2―章終わり―
「それはすまなかったな。しかし俺たちは別に何かするってわけじゃない、少し腹の足しになるものを買えたら揉め事を起こさずにすぐ出ていく。両親の墓にも近づかない。だから通してくれ少年」
「嫌だ! 俺はこういう時のために先生から剣の稽古をつけてもらったんだ!」
アラが叫んだ言葉にエクセルは破れてしまうかというくらいにマントを握りしめる。手に血管が浮かぶ。自分を知り、自分や誰かを守れるようにとつけた稽古がこのようなことを引き起こしてしまったのだ。
今になって思えば、剣を学んでいたときのアラの目はああいうことを思う目だった。敵を倒すための。それなのにエクセルは先生と呼ばれる響きに浸ってしまっていた。
「少年、木であろうが剣を向けるってことはな」
異人が腰に下げていた剣を抜き、その切先をアラに見せつける。
「歳関係なく覚悟しなきゃいけないことなんだぜ?」
木ではなく刃。ぎらつく輝きだがそれでもまったく怯まず構えを崩さない。
「俺は逃げない、負けない!」
エクセルは無意識に小さく言葉を漏らしていた。
「軽く折っておくべきだった」
緊張が高まっていく場。
「自信があるみたいだな。戦場の経験は?」
「ない。でも俺の剣は筋がいいって、手加減したら先生も危ないって言ってくれてるんだ」
冷や汗が全身を流れる。筋が良いのは確かだが、しかし手加減のところはうそだ。エクセルは相当に手を抜いている。その圧倒的な実力差に彼は気づかないほどの腕しかまだないのだ。
「木でもか?」
「木だって殺せるさ」
このまま異人と戦えば、いや、戦いにすらならずにあの異人次第だが殺されてしまう。それは決まっている。その光景がはっきりと想像できる。少年の幼き血は辺り一面に飛び散って、その腹の中のものも遅れて土へとついてしまうことになる。
あれをすべて腹に戻しても彼は再び息をすることはない。
争いを止めなければならない。けれどエクセルの足は動かない。ここで出ていって周りの注目を浴びたくはないからだ。エクセルだと気づかれてしまうかもしれない行動を大勢の前ですることはできない。
このままじっと遠くから見て、事の成り行きが上手くいくことを祈る。きっと想像のような最悪のことは起きない。考え過ぎているだけだ。どちらかが諦めてくれる。もうあの戦いの時代ではない。
だから動かない。
「お互いそこまでだ」
アラと異人の間にエクセルが立っていた。
「エル先生!」
目の前に頼もしい人物が来たと、待っていたとアラは瞳を輝かせて声を弾ませる。
だが彼の期待に応えることはできない。エクセルは右手で木の剣を掴んで睨みつける。
「剣を向けるんじゃない。下げるんだ」
現れた彼の言葉が予想外過ぎたのだろう、アラは目を大きく開いて体を固まらせてしまった。しばらくして首を横に大きく振り、叫ぶ。
「なんでだよ!? なんでそんなこと言うんだよ先生! こいつは異人なんだよ!」
「相手が何であろうと戦うべき相手ならば戦うべきだ。だがこの人たちはそうと決まったわけじゃない。まだ村に寄っただけだ。剣は心の余裕を作るものであって、気が大きくなるものにしてはいけない。今自分に向けられている剣は自分が抜かせたものなんだぞ」
普段の彼からは飛んでくることのない強い言葉に、反論を考え口をもごもごさせてしまうアラ。そんな少年から目を離し、次に彼は異人の男へと頼み込んだ。
「すまない。こういう少年もいる村だ。このまま入れば何が起こるかわからない。辛いのはわかるが、どうか剣をおさめてくれ」
「煽ったのはそっちだぞ。それにみんなへとへとで水すら飲めてねえ」
彼の言う通り、後ろにいる異人たちは年齢性別ばらばらであったが総じて顔に生気がなかった。少ない食料でかなりの距離を歩いてきているのだろう。服も汚く履物もぼろぼろになっている。
