第二十一短編 救いの炎

 目が覚めたら何も見えなかった。目の前が真っ暗で、僕は目を開けているつもりで実は閉じているんじゃあないかと勘違いするほどに。


 取り合えず起き上がろうと思ったら、ガンッと思いっきり頭を天井にぶつけてしまった。


「いったあ」


 ここの天井かなり低いぞ。腰ぐらいの高さもないだろう。いやこれ、天井じゃあないよな。


 手を伸ばしたら直ぐに壁に手が当たった。そこから慎重に壁に沿って手を這わせていく。すぐに曲がり角。上方向に手を向ける。やっぱりすぐに天井に手が付いた。


 これ、箱じゃあないか。ということは僕は閉じ込められているのか? 一体誰に……。分からない。心当たりもない。


 これからどうなるか分からない不安感と恐怖で、汗がつうと頬に流れる。


 いや待て、この汗違うぞ。冷や汗じゃあない。暑いんだ。この箱の中がとてつもなく暑いんだ。


 なんで気付かなかったんだ。こんなに暑いんだぞ。炎に閉じ込められたみたいだ。どんどん熱くなっていく。


 ああ、目が焼けてかすれてきた。


 箱の隙間から炎が覗いていた。三つの穴があってまるで顔だ。


 このまま死ぬのか? そう炎は口を開いた。


 そうかもしれない。いや、もう死ぬね。


 後悔は? 炎が聞いてくる。


 あるよ。この若さで死ぬんだ。未練もたらたらだ。


 何かしたいことがあった……。


 そうだ。医者になりたかった。命を救いたかった。


 命なら救ったじゃないか。


 その言葉に僕は、はっと思い出した。そう命なら救った。


 ひかれそうになったネコを助けたんだ。その代わりに僕がひかれたんだけど。


 小さい命だけれど、それでも僕は命を救った。救ったんだ。


 それを思い出せただけで僕は何か、救われたような気がした。

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