魔王軍幹部をやめてニートになった俺は貴族令嬢の婚約者にジョブチェンジしました
@yosi16
第1話 職業ニート始めました
偉人は言った、働かざるもの食うべからずと。正直なところそれは正しいと思うし、働かないやつは総じてクズであるとさえ思っていた。そう、思っていたのだ。今までは。さあ前置きはこのくらいにしておいてそろそろ始めようか。
ある日突然何の前触れもなく貴族令嬢の婚約者になった男の話を。
「我が第四魔王軍は今日を持って解散とする!!! 皆のもの今までご苦労だった!!!」
いつも通り朝早く職場に着いた俺を出迎えてくれたのはまさかの倒産宣言だった。正直そんなわけないだろうと当初ばかばかしいとすら思っていだのだが、何度も何度も繰り返されるアナウンスと同僚達の悲痛な面持ちを見てようやくこれが現実なのだと理解した。つまるところこの日俺は由緒ある魔王軍の一員から急遽無職にまで格下げされてしまったのだ。
いや困ったのはここからだった。魔王軍の他のメンバーはみな年齢がある程度いっており、魔王軍が倒産しても別の職場を見つけてきたり自分で勝手に起業したりしていたのだが、軍の中でも突出して年齢の低い俺は年齢制限によりどこにも就職口がなく、起業しようにも年齢が邪魔をしスポンサーすら手に入らない始末。同僚が次々と就職していくのを尻目にしばらくの間腐って引きこもっていたのだが、当然資金は無限にあるわけではなく解散宣言から半年ほど経った現在俺の手持ちはすでにかつての貯蓄の4分の1を切っていた。そしてさらにそこから数日が経ち現在に至るわけである。
「マズい……。このままではマズい……」
もう一度就職しようと奮起したものの状況は絶望的だ。当然だ、奮起したくらいで働き口が降ってわいてくるなら最初から就活なんてものは必要ないのである。もともと魔術師業界なんてそれこそ50年前に起こったラグナロクを境に需要が減り続けているのだ。つまり魔術しか取り柄のない子供を採用してくれるようなところがあるはずもない。
「あークソッ!! あともう少し年取ってればこんなことにならずに済んだのに!!」
自分が子供であることをここまで呪ったことはこれが初めてだろう。せめて魔術を見せる機会を与えてくれれば話は別なのだが流石に年齢で足を切られその機会が与えられなければ最早打つ手がない。あの求人広告が目に留まったのはそんな年功序列の社会に絶望していた時だった。
「ん? 腕の立つ17歳付近の魔術師を一名募集します?」
ある日俺がいつものように日課のバイト情報誌を漁っていると、ふとそんな文言が目に入った。このご時世魔術師を募集するなんて滅多なことではありえないし、何より17歳付近という条件がやけに目についた。しかもよく見てみると金額設定があまりにおかしすぎる。
「月に17万シーレ!? この公募出してる奴一体何させる気だ!?」
17万シーレもあれば月をしのぐどころかそれこそ贅沢しなければ半年は普通に生活することが出来る。そんな額をぽんと出せる辺り間違いなく一般人ではない。挙句面接の場所時間の指定はあれど雇用主の名前はおろか、仕事の内容すらもどこにも書いていないのだ。どこからどう見ても怪しいことこの上ないのだが、しかし今の俺にはこの仕事を受ける以外に道はない。
「日時は明日の正午、場所はグリム三番通り、やっぱ貴族連中かよ。ま、最悪の想定が当たってなかっただけよしとするかね」
これがクレイトス5番街とかだったらマフィアだのなんだのの巣窟である以上気を引き締めなければならなかったが、貴族たちの領域であるグリム三番通りなら少なくとも背後から襲撃されるような危険性は格段に下がる。無論絶対に安全と決まったわけではないが。
「うっし! そんじゃ早速面接に備えるとしますかね!!」
どちらにせよ引き受けなければならない以上今からうだうだ考えても仕方がない。俺は気持ちを早々に切り替え、面接に備えて早めに寝ることにしたのだった。
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