「ならば俺が持ってくる。君たちは村に入らず待っていてくれ。俺が代わりに水と腹に入るものを買ってくる。それでどうだ?」
異人は考え始め場が止まった。が、提案した内容に有力者の青年が反発した。
「何勝手に決めているんだ」
向けている目は敵意に満ちている。よそ者が場を納めようとしているのが彼にとって面白くないのだ。この村を背負って立つ者として皆から持ち上げられ続けてきたというのに。
「村のみんなに無駄に血を流させろというのか。アラが剣を向けられているのに、あんたは一体何をしていた」
「ぐっ、うるさいよそ者が。お前がアラに剣を覚えさせたからこうなってるんだろ」
「だから来た」
エクセルの右手から逃れようと木の剣を引っ張り続けていたアラだったが、どうしても剣は微動だにしなかった。エクセルはアラにすべてを集中しているわけではないのに。
「大人より樽を運べるのになんで!? せ、先生はもしかしてめちゃくちゃ手加減してたってことなのかよ!」
「わかったか。もしあの人に今も剣を向けたいのなら、まずは俺を倒してからにしろ」
ぱっと剣から手を離す。いきなり離されたので、引っ張っていたアラは体勢を崩すが上手にして転ぶことはなかった。そしてそのまま言われたとおりに迷う時間もなく、彼はけたたましく叫び剣をエクセルへと振り下ろした。
「そんなので」
彼の自慢の一撃を軽くかわし、腹に蹴りを見舞う。
「敵を探すんじゃない」
一連の動きに異人の男が目をぴくりと動かせた。
内臓を揺らされる衝撃を受け、アラは剣と意識をそのまま手放す。倒れ込む彼をエクセルは優しく抱きとめ、ぼうっと見ていた有力者の青年に預けようとする。
が、任されようとしていた男はその様子を指差して叫んだ。
「お、お前なんてことを! みんな、こいつはやはり異人だ! 子供の腹を蹴るなんて人がやることじゃない!」
「俺とアラの間に入るな」
少しだけ覗かせた鈍い光の瞳が相手を怯えさせた。しかし怯えれば怯えるほどに考えは固まっておかしな力を持つ。正体を現していないのに彼が異人であるという事実を作り上げていく。
呆れ、見守る村人たちの中にいた、エクセルの教え子たちにアラを預ける。そしてしゃがんでフードをほんの少し上げて目線を合わし、一人ずつ頭を撫でていった。
「え、エル先生? どうしたの?」
「みんな、これまでありがとうな。起きたらアラにも伝えておいてくれ。負けてもいい逃げてもいい、それぞれの強さを見つけてくれ。俺が見つけられなかった本物の強さを。元気でな、いっぱい寝ていっぱい遊べよ」
教え子たちに言葉を残してまた深くフードを被って離れる。わめく村の有力者を無視し、エクセルは異人の男との話し合いに戻る。
「待たせた。改めてどうする?」
異人の男は答えた。
「断る」
そして剣をゆっくりとエクセルへと向けた。村人たちがざわつく。
「戦いで決めよう」
向けていた剣を鞘に収め、簡単に拾えないところに投げて手を差し出してくる。村人たちがまたざわつく。彼のその表情は険しいがその奥に宿る炎をエクセルはすでに気づいていた。
戦いを申し込みながら剣を収める。その意味のわからない行動に村人たちははらはらしてどう反応すれば良いのかわからないようでいた。
二人だけの空間ができるのに時間は掛からなかった。
「その木の剣を使って」
「異人の掟、戦士だったのか……ああ、わかった、やろう。条件は?」
考えることもなかった。
「俺が勝ったら村へ入る。お前が勝ったら村に入らずどこかへ行く」
「わかりやすくていい」
アラが落とした木の剣をエクセルが拾うと、すぐそばに教え子たちが駆け寄ってきて一振りの木の剣を差し出した。アラの物と同じで、普段稽古で使っている物だ。あちこちに傷がある。
頷いたのが感謝の印。エクセルは受け取ると代わりに自分の剣を渡す。予想よりエクセルの剣が軽かったようで、教え子たちは不思議そうな表情をしていた。
