第4話
立ち話もなんだからと通された事務所はいかにも普通の清掃業者の事務所に見えた。
和泉クリーニングは特殊清掃業と呼ばれる業種である。職務内容としては警察やアパート管理人の依頼に基づいて行なう、浴槽内での心臓マヒに伴う変死体や、死後数ヶ月を経た腐乱死体などの撤去や事後処理、家主が死んだ後のゴミ屋敷などの後片付けなどを引き受けている。
勿論、普通のビル清掃、オフィス清掃も請け負っているし、実際小村たちの学校でもこれを利用している。
しかし、特殊清掃も出来る珍しい業者として、時に重宝されている。
そして、先刻小村が利用した裏の特殊清掃業も実施しており、これもまた時に「重宝」されている。
和泉クリーニングでは特殊清掃のアルバイトも募集しており、その時給の良さから求人を出すとすぐに誰かしら食いつくが、大抵一度か二度来たきり辞めてしまう。
そんな訳でアルバイトとして長続きするのは、時給はやや劣るがオフィス清掃専門がほとんどだった。
ごく稀に特殊清掃でも長続きする人間がいる。そうした人間にはある段階で名目上はメンタルチェックとして心理テストを受検してもらう。結果によらずアルバイトは続けてもらうが、良好な結果を出した者は徐々に現場の体を借りた訓練を受けさせ、最終的に正社員として雇い入れ、そこからさらに段階を踏んで裏特殊清掃業の教育を実施する。
テストの結果が奮わなかった者は受検時はどうあれ、早かれ遅かれどこかで破綻して結局は辞めてしまう運命にある。
一応こうした理由から求人には「正社員登用あり」と記載してあるが、この方法で正社員になった人間は今までに雇ったアルバイトのほんの数パーセントに過ぎない。
この和泉クリーニングの事務所は2つある。
1つは一般清掃業用。今小村たちがいるもう片方が特殊清掃業用である。1つの建物を真ん中で区切って2つとしている格好であり、それぞれの出入り口から別々の受付を通り、受付前の通路を抜けると更衣室、受付の奥に行くとそれぞれの事務所に通じる階段がある、という構造である。
2階の事務所自体はドアノブでつながっているものの、お互い干渉しないよう見事なまでの住み分けがなされている。
その特殊清掃業用事務所も、裏特殊清掃業用に、さらに所長卓周辺で少し区切ってある。
そして裏特殊清掃業を請け負う部署は所長の卓上電話にしか繋がらない仕組みになっており、事情を知る者を必要最低限に抑える配慮が行き渡っている。
因みに小村は別段和泉クリーニングの社員でもアルバイトでもない、ただの顧客の一人に過ぎないが、小村の所属先とはそれなりに協力関係にあるので、よくこうして間借りさせてもらっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます