張られるようベッドに腰を下ろし、視線をあちこちに落ち着かせないまま続けた。


「あれはマーリアだった。そこで会った人たちは異人との戦いが始まったくらいから代々戦士を仕事にしていて、それで生きていたんだ。マーリアの兵としてずっと。でも俺たちが異人の王を倒して平和になって、その人たちは仕事を失った」


 ベルナはただ黙って話の続きを待つことしかできなくなっていた。


「小さい頃から異人と戦う戦士として育てられてきて、そして戦いは終わらないものと信じてきていた人たちだった。でも戦いは終わった。そのまま国の戦士、兵士となれ続けた人もいたけど、多くはなれなかった。でも彼らは戦うこと以外知らなかった」


 自分の動かなくなった左手を右手で持ち上げ、そして眺める。


「そんな人たちにとって俺は『本当に蛮者』だったんだ」


 そこでようやくベルナは事に気づく。そのあんまりな内容にぐっと歯を食いしばってしまう。


「まさか左腕……っ」


 ちらりとベルナの方を見、力なく肯定する。


「もっとうまくできれば良かったんだけどな」


 いくら大勢が相手だったとしてもエクセルが破れるはずがない。しかし相手が戦場を知る戦士であり、さらにベルナと同じように自分のしたことを否定されたと衝撃を受けていたのだとしたら。


「戦う気がなくなったならそれでいい。俺は戦う気があるやつとだけ戦う」


 あの頃敵であった異人にもそう言うくらいの彼だ。だからこそ左腕にひどいケガを負ったのだ。


「……ここの主人もそうだ」

 伸ばし放題にした髪を軽く引っ張る。

「戦いの終わりが始まりにならなかった人だ」


 川で話す前のコランの、あの仄暗い瞳を思い出す。確かに彼女はベルナに対し、良い感情を抱いていないと言っていたが、エクセルの言う通りならば辻褄が合う。

 勇者と四つの剣が戦いを終わせたことによってすべてが変わった女。


「俺はレメリスの剣で居続けたい。長い戦いで大勢の人が犠牲になっての今なんだ、俺はそれを守り続けたい。たとえそれが誰かの手のひらで踊らされているとしても、短い平和なのだとしても」


 背中からベッドに倒れ込み、するとやすりで削る声が出る。


「ベルナの教えてくれた理由に、レメリスの剣でいると各国の国王や貴族、政治家に言ったのがダメ押しだったんだろうな」

「その頃から言ってたの?」


 初耳のことに疑問を投げかけると、彼は簡単に答えた。


「うん。異人の王の最期の言葉、みんなは聞いていないその言葉があった」


 ぐっと上体だけ起き上がらせると、それはどういう言葉だと思う、というような視線がベルナへと飛んできた。

 ベルナは知らない。異人の王と最後の戦いをしたのはエクセルだけだ。ベルナは彼をその場へと進めるために別の場所で剣を刺していた。良い耳を持っていようとも聞こえないところに。

 当然答えられない。するとエクセルが明かした。


「『私を超えた貴様こそが、この世界の次なる敵だ』」

 すぐさまベルナが声を荒げる。

「敵って、そんなの負け惜しみだよ」

「俺も最初はそう思った。そのあとさらに『友となれることを願う』と言い残したから気味悪くも感じた」


 自嘲の笑みを浮かべ、声なく笑う。


「だから当時の俺はどこの敵にもならないって意味で言った。異人の王のような世界の敵にならないと。浅はかだった。それを聞いた各国のお偉いさんはどう思うとかまったく考えないで」

「……異人の王に負けたくない?」

「それもある。とにかく俺は石を投げられようとも、蛮者と呼ばれようとも、俺はみんなの振るう剣だ。自分のものじゃない。異人の王の友には絶対にならない。そう生き続けると決めたんだ」


 彼の覚悟を聞けば、恐ろしいことが浮かんでしまい唾を飲み込んできく。


「……殺されたとしても?」


 耳に入ると彼はきょとんとするが、やがて月が上るように表情を変えていった。


「俺が殺されるわけないだろ?」


 ぞくりと背中に冷たい汗が流れるのをベルナは感じる。それはどういう意味なのか。自分は殺されないと思い込んでいるのか、殺されそうになればということなのか。そして彼がこのような顔を作れることに、目の前に存在する者に恐怖を覚える。

 彼の目指すレメリスの剣とは、蛮者でもなければ、勇者でもないのだ。

 ベルナは顔に出してしまっていた。彼はすぐにいつもの表情へと戻すと、立ち上がり、彼女に近づき右手を差し出した。


「ありがとな。色々話できて良かった」


 この差し出された手は、ベルナの望む手ではなかった。握り返してしまえば彼に自分の本当ではない気持ちが伝わってしまう。彼にとって目の前の少女は大切な仲間だが、それ以上でもそれ以下でもない。

