第二短編 頑固だが
「何で、私が怒ってるか分かる?」
お決まりのセリフを聞くのは一体何回目だろうか。きっと、両手に収まりきらない数だ。
今日はまた一段と怒鳴る。もう出てって、とあっという間に家を絞め出されてしまった。
妻と結婚して早2年。いや、もう2年というべきか。付き合っていた当時の彼女はとても優しい人で、怒る回数など片手で足りた。
しかし、何故だか結婚してからは些細なことで怒るようになってしまった。今回も、部屋が散らかっていたくらいでこのありさまだ。ああ、あの時の妻はどこに行ったのだ、と思うようになり、何時しか、彼女ともの会話も少なくなってきた。
追い出されたからには、もう家に帰らない。僕は頑固者なのだ。とりあえず、近くの公園に行こう。僕は自分の家に別れを告げ、門を出た。
所持品を見るが、携帯と五百円玉一個だけだった。これからどうして生活しようか。急に不安が僕を圧し掛かける。
もう少ししたら帰ってしまおうかと言う自分がいたが、頬を叩き、それを消し去る。まず、お金が必要だ。ならば、働かなければならない。
働くのなら賄いがある飲食店がいいと思い、携帯で調べてみると思ったより募集が多かった。片っ端から応募すれば大丈夫だろう。
と考えた僕の見込みは甘かったらしい。応募した全ての仕事に門前払いを食らい、気付けば日は落ちていた。仕事探しは明日にするとして、今日は野宿するしかないな。
近くにあった公園のベンチで夜を過ごすことにしたが、寝るまでにすることもなく、ただ夜空をじっと見ていた。しかし、ここは都会だ。周りの光で星は消し去られている。この空を見ていると、何だか妻もことを思い出す。ほんの数時間前まで一緒にいたはずなのに、もう何年も会っていない気がする。
そんなことを考えていると、ふいに携帯にメールが届いた。妻からだ。寂しい、とたった一言。
それを見た僕は家に帰ることを決心した。
僕は頑固だが、彼女に対してはその限りじゃないのだ。
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