800文字詰め短編集
稲庭仁人
第一短編 復讐代行
親友が殺された。
犯人は分かっている。親友の彼氏だった奴だ。
親友はとても人が良くて、困っている人には常に手を差し伸べるような奴だった。だから、親友の優しさに付け込み、働きもしないような奴が付き合っていた。親友に告白したとき、土下座までしたのだから、親友は断ることが出来なかったのだ。
しかし、さすがの親友もよく思わなかったのか、それとも奴の自立を思ってなのか、別れを切り出したのだ。それを聞いた奴は激昂して親友を包丁で心臓を一刺し、殺した。
これまでが私が独自に聴取した情報のすべてだ。問題は奴がまだ捕まっていないことにある。奴は人脈が広いらしく、それを使ってうまく逃げているそうなのだ。
警察は当てにならない。私がどうなっても構わない。私が親友に代わって復讐して、奴を殺す。そのために奴について調べまわっている。
長く調べまわった結果、奴の居場所が分かった。どうやら、警察から逃げることが簡単だと思ったらしく、繁華街で遊びまわっていた。親友のお金を使って。
身体が沸騰したように熱くなる。奴には一番むごたらしい死に方を選ばせてやる。
まず、私は娼婦を装い奴に言い寄った。奴に愛され、その瞬間殺してやるのだ。奴は絶望を覚えながら死ぬだろう。
計画は順調に進んでいき、ある夜、私は愛された。その後も付き合い続けて、奴のいろいろなことを知った。奴にはほんの少しだが確かに良いところがあった。思えば、親友はこいつのそんなところに惚れたのだな。
そして、私は親友が決してあいつを憎んでいないと分かった。親友が望んでいない復讐などやめよう。
晴れやかになった私の心はあいつに会いたくなり、その元へ向かった。
あいつは知らない女とキスをしていた。頭が真っ白に染まり、視界は真っ黒くなる。
「親友の仇っ!」
豚肉を切ったような感触が手に残った。
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