 髪を長く伸ばしても話をしても、彼がずっと憧れ思い続けている、南の剣クーエにはなれなかったのだ。

 それでも彼女は握手をする。彼に対する気持ちは変わらないままに。


「こちらこそ、ありがと。わかった、あたしは竜刺姫続けてみる。それでエクセルが出てこないようやってみる。でもたまにでいいからちゃんと手紙とかちょうだいね。じゃないと味方になってあげないから。それに上手くごまかして援助もしてあげる」


 にひひと精一杯に歯を見せてやれば、彼はやや不安混じりにくすんだ唇を曲げる。


「そんなことすればベルナの立場があるだろう?」

「エクセルはもうちょっと自分のこと考えなって。レメリスの剣なんでしょ? 大丈夫、竜刺姫はうまくやる方法、覚えたからねー」

「とか言って、どこかの戦いのときみたいに大丈夫大丈夫言いながら俺のこと刺しかけたようなことはやめてくれよ」

「あれはしっかりと確認してやってるから大丈夫」


 嘘だった。たまたまエクセルに当たらなかっただけというのが正しい。


「そうだ、ちょっとやってみない?」


 ベルナの提案にエクセルはすぐ立ち上がり、剣を手に取った。内容とすぐに理解している。手合わせということだ。彼は今でもやはりライドといつもしていたように、誰かと手合わせすることを好んでいる。


「じゃ、外で待ってるから」


 先にベルナが外に出ていると、準備を終えたエクセルが窓から飛び降りて現れた。飛ぶ前にきょろきょろと誰かに見られていないことをしっかりと確認してから。

 マントにフード姿の彼が鞘を脚の間で挟み、剣を抜く。ナックルガードのない、ブロードソードに分類できそうな刀身。力は宿っていないがあれはサーリアスに似ている。彼が持つのにふさわしい。

 ベルナもフィンバル二世を抜く。わずかな光でもきらめくほどの造り。周りに誰も人はいないことをしっかりと確認したあと、彼女はあっという間にエクセルとの距離を詰め、剣先を伸ばしていた。


「相変わらず速い」

 刀身で流しながらつぶやく。すうっと相手からの力をうまく逃がしている捌きは、ベルナのを真似ているのだと彼女自身すぐに気づく。それにしても元々自分の技でもなければ、利き腕でもないのに、こうも器用にされると彼の才能に嫉妬し意地悪したくなる。


「あたしの真似なんかしてどうしたの? 前みたいにもっと無駄に派手に避けないの?」

「もっと強くなるには、ベルナの丁寧できれいな技が必要だったからな」


 真剣に言われるから嬉しくも恥ずかしくなる。それを振り払うように思わず突きの速度を上げてしまい、内心しまったと思ったが、


「おっ」


 必要最低限の動きで避けていた。彼は驚いたような反応をしていたが、瞳は嘘をついていた。鈍い瞳であるが、その中に宿るものはあの頃よりも研ぎ澄まされている。ベルナも竜刺姫という立場におごらず鍛錬を続けてきていたが、彼は。


「ぐうたらしたいって言ってた割には、もっと速くなってるじゃないか」

「残念だけど、あたしも選ばれし者なんだよね」


 竜刺姫の刺突はプロテレイで作られている最新式の銃から放たれる弾丸よりも速い。それは彼女が勝手に自負しているものではない。新たなる型式の銃が出れば、開発者たちを目の前に本当に確かめてみてそうであると証明していた。

 彼女はプロテレイの空を曇らせる銃というものに負けたくはなかった。


「楽しいね、こういうのだと」


 宿の前から大きく動かず、二人は剣撃を繰り広げる。今は似たような型となった二人の剣は月と雲を観衆にして踊る。お互いがお互いをエスコートし石畳の上を舞う。

 心の底から楽しくなってきたのだろう。エクセルはいつの間にかフードを脱ぎ、手入れをしていない伸び放題の髪を揺らしながら微笑み、ベルナも月光を流す長い髪を揺らめかせて微笑み返す。


「ああ、俺もだ」


 服装や見た目は不釣り合いな二人だけれども、そんなこと今の二人が気にするところではない。夜空に捧げる戦い。

 お互いに有効打からほど遠い剣を繰り出していく。攻撃が悪いわけではない。守りの技術が素晴らしいのだ。


 気が済むまでそれを続けるつもりだったが、あるとき、二人の感覚に飛んでくるものがあり、動きが止まった。

 剣を下げ、同じ所を見る。あの円形広場の方だった。選ばれし者である二人だからこそ捉えられた感覚。それはあまり良い感覚ではなかった。


「……行こう」


 ぼうっとその方向を見続けるだけのエクセルにベルナが言う。


「揉め事そのままなんて嫌だよ」


 フードを深く被りなおしたエクセルがしばらく考える仕草のあと、重く頷いた。


「そうだな。見に行こう」

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