第二十三短編 呪い

 私はよく物を失くす。一日一回必ず。どんなに気を付けていても知らないうちにぽろっと失くしてしまうのだ。その癖は治そうとしても治らない。まるで呪いのよう。


 そして今日もまた一つ失くしてしまった。初売りセールで安くなっていたかわいい柄の手袋を片方。衝動で買ってしまうくらいには気に入っていたものだ。


 少し残念に思いながらもいつものことだと自分を慰める。失くしてしまって、もし返って来なければまた新しい手袋を買いに行けばいいだけだ。


 いつもの公園の色あせた古いベンチに座って、冷えた片方の手を拝むようにさする。


 そう、悲しむ必要はない。いつもの事。でも大丈夫、きっと返ってくる。


 また彼が見つけて拾ってくれるもの。



 昔から僕はよく物を拾う。毎日一回は必ず。散歩をしているとふと足元に落ちているのを見つけるのだ。落し物はいつも近くの交番に預けている。もうお巡りさんに顔を覚えられているくらいだ。


 でも最近は交番に行っていない。ここ最近で拾うものはだいたい、いやほぼ全てと言っていいほどに持ち主が同じなのだ。


 そして今日もまた一つ拾った。どこかで見たようなかわいい柄の手袋を片方。たぶん彼女の手袋。


 古びた公園の色あせたベンチ。初めて彼女に落し物を返した場所。彼女はいつもそこにいて、僕を待っている。いや、正しくは僕が拾った彼女の落し物を待っているのだ。それを渡したら彼女はさっさと帰ってしまうからね。


 使い走りのような関係だけれど僕はそれを気に入っている。毎日短い時間だけど彼女に会えるのが楽しみなんだ。



 彼は優しいから、いつも迷惑をかけている自分が恥ずかしくなってまともに顔を合わせられなくてすぐに帰っちゃう。


 顔を合わせる短い時間。本当に短くて、でも濃密に感じる。


 長年この呪いに悩まされたけれど、それは彼と出会うための呪いだったんじゃないかって思うの。

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