アヤカシティ・ストォリィ

桐生龍次

序章 色は匂えど 散りぬるを 01

 塾の帰り道。遅くなってしまい、いつの間にか七時半。


「はぁ、なんでこんな遅くなったんだろ…」

 …って、自分がみっちり勉強していたからなんだけど。

「あーあ、塾の復習テスト、もっと点だけ取っときゃ早く変えれたのによー」

「あたしはー、カレンとミノルが二人で帰るより、一緒に帰った方がいいかなーって。シューダンゲコーってやつ?」

「ミーナはそう言いながら俺と同じく点がとれなかっただけだろ」

「うぅ…」


 私は篠宮しのみや 花蓮かれん。中学2年で、成績は悪くないと思うけど、一応塾に通ってる。

 そして、一緒にいるのは渡瀬わたらせ みのるくんと、北原きたはら 美奈みなちゃん。みんな幼なじみで、互いにカレン、ミノル、ミーナって呼び合ってる。


「でもさでもさ、実際最近なんかアブないことがよく起きてるしー」

「まあね、否定はしないけどね」

「ニュースになってないのも怖いよねー」

「まあ、確かにそうなんだけど… ミーナの場合はただ自分の意見を正当化したいだけだろうが」

「あー、バレた?」

「バレバレだって、流石に」


 とか笑いあっているが、実際最近周りが物騒だ。

――黒い霧事件。

 夜中に突然、黒い霧が発生して、その中に包まれたところは音がしない内にいろいろなモノが壊されて、ぐちゃぐちゃにされてしまう。

 おとといは、近くのコンビニがやられた。めちゃくちゃにされていた。そんな話が、一ヶ月近く解決されてない。しかもニュースにもならない。


 ただ、本当に怖いのは、その霧を見た人は未だにおらず… 見たとしても、その人は遺体で見つかるのだ。既に被害者は3人も出ている。


 だから、私はこの時間に帰りたくなかったのに… 私のバカ!


「ね、早く帰ろうよ」

「なんだよ、霧なんかにビビってんのか?」

「び、ビビってないよ!」

「とか言っちゃってー、カレンは結構ビビりだしなー」

「うるさいうるさい!」


 と言い合ってた。


 その時だった。


 目の前に、何かが立ち込めているのが見える。


「…ねぇ、私の目が間違ってなければ…」

「…俺も見えるけど、あれって…」

「…黒い霧、だねー…」


「に、逃げるぞ!」

 みんな、一斉に駆け出した。

「逃げるったって、どこに!?」

「分かんないけど、とりあえず!」

「黒い霧に入ったら、帰ってきた人はいないー、ってね…」

「こういうときに怖いこと言わないでよミーナ!!」


 そう言いながら、何回も曲がりながらも、私たちは家をめざした。ここで曲がって、あそこで曲がって。

 でも、一向に家に着かない。

「おい、ここさっき曲がらなかったか!?」

「曲がったねー、絶対」

「…ってことは、まさか…迷ってる?」

「いや、そうじゃなくて…」

 足元どころか、目の前すらも霧に飲み込まれた。

「この霧の中から、出れないのかもしれない、俺たちは」

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