それぞれの木の剣を見比べ、より傷みの少ない方を異人の男に渡す。
「いいのか? それで」
「いい」
「久しぶりの掟の戦い、やっぱいい」
「俺もそう思う。命のやり取りじゃないのがなおいい」
「はっ、面白いそれをお前が言うか。掟に習って名を名乗る、俺はフェケル。お前は別に名乗らなくていい。俺はさっきの動きでお前が誰かなんとなくわかってるぜ」
それを聞いてエクセルは眼光を飛ばす。
剣を握りしめてエクセルと異人の男フェケルが対峙する。お互いに厳しい顔をしているが、それは相手が憎いからそうしているわけではない。相手を上回ることを考えている。静かな時が続くが。
「何だ意味がわからんぞ! お前は戦いにならないようにしていたんだろ!?」
戦いを始めようとしていた二人に、有力者の青年が叫んだ。それはそうだろう、周りの村人たちも同じことを思っているに違いない。話し合いになるかと思えば戦いになり、その勝敗によってこの先が決定するという流れになっているのだ。
剣を構えたままエクセルは答える。
「異人の掟。何かを決めねばならないとき、何かの戦いを行ってその勝敗が絶対な力を持つ。向こうがそれをやりたいって言うなら、俺はそれを受けないといけない」
「い、異人の掟……? ってなんでそんな異人の掟にお前は乗ってるんだ!? 頭おかしい、いかれているのか。いや異人だからっ!」
混乱する青年にフェケルが言った。
「お前はそいつのことを俺たちと同族と決めてつけてるが、そいつは紛れもなくここの人間だぜ。お前らと違ってすさまじいがな」
彼なりの援護だったのだろうが、エクセルはフードを掴んでより顔を隠すようにした。その行動に男は首を傾げる。
「なんでだ? 俺たちに隠すならわかるが」
「あまり世の中知らないみたいだな。戦いには関係ない、さっさとやるぞ」
一瞬でフェケルとの距離を詰め、エクセルは木の剣を振るう。フェケルは一瞬反応が遅れたが、なんとかその打ち込みを得物で受け止める。
そこからフェケルのスイッチが入ったのだろう、エクセルの剣を振り払うと速い打撃を息をつかせぬように連続で放っていく。しかしエクセルは右手だけで握る木の剣を使って、一撃貰うこともなくすべてを適切に対処していった。
今生きていて、この瞬間が彼にとって心穏やかな時だった。もっと色んな楽しみを知っていたというのに、こうして痛みを伴う戦いをすることが本当に心地良かった。子供たちとの稽古では味わえない感覚。
勇者であった頃の毎日、数えきれないほどの戦いの感覚が今の彼を作り上げている。
フェケルの攻撃に蹴りも加わったが、エクセルはそれを足で止めた。そして少しだけフードを上げて、不敵な笑みを口元だけで見せつける。
「もっとだ、もっともっと出してみろ」
止まった間にエクセルは木の剣を相手に力強く叩きこむことができただろう。しかし彼はその好機を逃した、わざと逃した逃がさせた。
その隙をついてフェケルは剣より速く繰り出せる拳をエクセルの顔面に見舞った。
確かな手ごたえには深く被っていたフードを少し後ろへずらし、フェケルは少し喜びを表すがそれはすぐに消えることになる。
「な、なんてやつだ」
その顔面に拳を食らったのに、防具越しではないのに、彼はよりはっきりと笑っていたのだ。フェケルの男はその表情をはっきりと見、目の前の存在について確信を得たとともに恐怖を抱いた。
「これだ、この痛み感覚、俺は戦ってるんだ、今も戦ってるんだ」
そうしてお返しとばかりにフェケルの肩を狙って叩く。剣は防御が間に合わず、思い通りの通りのところに落ち、そのあまりの衝撃に木の剣は持ちこたえられずに砕けてしまった。片手の力だというのに。
「がっ、ぁっ!」
どさりと尻もちをつき、剣を落としてしまって痛みの走った肩を手で押さえる。そうして目の前の圧倒的な少年を見上げる。悔しさはあるものの、どこか爽やかな表情だった。
