第十短編 燃ゆる涙

 僕は財宝。僕の涙は宝石でできていて、それには膨大な金が動く。その源である僕は誰もが欲しがる金の塊。だから僕はいつでも狙われている。


 そんなことは昔の話だ。僕はもうそろそろ死ぬ。自分の死期は分かるという話を聞いたことがあるが、それは本当のようだ。しかしまあ、僕の場合は否が応でも分かるのだが。坊さんのお経が聴こえるのだ。それが終わったら火葬でもされるのだろう。


 宝石の涙が枯れてからここまで早かった。早々に親類に手足を縛られて棺桶に詰め込まれた。声は昔声帯を切れたから何も出なくて、目は涙の傷のせいでもう何も映さない。身動きも取れない今ではまるで思考するだけの死体だ。


 初めて意思が芽生えた時、目はもう薄っすらと見えるだけですでに意味を為していなかった。僕は家から出たことはないけど、ほとんど見えない中で少しだけ見ることができた青い空は今でもはっきりと覚えている。あの美しい色は死ぬまで忘れることはないだろう。


 聴こえてきたお経と木魚が一旦静まり、人々のわざとらしい嗚咽と共に足音がこちらに近づいてくる。僕の側まで来た人は小さく使えないな、早く死ねなどの罵声を浴びせてきた。そうだね。僕はもう生きていてもしょうがないし、できるだけ早めに死にたいよ。


 長ったらしいお経も終わり、いよいよ僕は火葬場に運ばれて燃やされる。手が震える。身体は正直なようで、どうやら生に未練のない僕でも死ぬのは恐いらしい。でも時間は残酷で周りが熱くなってきた。じりじりと僕の肌が焼き焦げていく感覚は痛くて痛くて僕は辛くて暴れて痛みは消えなくてだんだん真ん中も熱くなって手も足も無くなっていっそ料理されているような実家のような安心感があった。


 最後に目じりを伝った水のような涙はその部分だけを冷やしていった。

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