「まったくさすがだよ、とんでもないやつだ――」
賞賛の言葉を浴びせようとしたとき、攻撃の余波で浅い被りになっていたフードが脱げてしまう。脱げてしまえば、エル、いやエクセルはその顔を周りの者に晒すことになった。
伸び放題になった長い髪、こめかみに残る古傷の痕、鋭くも鈍い光を放つ瞳。皆が知っている幼い顔立ちと多くが過ごす時代を削られていった少年。
「勇者さんよ」
負けた異人の男は素直に、讃えるように彼のことをそう呼んだが、それが何を起こしてしまうのかはまったく頭になかったようだ。すぐに彼は自分の言ったことに対して衝撃を受けてしまうことになる。
「勇者?」
「あの男、勇者と呼んだぞ」
「でも確かにあの顔、エクセルだ。国のパレードで見た記憶がある、大きくなってるがあれは間違いなく」
民衆の小さな声はどんどんと熱を帯びていきやがて。
「『蛮者エクセル』だ!!」
冷ませない叫びが生まれた。
フェケルは村人たちのエクセルに集中した視線と、そこに宿る好ましくない思いに戸惑いを隠せずうろたえてしまう。それは彼と同行していた異人たちも同じだった。
「ば、蛮者って何だっ?」
もう、こうなってしまえばエクセルは完全に諦めてしまっていた。覚悟ではない、諦め。争いの間に立ち、戦いを受ければこうもなろう。フードを再び被ろうともせず、手をフェケルへと差し出す。
「楽しかった。戦ってくれてありがとう。だけど、俺の勝ちは勝ちだ、約束は守ってもらう」
「ああ、この村には入らねえ……しかしなんだ、この異様な感じはよ……」
そうやって戸惑いながらもエクセルの手を取ろうとしたとき、二人の手の間に何かが通った。それは重い音を立てて地面に落ちて転がり、やがて止まれば石という姿を現す。
村人の一人、あの村の有力者の青年が投げた石だった。
「ようやくすべてに納得がいったぞ蛮者エクセル・ロンロ!」
もう一度投げた石はまた二人の手の間を手加減のない速さで通過していった。
「『新たな異人の王になろうとした男』らしいことだったぞ!」
石が多く投げられ始めた。村の有力者はやはり有力者だったのだ。石は人に向かって投げるものではないのに、村人たちは習って同じようにし始めたのだ。
世界を救うため傷み傷ついた少年は、もうこの世界の人ではなくなっていた。
「新たな異人の王になろうとした男……? おい、あいつらは何言ってるんだ!?」
飛び交う石の中、異人の男は声を荒げる。彼の中で本当に心当たりのないことだったらしく、説明を求めて声を広く伸ばしていった。
「村に入り込んで何するつもりだったんだ! 出ていけ!」
「子供たちに剣を教えて自分の手先にしようとしていたんだ! なんておぞましい!」
「消えろ! 蛮者は今すぐ消えろ! 人間の敵!」
「やはりあいつは忌み事を連れてくる存在だ!」
村人たちの罵声にエクセルの教え子たちはもうわけがわからなくて震え怯えていた。大人たちの見たことのない姿に。そんな幼い教え子たちの様子に気づき、先生は大丈夫だと落ち着かせるように笑顔を向けた。
にこりと表情を変えてすぐ、頭に石が直撃した。拳ほどの大きさの石が容赦のない速さで嫌な音を立てて頭を傷めた。
教え子たちも、異人の男も目を大きく見開いて動けなくなってしまう。エクセルの頭からは血が流れ、頬を通ってぽたりぽたりと地面へと落ちていった。血は赤い。流しすぎれば彼だって死ぬ。
「ゆ、勇者!」
一人で立ち上がり、フェケルが彼に向かって飛んでくる石を剣で何個か叩き落とした。
「大丈夫、うまく切れただけだ」
「そういうことじゃねえだろこれは! なんなんだよこれはこいつらは! 俺たちならともかく、なんでお前にこんななんだよ!」
淡々とエクセルは答える。
「今の俺は勇者じゃない、蛮者なんだ。みんなにとって」
「異人の王になろうとしたって……お前はここの人間のために戦ってたじゃねえか。俺は知ってるぜ、とにかく進んだところを解放していったって。本当に厄介なやつらだった。それは英雄だ。なのにあいつらは英雄がそんなことすると本気で信じてるのか!?」
ぐっとエクセルの肩を掴んで続ける。言葉を強くして。
「お前もお前だ。じいっとやられているばかりで、なんで言い返したり戦ったりしないんだ! お前ならこんなやつら!」
血を拭おうともせず、投げている村人たちを鈍い瞳で見つめつぶやく。
「……俺は『みんなの剣(サーリアス)』だ」
「なら、こうなるかもしれないってわかっていただろ。なのにどうして目立つような、間に入ってきてそれも俺との戦いを受け入れたんだっ?」
「さあ、どうしてだろうな。アラもあなたも助けたかったし、異人の掟を断りたくもなかったし、戦いもしたかったから……かな」
「お前むちゃくちゃだ!」
エクセルのこめかみへと石が当たった。首が揺れるほどの衝撃に古傷が開き、そこから大量の血が飛び出る。村人たちはその光景にひるみ、石を投げる手が止まった。
しかしエクセルはそれでも傷口を手で抑えることはなく、ただ村人たちを見つめる。その瞳に村人たちは皆吸い込まれてしまう。世界に奪われた、かつての瞳でなくても。
「今回は俺だけで良かった。俺はどこへ行っても混乱を生む。だからこうなったらまた別の場所に行くだけだ、名前と顔を隠してひっそりとな。でもいつもこうなってしまうんだな」
手当もしないままに一度村人たちに礼をし、それから彼は再びフードを被り、村から出る方向へ歩き始めた。そんなエクセルの肩を異人の男が掴む。
「悪かった。知らなかったことだが、俺に責任がある。せめてその傷の治療だけさせてくれ」
「腹が減るだろう?」
「仲間に上手いやつがいる」
「そうか」
エクセルは異人の集団とともに村を出た。後ろの村人たちはもう石を投げてくることはなかったが、再び有力者が声を荒げると再び罵詈雑言だけが飛んできた。あまり聞こえたくないものだったが、その中には子供の声もあって、だからこそエクセルは一度も振り向かなかった。
こうしてエクセルは己の行動もあって、ケレルの村を出ていくことになったのだった。
村を出ていく前に彼は山の中にある家へと戻っていた。家の中にはほんの少しだが荷物がある。それを持っていかなければならないからだ。
フェケル、異人たちとはすでに別れていた。結局水も食料も手に入らずまた歩き続けることになるが、それでもかつての敵であるエクセルを治療してくれた。彼らにはここの人間にはない不思議な術があり、それを使ったのだ。
それでも左腕が動くようになることはないが。
山の険しい道を上る足取りはあまり軽いとは言えなかった。ぐっとフードを握り、低い声でつぶやく。
「何をしてんだ。いつもいつも俺は、俺に、何をしてんだ」
近くの木を強く殴る。木は揺れ、止まっていた鳥たちが驚き慌てて羽ばたいて離れていく。
「石かよ……っ」
その調子のまま山を登り、ついに家のある所にたどり着く。しかし彼の家の前に一人の人影があった。
警戒する彼に、相手は気軽に手を上げて挨拶をする。エクセルがよく見てみると、相手が誰であるかすぐにわかった。
戦いが終わっても変わらないあの、大柄で筋骨隆々な鍛え抜かれた体。あの頃よりも大きくなっていて、一目でただ者ではないとわかる。
「よお、エクセル」
「……ライド」
かつての仲間、選ばれし者東の剣、ライド・オーロ。
確かに彼が立っていた。来訪者などない家に、来訪者が現れたのだ。
太陽の光が少ないこの場所に風が吹き、ほんのわずかだがまっすぐな日の光が入り込んでくるとき。
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